Kuma Kuma Kuma Bear

5 Bear goes to the adventurer's guild

ギルドに着くと冒険者がたくさんいた。

皆、それぞれ剣や杖を持っている。

ゲームの世界にいるようだ。

でも、プレイヤーは一人もいないんだよね。

「朝から結構人が多いわね」

「ランクが低い冒険者は仕事の取り合いになりますから。みんな、良い仕事を取るために早めに来るんです」

なるほど、強い魔物討伐は強くないと倒せない。

弱い魔物の討伐はある程度の冒険者ならできる。

依頼と冒険者の数が合わなければ取り合いになるだろう。

わたしはゲンツさんの所に行くフィナと別れて、むさっくるしい男共がいるギルドの中に入っていく。

中に入ると視線が向けられる。

値踏みをしているのか、女が来たのが珍しいのか、視線が集まる。

ゲームなら男も女も関係なかったが、やはり、女性冒険者は少ないのかな。

辺りを見渡すと、女性冒険者もいるが、7:3で男性の方が多い。

視線を無視して受付の20歳前後のギルド嬢の前に行く。

「初めてなんだけど」

「あ、はい、冒険ギルドに加入ですか?」

「身分証になるってきいたんだけど」

「はい、冒険ギルドカードはどの国でも使えます」

「それじゃ、お願いしてもいいかな」

そうお願いすると、後ろから視線を感じて振り向く。

「おいおい、こんな変な格好した小娘が冒険者だと。冒険者もなめられたもんだな。おまえみたいな小娘がいるから冒険者の質が落ちるんだよ」

テンプレかな?

「わたしは身分証が欲しくて来ただけよ。そんなことを言われる筋合いはないけど」

「それじゃ、なおさらだな。仕事もしない冒険者なんて必要ないな」

「仕事はしないとは言っていない。できることはするわ」

「それが質を落とすって言っているんだよ」

「受付のお姉さん、この人がこんなこと言っているけどそうなの?」

「ギルドでは最低限の資格があれば問題はありません」

「最低限?」

「年齢が十三歳以上、一年以内にランクEに上がること。なれなかった場合、剥奪されます」

「ランクE?」

「ゴブリンやウルフ、低い魔物の討伐ができることになります」

「なら、問題はないよ。ウルフなら倒せるから」

「ぎゃははは、嘘をつくんじゃねえよ。おまえみたいな小娘がウルフを倒せるわけ無いだろう」

「この人のランクは?」

受付嬢に尋ねる。

「ランクDのデボラネさんです」

「後ろで野次を飛ばしている人や、笑っている人も」

「みなさん、ランクD、Eの皆さんになります」

「フッ、この冒険者ギルド、質が低いわね。この程度の人がランクDとか」

「なんだと」

「自分で言ったんじゃない。馬鹿なのアホなの? わたし程度が冒険者になれないなら、わたしに勝てないあなたたちはクズでゴミで生きる価値がないってことでしょう。自分の言った言葉も理解できてないなんて、ああ、ごめんね。ゴブリンだったかしら」

「貴様……死にたいのか」

「面倒くさいわね。ここで試合できるところある?」

ゲーム時代もたまにソロでやっているとこのような馬鹿なやつらに因縁を吹っかけられることが多かった。

だが、引き篭もりプレイヤーはやられっぱなしではない。

時間とお金をかけたキャラで返り討ちにしたものだ。

このような人間は叩き潰さないとGみたいに次から次と増えていくから困りものだ。

「はい、この裏にありますが……」

「それじゃ、あなたたちが勝ったら、わたしは冒険者を諦めてここを立ち去る。あなたたちが負けたら、あなたたちが冒険者を辞めて立ち去るってことでいい?」

「女だからって舐めたことを、貴様に負けたら辞めてやるよ! なあ、おまえたち!」

「おお!」

男の後ろにいる冒険者もニタニタ笑いながら返事をする。

面白がっているな。

「受付のお姉さん今の話、聞いたわよね」

「はい、ですが、謝ったほうが……。デボラネさん、性格は問題はありますが、ランクDであることは間違いありませんから」

これで受付嬢の言質は取った。

忘れたとは言わせない。 

ギルド嬢に案内されて、裏の練習場に向かう。

後ろにはゾロゾロとデボラネを先頭に十五人ほどの冒険者が付いてくる。

「えーと、本当にやるのですか」

「ええ、弱いのに冒険者をしているなんて冒険者の質を落とすものだから。早めに辞めてもらわないといけないでしょう」

「貴様。生きてここから出られると思うなよ」

「つまり、あなたも殺される覚悟があると。弱いやつほど吼えるってよく言うけど本当なのね」

「おい、早く始めろ!」

デボラネが剣を構える。

「あっ……」

武器が無いのを忘れていた。

ヒノキの棒しか持っていない。

「どうした、早く武器を構えろ」

どうしたもんかと周りを見渡すと、フィナがやってくるのが見えた。

なんてタイミングがいい子なの。

「ユナお姉ちゃん!」

騒ぎを聞いて駆けつけてくれたらしい。

かわいいことだ。

「フィナ、ナイフ貸してくれない? あとでちゃんと返すから」

フィナに近寄り、お願いをする。

「ユナお姉ちゃん戦うの?」

「成り行きでね。まあ、大丈夫だから見てて」

フィナからナイフを借りてデボラネの前に行く。

「貴様、そんな武器で戦うのか」

「ゴブリン相手にわたしの武器(ヒノキの棒)を使うほどじゃないわよ」

「殺してやる」

「何度も言いますが、殺しはだめですからね。それじゃ、始めてください」

デボラネが走り出し、大剣を振りかざす。

ワンステップで横に三mほど飛ぶ。クマの靴のスキルのおかげで簡単に間合いを取ることができる。さらに、ワンステップでデボラネの横に入り、黒クマの手で横っ腹を殴り飛ばす。

秘技、クマさんパンチ。

あれ、吹っ飛ばない。顔を歪む程度だ。レベルに差があるのかな?

「貴様……」

クマさんパンチを耐えたデボラネは剣を振りかざす。

おいおい、対人戦で触れるほどの近くにいるのに剣を振りかざすって、どんだけ素人よ。

ゲームの中で対人イベントはたくさんあった。

レベル無制限、武器、魔法、防具なんでもありの無差別級とか、中には運営者の設定で防御力、攻撃力を一定にして戦う対人戦もあった。

レベル、武器や防具に差が無い戦いでは勝負は技術で決まる。

そんな戦いをわたしはしてきた。

力任せで攻撃してくる敵は相手ではない。

振りかざされたデボラネの手首辺りにクマパンチを繰り出す。

上に向けていた力のせいでデボラネの剣は反動でバランスを崩す。その後には喉にナイフを突きつけられているデボラネの姿があった。

「終わりね」

「ふざけるな!」

止まっているわたしのナイフを払い、剣を振りかざそうとする。

ワンステップで後方に下がって避ける。

このクマの靴便利過ぎる。

「受付のお姉さん、今の勝負はわたしの勝ちでしょう」

「ふざけるな! まだ、勝負はついていない」

受付嬢を見るがどうしたらよいかわからず、迷っている。

ちゃんと審判をしてほしいのだけど。

「わかったわ。勝負だけじゃなく、人生を終わらせてあげるから。次はナイフが止まると思わないでね」

そう言うと、男の顔が引きつる。

実力の差がわかっているのだろう。

攻撃はかわされ、スピードも相手の方が速く、クマパンチだってあれがナイフだったら腰に刺さっていたのだから、最後に首にナイフを突きつけられたのは間違いないのだから。

すでに二度、刺されたことになる。

「このナイフがそんなに怖い?」

小さなナイフをぶらつかせる。

「ごめんね。本来、冒険者の資格もない一般の人にこんな物使うなんて、大人げなかったね」

そう言うとナイフを足元に投げつけ、地面に突き刺す。

「これで、怖くないわよ」

クマのてぶくろで、かもん、かもんとやってみる。

「馬鹿にするな!」

馬鹿の猛突進。

ワンステップで横にかわす、でも、剣が追いかけてくる。

さすがに二度同じ避け方ではばれるか。

ワンステップで駄目ならツーステップすればいいこと、駄目なら3つめを飛ぶだけ。

3つステップを踏み、4つ目で死角に入り、5つ目でデボラネに向かう。

顔面にクマパンチが炸裂する。

巨体が倒れる。

右、左、右、左、右、左と顔面を殴りつける。

クマパンチ、クマパンチ、クマパンチ、クマパンチ、クマパンチ、クマパンチ、クマパンチ。

やっぱり、黒クマの方が力があるみたい。

向かって右頬だけ大きく腫れている。

男が動かなくなったのを見てから離れる。男は動かない。白目を剥いて気絶をしている。

「それじゃ、次の相手はだれ?」

見学している冒険者に向かって尋ねる。

誰も来ない。

「いないみたいね。それじゃ、受付のお姉さん、ここにいる冒険者の皆さんの冒険者ギルドの脱退をお願いしますね。実力がないらしいですから」

わたしはにっこりと微笑む。

「それは……」

「だって、みなさん、自分で言ったんですよ。わたしみたいに実力がない奴は冒険者になれない。それって、わたしよりも弱い人は冒険者になれないって意味でしょう。この倒れている男はもちろん、わたしに向かってこない冒険者もそう取られても問題はないでしょう。冒険者ならわたし程度には勝てるはずなんだから」

笑みを浮かべながら周りを見る。

先ほどの戦いを見て勝てると思った冒険者はいないみたいだ。

そもそもデボラネがこの中で一番強かったのだろう。そのデボラネが簡単に負けたのだから、わたしに戦いを挑む馬鹿はいなかった。

「俺は言ってないぞ」

沈黙の中、一人の冒険者が言った。

「俺も言っていない」

さらに一人続く。

「言ったのはデボラネだろ」

「そうだ」

デボラネを切って、自分の身を守るつもりらしい。

「でも、わたし、言いましたよね。あなたたちが勝ったら、わたしは冒険者を諦めてここを立ち去る。あなたたちが負けたら、あなたたちが冒険者を辞めて立ち去るって、そして、その男が『貴様に負けたら辞めてやるよ! なあ、おまえたち』、それにたいして、あなたたちは『おお』と返事をしました。そのときに受付のお姉さんに確認を取りましたよね」

受付嬢を見る。

「はい……」

小さく返事をする。

逃げ場を失った冒険者たちは練習場に入ってくる。

「そこまで言うなら、俺たち全員を倒してからにしな」

「そうだな、俺たちをまとめて相手にしてもらおうか」

一人、二人、三人と出てくる。

どうやら、全員まとめて相手にしないといけないらしい。

でも、デボラネ程度の実力なら平気かな。

戦闘は終わった。

あっけなく終わった。

ステータスを見ていないからなんとも言えないが、デボラネを倒したことでレベルが上がったのだろう。クマステップにはキレが増し、クマパンチの威力が数段上がっていた。

はい、皆さん、クマパンチ一発で倒れました。

「おい、おまえたちなにをやっとる!」

あらゆる筋肉を体に付けた厳つい男が、闘技場に入ってきた。

「おい、ヘレン。どういうことか説明しろ!」

受付嬢に向かって言う。

あの受付の人ヘレンって名らしい。

へレンが一生懸命に説明をしている。

説明が終わると筋肉がこちらを見る。

「おい、そこの変な格好している女!」

「なに?」

「おまえがこれをやったのか?」

「わたしは悪くないわよ。強姦されかけたから対処をしただけよ。もしかして悪いとは言わないわよね」

「基本的に冒険者同士の争いにはギルドは中立だ」

「それじゃ、わたしの味方ってことね」

「なんでそうなるんだ」

「わたしまだ、入会してないから冒険者じゃないわよ。一般市民よ。そんな、一般市民が冒険者に襲われたのだから、それを管理するギルドの責任なんじゃない。まさか、一人の一般市民の女の子より、複数で襲ってきた冒険者の味方ってわけじゃないでしょう」

「そりゃな」

「なら、一般市民のわたしの味方じゃない」

まあ、わたしはこの街の市民ではないけど。

男は頭をポリポリ掻いて、悩んでいる。

「おまえは結局何がしたいんだ」

「ギルドの登録、あとあいつらのギルド抹消かな」

「登録は許可するが、抹消はできないな」

「どうして? 彼らが自分たちに実力が無いから頭を下げて辞めさせてくださいって言っているのに辞めさせないの。冒険者ギルドはそんな自由がないの?」

「なんだ。おまえたち冒険者辞めたいのか!」

倒れているが意識がある冒険者たちに尋ねる。

男たちは曖昧な顔をするだけで答えようとしない。

「言ったわよ。 わたしみたいに実力がない奴は冒険者になれない。わたしみたいな弱い奴に負けるなら、冒険者を辞めてやるって」

「おまえらそんなことを言ったのか」

冒険者の何人かが頷く。

「こいつらが馬鹿なことはわかった」

「そう良かったわ。それじゃ、わたしと彼らの手続きをお願い」

「もう一度聞く、お前たち辞めたいか。返事が無ければ黙ってギルドカード置いていけ」

「「「「「すみませんでした!」」」」」

怪我をした冒険者が頭を下げる。

「こいつらを許してあげてくれないか」

「条件がある」

「いいだろう。言ってみろ」

「今後、わたしがギルドに入っても他の冒険者からちょっかいが掛からないようにしてほしい。面倒ごとが起きたら、ギルドで対処してほしい」

「わかった。おまえと冒険者のトラブルは責任もってギルドがしよう」

「なら、もう、わたしが言うことはないわ」