Isekai Reicarnation?... No I wasn't!
11 Stories: "Where are the white crows?
「着いたぞ、ここが会場だ」
「早く、降ろしてくれ……」
ひどい目にあった。絶叫系は苦手なわけじゃないが、安全ベルトなしで、不安定なデカ猫の背中にしがみ付きながら、雲の上を飛行するのは……まさに地獄だ。景色を楽しむ余裕など一切なかった。
そんな地獄の末、黒猫に背負われて到着したのは、札幌市民の憩いの場『つどーむ』である。
「なぜにつどーむ?」
「スペースは十分広いうえに、安く貸し切れるとかなんとか言っていたな」
「うわぁ……陰陽術師の世界も、世知辛いんだな」
『つどーむ』は、市内のイベントでよく使われるそこそこ大きなドームである。観戦者も見やすいし、貸しきれば関係者以外は入ってこない。たしかに、試合をするには結構適した場所なのかもしれない。
「こんなところで陰陽術師の試合が行われているとか、誰も夢にも思っていないだろうな……」
そんな事を呟きながらつどーむへ入ると、今回俺が協力する水上家の人達が出迎えてくれた。
「この方が、例の術師か……」
「火野山家の気炎を倒したらしいぞ」
「あの面(めん)で認識を歪めているのか?どんな人なのかよくわからんな」
なんか色々言われているが、適当に笑顔で受け流す。笑顔は見えてないけどな。
「初めまして、私が水上家当主、水上龍海(みずかみ・たつみ)です。猫神様からは、貴方の素性や事情について詮索するなと厳命されていますので、火野山家への襲撃に関して追求するつもりはございません。それよりも、この度は我が一族に力を貸してくださり、誠にありがとうございます」
恰幅の良い、ダンディーな和服の中年男性が挨拶してきた。この人が水上家の当主様か、流れで握手をしたが、近くで見るとさらにすごい圧迫感だ。貫禄を感じる。
にしても、襲撃?誰かと勘違いしてるのだろうか?まぁいいや。
「あの、出迎えが遅れて申し訳ありません」
出迎えの人達をかき分け、2人の巫女さん?が出てきた。
「今回、共に戦わせていただきます。水上潤叶(みずかみ・うるか)です」
「妹の水上潤奈(みずかみ・うるな)です」
「み、水上さん!!?」
えええええ!!?水上家って、委員長の家かよ!しかも試合に出るってことは……水上さんも陰陽術師なのか!?
「あの、どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでもありません」
やべっ。思わず名前を叫んでしまったが、水上さんからは俺だと分からないんだった。すでに怪しげな目で見られているが、気をつけよう。
挨拶の後は、今回の試合に至るまでの経緯を簡潔に教えてもらった。
水上家と仲のいい黒猫を苛めたうえに、誰かが火野山家に喧嘩を吹っかけ、それを水上家のせいにしてきたらしい。完全な言い掛かりじゃん。謎の襲撃者も、自作自演とかありそうだ。そういうやり口は漫画で見たことがある。酷いな。
無理はしないようにと思っていたが、多少無理してでも勝ちにいこう。
……ん?ちょっと待てよ?
「今思ったんだけど、黒猫が出ればいいんじゃないか?」
黒猫に小声で聞いてみた。
黒猫は今、ライオンくらいの大きさになっている。というか、ほとんどライオンだ。この状態でも相当強そうだし、俺を運んできた時の姿ならもっと強いだろう。
「こう見えても、儂はそこそこ名の知れた妖でな。神前試合の平等性を欠いてしまうが故に、出られんのだ」
平等性を欠くってことは、やっぱり強すぎるからって事なのかな?あと、罠で怪我したっていうのは、火野山家のやつらに苛められたかららしいな。近所の畑を荒らしているのかと思っていたが、完全に勘違いだったようだ。
「っていうか、水上家の当主は出られないのか?」
「龍海は重い病を患っていてな、無理はできんのだ。他の術師たちには、今回の試合に相応しいほどの実力者はいない」
「あの2人は?」
「水上の娘たちか。龍海が戦えない今、水上家で最も強い術師は彼女たちだ」
まじかよ、委員長ってそんな凄い陰陽師だったのか。そんな一面があったとは……あと、妹さんも強いのか。
「俺もできる限り頑張るよ」
「本当にすまない。水上の巫女たちを、よろしく頼む」
「おう」
そろそろ時間だ。ウエストポーチの中身を確認し、ドーム内に設営された試合場へと向かうとする。
◇
「火野山様、準備はできましたか?」
「三鶴城か、とっくに準備はできている。なにしろ、この時をずっと待ちわびていたのだからな!」
火野山の耳には、気炎が敗北したという情報は届いている。にも関わらず、この神前試合に一切の不安を抱えていない。その事を思い、三鶴城は眉をひそめた。
試合の出場メンバーは、当主である火野山業(ひのやま・ごう)に、筆頭陰陽術師である三鶴城幽炎(みつるぎ・ゆうえん)と気炎剛毅(きえん・ごうき)である。
当主は抜きにしても、筆頭陰陽術師である自分と気炎の2人であれば、大抵の陰陽術師には負けない自信が三鶴城にはあった。しかし、気炎を倒した術師が相手にいるとすれば、試合の結末は誰にも予測できない。
「ふっふっふっ、潤叶に俺の恐ろしさをたっぷりと味わわせてやる」
楽観的な主の姿に、三鶴城は頭を抱える。
「気炎、試合が始まったら手筈通りに頼むぞ」
「チッ。納得はしちゃいねぇが、てめぇの策は信用できる。従ってやるよ」
その言葉を聞いた三鶴城は少しだけ気力を取り戻し、試合場へと歩みを進めるのだった。
◇
「そういえば、白いカラスはどこにおるのだ?」
「え、連れてきてないぞ?」
「なっ!」
「それじゃあ、行ってくるわ」
三鶴城たちの反対側に位置する入場口では、真っ青な表情の金獅子が、結城を送り出していた。