鎧を仲間にしてからしばらくして、クロムがギルドホームにやってくるとそこにはカナデの相棒であるソウをぐにぐにと弄っているギルドメンバーの姿があった。

「あ、クロムさん!見てください、カナデのモンスターですよ!」

カナデ本人よりもメイプルがどこか嬉しそうにクロムにアピールする。

クロムはカナデもようやくモンスターを仲間にしたんだと、スライムをしげしげと眺める。

「スライムか、なるほどなあ」

「面白いよーソウは。町の中だとスキルも使えないしこんなだけどね」

とろけるようにして地面に垂れると急に弾力を持ってコロコロと転がっていく。

それをみてマイとユイが追いかけて捕まえにいく。

「本格的に賑やかになってきたな」

「っと、その指輪。クロムさんも仲間にしてきたんですね」

サリーが指摘すると、クロムはガシガシと頭を掻く。

「ああ、まあ……ちょっと皆とは毛色が違ってな。よし、サリー!先に言っておくぞ」

「な、なんです?」

特に何も思い当たらないという様子で、サリーが首をかしげる。

「俺の相棒は、中身がない動く鎧だ」

それを聞いて、サリーもクロムの言わんとしていることが理解できたのかピクッと反応して固まる。

「いえ、はい。はい、大丈夫です。鎧はまあ、あのカッコいい寄りなので」

藪蛇だったと、恥ずかしそうにぽつぽつ話すサリーを見て、クロムもモンスターを呼び出す。

「おし、ネクロ。出てこい!」

ネクロと名付けられた鎧は、見えない糸で緩く繋がれているように、ガチャガチャと音を立てて、その場に浮かぶ。ただ、見た目としては浮かんでいるだけの普通の鎧と剣と盾である。

サリーもああは言ったものの、恐る恐るという風にネクロの方を見てほっと息を吐く。

「よし、大丈夫……うぅ、でもやっぱアンデッドとかもいるよね……うぇぇ」

現実逃避も兼ねて、サリーは努めてそれらの情報を見ないようにしていたものの、薄々その存在には気づいていた。

あとはたびたび決闘を挑んでくるフレデリカがそこにたどり着かないことを祈るばかりである。

「まあ、こいつも面白いモンスターだぞ。全員モンスターが揃ったらどこかで試したいが……」

「その前にレベル上げだね。僕のモンスターもまだレベルが低くて覚えてるスキルとか全然ないし」

「ん、そうだな。あとはイズだけか?」

クロムが姿を探してキョロキョロと部屋の中を見渡すものの、肝心のイズは見当たらない。

「ああ、何でもアイテムの生産があるみたいでな。また工房にこもりっきりなんだ」

「私とサリーも素材集め手伝ったけど……大変だったよね」

「そうだね、あの量を全部使うとなると……」

三人の反応を見て、随分大変なことをしているんだと、クロムは少し心配そうに工房の方を見る。

するとちょうど工房の扉が開いてぐったりとした様子のイズが出てきた。

「お、おい……大丈夫か?」

「え?あ、クロム。おかえりなさい。こっちも……なんとか終わったところよ」

よっぽど根気のいる作業をしていたのか、そのまま眠ってしまいそうな様子である。

イズはペチペチと自分の頬を叩くとグッと伸びをして、目的を達成しに行こうとする。

「じゃあアイテムを提出しに行ってくるわ」

「おお、期待してるぜ」

口々にかけられる全員からの言葉にイズは笑顔で返すと、提出先の民家へと向かった。

「よし、入りましょう」

イズは家の中に入ると、アイテムを取り出す。

キラキラと時間経過とともに様々な色に輝く瓶詰めの薬品に、細かい部分まで丁寧に装飾がなされた豪華な服、そして宝石がはめ込まれた美しい鞘に収まった儀式用とでもいうような透き通る刃をした剣である。

「見事だ。これならば、力を貸してくれるだろう。ついてこい」

イズは老爺の言葉にしたがって家の奥にある地下への階段を下りていく。

家の下には地下だというのに草花が溢れる庭園が広がっており、その中心に淡い青い光を放つ魔法陣があった。

「さあ、これを指にはめてあの上に乗るといい。見えるものが変わるはずだ」

イズは言われるがままに指輪をはめて魔法陣の上に乗る。すると指輪からも青い光が漏れ出して、ぱっと視界が一瞬埋め尽くされる。

咄嗟に閉じた目を開けると、目の前には真っ白な光の玉から小さな翼が生えた、妖精とも精霊ともつかぬものが浮かんでいた。

イズが周りを見てみると、水が汲まれている甕には青い水の塊が、足元の草花の近くには木の葉や花の翼を持つ個体が飛んでいる。

「それが精霊だ、基本はその白いやつさ。ただ、場所によっては別の力が強く出せる。地形や魔法を上手く使ってコントロールするんだな」

「なるほど……属性魔法に近いのかしら?色々試してみないといけないわね」

イズは目の前の白い光にフェイと名前をつけると、ともにギルドホームへと帰っていった。