Kujonin

Episode 261

「いったいどうなってるんだ!」

「呪いなどバカバカしい!」

「エルフの権力者は揃いも揃って無能か!?」

「風の妖精たちはなにを見ていたんです!」

「風の勇者は納得しているんですか!?」

レヴンさんの処刑について社員たちに話したら、全員がブチ切れた。村人たちは怯えている。

ただ1人、当のレヴンさんだけは腕を組んで考えていた。

「いや、これはいけるかもしれないぞ」

「自分が処刑されるかもしれないっていうのに、なにがいけるんです?」

「エルフの薬師たちを引きずり出す方法さ。黒いバレイモの被害を止められるかもしれない。俺たちは病原菌の駆除方法を見つけたろ? あとは人員と胆礬の量。扱いがわかってない奴らにやらせても混乱を招くだけだろう。それなら薬師の方がいい。エルフの薬師たちをウェイストランドに呼び込むべきだ」

「それはそうですけど、レヴンさんの処刑はどうなるんです?」

「だから俺の処刑を使うんだよ! 俺は処刑場で駆除方法を語って聞かせるつもりだ。エルフの薬師たちは呪いと称して、止められるはずの大厄災を止められなかったなんて噂は全世界に伝わる。悪い噂ほど一気に広がるからな」

レヴンさんは興奮したように唇を舐めた。

「エルフの評判を下げる、か。プライドの高いエルフなら来るかもしれないと?」

マルケスさんがレヴンさんに聞いた。

「その通り! たぶん処刑場は千尋の谷だ。いい風が吹いているはずだし、大勢の人が集まる。演説するにはもってこいだ」

「でも本当に死ぬかもしれませんよ」

「死んだ時は死んだ時だ。悪いが、俺が死んでも黒いバレイモを止めてくれればいい」

レヴンさんがあっけらかんと言った。死を計画の一部として受け入れてしまっている。

「よく風の音を聞け! この会話も風の妖精たちが聞いているんだろ? 情報戦はすでに始まっているのだよ、諸君」

全員が村に吹く風に耳を澄ませる。空き宿の隙間風が、納屋のドアを叩く風が、壊れた風見鶏を回す風が、ヒューと鳴った。

「風の妖精の噂話でエルフの国は動きますかね? プライドや評判を保つためだけに果たしてエルフたちが薬師を派遣しますか?」

セスが聞いた。

「エルフの国じゃない。エルフの里だ。俺たちダークエルフはエルフの里としか聞いたことがない。なのにエルフには大地主たちがいて、僧侶たちがいて、薬師たちがいる。さらにはフラワーアピスを飼っている養蜂家すらいるわけだ。養蜂家がいるんだから果樹園をやっている奴もいれば農家もいるはずだろ?」

確かに里というには人数が多いな。

「俺は冒険者時代に聞いたことがあるんだ。『ウェイストランドの北の山脈を越えれば海原のように広がる大森林がある。大森林に入って迷わない者はいない。なぜなら、エルフの里を指し示す看板がいくつもあるのだから。朝会ったエルフともう一度出会いたければ100年かかるだろう。ようこそ、それがエルフの里だ』ってね。つまり里は複数ある。しかも里によってやっていることが違うのさ。それぞれ信仰している森の精霊も違う。つまりエルフは一枚岩じゃない」

種族としてエルフの意思は一つじゃないのか。国と種族が同じでも意思が同じとは限らない。前の世界でも同じ国の中で意見が分かれることはしょっちゅうあったし、そもそも戦国時代があったのだから、考えてみれば当たり前のことだ。

「だいたいおかしいだろ? 俺に15年も風の勇者を預けてたんだ。いつだって奪い返せたはずなのに、急に3年前に奪っていった。山脈の向こう、大森林の中ではいつだって里同士の意見が割れているのさ。たぶん俺の予想じゃ、薬師の里があるはずなんだ。俺の仲間だったエルフの女僧侶は『エルフの薬師は生まれが意地汚い』と罵っていたからな」

レヴンさんは指を立てて語った。

「つまりエルフの薬師たちをピンポイントで煽ると?」

僧侶の里と薬師の里が仲違いをしているということか。

「そういうことだ。エルフはどんなにダークエルフに恨まれようと気にも留めないが、同胞の蔑みには自然と身体が動いていた。『お里が知れる』なんて言われたら大喧嘩が勃発したもんだ」

レヴンさんは自分が愛した女の話になると嬉しそうだ。

「さあ、処刑場で語るエルフの薬師たちへのプレゼンを考えよう。協力してくれ」

レヴンさんが俺たちに頼んできた。計画し、話し合うだけでも風の妖精が噂を流してくれるのだから、エルフの薬師たちが動いてくれる可能性は高くなる。

話せないことは目で言えばいい。

俺はアイルと視線を合わせた。ベルサとセス、メルモとも。全員頷く。ここまでずっとやってきたんだ。なにを言いたいのかお互い目を見ればわかる。全員の意思が統一された。

俺たちはレヴンさんを処刑させるつもりはない。

3日後、俺たちがウェイストランド東南部のバレイモ畑に薬を散布している間に、レヴンさんは牢馬車に乗せられて、ネヴァープロスパーの近くにある千尋の谷と呼ばれる谷へと連れて行かれた。

古くは戦士たちの処刑場と知られている場所で、レヴンさんはこの3日間、わざわざ冒険者時代の革の鎧を着けて過ごしていた。

「どうせ死ぬなら冒険者として死にたい」

連れて行かれるときにレヴンさんが発した言葉だそうだ。

全てはエルフの薬師たちを引きずり出すため。

千尋の谷までの移動は一日がかり。

俺たちは先回りして、ネヴァープロスパーに向かう。

ウェイストランド東部はすでに隔離され始めていたため、途中で抜け道を作っておくのを忘れない。もしもの時のために、ルージニア連合国からの食料支援が東部へ届くようにだ。

ネヴァープロスパーの町で宿を取ると、すぐにサブイさんが訪ねてきてくれた。

「噂は聞いていますよ。風の勇者の父親を処刑する日、暴動を起こすつもりらしいですね?」

サブイさんが食堂でこっそり話しかけてきた。

「どう噂が伝わってるんですか? そんな暴動なんか起こす気はありませんよ」

「え? 違うんですか? 青い鉱石を探し求めている人族が、風の勇者の父親を拉致して鉱石を風の勇者に要求するつもりだとか。すでにエルフの国境警備隊が千尋の谷に配備されていると聞いていますよ」

噂が、まったく違う伝わり方をしている。

「情報戦に長けているエルフたちだと思って計画を立てたんですけど、これじゃあエルフの薬師たちがやってこない。思っていた以上に風の妖精たちは使えませんね」

俺は頭を抱えた。

実際に町に出てみると、ウェイストランドに入ってきている人族にエルフの商人たちが青い宝石を売りつけようとしていた。

「ラピスラズリにサファイアだ。必要なんだろ?」

「なんで冒険者の俺がそんなものを買わないといけないんだよ!」

人族の冒険者はとっととエルフの商人を軽蔑した目でみながら去っていった。噂とは事実を捻じ曲げながら伝わっていくようだ。

「エルフの商人さん、俺たち人族は薬師たちからしか買わない。残念だったな」

俺は宝石を売っている商人を掴まえて言った。

「なんでだよ! どういうことだ?」

「エルフの薬師たちが勝手に人族との間で購入権という権利書を売りつけていたんだ。俺たちもこれでエルフたちからなんでも買えると思ったんだけど、エルフの薬師の許可がないとダメだって小さく権利書に書いてやがった。ひでぇよな? でも、権利書に書いてあることを破ったら今度は俺たちが衛兵にとっ捕まっちまう。悪いな、文句があるなら同胞の薬師たちに言ってくれ! あ、それから俺たちが欲しいのは胆礬って鉱石だ」

「くそぅ! あの里の奴ら!」

エルフの割に肥えた身体の商人は、こめかみに青筋を立ててどこかへ行ってしまった。

どうせちゃんと伝わらないなら間違った情報を流してしまおう。とにかく黒いバレイモの被害を止めるために必要なのはエルフの薬師と胆礬だ。

今できることといったらこれくらいなものだ。

他の社員たちは千尋の谷に下見に行ったが、やはりエルフの国境警備隊という奴らに絡まれたらしい。

「まぁ、いいんだけど。ダークエルフたちは自分たちの国でエルフが好き勝手にやっているのを誰も止めないんだよな」

「小作人じゃないダークエルフたちもなにも言わないんだ。種族間の上下関係や差別が何百年って続いていたんだろうけど、あの見て見ぬふりはひどい」

アイルとベルサが呆れた様子で語った。

ルージニア連合国との交易も始まったのだから、ダークエルフたちも変わっていくべきだな。

「風の噂で店を潰されることもあるらしいので言えないのかもしれませんよ。私もひどいとは思いましたけど」

「奴隷になって国を出た方が夢があるのかもしれませんね」

メルモもセスも見たことを話した。

マルケスさんとシオセさんはエルフの里がある北を見てなにも言わなかった。自分たちの想い人をエルフの里から連れ出したいのだろう。

アイルが描いた地図を見ながら打ち合わせをして、この日は早々に寝て、翌日に備えた。

早朝、まだ日が昇らぬうちに宿を出て、千尋の谷へと向かう。

荒れ地には南北に流れる細い川が流れており、それが幾年月もの間に地面を削り、100メートルほどの谷を作っている。かつて戦士たちはその谷から飛び降り、飛竜に乗っていたという。いつしか飛竜はいなくなり、戦士たちはフィーホースに乗るようになったとか。今では観光地となっているが、処刑場としても使われることがある。

そう看板に書かれていた。

谷の下の細い川の側には背の低い草が生えている。ベルサとメルモはもしもレヴンさんが落ちてきたときのためにそこで待機。アイルとシオセさんはいつでも助けられるように谷の対岸の岩陰に隠れて待機。セスとマルケスさんと俺は処刑を見に来る人たちを観察しながら人ごみに紛れることに。

早朝にも拘らず、処刑場には人がいた。

屋台の準備を始める者たちだ。さながら祭りのようだ。娯楽に乏しく、黒いバレイモによってすっかり暗い雰囲気となってしまったウェイストランドだが、勇者を拉致して監禁していたという大罪人を処刑することで憂さを晴らしたいという思いもあるのかもしれない。

衛兵の格好をしたエルフたちも眠い目をこすりながら、朝からやっている屋台で飯を買っていた。

日が昇るにつれて続々と人が集まり、昼前に手枷をつけられたレヴンさんがダークエルフの衛兵に連れてこられると、会場のボルテージが一気に高まる。

ダークエルフたちが集まり、処刑場の周囲に柵を作り看板に紙を張り出していた。レヴンさんは太陽が昇りきった正午きっかりに谷底へと突き落とされるという。

食糧難のため、卵や腐った野菜を投げつける者はいなかったが、小石をぶつけようとする者たちはいた。国境警備隊だというエルフたちも石を投げていたので、口の周りから空気を抜いておいた。その後、セスが気絶したエルフを介抱しながら回復薬を売りつけている。

「まさかあの黒いバレイモを食べたのでは? 今回復薬を飲ませなければ全身に黒い斑点が出来て死に至ると言いますが、いかがなさいますか?」

エルフの警備隊仲間がお金を出し合って回復薬を買っていた。

「毎度ありがとうございます。え? 僕が人族の誘拐犯ならわざわざ国境警備隊の方を助けたりしませんよ」

セスはうまいこと切り抜けていた。

時刻は正午間近。

谷底が見える崖の突端に座らされているレヴンさんが側に控えているダークエルフの処刑人を見た。

「ああ、腹が減ったなぁ!」

レヴンさんが見物人にも聞こえるように大声で言った。演説が始まる。

「最後になにか食わせてくれないか? ダメ? なんでダメなんだよ? 大罪人だから?

へっ俺がなにをしたっていうんだ? おい誰か俺の罪を知ってる者はいないか!?」

レヴンさんが見物客に声をかけた。

「そんなの勇者様の拉致監禁に決まってんだろ!」

「バレイモの呪いで何人死んだと思ってるんだ!」

「責任を取れ! お前が死ねばバレイモの呪いも解ける!」

見物人たちから怒号が飛ぶ。

「おおっ、そうかそうか。呪いねぇ。その呪いがかかったバレイモっていうのはこいつのことかい?」

レヴンさんはおもむろに身をよじり、革の鎧の隙間から拳ほどの大きさのバレイモを出して見物人たちに見せつけ、ポーンと上に投げると口でキャッチし飲み込んでしまった。

見物人たちから悲鳴とどよめきが巻き起こる。

「貴様、なにを!」

ダークエルフの処刑人が慌てて、レヴンさんの顔を掴んで吐き出させようとした。処刑する前に死んでもらっては困るのだろう。

「べー、もう食っちまったよ!」

レヴンさんは口を開けて見物人たちになにもないことを見せた。レヴンさんが食べたのは成長剤をかけて大きくした中身がスカスカのバレイモだ。

「あ~! 俺はバレイモと同じ呪いにかかっちまった~!」

レヴンさんがふざけた調子で苦しそうにしている。

「んなわけねぇだろ! いいか? バレイモの呪いなんかない! 黒いバレイモはただのバレイモの病気だ! しかも治る病気さ! エルフの薬師たちが薬を持ってきてくれないだけだ。俺たちは治る病気をずっと呪いと騙されてたんだよ! 見ろ! その証拠に俺に黒い斑点が現れてるか? ピンピンしてる! お陰でいい死に様が見せられそうだよ」

レヴンさんの言葉に見物人たちは絶句。

エルフの警備隊は「嘘をつけ!」と野次を飛ばした。

「嘘なもんか。薬師の里のエルフに聞いてみろ! 黒いバレイモは胆礬っていう鉱石と石灰で治る。俺が今食べたのは治ったバレイモさ。そうじゃなきゃ食わねぇだろ! 呪いってのはただの噂だ」

見物人たちは「治るのか?」「だって呪いって……」と騒然となり始めた。エルフの警備隊や青い宝石を売りに来ていた商人たちも「そうなのか?」とお互いに聞いていた。

「あれ? もしかしてエルフの方々も知らなかったんですかねぇ? まさか森の賢者と言われるエルフがただの野菜の病気を治す方法も知らなかったと!? エルフの薬師たちはその長い寿命の間になにを研究なさっていたんでしょうかぁ?」

レヴンさんはあまりにもわざとらしくエルフたちに向かって嫌味を言うので、俺は下を向いて笑いを噛み殺した。

「知らなかった? そんなはずはない! 本を読み、農家の里と共同研究をしていればわかることだ。エルフの薬師たちがちゃんと仕事さえしていれば我が同胞のダークエルフたちは奴隷になることも、こんなに死ぬことはなかったんだ!」

レヴンさんは大声を張り上げた。

「さて、俺の罪はいくつ残ってる? バレイモの呪いはなかったし、黒いバレイモのせいで大勢死んだのはエルフの薬師の責任だ。俺の罪は風の勇者を拉致監禁したってことだけだな? その罪は認めよう! ただ俺はエルフの友人から預かってそのまま15年育て上げたと思っていた。勇者を立って歩くことさえ出来ない赤子の頃から育て上げたことが罪だというのなら、俺はそれを誇りに死んでいける! さあ、処刑人よ、時間だ!」

太陽は中天。

静まり返る処刑場。

処刑人は躊躇している。上の指示を仰ごうとしているが、誰もレヴンさんの言葉が真実であるかどうか知らない。

「社長、空からなにか来ます」

セスが小声で俺に言った。

「うん、探知スキルで見えている。マルケスさん、その死ねない身体と防御力を貸してください」

「ああ、好きに使ってくれ」

俺たちは柵の近くまで移動した。

「処刑人! お前の仕事はなんだ!? 黒いバレイモは噂を信じ惑わされ、誰かが仕事をサボったせいでこんなにも広がったんだ。お前がお前の仕事をしても俺は恨むことはない! 仕事に誇りを持て!」

レヴンさんがそう言うと、ダークエルフの処刑人はレヴンさんに体当たりをして、崖から突き落とした。

俺は柵を壊し、マルケスさんを小脇に抱えて、駆け抜けながら空飛ぶ箒に乗った。

「セス! レヴンさんを頼む!」

「了解!」

セスは空飛ぶ箒に乗って垂直に下へ向かった。

俺は空を見上げる。そこには緑色の龍に乗った青年が垂直落下してきていた。東洋の絵画で描かれるような美しい龍に向け、マルケスさんを盾にして体当たり。凄まじい轟音がしたが、マルケスさんがうまく衝撃を吸収してくれた。

次の瞬間にはアイルの光魔法が周囲に放たれ、目くらまし。

「父さーーーん!!!」

龍に乗った青年が目をつぶりながら崖の下に向かって叫んだ。やはり風の勇者だったか。

アイルの光魔法が急速にしぼんでいく。空中に静止した龍と青年に向け、シオセさんの弓矢が向けられている。

「なんだ? ブロウ、俺を殺しに来たのか?」

セスに掴まって上がってきたレヴンさんが風の勇者ことブロウに聞いた。

「生きてた!? ……あ、いや、殺すために来たわけではありません。処刑を止めるためにやってまいりました。現在、薬師の里のエルフたちがウェイストランドに胆礬という鉱石を輸送中です! 黒いバレイモの拡大を止めてください」

ブロウの言葉を聞いて、シオセさんが弓矢を下ろした。

「そうか。風の声が届いたか」

レヴンさんがブロウに言った。

「はい、カミーラという薬師の大罪人が『このままではヴァージニア大陸全土に広がる大厄災になる』と里の者たちを脅したようです。里の者たちはハイエルフ様への自首を条件に要求を飲んだと」

「カミーラが自首? 今、カミーラは?」

「それは……世界樹に向かっているところですけど……その青き衣、もしかしてあなたが駆除人!!!?? 風龍、急いで逃げるよ!」

そういうとブロウと龍は北へ向かって逃げていった。

「あー、すみません。レヴンさん、親子の再会を邪魔してしまいました」

「いや、いい。元気な姿を見れた。それよりもやったな。エルフの薬師たちが来るぞ」

「はい。薬師たちを迎えに行きましょう。早く黒いバレイモを終息させないと」

俺たちはそのまま空飛ぶ箒に乗って北上することに。

崖の上から見ている処刑の見物人たちは口を開けたまま、こちらに向かってなにかを叫んでいた。風音でなにを言っているかはわからなかったが、手を叩いたりしているので喜んでいるのかもしれない。

崖の下にいたベルサたちとも合流し、北に向かって飛んでいると、ものすごい速さで地上を駆け抜けるシカの魔物であるグリーンディアの群れが見えた。40頭ほどいるだろうか。グリーンディアの背にはそれぞれ大きな鞄を抱えたエルフが乗っている。

「薬師の皆さんですかぁ?」

地上近くを飛び、グリーンディアと並走しながら乗っているエルフに聞いた。

「そうだ! 青い衣……まさかお前がナオキか!?」

「そうです!」

俺の返事でグリーンディアの群れが停まった。俺の名前はカミーラに聞いたのだろう。

「青い鉱石とは胆礬のことだろう? 持ってきたぞ。黒いバレイモに罹患した畑の場所を教えろ! まったく劣った種族の食い物などどうでもいいのだがな」

青い血管が見えそうなほど白い肌のエルフが上から目線で言ってきた。

「貴様ら!」

レヴンさんがエルフの薬師を殴りかかりそうになっていたが、セスが「まぁまぁ」とうまく止めていた。

「アイル、地図を」

俺はアイルが描いた地図を見せながら、被害状況と、まだ病原菌に侵されていないが被害が出そうなバレイモ畑を教えた。エルフの薬師たちは「見にくいな」と文句を言いながらも方角や畑までの距離をしっかり聞いてきた。ベルサもバレイモの葉っぱを見せてこの植物だと教え、「この粉も一緒に撒いてくれ」と石灰の粉を渡していた。

石灰の粉が入った袋を受け取ったエルフの薬師たちは手分けをして、東部のバレイモ畑へとグリーンディアに乗ってすっ飛んでいった。

「グリーンディアってあんなに速かったんですね?」

メルモがベルサに聞いていた。

「私も初めて知った。薬師だからドーピングでもしてるんじゃないか?」

ベルサはそう言って笑った。

一週間後、黒いバレイモはウェイストランド東部から消えた。