Kujonin

Episode 39

ブリザード終わりに、いくつかかまくらを作って作業部屋へと戻る。

ドアを開けると、

「いま戻りましたー」

「おつかれさまー」

と、マルケスさんが声をかけてくれた。

一瞬、異世界に来る前の会社を思い出してしまった。

気を取り直して、

「すみません、ちょっと時間かかるかもしれません」

「おお、構わないよ。寝床は、ほら森の井戸の底でどうだい?」

初めにお茶を飲んだところだ。

草で編んだ敷物があったはずだから、あそこの卓袱台を片付けて寝よう。

「ありがとうございます」

マルケスさんに、スノウフォックスの駆除について説明すると

「なるほど、ブリザードを使うのか。面白いな」

「そのまま、埋めておいてもいいと思うのですが、掘り返しちゃうかもしれないし、違う魔物がかかっているかもしれないので、明日の朝様子を見て、掛かってそうだったら午前と午後と分けて、仕掛けに行こうと思うのですが」

「おう、わかった。ブリザードの調節はやっておく。これで冷蔵庫も少しはマシになる」

マルケスさんは氷河地帯を「冷蔵庫」という。

バカでかすぎるだろ!

飯にしようというので、アイルを起こし、ベルサを本から引き剥がした。

作業部屋の外で、ツナギを脱ぐと、破れていたところがさらに広がり、耐衝撃や耐斬撃の魔法陣の糸が解けている。

アイルはそのせいで、傷を負ったのか。というか、アイルが戦っているうちに糸が解けてしまったのか。まったく面倒なことをしてくれる。世話のやけるやつだぜ!

あれ?おれ、さっき、スノウフォックスに噛まれたけど、なんともなかったけど…

そっと冒険者カードを取り出して、裏を見ると、レベルが91になっていた。

とりあえず、見なかったことにして、そっと元に戻した。

「裁縫スキル取るかな。あって困るものでもないし」

とりあえず、すぐに上がると怪しまれるので、裁縫スキルは2だけ上げた。

ついでに、調理スキルも2上げた。

何かと、この先も使いそうだったからだ。

残りのポイントは27。

とりあえず、スキルは

言語能力―竜人語

生活魔法レベル5 クリーナップ

火魔法レベル1

調合スキルレベル10

探知スキルレベル10

薬学レベル10

錬金術レベル10

数学レベル10

魔法陣学10

工作技術10

魔道具製作スキル10

裁縫スキル2

調理スキル2

と、なっている。

我ながら、全然戦う気がないな。

ツナギの補修は後にして、飯だ。

マルケスさんは鍋を用意してくれていた。

野菜は森で採れたもので、肉は巨大な魔物の肉をふんだんに使っている。

調味料は塩と山椒。

塩は前に島にいた原住民が作っていたそうだが、いつの間にか、カヌーを作って何処かへ行ってしまったらしく、今では海水をダンジョンまで引いてきて、自分で作っているのだとか。

野菜や山椒は偽エルフたちがダンジョンマスターへの捧げ物として井戸にお供えしてくれるらしい。

鍋の肉はとろけるように美味しく、何の肉か聞いたら、獲れたてのフィールドボアの肉だという。

フィールドボアの肉なら、食べたことがあるが、同じ肉でもこうも違うのかと唸らされた。

3人共大満足で、森の井戸底に向かう。

「ナオキは明日も仕事だろ?」

敷物の上を片付け、毛皮にくるまったアイルが聞いてきた。

「ああ、うまくいけばね」

俺は容器に入ったダニを見ている。

先ほど生肉を中に入れておいたのだ。

「本当に飼うんだな」

「もちろんだ。すでに普通の毒は効かないことがわかったよ」

「なんだって!?」

ベルサが声を上げる。

「麻痺も効かない。筋肉弛緩系は筋肉がそもそもないから効かないんだろうなぁ」

生肉に通常の毒と麻痺薬も含ませておいたのだ。

確か、ダニの殺虫剤は、菊だかの天然成分を使うんじゃなかっただろうか、と元の世界の知識を掘り起こしてみる。

虫が寄り付かないような花がないか、明日、マルケスさんに聞いてみよう。

「まったく、ナオキと言い、マルケスさんと言い、いったい何なんだ!魔物学者として、自信がなくなるよ!」

ベルサはマルケスさんの本(記録)を読み、対話をして、かなり打ちのめされたらしい。

マリナポートでは、人の目もあるし、ライバル達もいたので、教会で禁止されていたような実験は出来なかったという。どういう実験かは知らんけど。

「私だって私だって!…グー…グー」

寝たよ、おい!

意欲に燃えながら、突如寝るベルサにつられるように、俺とアイルも寝た。

翌日、早朝から、チクチクやっていた。

ツナギの補修作業である。

魔物の革をワッペンのようにして、破れた箇所に当てていく。

魔物の革には耐衝撃の魔法陣を焼き付けてある。

魔力で、魔法陣を描いて火魔法で焼き付けるのだ。

もしこれで、ツナギ全体に耐衝撃が付与されるなら、こっちのほうが断然に作るのも早くなるし、応用もできるだろう。

とりあえず、起きてきたアイルにツナギを着た俺を殴ってもらったが、なんともなかった。

「それはレベル差があるからだろ!ちょっと私に着させてみろ!」

アイルが言うので、アイルに着させて、今度は俺が殴ってみる。

軽くピンボールのように、壁に衝突していたが、

「おおっ!なんともない!なんともないが、そんなおもいっきりやることないだろっ!」

いけね。日頃のムカツキが出ちゃった。

「ナオキ、お前またレベル上がったんじゃないか!?」

「ん?うん、ちょっと、な。ちょっとだけ」

「見せてみろ!」

アイルが冒険者カードを見せるよう要求してくる。

「いや、いいじゃないか。そういうのは」

「ほら、早く見せるんだ!」

「んん?どうした?」

ベルサが起きた。

「ベルサ、おはよ。さ、仕事仕事」

「ベルサ!ナオキが冒険者カードを見せようとしないんだ!」

「なんだって!!……え?それがどうかしたの?」

「ま~た、レベル上がったらしいんだ」

「あ~、エチッゼンもマスマスカルの大群も巨大な魔物もほとんど1人で倒してたからね。それで、レベルいくつになったの?」

二人に責められて、白状することにした。

「きゅ…91?」

「「91!!」」

「おいおい前人未到じゃないか!?」

「それで、戦闘系のスキル取ってないって、どういうことだ!?」

「「変!!変人だ!!」」

「変イエ~イ!!」

と、言いながら俺は逃げるように、「冷蔵庫」へと走っていった。

ツナギはアイルに取られたままなので、ワイルドベアの毛皮に耐寒の魔法陣を描いたワッペンを縫い付けて、氷河地帯こと「冷蔵庫」に入った。

作業もスムーズだ。取っててよかった裁縫スキル。

全然、寒くなーい!

ワッペンって超便利!

探知スキルを使って魔物を探すと、結構な数の魔物が固まって雪の下に埋まっていた。

掘り返して、スノウフォックスだけサクサク殺していく。

スノウラビットという非常に可愛らしい、ウサギの魔物は外に逃がしてやった。

逃がすときにガンガン噛み付いてきたけどね。

でも、かまくらの罠が有効であることがわかったので、再びそこら中にかまくらを作っていく。

かまくらを作っている最中や移動している時に見つけたスノウフォックスもできるだけ、狩っていく。

走って行ってジャンプして、踏みつける、例のスタイルで。

罠と狩りで計24匹を殺処分。

作業部屋に行き、マルケスさんに報告し、朝飯を食いながら、今後について話す。

すでにベルサが作業机に陣取っていて本を読んでいる。

アイルは砂漠だろう。

「どのくらい減らせばいいですかね?」

「どうだろう、できるだけ減らしてほしいんだけど、半分くらい減らしても構わないよ」

「半分ってどのくらいですか?」

「500匹くらいかなぁ。繁殖してたら、もっとだなぁ」

「結構時間かかると思うんですけど…」

「ああ、うちは問題ないよ。アイルちゃんもベルサちゃんもやることあるみたいだし、しばらく滞在してれば?急ぐ用事があれば別だけど」

急ぐ用事などないので、しばらく滞在させてもらうことにした。