「おかえりなさいませ、女王様! さあさあ鞄はこちらに! 手を洗ってあげるわね! 服も普段着に着替えましょうね!」

 フェリスが友人たちと共に女子寮へ帰るなり、天使ライラが嬉々として屋根から舞い降りてきた。まだ屋内に入ってもいないのに、さっそくフェリスの制服を脱がせようとする。

「ふえ!? あ、あのっ、着替えはアリシアさんが手伝ってくれるからだいじょぶですっ!!」

 フェリスは慌てて告げる。アリシアにヤキモチを妬いてもらうのは嬉しいが、かといって無意味に悲しませたいわけではない。

「いつもアリシアが手伝っているのも、どうかと思うのですけれど……」

 なぜかジャネットはふくれっつらをしている。

「それはそうと……レインさんはいったいどうしたの?」

 アリシアは黒雨の魔女レインを眺めて疑問を浮かべる。

 天使ライラが地面から軽く浮いて立っており――天使だと気づかれるから浮くのはやめた方がいいとアリシアはときどき注意するのだが、まずもって羽がバサバサ動いているからどうしようもない――そのライラの背中に、黒雨の魔女がしがみついて浮かんでいる。

 しがみついているというより、へばりついている。

 もはや引っつき虫である。

「どうしたとは、なんのことじゃ?」

 レインは不思議そうに聞き返した。

「そのことですわ! どうしてライラさんにくっついてるんですの? そんな……お外でははしたない感じで」

「はしたなくなどはない。これは偶然わらわとライラの立っている場所が同じだっただけじゃ」

「偶然じゃありませんわ! 明らかにぴっとりくっついちゃってますわ!」

「そうかのう? そなたの目の錯覚ではないのか? 妄想はほどほどにせぬと、先が思いやられるのう」

「うぐぐ……」

 必死に主張しても軽く流され、ジャネットは歯噛みする。

 ライラがレインをたしなめる。

「でも、本当にくっつきすぎだと思うわ。飛びづらいから、せめて手を繋ぐくらいに……」

「わらわが……ジャマなのか?」

 黒雨の魔女が瞳を潤ませた。

「う……そうじゃないけど。レインのことは大好きだし、くっつくのも大好きよ。だけど、一日中っていうのは……」

「わらわは一日中がいいのじゃ」

「もう……レインったら……」

 黒雨の魔女はさらにライラに密着し、ライラは魔女の頭を仕方なさそうに撫でる。

「まじょ……さん……?」

 小首を傾げるフェリス。

「これ……本当にあの人類の三分の二を滅ぼしたといわれる恐怖の魔女ですの……?」

「多分……そのはずなんだけど……」

 ジャネットとアリシアも、甘えんぼう魔女を唖然として眺めた。