Japan: A New Age

Exploring the X-Species 2

 順平が章一に話をしている。

「この“さいうん”は、“おおぞら”よりは良くなったが、やっぱり客船でないから、居住性はよくないね」

「しかし、順平は新やまとへの移動は特別室だったからね。俺たちは普通の部屋だったからこんなもんだよ」章一は2段ベッドと机のある殺風景ではあるけど、明るいクリーム色で統一されているので少しはましな部屋を見渡した。

「ところで、その目的のリネン人の太陽系まで、正確にはあとどのくらいかかるのかな」章一が尋ねる。

「うん、地球からの距離が65光年だから、出発してから7日と6時間だな(ちなみに地球時間の1日を指す)。すでに10時間過ぎたのであと6日半だ。だいぶ勉強をする時間があるな」順平が意地悪そうに言う。

「ひえーーー、やるよ。やるけど、しかし、リネン人てアンモニアを呼吸するなんてどういうメカニズムなんだろう」と頭を抱えながらも章一が尋ねる。

「うーん、ぼくもそのあたりはあまり守備範囲ではないんだけど、アンモニアは酸化されてその後窒素が硝化菌とかの微生物によって分解されるんだよね。だから、生物側で活性のある原子を持っていれば反応のエネルギーで生きていけるのだろうね。

 これは、アンモニアそのものはわりに不安定な物質で、それなりに活性はあるけれど構成要素の水素と窒素はそれだけでは活性はないから、逆に生物側で活性のある酸素なりを持っている必要があるので、それは食物の形で取り込んだ持つことになるんだろうと思う。

 しかし、巨大惑星というのは非常に厚いヘリウムを主成分としてアンモニアやメタンの非常に厚い大気と、それらが液体化、または固体化された海に覆われているし、それから文明を立ち上げるための金属などを取り出すのはなかなか難しいように思う。また、食物になるような物質など、どういう形で取れるか想像はつきにくいけど、たぶん植物のような存在があるのだろうね。こういうことを考えると、かなり生息条件は厳しいような気がするな。

 たぶん、リネン人がアーマル人の太陽系にきたという理由は、自分たちの資源が枯渇しつつあるため、という可能性が高い。しかし、アンモニアを含む大気をもつ巨大惑星と言うのは極めて宇宙に数は多いから、リネン人のようなアンモニアを呼吸する生物がいる以上、同じような生物が多く居る可能性は高いね。どっちにしろ、はっきりわかるのは、実際に現地に行ってからのことだね」順平が答える。

「しかし、リネン人はアーマル人が接触しようとしても、嫌がったみたいじゃないか。嫌がるものから、無理やり情報を聞き出すのはむつかしいだろう?これをどうするんだ」章一が尋ねる。

「ふ、ふーん。我に秘策ありだ。まあ、みてな。絶対交流してくださいというから」順平は怪しい笑みを浮かべる。

 章一が順平に勉強でしごかれているうちに、時間は過ぎ、リネン人の太陽系がはっきり見えてきた。

 アーマル人の分析通り、惑星は全部で10個ありで、地球と同じで惑星の並びで考えると中央に巨大惑星が2つあり、他は残念ながら地球人にとって都合のいい温度や環境の惑星はなく、酷寒か灼熱の惑星が大部分で、温度としてよさそうな軌道にある惑星は荒涼としていて、酸素濃度は低く2酸化酸素濃度が高い。

「あれでも、テラフォーミングすれば住めるようになるけど、今見つかっているペースで居住可能な惑星が見つかっていれば、わざわざそういう手間をかける必要はないしね」

 章一が言うのに、順平が茶化す。「おお、章一、だいぶいうことが深くなってきたね。勉強のかいがあったというもんだね。まあ、操縦室へ行ってデータを見よう」

 しばらくすると、太陽系や惑星に対するさまざまデータが出てきて、スクリーンに映し出される。

「太陽の径は、概ねわがソルに近いし、温度も同等か。

 目的の惑星はどちらかな。一つは第5惑星で太陽から7.5天文単位でほぼ木星と同等か、径は地球の6倍で、重力はたぶん2.2倍、もう一つは第6惑星で太陽から19.5天文単位で、第5惑星はヘリウムの他は水素、アンモニアとメタンと、第6惑星はヘリウムの他は水素が微量ですね。これは、まず第5惑星ですね。第6惑星は地上で仮にアンモニアがあったにしても、低温過ぎてなにもかにも凍っているし、そこが凍った海が深すぎて文明をはぐくむのは無理でしょう。その点では、第5惑星はマイナス140度くらいでほどほどにマイルドですね。

 おお、ちょうどいい。衛星が5つあるので、重力が良さげな一番大きな第3衛星に降りてください。ちなみに、あれではわかり難いので第5惑星を仮称リネン星とします」

 順平が一人語りで結論までだし、着陸要請と言うか命令をする。

 第3衛星は、リネン星から100万km程度の距離を約1カ月で公転しているが、自転速度も遅く2カ月/回程度なので、リネン星を向いた面のちょうどど真ん中に着陸した。まあ、せいぜい1週間程度で片つけるつもりなので通信は問題ないであろう。この惑星は、順平によってリネン衛星3と命名されたが、直径が6千km程度であり、重力加速度は3.5m/sec^2程度、つまり地球の1/3である。

 リネン星との交渉は一応地球防衛軍の法務担当がやることになっている。これはひと悶着あったが、「そんなのでがたがたいうのなら、地球からの機はおいていくぞ」

 という順平の言葉で収まった。

 “さいうん”のみが着陸し、他の2機はリネン衛星3を周回して警戒飛行を続けている。

 まず、人工知能ラーナ1202号が、仮称リネン星に向けて前回の接触で得た呼びかけの方法で呼びかける。1時間ほど呼びかけるうちに、返事があった。

 しかし、「拒否です。『話はない。去れ』」と繰り返し言っています」とラーナが言う。

「やっぱり、これでは交渉のしようがないよね」と順平が法務担当の吉田一尉を見る。

「うーん、とりつく島もないですね」吉田がいうのに、順平が返す。

「じゃあ、僕が用意したものを送ってみます。ラーナ1202号?」

「うーむ、良いのかこれを?」ラーナがためらう。

「これしかない。これであれば絶対に反応する。また絶対、結局彼らの得になるようにするから」と順平がなおも押す。

「仕方がない。それでは送ってみよう」ラーナが絵による信号を送る。

 森下が聞く。「どういうものを送ったのですか」

「ええ、リネン星はアーマル人虐殺の犯人である可能性がある。なにより時期的に符合しすぎるので、大変疑わしいと我々は考えている。しかも、一切のコミュニケーションに応じようとはしない。

 うたがわしい君たちを放置はできないので、1日のうちに連絡して説明がなければ、仕方がないので、リネン星を爆撃する。我々の爆撃が、どの程度威力があるかまず、第5衛星を破壊して試すので、もし第5衛星を破壊するのが都合が悪ければ連絡せよ。第5衛星の爆撃は2時間後に行う」という内容です。

 順平はしれっと言う。

「ええ!そんな乱暴な!」森下が叫ぶが、「しかし本当に第5衛星を?」

「むろん、本当にはできないですがね。ただ第5衛星には何か人工物らしきものがあったから、なにか連絡があるかも」 言ううちに返事があった。

 ラーナから「返事があった。第5衛星には人員がいるらしい。アーマル星の破壊は自分たちには関係ないが、説明をしたいのでこっちに来るらしい。この星にも基地があるらしい」との話があった。

「ね!やっぱりだろう。大体客観的に言えば、リネン人は怪しいんだよ。アーマル星系の訪問時期といい。かれらもたぶん自覚があるかな。アーマル星の情報をX種族に教えた可能性もある」

 しばらくして、探査担当の鮫島が言う。「飛行物体が近づいています。非常に小型で箱バン位の大きさですね」

 さらに、通信担当の深山が「アメリカ機、ニューアトランタから、噴射式の小型ロケットが接近、時速500km/時であと30分にて到着の予定」

「ラーナ、相手に通信、1km以上その速度でそのまま近づいたら撃ち落とす。まず、言葉を把握できるデータを送らせろ。お互いに通信できるようなって始めて、接触が可能になるわけで、そのまえに近づくと敵対行為とみなすと」森下が言う。

「データを送ってきました。分析にかかります。20分ほどください」ラーナが言う。

 20分後にラーナが言う。「生活のパターンが全く酸素呼吸生物とは違いますので、だいぶ意味の不明な言葉がありますが、基本的な会話は成立するでしょう」

 その間に、その飛行物体は"さいうん"から2kmほど離れた位置に着陸した。

「わかった、まず可能なら相手の映像を出してほしい」森下の要求にスクリーンに顔が映った。

 それは何と言ったらいいのか、顔としてのパーツはそろっており、配置も大体人間と同様であるであるが、眼は小さめで瞼が丈夫そうだ。鼻は幅広く低くこれまた瞼のように閉じる機能がありそうだ。耳は同様にとじられるようになっている。髪の代わりに顔の皮膚より厚く丈夫そうな皮でおおわれている。全体に色は茶色に近い。幅が広めではあるがごつい首と広い肩幅のせいでそれほど広く感じない。

 重低音の響きでなにやら、言葉を発する。ラーナが翻訳する。

「私は、この衛星、ズマンの基地司令官ギゾンだ。政府から命じられて、ここに来た。衛星を破壊するような乱暴なことはやめてくれ。聞かれることは何でも話す」

 順平が進み出るが、みなまかせて下がる。この場合は、どう考えても順平の出番だろう。頭の回転と基本的な知識量が違う。また、この場を演出したのも彼だ。

「まず、アーマル星が滅ぼされたのを知っているか」

「知っている。というより滅ぼしたと称する種族に、我々はいま配下というより奴隷になるように迫られている」

「その種族について説明してくれ」

「名をガキゾミと称して、その名をガキゾミ帝国と自称している。23の星と他の5つの種族を統合しており、他の種族は事実上奴隷の扱いだ。その支配下にはいった場合には、一応生存に必要なものは与えられ、これは自分で稼ぐわけだが、すべての権利や自由を奪われ、ひらすらガキゾミに仕えるという形の統治をおこなっている模様だ。ただ、彼らの支配下にはいることで、無限のエネルギーを得られるマシンを与えられるということで、私たちの中でもガキゾミ帝国に加わろうというものもいる」

「ああ、それなら僕たちがあげるよ。水素を燃料にする核融合発電機だ」

「ええ!我々のほとんどすべての問題が、そのエネルギーと食糧なんだが、食料はエネルギーさえあれば増産可能だ。本当かそれは!」

「ああ、ちょっと待って」順平は画像を出して説明する。

「これが100万kWの核融合発電機だ。

 そしてこれが、小型の10万kWのものだ。水素さえあれば、まあ君の星ではこと水素はいくらでも手に入るよね。君たちのテクノロジーがよくわからないので自作できるかどうかわからないけれど、最悪持ってこれるよ。まあ、その点は安心してもらっていいけど、そのガキゾミ帝国についてもっと教えてください。アーマル星を滅ぼした彼らを許すわけにはいかない」

「私の知っている範囲だと、まずその版図は、我々の美しいターラン星系は銀河の外縁のほうに10光年ほど外れている。だから彼らもおいそれとは来れないわけだ。支配している居住惑星はさっき言ったように23個で、その範囲は大体直径25光年の範囲に入っている。それら居住惑星は、すべてわがターラン星のようないわゆる巨大衛星で、大気はヘリウムとアンモニアだ。

 ガキゾミ帝国はかって、酸素呼吸生物と激烈な生存闘争をしたらしい。同じ星系で1000年間にわたって、そちらが相手を滅ぼすかと言う戦いをした結果、ガキゾミ帝国が勝って相手を滅ぼしたらしい。それ以来、ガキゾミ帝国は酸素呼吸生物を見つけると殲滅しているということで、かれらの帝国の範囲でさっき言った、自分の星系の滅ぼした相手の他に3種族滅ぼしているそうだ。

 アーマル星は運わるく、わがターラン星とガキゾミ帝国の間にあって見つかった結果滅ぼしたと自慢そうに言っていた。

 まあ、われわれにとっては、アーマル星のような星はなんの値打ちもないからな。しかし、他の知的種族を滅ぼすなんていうことを行うのは、私どもリネン族のメンタリティに全く反する行為で、少しであったが縁のあったアーマル星が滅ぼされたというので、我々も悲しんだものだ」とギゾンが説明する。

「ガキゾミ帝国のテクノロジーの面を教えてほしい」と順平。

「かれらは、君たちのいう核融合発電を使っているのは間違いない。しかし、聞いた話では熱を電気に変える機構があるらしく、熱が使い放題だと言っていた。また、食料生産もその熱と電力を使って効率よく生産できているので帝国では飢えはないと自慢していた。

 武器は、基本的には高速弾を使っていて、なにか惑星でも容易に破壊できる決定的な武器があるようなことは言っていた。我々の武器も高速弾で、レーザー兵器もあるが威力は小さい。しかしこの点は我々と同等だ。高速弾の威力も帝国のものは我々のものとは段違いのようだ。また、彼らの宇宙艦は最大光速の2倍が出せるそうで、我々とは段違いで、彼らが船団で来て脅迫すれば屈するしかないというのが正直なところだ」

 その後、ギゾンの知らせを受けたリネン星の科学者やエンジニアがロケットでどんどん集まってきて、提供した核融合炉の設計図を見せたところ、製造可能ということがわかった。すぐさま、かれらは全力をあげて生産にかかるのであった。また、すぐに地球、リネン星と平和協定をむすぶことが決定された。順平の当初の脅迫を根に持たないところなど、お人よしの種族であることに順平はひそかに胸をなでおろした。

 ”さいうん“艦内に、アメリカ艦ニューアトランタの艦長とロシア艦ゴルバチョフの艦長が集まっている。

「いまから、リネン人から事情を聴取した結果を発表します」

 森下が説明する。

「資料については、皆の手元の端末にお送ったので確認してほしいが、概要を説明する。

 まず、アーマル人の惑星を破壊したのはガキゾミ帝国の艦隊だ。この帝国は、支配している居住惑星が23個であり、すべて巨大衛星人が住民である。その範囲は、大体直径25光年の範囲であって、リネン人の星ターラン星、ちなみに星系もターラン星系と言うらしいが、から10光年ほどその境界が離れているらしい。

 このガキゾミ人は、自分の出身星系で酸素呼吸生物と長く闘争していて、その闘争はどちらを滅ぼすかというものだったらしいが、ついに相手を滅ぼして以来、酸素呼吸生物に出会うと殲滅してきたらしい。

 すでに、彼らの版図においてその自分の星系の中の種族を除いて、3種族を滅ぼしたらしい。本質的に酸素のある地球のような惑星は彼らにとって何の値打ちもないもので、住民がいる場合には滅ぼすべき対象になるということだ。彼らには、被征服種族が5つあり、それらの種族はガキゾミ族にすべての権利を奪われ、奴隷のごとく仕えるということだ。そのため、一定の人数を、兵士や下働きでガキゾミ人に奉仕させるためガキゾミ帝国に差し出す必要がある。

 また、すべての資源はガキゾミ人のものになっており、その鉱山等では被征服民が強制労働についているということだ。しかし、大体において巨大衛星の住民は気象条件が厳しく、エネルギーと食料の確保に問題を抱えている。

 この点では、ガキゾミ帝国は豊富なエネルギー源を持ち、そのため食料生産も十分で、被征服民族にも十分なエネルギーや食料の支給はしているらしい。リネン人もエネルギーと食料の確保に問題を抱えている点はごたぶんに漏れず、一部にはガキゾミ帝国に仕えようというものもいるということだ。

 つまり、被征服民を抑圧はしているが、与えるものは与えているということだね。

 次にテクノロジーだが、ちょっと前の地球よりはずっと進んでいる。

 まず、核融合は実現していて、熱を発生させてタービンを回して発電しているようだ。これは、電力を得るという意味では効率は悪いが、巨大惑星人が食料生産に熱を使うという面からみると逆に効率がいいともいえる。しかし、まあタービンの寿命の問題は残るが。また、燃料に当たる水素は3重水素である必要があるので、有り余っているわけでないようだ。この技術は、被征服民にはブラックボックス化して供与していないようだね。

 また、重力エンジンを実用化していて、その利用そのものは我々より洗練されていて、時間フィールドの利用無しに光速の2倍を実現している。あらゆる輸送には重力エンジンを使っているようだね。先ほどの光速の2倍というのは戦闘艦であって、通常の客船については亜光速までということで、宇宙艦の重力エンジンの適用は、征服民には秘密の技術のようだ。通常の輸送に使う、重力エンジンは普通に普及しているようだけど。

 さらに、武器としてはやはりレールガンのようだ。熱射または光線による長距離のガンはないということで、この点は地球においてレーザーなど長時間の照射が無しでは全く威力が低いという結果からは踏み出していないようだ。レールガンの威力は、はっきりは判らなくて日本の開発した秒速5km/sのもの程度以上だろうという程度しかわからない。

 また、アーマル星に使われた核爆弾がある。これは、いわゆる水爆であって、全く地球で開発されたものと一緒で、熱核反応を起こす核爆弾を3重水素で取り囲むことで融合反応を起こすというものだ。威力は、アーマル星の記録を見ると200メガトン位が最高のようだね。これも古い技術だが、威力は馬鹿にならない。

 また、殲滅戦では遠慮なく使えるから、ばんばん使われると怖いものになる。しかし、対戦闘艦ということになると当てる、また近接して爆発させないと効力はない。ちなみに、いまわれわれの艦に装備しているバリヤーの場合で、200メガトンの爆発の場合、200m以内で爆発されると危ないな。

 しかし、当てるという技術すなわちミサイルだが、重力エンジン式もあり、秒速でたぶん3km程度が最大と判断している。ステルス技術はあまり気を使っていないようなので、探知さえできれば、この程度ならレールガンの防空型で撃破することは問題ないし、避けることも容易だ。また、大質量の艦を惑星にぶつけるという戦術は、やはり開発しているらしい。まあ、これは対艦では効果はないからね。

 やはり、これは守る対象に近づく前に撃破するというのが正解だね」

 ひとしきりその内容についての質疑のあと、順平が立ち上がる。

「ええ、皆さん。

 ガキゾミ帝国なんてものが現れて、なにしろ地球型の惑星に住民がいると全滅させるという物騒な国なので、これをどうするか大きな問題になります。

 それにしても、当面は危険な敵はそのガキゾミ帝国のみであると言ってもいいと思いますし、その移動速度である光速の2倍いうことからして、地球または新やまとやその他の植民星に突然現れて爆撃されるという恐れはないわけです。

 当面、相手の武装もほぼ分かったことから、その対策を練っておくべきかと思います。現状で、厄介なのは大口径のレールガンと、核ミサイルでしょうね。いま、わが軍の装備している大口径のレールガンは、現在装備しているバリヤーでは防げません。大体戦闘艦は自分の投射する武器は防げるというのが原則ですから、その原則に反しているわけですね。

 従って、中央研究所の所長としての対策は、『重力エンジンでレールガンの投射体の軌道を曲げる』です。

 これは、そのため重力エンジンをもう1台積みます。これは、推進用ほどは大きくはありません。しかし、申し訳ないがこの図の位置のロッカールームを使います。

 まあ、相手の弾に当たって死ぬよりロッカールームがない不便を忍んだ方がいいでしょう? ね!」

 順平は皆にウィンクをする。どうも森下は順平の性格が変わってきているようで心配でしょうがない。

「この重力エンジンをどう使うのか。これはですね、機能を少しmodifyしていて、接近する物体に照射して、相手の軌道を変えるのです。

 むろん、人間が相手の艦がレールガンを撃ったあと、それに対応するなんてことは無理です。しかし、戦闘態勢にはいったら、操縦用のロボットは時間フィールドで加速状態になるのを標準の手続きとします。その状態になった操縦ロボットにとって、レールガンの弾など止まっているに等しいのです。残念ながら、そらすことしかできませんので。なお、突然不意打ちにで撃たれたらと聞きたいでしょう。

 しかし、返事は”それだけ近づいて相手を探知できない間抜けは撃たれて撃破されて当然なのです”」

 しかし、そこで質問があった。

「ええーー、ミスター順平。なぜあなたは核融合装置と通常型の重力エンジンの技術をリネン人に与えたのですか。また、なんの権限があって?」ロシア人が聞く。

「うん、僕には権限があるんだよ。この装置の開発者は僕と牧村先生だ、先生には来る前に了解はもらっている。だいたい、僕ら以外のだれに異星人にこの技術を与える許可をもらわなくてはならないんだ? ロシア大統領か?」順平が問い詰めるのにロシア人は答えられない。

 それから、1日たった後、順平は”さいうん”の外につくられた仮設の小屋で、リネン人の数人と会っている。むろん、最初コンタクトしたズマンの基地司令官ギゾンも入っている。

 通訳は当然ラーナの代わりにアリスである。

「君たち日本人には大変感謝している。いま、全力を挙げて核融合装置を製作していて、6カ月もすれば完成する見込みだ。これは、順平君、君のおかげで熱を発するリアクターと電気を発生するリアクターを別に設計してくれたおかげで、非常に効率のよい運用が可能になる。このことも、大変感謝している。我々のできることは何でも日本の人々のためにやるのでぜひ言ってほしい」

 リネン人の代表が言う。なにしろ通訳がラーナなのでアメリカ人やロシア人の存在は特に伝えていない。

「6カ月、それは優秀だ。しかし、何度も念を押すがリネン人は絶対ガキゾミ帝国にはこの技術を漏らしてはだめですよ。これは彼らのものよりはるかに進んでいるのだから」順平が言う。

「むろん、こうなっては彼らの支配下にはいる理由がない。」と代表。

「また、リネン人は3万年の長い歴史を持つだけあって、核融合や重力エンジンの技術は開発できなかったが、全般的なテクノロジーは非常に洗練している、事実核融合リアクターをあなた方がmodifyしたものは我々のものより優れている。こうしたことで貢献はしていただけるとおもいますよ」

「おお、そのように貢献できればうれしい、しかし、問題は彼らの軍事的脅威だ、なにせ酸素呼吸生物とはいってもそれを平気で滅ぼせる存在だから」と代表が言う。

 それに対して順平が答える。

「それについては、君たちのロケット技術も最終的に光速の1/2まで達する点で、加速度など非常に優れている。これで、現在の君たちの最大のミサイルの加速性能を小型の重力エンジンでかさ上して、その速度で相手の艦に当てれば、彼らの堅い船腹防御といえども破壊可能だ。これを必要数を要所に配置すれば、彼らが艦隊を送ってきても防御可能だ」

「うーん、防御態勢については相談に乗ってほしい」

 代表の言葉に、順平は森下を見て「いいですよ。かれはその専門家なのでかれとそ彼の仲間が指導します」

「ところで」代表が言う。

「隣の第6惑星の12の衛星のうち11番目の不毛の衛星に明らかに知的生物が建てた、それも君たちのような酸素呼吸生物が建てたと思しき塔がある。

 それに近づくと、思念の信号を送ってくるが、我々には意味が分からない。君たちは、他の知的生物を探していると聞いている。よかったら、そこを訪れてみてはどうか。近づくと思念の信号を送ってくるのですぐわかる。特に危険なものではない」

「おお、それは貴重な情報をありがとう。ぜひ行ってみます」

 順平はその代表と宇宙服を着た手袋で握手をする。なにせ相手はアンモニアを呼吸する生物だ。相手も酸素は毒物であり、相手の大気には入れない。

「森下司令官、それではすぐ第6惑星の11番目の衛星に行きましょう。これは、たぶんすごいものである予感がするな」順平がいうのに森下が答える。

「いきましょう。極力情報取集するもの我々の役割りだからね。当面ニューアトランタを連れて、ゴルバチョフを置いていきましょう」

 第6惑星はいまちょうど第5惑星に最も近い軌道にあるので、ここからは星系の恒星からの距離の差である5天文単位約7億5千万kmの距離であるので、亜光速で飛行すればわずか1時間の飛行である。直径が3000km足らずの衛星の、表面1万mを周回する。たしかに、信号というよりメッセージを感じる。そのメッセージで指定された地点に着陸する。

 そこには、黒光りする6角形の高さ50mにもなる塔がたっている、基部の差し渡しは10m程度もあるが、先端は1m位か。入口らしきものは一切見当たらない。真空の暗いなかで、周辺がごつごつした岩の露頭が目立つ中で広場になっている中心部に立つそれは、一種の不気味な存在感を放っている。

 順平と森下およびラーナの目としてのアリスが、”さいうん”から降りて塔に近づくと、塔の基部の一部が光を放って招いているようだ。そこには、1m角程度の範囲が明るくなって、黒いなかに何か白い模様のようなものが浮かび上がっている。明らかにその模様は、規則性があって何か意味があることは明らかである。

「たぶん13進法の表現だ。ラーナ、これは数学的に何かを現しているのだと思うが」

 アリスを通じてラーナに順平が聞く。

「そうです、13進法ですね。またなぜ13進法などを」

「難解にするためだよ。『要はこれを説いてみろよ。解いたらいいものを上げるよ』と言っているんだ。ラーナ、君なら解けるはずだ」ラーナの言葉に順平が命ずる。

 ラーナが沈黙する。

 ややあって、アリスを通じて、ラーナが順平の端末にある画像を送ってきた。「それを頭に思い浮かべてください」アリスが言う。順平はその画像を見るが、当然それを頭に思い浮かべる。

 突然前触れなしに塔の基部の一面がドアの形にくぼんで上に引っ込み、そこには幅1m高さ2mの入口ができている。

 中は明るい。

 順平たちは中に踏み込んだ。