自分はジンバルさんの抱えている職人達に寿司の作り方を教える為に来たはずが、ジンバルさんの総合店内にある寿司屋のカウンターに立っていた。
何故、自分がカウンターに立ち、お客さんに寿司を提供しているのだ……。
1時間前、自分はジンバルさんのお店の厨房内で、米の種類、炊き方、酢飯の作り方、ネタの処理、シャリの量、握り方などを教えながら実演していた。
自分には【素材の極み】があるから既に旨いのかもしれないが、ちょっとこだわるために【魔導】を使うことにした。 何故、【魔導】を使うかというと、自分の手の温度が高くて、ネタなどに良くないからである。
そして、手の周りを【魔導壁】で薄く覆うと体温は伝わらないし、衛生的というよい事だらけなのである。
職人達が試食したときは、ジンバルさん以上に大げさな反応をしていた。
中には失神する人もいたのだが、もしかして【素材の極み】効果が上がっていたりするのかな?
その後、セシリアさんに自分には再現出来ないような寿司の技術やパフォーマンス技術などをやってもらったら、職人達に大受けしてしまい、今日しか見れないと思った職人達は、オープン時間まじかなのに、もっと技術を見せて欲しいと土下座して頼んできたのだ。
そんなわけで、セシリアさんによる講習が終わるまで、自分が終わるまで寿司を作る事になった。
ジンバルさんにも、そんなので店的に良いのか?と聞いたら、笑顔で大丈夫ですと言われ、店の入り口には今日限定で伝説の職人が作りますとか看板を立てていた……。
「みんな、ごめんね。 予想外な展開になっちゃったよ。」
「大丈夫ですよ。 レイくんの行動としては想定内です。」
「うん。 レイさんの、彼女として、これ位は、日常。」
「お兄様が評価されるのは私達としても嬉しいですから気にしないで下さい。」
「あ、ありがとう?」
この評価は良いのか悪いのか……。
でも、ハプニングが起きても受け入れてくれる3人には助かるな。
「それにしても相変わらずレイくんの料理をしている姿は凄いですね。」
「包丁や、食材が、宙を、浮いてる、様にしか、見えない。」
「これはそういうスキルだからね。 あまり真似は出来ないとは思うけど、ひとりで料理する時なども便利だよ。 何品も同時に作れるし、洗い物まで出来るからね。」
「お兄様やセシリアさんは、そういう場面ではお父さん並に規格外ですよね。」
「そうですね。 今まで強い人は何人も見ましたが、レイくんみたいなタイプは見たことがないですね。」
「単にそういうタイプは裏方が多いから、人前では見ないだけかもしれないよ。」
「いえいえ、レイさんの能力以上の調理人は見たことがありませんよ。 レイさんは普通に話しながら仕事していますが、お店は既に満席ですよ? 普段なら4人で回している仕事をひとりでやるなんて……。 しかも、お客様の注文している量が多いですから、相当美味しいのでしょう。」
「そんな事言いながらジンバルさんも普通に注文しているじゃないですか……。」
「あはは。 こんな美味しい寿司を逃すわけにはいきませんからね。」
「今、必死に職人達がセシリアさんから技術を学んでますよ?」
「職人達もこれまで以上に美味しい寿司を作れるとは思いますが、きっとレイさんやセシリアさんは越えられないでしょう。」
「それも【商機の勘】ですか?」
「いえ、これは今まで美味しい物を食べてきた経験からくるただの勘です。」
「ありがとうございます。 もしかしたら、【水の国】にも寿司や刺身など鮮魚を扱う小さな食堂を作るかもしれないので、オープンしたらお知らせしますね。」
「本当ですか!?」
「まあ、予定ですけどね。」
何か、今まで以上にジンバルさんの眼光が鋭くなった気がしたな……。