It Seems I Came to Another World, Now What Should I Do

Episode 742: The Legal Man Came In A Herd Yaaaaaaaaaaaaaaaaaa

夜が明けて九月二日の朝。まだまだ気温は高止まりしており、秋という感じはしない。夜中でも寝冷え防止の布を被っていると、汗が滲む。まだ明けきるには早く、日も昇りきらない時間だが、目が覚めてしまったのなら仕方ない。リズとタロとヒメを起こさないように窓を開ける。夜がお仕事な猫さん達は今日も元気に庭の木々で遊んでいる。こちらに気付いたのか、いつもの猫さんがしゃなりしゃなりと近付いてくると、しゅたっと窓に飛び移る。

『おはよう』

『あいさつ、あるじ』

にぃみたいな声で鳴く。手を差し出すと、自分で舐めにくい顎の下辺りを擦り付けてくる。

『しょくじ、だいじょうぶ。ふえてきた』

猫さんの話だと、四散していた獲物が徐々に戻ってきているらしい。子供も飢えないレベルで食事は摂れているらしい。これ以上頼ると、野生に戻れなくなりそうなので、そろそろ援助を打ち切った方が良いようだ。

『じゃあ、今朝で終わりにするね』

そう伝えると、にゃぁぉみたいな少し長めの鳴き声を上げて、くてんと首を縦に振る。

『ありがとー』

そう伝えてくる猫さんを軽く撫でると、先程と同じようにしゅたっと地面に降り立ち、振り返り、振り返り、木々の方に去っていく。本当に律儀だなと、微笑みが浮かんでしまう。昇り始めた朝日を眺め、リズを起こし、タロとヒメの食事を用意する。料理長に猫の件を伝えると、くすくすと笑われた。料理長も律儀だという見解で共通していたようだ。朝から和んだ雰囲気で、朝食を済ませて、アーシーネ達を見送る。

執務室で引き続き、収穫祭の計画と旅程を立てていると、昼前にノックの音が響く。用向きを確認すると、ユリシウスが来たらしい。カビアと一緒に応接間に向かうと、王都で会ったユリシウスがもう一人二十前後の女性を連れてソファーに座っていた。

「こんにちは、ユリシウスさん。ご無沙汰しております」

声をかけると、立ち上がったユリシウスともう一人が一礼し、破顔する。

「お待たせ致しました。引継ぎが長引きましたが、人員はまとめて連れてくる事が出来ました」

そう告げるユリシウスに席をすすめ、私達もかける。

「伯爵の派閥の方をという話でしたね。まとめてとおっしゃるのは?」

「元々の想定では一部の人間を連れて行ければという話でしたが、手を上げる者が多かったのでごっそりと連れて参りました」

当初想定では、ユリシウスの部下で有能な人間を秘書と直属の部下に出来る程度の人数を連れて『リザティア』に向かうつもりだったらしいが、人望と『リザティア』の噂により、部局単位での異動という話になったらしい。引継ぎにしては少し時間がかかっているなと思っていたが、そういう事情だったのかと理解する。

「しかし、国家の法務の部局ですか……。規模が大きいですね……」

私も少し面食らってしまった。国政の裏で動いている法務の人間が抜けて、ワラニカ法制は大丈夫かなというのと、それだけの人間が動いてきて仕事があるのかなという思いはあったが、ユリシウスの話では杞憂らしい。

「上層部ですので、行っていたのは取りまとめです。そういう意味では、引継ぎは容易ですし、元々は現場から上がってきた人間ですので、領地内の法務に関しても知識は豊富です」

「そうですか。それは安心です。取り敢えず、受け入れ方針なのですが……」

カビアと打ち合わせていた通り、現状の確認から入ってもらうという話をすると、もう少し踏み込んでも問題無いようだ。

「人数がいますので、現ワラニカ法制との齟齬を確認するのと、現行の法務処理の引継ぎは並行して行えます。また、その際に改めて改定要件が出るかと思いますので、その都度ご相談ですね」

と、今後の方針をユリシウスと一緒に定めていく。実務の稼働に関しては、月次処理が終わった来月から引継ぎを行うと言う事で、予定より早めに引き継げることになった。話としてはその辺りで、用意した家の感想を聞いてみると、どうもまだ歓楽街の方で他の部下さん達と一緒に過ごしているらしい。

「官舎を紹介してもらいましたが、まず、この都市の動きを見てみたかったんです」

というのは、一緒に訪れた女性の言。こちら筆頭秘書官でワラニカ王国の法務における実質的なナンバーツーだったようだ。歓楽街周りの統治状況等、観察するのを楽しんでいるようだ。元々、収入も多い人達なので、もう少し様子を見てから、官舎に移るらしい。

「ざっと資料は確認しましたが、非常に面白いと考えます。商法では曖昧な部分を商工会が率先して慣習として守らせているというのは年若い町としては考えられない程老練とした手法かと考えます」

そんな女史のお褒めを頂きながら、会談は終わる。昼を一緒にと誘ったが、歓楽街のお店巡りを皆と約束しているとの事なので、ここでお別れとなる。玄関で、楽しそうに話をしながら町の方に進んでいく二人を見送る。

「あれだけを見ていると、とても国の重鎮が責任を取って辞任した姿には見えませんね……」

カビアの言葉に、若干苦笑を浮かべながら私も頷く。

「こっちがお願いして来てもらった形だしね。でも、楽しそうなので良かったよ」

そんな話をしながら、食堂に向かって二人歩き始めた。

学校も始まり、新しい人間も迎え、順調な毎日。竜さん達もローテーションで学校を楽しみながら、色々と習慣の違いに驚きながらも楽しく生活を送っている。同じような、でも少しずつ変わる日々。そんな二週間を過ごし、九月十五日の夜。

風呂上がりに窓際で、リズと一緒に涼んでいる時の事だった。