Itai no wa Iya nanode Bōgyo-Ryoku ni Kyokufuri Shitai to Omoimasu

Defense specialization and a little growth.

メイプルはシロップを呼び出すと素早く命じた。

「【城壁】!」

メイプルとサリーがせり上がった壁の中に隠される。

フレデリカ達に、天高く伸びるその壁を乗り越えることは出来ないだろう。

「メイプル……どうやって……?」

シロップで飛んでくるには遠すぎる距離だった。

間に合う筈がなかったからサリーはあのメッセージを送ったのである。

「話は後で!ユイとマイだけを残してきちゃったから早く帰らないと!私に掴まって?」

「う、うん」

サリーはフラフラと立ち上がるとメイプルに抱きつくようにして掴まった。

メイプルはサリーを両手で抱き締めると脱出の準備を始めた。

「【砲身展開】」

メイプルの全身から【城壁】の内部を埋め尽くすように兵器が伸びる。

それらの砲口は全て下向きだ。

「行くよ!」

「え!?う、うそ、まさか!」

サリーの主張を無視して噴き上がる爆炎と煙。

それは最早自爆だった。

ただ、メイプルならば耐えられる。

メイプルは最高級の武装を惜しげもなく使い捨てて高速で空へと打ち上げられた。

足の武装がなければ反動で吹き飛ぶ。

その反動が普通ならどうやっても耐えられないレベルなのだ。

それを乗り越えられるメイプルはロケットのようにして遥か高い空へ飛ぶことが出来た。

最高点に到達するまでの間にメイプルは次々にスキル名を叫ぶ。

「【全武装展開】!【攻撃開始】!【毒竜(ヒドラ)】!」

光り輝くレーザーが地面に向かって次々に打ち出される。

百を超えるそれは流星群のように地面を穿ち、プレイヤーを焼き尽くす。

それを追うようにして三つ首の毒竜が地面を毒の海に沈める。

フレデリカ達の中に【毒無効】を持っている物は殆どいなかった。今回はメイプルと戦う気でいた訳ではないため、メイプル用の装備でもない。

そんな装備では【毒竜(ヒドラ)】は止められない。

サリーを追ってきてようやく追いついた者達は、よく分からないうちにギルドに戻っている者ばかりになった。

サリーは三十人程倒した。

今回はそれを遥かに上回る量が倒れた。

流石に上空からの面攻撃でなければここまでの犠牲は出なかっただろう。

「サリーの分だよっ!」

メイプルは再度自爆して【楓の木】の方向へと吹き飛んで帰っていった。

「ううっ……何あれー……」

全力の防御と【毒無効】によって辛うじて生き残ったフレデリカは毒の海に倒れ込んだ。

「でもただでは終わらないよー……!」

ボロボロになったフレデリカはしかし一つ機転を利かせていた。

それが実れば今回の大惨事も帳消しである。

逆に言えば、実らなければペインから何を言われようと文句は言えない立場となった。

「お願いドレッド、何とかしてー……」

フレデリカはここにはいないドレッドに望みを託して祈るしかなかった。

ユイとマイは二人でオーブの前に立っていた。

「メイプルさん、間に合ったのかな?」

「マップで見たらサリーさんと同じ位置にいるし、間に合ったんじゃないかな」

「どうやって行ったんだろ?」

「分からないけど……すぐに帰ってきてくれるよ」

ただ、本当にすぐに帰ってくるのかどうかは二人には分からない。

「ユイ、一応準備しておいたけど……」

「うん。でも……カナデさんとクロムさんを起こしに行った方がいいかな……?その方が安全かな?」

二人は安全策を取ることを選んだ。

しかし、それは叶わなかった。

「っ!ユイ、敵!」

「えっ!?」

二人がそれぞれ大槌を構える。

入り口からゆっくり歩いてくるのは一人のプレイヤー。

ドレッドだった。

【楓の木】の場所は特定されていた。

【集う聖剣】が手を出さなかったのは常にいるメイプルが危険だと判断したためだ。

そのメイプルがおらず、ドレッドが近くにいるのであれば襲うに決まっている。

「はぁ……フレデリカも人使いが荒い。だが、本当にメイプルがいない?なら……いけるな」

ぶつぶつと呟くドレッドはフレデリカからメッセージを受け取ってすぐにここにやってきていた。

メイプルがここに戻ってくるまで数分。

しかし、ユイとマイにとって長過ぎる数分である。

「マイ!倒すよ!」

「うん!」

「はっ……そりゃ無理だ」

ドレッドが走って距離を詰める。

それに対してユイが大槌を振り下ろす。

その距離はまだ開いているものの、関係がなかった。

「【飛撃】!」

スキルにより光るユイの大槌から衝撃波が飛ぶ。

それは必殺の一撃だ。

「ふっ!!」

しかしドレッドはそれを躱す。

躱しながらぐんぐん距離を詰めてくる。

「【ダブルスタンプ】!」

ユイの攻撃を躱して、ドレッドはマイに狙いを定めて斬りかかった。

「マイ!」

「だ、大丈夫!」

マイがドレッドの一撃を躱すことが出来たのは偶然だった。

サリーと同じ短剣使いだったためその動作は最も身体に染み付いていたため、考えるよりも早く身体が避けたのだ。

しかし、次はないだろう。

ドレッドはこの一日の内にユイとマイの攻撃力について知ることが出来た。

そのため、攻撃を受けないように深入りを避け、結果としてマイが生き残ることが出来た。

「マイ!距離をとって!」

「うん!」

マイが壁際に向かって走る。

しかし、ドレッドの方が遥かに速い。

すぐに追いつかれてしまう。

「遅いな」

「っ……!ああっ!!」

ドレッドの短剣がマイに迫る。

その瞬間。

マイは自分の持っている武器を追ってくるドレッドの方向に投げつけた。

「はっ!?」

ドレッドすら予想外な捨て身の戦法。

驚いているドレッドに、マイが決まったと笑みを浮かべる。

「当たるかよ!」

それでもドレッドは身体を捻って避ける。そして丸腰のマイを刻もうと再度短剣を振りかざしたところで、ゾッとする感覚にその場を飛び退いた。

それに少し遅れて衝撃波がドレッドのいた場所を破壊する。

「もう一人の……!は?」

ドレッドが見たのはスキルにより光り輝く【二つの大槌】。

その一つは紛れもなく先程放り投げられた大槌だった。

「しまっ……がっ!?」

二つ目の衝撃波をもろに受けたドレッドが壁へと叩きつけられる。

マイは大槌を装備していなかった。

ユイの装備している大槌をその手に持っていただけ。

放り投げたのは、ユイの元に返すため。

ユイの元に帰れば、予想の範囲を超えた二回目のスキルが発動する。

これが二人にしか出来ない、とびきりの隠し玉だった。

「私達、半人前だから」

「二人合わせて」

「「一人前のあなたを倒すよ」」

まだまだ経験も技術も足りない二人が、初めて自分達の力で一皮剥けたのだ。

大きな大きな一歩だった。

しかし、それでもまだ足りない。

「本当、エグいやつばかりで面倒だ」

「「嘘っ!?」」

「まず一人!」

ドレッドの短剣がマイを切り裂く。

マイがその攻撃を耐えられる筈がなかった。

ドレッドのHPはたった1だけ残っていた。

純粋に耐えたのではなく、スキルによるものであることは明白だった。

注ぎ込んだ時間の差。

積み上げたものの差があり過ぎた。

「じゃあな……!」

「メイプルさん……ごめんなさい……」

とっておきを乗り越えられたユイもまたドレッドの刃により倒れた。

ドレッドは短剣をしまうとポーションを取り出しHPを回復させる。

「はぁ……面倒くせぇ。このギルドとやるのキツイわ」

HPが回復しきったところでドレッドはオーブに向かって歩きながら呟く。

「今回は俺の勝ちだ……っ!?」

後はオーブを取るだけ、しかしここでタイムアップだ。

爆炎と共に飛び込んできたのは、サリーを連れたメイプルだった。

「……ユイとマイにあやまらないと」

「フレデリカ…っ!恨むぞオイ!」

ドレッドは試合には勝った。

だがしかし、勝負には負けたのだ。

ユイとマイが稼いだ値千金の時間。

それを無駄にするメイプルではないのだから。