Itai no wa Iya nanode Bōgyo-Ryoku ni Kyokufuri Shitai to Omoimasu

Defense specialization and transfer destination.

二人の視界を覆っていた光が消えていく。

それと同時に楓は大盾を構えて先制攻撃を警戒するが、危惧していた強力な一撃が来ることは無かった。

それどころか、モンスターなどどこにもいなかったのだ。

二人は警戒を続けつつ周りを確認する。

そこは円形の広い空間だった。

壁は青く輝く結晶に覆われ、天井は吹き抜けになっている。

空からは雪が舞い降りてきていた。

そして、正面の壁の結晶の一部が突き出ており、そこに大きな鳥の巣があった。

しかし、その巣の主は今はいないようだ。

「おっけー……分かった。絶対鳥型のボスが来る。【大海】は使えないかも」

「どうする?鳥の巣に近づいてみる?」

「……慎重にね。多分近づいたら来る」

二人は警戒しつつじりじりと鳥の巣へと向かっていく。

鳥の巣まで残り五メートル。

その時上空から轟音と共に、何かが高速で広間に撃ち込まれた。

しかし、警戒していた二人は辛うじて後ろへと飛び退いて躱すことが出来た。

それは鋭く尖った氷だった。

それに続いて雪のような白の翼を持った怪鳥が急降下してくる。

ギラついた目に鋭い嘴と爪、強者の持つ風格をその身に纏い怪鳥は広間に降り立った。

和解の道など最初から存在しない。

戦闘開始だ。

怪鳥の左右に魔法陣が展開される。

そこから、視界を埋め尽くす程の氷の礫が射出される。

「【カバー】!」

楓が大盾を下ろして理沙の前に立つ。

この礫を受ければ【悪食】の使用回数は一瞬で無くなってしまうためだ。

「よし!貫通じゃない!」

楓が礫をその身で受け止め、無力化する。

怪鳥は普通のモンスターよりも賢いらしく、攻撃が通らないと理解すると、魔法陣を一つに纏めて空から撃ち込んだ氷と同じものを射出する。

威力と引き換えに隙間が出来る。

チャンスとばかりに理沙が飛び出した。

「メイプル!」

「【カバームーブ】!」

理沙に無理やり追いついて、怪鳥との距離は三メートル程。

怪鳥までもう後一歩のところで怪鳥が耳障りな鳴き声を上げる。

真っ白な魔法陣が、広間の床全体に広がる。

「やっば……!」

轟音と共に広間の地面を貫いて極太の氷の棘が生えてくる。それは一メートル程伸びて床を埋め尽くした。

ただし、楓の周りを除いてである。

舞い散る雪煙の中、楓が地面に向けていた大盾を構え直す。

「…………助かった!ナイスメイプル!」

「【悪食】は後六回だよ!」

「おっけー!」

理沙が氷の棘を蹴って跳ねるように怪鳥に近づいて行く。

足場が悪いため、どこかに静止することが出来ないのだ。

怪鳥がその爪で理沙を捕らえようとする、その速度は理沙にも匹敵する程だ。

「【超加速】!」

急激な加速にほんの一瞬だけ怪鳥の反応が遅れる。そして、それは目まぐるしく戦況の変わるこの状況において致命的だった。

「【カバームーブ】!」

一瞬にして距離を詰めた楓が振るった大盾は理沙へと攻撃するところだったその爪を足ごと飲み込んだ。

怪鳥が痛みと怒りから大声で鳴く。

しかし、その行動はさらなる隙を生むだけだった。

「【毒竜(ヒドラ)】!」

三つ首の毒竜が怪鳥を飲み込んでいく。

楓は滴り落ちた毒で溶けた氷の上に着地し、理沙はさらに少し離れて様子を見る。

怪鳥から凄まじい冷気が発せられ、怪鳥を覆っていた毒が凍りついていく。

そして、それはパリンという高い音と共に割れてキラキラと輝いて落ちていった。

「HPバーが一割しか減ってない!?」

「嘘…!」

楓の攻撃で速攻で決めるつもりだった二人にとってそのHP量は予想以上だった。

驚く二人をよそに、怪鳥の周りに地面から生えた氷の棘が、折れて集まっていく。

そしてそれは数瞬の後、弾丸として打ち出された。

「【カバームーブ】!【カバー】!」

理沙の前に移動した楓が大盾を下ろしてその凶弾を受け止める。

その体から赤いエフェクトが弾ける。

「くぅっ…貫通するっ!【瞑想】!」

【カバームーブ】の弊害で貫通してしまえばダメージは二倍。一撃ごとに楓のHPバーが一割ずつガクンガクンと減少する。

「【ヒール】!」

どうしようもない貫通攻撃が来た時の対処法として採用した方法は、楓が【瞑想】理沙が楓の後ろで繰り返し【ヒール】。

これで隙が出来るまで耐えることだった。

耐えること二十秒。

氷の暴風は止み、荒れた地面が残るのみとなった。

「いくよ!」

「うん!」

二人が真逆の方向に駆ける。

怪鳥が狙ったのは理沙だ。怪鳥が猛スピードで突進する。

「集中!」

自分自身に喝を入れると怪鳥を見据える。

突進と共に氷の礫が飛んでくる。

しかし突進中のためか、その礫には隙間が多かった。

理沙ならば回避は容易だった。

「【跳躍】!」

理沙は怪鳥の突進を見切りその体のギリギリを飛び越えて行く。

「【スラッシュ】!」

その際に【状態異常攻撃】を使用し、麻痺毒を注ぎながら切り裂くことも忘れない。

この麻痺毒が積もり積もって致命的隙を作り出せるかもしれないのだ。

HPバーの減りは目に見えないほど僅かだったが、減っていない訳ではない。

怪鳥が振り向き、その翼を広げて羽ばたく。

暴風と共に地面から巻き上げられた氷の礫が不規則に迫ってくる。

理沙は跳躍で暴風の範囲を横っ飛びで抜けていく。

「【毒竜(ヒドラ)】!」

理沙が抜けたのを見計らって毒竜が怪鳥に迫っていく。

羽ばたきの直後を狙われた怪鳥は、万全の状態で楓の攻撃と向かい合うことが出来なかった。

三つ首の毒竜の一つが胴体にヒットする。

「【ウィンドカッター】【ファイアボール】!」

隙あらば理沙も攻撃に回る。少しでも多くのダメージを蓄積させなければならない。

こびりついた毒は再び氷となって払い落とされてしまう。

毒竜を脅威だと感じたのか、怪鳥が楓へと突進する。

楓には氷の礫は効かないため、この行動ならば問題なかった。

避けようとしない楓に突進が迫る。

その爪が、楓の体を引き裂かんと振り抜かれる。

大盾が、怪鳥の体を飲み込まんと振り抜かれる。

怪鳥が派手にダメージエフェクトを散らしつつ仰け反る。

楓は追撃のチャンスとばかりに再び大盾を振り抜く。

楓の体からも、僅かに赤いダメージエフェクトが散っていた。

怪鳥の攻撃は楓の1000にも及ぶVITを貫通スキル無しで僅かに貫通してダメージを与えていたのだ。

だが、どちらがより大きい犠牲を払ったかは誰の目にも一目瞭然だった。

怪鳥の頭上にあるHPバーは残り七割程にまで減少していた。

「【跳躍】!」

理沙がそのチャンスを見逃すことはなく、楓の攻撃でよろめく怪鳥の背に飛び乗った。

「【大海】!」

怪鳥の背中を起点にして水が広がる。

それは一瞬にして怪鳥に染み込んだ。

怪鳥が怒りの声と共に暴れ始めた時には理沙はもう飛び退いていた。

怪鳥の速度が落ちる。

「【毒竜(ヒドラ)】!」

速度の落ちた怪鳥が至近距離のその攻撃を交わすことが出来るはずも無く。

HPバーがさらに減少する。

「【ダブルスラッシュ】!【ファイアボール】!」

楓がインファイトで怪鳥を削る。

理沙がヒットアンドアウェイで麻痺毒を入れつつチャンスを伺う。

そこで、楓の大盾が再び怪鳥を喰らった。

怪鳥の爪も楓のHPを半分程まで削ってはいたものの致命傷には至らない。

怪鳥のHPバーが半分を切った。

その時。

怪鳥が二人から距離を取り、地面にその爪を深く差し込む。

その嘴が大きく開かれ、楓達の倍ほどはありそうな魔法陣が広がる。

二人は本能でこの後の危険を察知した。

「【カバームーブ】!【カバー】!」

楓が叫んだ直後。

二人の視界全てを白銀のレーザーが埋め尽くした。