Kuishinbo Elf

280th Food First Platoon

◆◆◆ プルル ◆◆◆

僕はパーティー会場を抜けてゴーレムギルドへと駆けこんだ。

ラング改を整備していた整備員達が慌てて道を開けてくれる。

GD(ゴーレムドレス)の制御には、

ホビーゴーレムのイシヅカが不可欠であるが、

僕が抱えて走るにはイシヅカは重過ぎたため、

ライオットに頼み込んで連れてきてもらった。

「俺、最近は誰かを運んでばかりだな……その内、運び屋って言われそうだぜ」

そうボヤく彼を、僕は苦笑いで見つめた。

ライオットは嫌々ながらでも、やるべきことを進んでやってくれる。

自分の益にもならないことでも、全体が結果的に良くなるのであれば、

我慢して協力してくれるのだ。

まぁ……今回のケースは、僕が彼に甘えているのであるが。

そんなことを考えながら走っていると、

ピンク色の奇妙なゴーレムが僕の視界に入ってきた。

『GD(ゴーレムドレス)-P(プロトタイプ)-0・デュランダ』だ。

その隣には祖父のドゥカンがいる。

「お祖父ちゃん! GD(ゴーレムドレス)の整備は終わってる!?」

「おぉ、プルル! ようやく、きおったか!

GD(ゴーレムドレス)の整備はとっくに終わっとる! イシヅカは来ておるか!?」

お祖父ちゃんが確認を終わる前に、

イシヅカは既にGD(ゴーレムドレス)の背部コクピットに収まっていた。

この子は自分のやるべきことを良く理解している。

ホビーゴーレム三兄弟の中で自分のことを理解していないのは、

ライオットの左肩に乗って欠伸をしているツツオウくらいなものだろう。

この子は本当に自由過ぎて、僕にはよくわからない子だった。

でも、それがツツオウの強みであり魅力でもあるのかもしれない。

「ほほっ! こいつめ、やる気は十分のようじゃな!

プルル、スタンバイ・オーケーじゃ!」

オーケーサインを確認した後、僕は着ていた桃色のドレスを脱ぎ捨てた。

僕はドレスの下に、黒いワンピースタイプの水着を着込んでいたのだ。

水着には一切余計な飾りは付いていない。

食いしん坊のかかわる行事が平穏に終わるわけがない。

そう予想した僕は、いつでもGD(ゴーレムドレス)を装着できるように準備をしていた。

GD(ゴーレムドレス)装備の際は、かさ張る衣服をなるべく着ない方が良いらしい。

動作伝達システムに若干のラグが生じるらしいのだ。

体感にして一~二秒程度だが、実戦に置いては致命的な遅延となってしまうだろう。

「うん! いくよ、イシヅカ!『デュランダ・ドレスアップ』!」

デュランダに背を向ける形で立ち、GD(ゴーレムドレス)を身に着けるための声(キーワード)を発した

その声(キーワード)に反応してデュランダのピンク色装甲が開き、

フレームが露出した後に、フレームが僕を取り込み装甲が閉じてゆく。

そして、空気が抜ける音がすると、

フレームと僕の肉体がぴったりとフィットした。

最後に頭部のバイザーが顔の正面に下りてきて、

GD(ゴーレムドレス)の装着が完了する。

この間、僅か五秒程度だ。

僕は各関節に違和感がないか確認すると、

バイザーに表示されたデータを素早く確認する。

うん、またお尻が大きくなっている……ダイエットした方がいいのかな?

って、そんな情報いらないから! 削除削除!

魔力充填率百パーセント、各武装に異常なし、桃力も満タン!

各システムに異常なし! うん、ばっちりだよ!

「システムオールグリーン! いってくるね、お祖父ちゃん!

行こうっ、ライオット!」

「おう、いってこい! 暴れ過ぎて町を壊すんじゃないぞ!

既にゴーレム達も迎撃に向かっておるから、

力を合わせて魔物を駆逐するんじゃ!」

僕は腰に装着されていた魔導ライフルを手に持ち、

生物兵器が徘徊するフィリミシアの町に駆け出した。

「おぉ~い、凄い速さだな! 本当にプルルなのかよ!?」

少し遅れてライオットが追いついてきた。

もちろん、これは彼だからできることであり、

普通の同年代の少年少女では困難を極めるだろう。

「うん、このGD(ゴーレムドレス)のお陰さ。

これなら、僕もライオット達と一緒に戦えるよ」

「そりゃあいいや! 頼むぜ、プルル!」

ライオットの見せた笑顔がとても素敵に見えて、

僕の胸がドキドキと高鳴る。

あぁ、顔が熱くなってきたよ! ど、どどど、どうしよう!?

その恥ずかしさから顔を背けた瞬間、

僕は物凄い音を立てて民家の壁に激突してしまった。

そこまで痛くはないが、物凄い衝撃が伝わってくるのを感じた。

「うおっ!? 大丈夫かプルル! 壁にめり込んでいるぞ!?」

「いたた……いきなり失敗しちゃったよ。

こんなの恥ずかしくて皆には言えないねぇ」

流石はGD(ゴーレムドレス)だ、これだけの衝撃でも傷一つ付いてはいない。

寧ろ、傷付いたのは民家の壁の方である。

あぁ……これは後で、お詫びに行かなくちゃだめかなぁ。

初陣でいきなり失敗をしてしまった。

やっぱり、僕に戦いは向かないのだろうか? とほほ。

フィリミシア中央公園に到着した僕らを待っていたのは、

数多くの魔物と交戦する騎士達の姿であった。

流石に一騎当千の兵が揃っているだけあって、

異形の姿をした魔物達相手であっても終始優位に立っている。

しかし、中には新米の騎士も混じっているようで、

危ない状況に追い込まれている者もいた。

ここは一つ、援護といこうか。

「よし、援護しようかねぇ……魔導ライフルの出番だよ!」

「お、なんだそれ?」

ライオットが不思議そうに魔導ライフルを見つめている。

僕は目標を定めて魔導ライフルの引き金を引いた。

イシヅカが姿勢制御をしてくれているから当たるはずだ。

「当たれっ!」

甲高い発射音と共に魔導ライフルから桃色の光線が発射され、

まるで吸い込まれるように魔物に命中し……その瞬間に『大爆発』した。

当然、魔物の近くにいた騎士は、その爆発に巻き込まれている。

「わぁぁぁぁっ!? 騎士さんを巻き込んじゃった!!」

爆発に巻き込まれ、空高く吹っ飛んでゆく騎士の姿が悲しげであった。

あぁ、また失敗しちゃったよ。

「おやおや、いけませんね。

ビームライホォはその威力、範囲を計算した上で使用しなければ、

このように味方を巻き込んでしまいます。

ご使用は計画的に……ですよ?」

空に吹き飛んだ騎士を救ったのは、

空を物理的に駆ける勇者タカアキ様だった。

その容姿で空を走られると異常にシュールな光景になる。

彼は何十キログラムになるかわからない重装備の騎士を、

空中にて受け止め、地上に落下するように降り立った。

その際、魔物がタカアキ様に押し潰されて憐れな最期を遂げる。

「し、死ぬかと思った……ありがとうございます、タカアキ様」

「いえ、礼には及びません。何故なら、私は勇者ですから」

しかし、タカアキ様に救われた騎士の表情は虚ろであった。

幸いにも、その重装備のお陰でケガはしていないようだったが、

まさか重装備であるのに、

あれほど天高く空を舞うとは思ってもいなかったのだろう。

トラウマになってしまったのかもしれない。

僕は物凄く申し訳ない思いでいっぱいになってしまった。

僕は騎士に謝罪をし、気持ちを切り替えて次なる魔物を狙うことにした。

次は味方を巻き込まないように、

近接武器である魔導光剣を太ももの装甲から取り外し起動させる。

ブゥンと起動音が鳴り、ピンク色の刀身が姿を現した。

これなら味方を巻き込まなさそうである。

「うわぁ、さっきから凄い物を出してるなぁ。俺も欲しいかも」

そう言いながら、

襲いかかってきた魔物の頭を踵落としで叩き割るライオット。

その禿げ頭の筋肉ダルマの魔物は、悲鳴を上げる暇もなく地面に沈んだ。

「これは魔力が高くないと扱えない魔導兵器だよ。

この鎧……GD(ゴーレムドレス)も全て魔力で動かしているのさ」

「え~? それじゃ、魔力の低い俺じゃ使えないじゃないか」

今度は、掌底突きを筋肉ダルマの鳩尾に叩き込む。

魔物は血反吐を撒き散らし、

体をくの字に曲げて地面に倒れ、一度痙攣した後……

ピクリとも動かなくなった。

ライオットは、やはり以前よりも強くなっている。

ユウユウの能力が異常過ぎて陰に隠れがちだけど、

ライオットの能力の成長の速さは異常だ。

このまま成長し続ければ、いずれはユウユウを超えるのではないだろうか?

そのような期待を抱かせるほどに彼は強くなっていた。

そんなライオット見ていた僕だったが、

甲高い警告音と共に現実に引き戻される。

バイザーの情報を見れば、それは敵の接近を警告するものだった。

事実、僕に向かって来る魔物の姿がバイザー越しに映っている。

いけない……ここは戦場。

呆けている暇なんてないのに、僕は何をしていたんだ。

気持ちを切り替え、僕に襲いかかってくる魔物に対峙する。

レーダーが魔物をロックオンした。

イシヅカがGD(ゴーレムドレス)の姿勢制御をアシストしてくれている。

これなら僕だって近接戦闘ができるはずだ!

……魔物が魔導光剣の有効射程に入った! 

「やぁっ!」

僕は魔導光剣を使用し、

襲いかかってきた魔物を頭から真っ二つに切り裂いた。

手応えや衝撃はない、バターを切るよりも手応えがないにもかかわらず、

魔物は臓腑を撒き散らして絶命してしまった。

「ひぎぃ!?」

そのグロテスクな光景に、僕は情けない悲鳴を上げてしまった。

膝が震え、立っていられなくなって尻もちを突いてしまう。

……あまり痛くはなかった。

お尻が大きくてクッションになったと考えると悲しくなる。

「おいおい……しっかりしろよプルル。

いちいち、そんなのでビビってたら戦えないぞ?」

「う、うん……ごめん。少しビックリしただけだよ」

差し出されたライオットの手に掴まり、僕は再び立ち上がった。

その際、嬉しくて顔がにやけそうになるが、

気合いを入れて顔面を引き締める。

更に無様な顔を晒すわけにはいかないからだ。

「む、そなたらか!」

「あ、王様、ご無事でしたか。ここで鬼に出会いました?」

ウォルガング国王が、ライオットと僕に気付き声を掛けてきた。

その全身は魔物の返り血で赤く染まっている。

本来は王である彼が戦場に出るものではないのだが……。

ライオットはウォルガング国王に軽い挨拶を交わしつつ、

襲いかかってきた魔物の腹部を抜き手で突き刺した後、

その『はらわた』を引き抜いて絶命させた。

うえっ、グロテスクだよ、ライオット……。

「いや、鬼の姿は見えぬ。

ここはワシらが受け持つゆえ、そなたらは南地区の方へ向かうのだ。

今見せてもらった戦闘能力があれば、

決して魔物達に引けを取ることはなかろう」

「はい、任せてください」

「そうするか~。ここの連中、弱過ぎるもんな」

僕達は苦笑するウォルガング国王の指示に従い、

露店街のある南地区へと向かうのであった。