It Seems I Came to Another World, Now What Should I Do

Episode 698: The End of the Temporary Parliament and the Disturbing Shadow

「質問です」

王家派の人間が挙手する。襟と袖を見ると私と同じ子爵か。

「罷免とのお話ですが、国政のそれもかなり重要な職務に当たるかと考えます。ここまで上位の方が罷免される状況に立ち会った事がありません。具体的にはどのような形で推移させるのでしょうか」

議長の促しにロスティーが立ち上がる。

「確かに。決裁権が無いとはいえ、最終承認者が罷免となれば影響は大きい。実務が問題無く回せるように処置は行う。具体的には、罷免者以外の者に関しては基本繰り上げという形となる。また、罷免対象者に関しても監査を付けた上で、一カ月間の月次処理を引き継ぐように伝えている。従来であれば年次の処理を引き継がせるため異動は一年の猶予を見るが緊急処置故にそこはリーダイル侯爵の責で担ってもらう」

ロスティーが告げると後に座っているリーダイルが頷く気配を感じる。また、それと共に、保守派の中で若干落胆めいたどよめきが混じる。流石に罷免されたポストをそのまま誰かに明け渡す訳が無い。そんな事をしたら実務が回らなくなる。それすら理解出来ないのかと軽く驚愕を覚えた。少なくともこの場に来ている人間は在地貴族の筈なのに、開明派と保守派でとんでもない断絶が存在しているように感じる。法衣貴族は代官なんて置く事は出来ないのに、本気で大丈夫なのだろうか……。

「質問は以上です」

王家派の人間が納得したように手を下ろす。その後は若干がやがやしていたが、暫くすると保守派の伯爵が手を上げる。二人いる内の一人だが、横のロスティーの目が若干細まる。ん? やんや言われた方なのかな。

「問題の人間が罷免という事は理解した。だが、任命責任というものがあろう。責任者も罷免する事こそ重要と考えるが?」

任命責任となるとリーダイルかなと思ったが、ロスティーが再び立ち上がる。

「任命責任は存在するだろう。だが、任命者の責任とは一度の過ちで席を退く事で贖える話ではない。今後リーダイル侯爵には同様の問題が発生せぬように何故問題が起こったのか、また今後問題を発生させぬためにどうすれば良いのかを徹底的に対応してもらうつもりだ。また、今回の行いに関して、拙速が問題となろうが、その拙速の理由とは王命の行使に滞りを起こさぬためという一因はある。これは賞される事はあっても非難される話では無かろう。これを罪とするならば、王命の迅速な解決はおぼつかぬ。連絡の経路を密にし、また拙速であったとしても問題が発生せぬ形で調整が取れる人材を育てる事こそ急務であろう。いかがか?」

ロスティーの言葉に一瞬鼻白んだ保守派の伯爵であったが、ふぅと息を吐き、再度口を開く。

「今回の条例に関してだが、遡及での法行使となる。廃案とはいえ、現在は法として生きている内容だ。つまりそこの子爵が税を支払わぬのであれば脱税となろう。そこに関してはどう対処を?」

「無論。廃案にするにせよ、現状は執行能力のある条例として存在しておる。すでにアキヒロ子爵には話は通しておるし、支払いに関して是の返答は書面でもらっている。公庫への納金に関しては収税官の立ち合いが必要故、それも相談済みだ。納める意思は確認しておるし、すでに物証も提示しておる。この事で脱税の意思はないと判断したが問題はあろうか?」

流れるようなロスティーの回答にぎりぎりと歯を噛み締めていたが、以上と言うと伯爵が着席する。そこからは枝葉末節な質問が並んだが、リーダイルが返答をして問題無く進んでいった。最終的に議長が決定内容を読み上げ、反論する者が存在しない事を確認し、議決と相成った。これで、訳の分からない条例は廃案となる事が決まった。

保守派、王家派が退席し終えると、ロスティーが憮然とした表情を浮かべる。

「ふむ。根回しの際には殊勝な事を言っておったが……。まぁ、反論するなとは言ってはおらぬからな。しかし、これで表向きは何とかなったか」

「まぁ、あの程度は想定の範囲の中でしょう。任命責任に関しては王国法の中には明記されておりませんでしたが、やはり存在するんですね」

私が問うと、ノーウェがこくりと頷く。

「慣習法だからね。余程管理監督が行き届いていなくて問題が発生したなら連座での放逐も検討するよ。ただ、あんまり濫用しすぎると委縮するだけだから通常はそこまで問題を大きくはしないね。何を考えているんだかとは思ったけど」

「リーダイル侯爵が狙いというより、この話が通るならそもそも侯爵を任命した儂の宰相としての資質を問うつもりであったのだろう。結局は嫌がらせでしかないのだ。そうであれば、毅然と潰せばよい。阿る事で良いことなど何もない。所詮自らの益しか考えぬ者故な」

「然り。いや、ロスティー公、面倒をかけたな」

声がかかった方を向くと、リーダイルがにこやかに話しかけてきた。

「アキヒロ子爵、ユリシウスの件はすまぬな。何者かの罠であったとしても、落としどころは用意せねばならなんだ。迷惑をかけるが、頼んだ」

その言葉を告げるリーダイルの瞳には慈しみの光が宿っている。大切な部下を切らなければならなかった身だ。悔いを感じさせる訳にはいかないだろう。

「ご安心下さい。『リザティア』では幾らでも仕事はありますので。存分に働いて頂くつもりですし、出来れば将来、東の要となって頂こうかと考えております」

「噂は聞いておるし、子爵の税を既に払えるほどの繁栄ならば不安はあらぬよ。それに将来まで考えてもらえるなら望外の喜びだ。不憫なれど、新しき出会いには感謝を」

「はい。ありがたくお預かりします」

そこからは定例会からの変化を報告する会が会議室に場を移し、開催された。やはり徐々に広まっている塩の効果は大きく、予算の運用が楽になったという報告が多かったのは嬉しかった。ただ……。

「やはりというか……。塩ギルドが調査で訪問したな……」

それは、一番王都に近い、伯爵の一言だった。