Kuma Kuma Kuma Bear
31. Bear goes to see Fina's mother sick
本日は休日。
フィナ同様、わたしも休みを取っている。
この1ヶ月でいろんなことが判明した。
まず、スキルはレベルが上がると自動的に覚えるもの。
今、覚えているスキルは6つ。
異世界言語:
異世界の言葉が分かる。(これが無かったらやばかったね)
異世界文字:
異世界の文字を読み書きができる。(これがあるからギルドで仕事ができる)
クマの異次元ボックス:
生きている物以外仕舞うことができる。(検証の結果、無限っぽい)
クマの観察眼:
アイテムや武器の効果を見ることができる。(まあ、普通のゲームなら普通にできることだね)
クマの危険察知:
危険な魔物や盗賊の位置を知ることができる。(魔物の位置がわかるのは便利だね)
クマの地図:
行ったことがある場所の地図を作る。(RPGの基本の自動マッピングシステムだね)
スキルとは別に存在するのが魔法。
魔法はこの世界のルールに則(のっと)っているらしい。
魔法は自分で努力して覚える。
でも、わたしの場合クマのおかげで簡単に魔法が覚えられている。
実際はわたしがクマに魔力を流してクマが魔法を発動させてる。
そのため、わたしはクマがないと魔法は使えない。
この世界では魔法の自由度はイメージ力で補えるらしい。
知識、想像力など。
たとえば、火の魔法ではガスバーナーをイメージすると鉄も溶かす炎が出来上がる。
たぶん、この世界の人にこの魔法を見せてもガスバーナーを知らないから魔法を発動できないだろう。
それに、氷も水の分子の動きを止めるイメージなんてできないだろう。
だから、この世界の人間は氷を作る場合は、氷の魔石を使う。
そして、フィナが倒れたときに気づいたけど。
傷を治す魔法。あれも、イメージに左右される。
傷、皮膚を塞ぐイメージをすると傷を塞ぐことができる。
検証はしていないが、深手を負った場合も血管などの繋ぐイメージなどをすれば治る可能性もある。
さらに、熱を下げる魔法だ。
これはゲームで言えば、毒や麻痺を治す魔法の分類に当たる。
体の中にある病原菌=毒を消すことができる。
この世界とスキルなどを考えていると、玄関が騒がしくなる。
このクマハウスには結界が張られている。
クマハウスを作ったときに自動的に発動した。
わたしが認めた人物しか入れないようになっている。
認めていない者は絶対に家の中に入ることはできない。
現在、入れる許可があるのはフィナだけだ。
一階に行こうと思いドアを開けて廊下に出た瞬間、フィナが飛び込んできた。
「ユナお姉ちゃん!」
何か様子がおかしい。
抱きついているフィナの体が震えている。
「どうしたの?」
フィナを離して見上げる顔を見る。
目を真っ赤にして泣いている。
「ユ、ユナ、おねえちゃん、お、おかあさんが」
「落ち着いて」
「お母さんがくるしんで……薬を飲ましても……駄目で……ゲンツおじさんのところにも行ったけど……薬を探してくるって言って戻ってこなくて…………わ、わたし、どうしたらいいか」
お母さんの状態が危ないらしい。
「うん、わかったから、フィナの家に案内してくれるかな」
もしかすると、毒や麻痺などを治す魔法で治療ができるかもしれない。
フィナと一緒にフィナの家に向かう。
小さな家、ここで3人で暮らしている。
家の中に入ると、フィナのお母さんが寝ている部屋に向かう。
ベッドには苦しんでいる女性が寝ている。
そのベッドのそばに小さな女の子が泣いており、その隣にはゲンツさんが立っている。
「フィナ、それにクマの嬢ちゃんも」
「ゲンツおじさん、薬は?」
「すまない」
一言だけ言って頭を下げる。
フィナのお母さんが苦しみながら手を一生懸命にのばし、娘の頭を力無い手で撫でる。
「ゲンツ、もし、わたしに、何か、あったら、娘たちのこと、お願い」
「なにを言っている。もし、ってなんだ!」
「あなたには、いろいろ、迷惑を、掛けたわね。薬のことも、フィナのことも」
話すたびにフィナの母親は苦しんでいる。
「ありがとうね」
「大丈夫だ、寝ていれば、良くなる。もう、しゃべるな」
「シュリ、フィナ、こっちに来て、最後に顔を見せて」
「「お母さん!」」
二人は母親のベッドに駆け寄る。
「何もしてあげられなくてゴメンね。それと、ありがとうね、シュリ、フィナ」
二人に笑顔を一生懸命に向けるが、その笑顔は苦しみが混じっている。
「ゲンツ、二人のことをお願いね」
「分かったから、もう、しゃべるな。二人のことは俺が面倒をみる。だから、おまえは休め。休んで病気を治せ」
「ゲンツ、ありがとう」
もう、限界なのか、目を瞑って苦しみを耐えている。
ポフポフ。
手を叩いて皆を落ち着かせようとしたが、クマの手ではパンパンとは音は出なかった。
「とりあえず、3人とも落ち着いて」
「お姉ちゃん?」
「できるか、分からないけど、診るからどいて」
フィナは妹の手を引いてベッドから離れる。
妹は泣いて、フィナに抱きついている。
わたしはベッドの横に立ち、フィナの母親を見る。
まだ、20代後半の若い女性だ。
でも、体は痩せ細っている。
あまり、食べ物を食べていないのだろう。
「少し我慢をしてくださいね」
苦しんでいる母親の体の上に両手を乗せる。
魔力を両手のクマに込める。
体全体から悪性のウイルスが無くなるようにイメージをする。
「キュア」
母親の体が光に包まれる。
徐々に母親は苦しい顔から解放されていく。
呼吸も落ち着いていく。
成功かな。
でも、体力がかなり減って衰弱している。
「ヒール」
別の魔法を唱える。
体力を回復させる。
母親の目がゆっくりと開く。
そして、何事も無かったかのようにベッドから起き上がる。
「……苦しくない」
「「お母さん!」」
娘、二人が駆け寄る。
「どうやら、成功したみたいね」
「お嬢ちゃん、何をしたんだ。まるで、上位神官様のようだった。いや、今はそれはいい、お嬢ちゃん、ありがとな」
ゲンツさんは目にうっすらと涙を浮かべてわたしのクマの手を強く握り締めて感謝の言葉をくれた。
「ユナお姉ちゃん、ありがとう」
「その、ありがとうございます。あなたがわたしの病気を治してくれたんですね」
「フィナが泣くからね。でも、しばらくは安静にしてくださいね。まだ、完治したか分からないし、ずっと寝ていたから体力も無いと思いますし」
「そのお礼はどのぐらい支払えばよろしいのでしょうか。見ての通り、わたしには支払える物は何も無いです」
「待ってくれ、俺が支払う。嬢ちゃん、すぐには無理だが、きっと払う。だから、この親子には何もしないでくれ」
何か、わたしが悪役になっている感じがする。
病気を治したのだから、金を払え!払えないなら、娘をもらっていくぞ!
って感じで娘をさらっていく感じの。
これがロリコン主人公なら、
『へっへっへ、支払いなら可愛い娘さんが二人もいるだろう』
とか言うのかな。
だから、誤解を解かないといけない。
「別にお金も何もいらないわよ。わたしはフィナの笑顔を守っただけよ」
そう言ってフィナの頭を撫でる。
わたし、今は良いこと言った。
フィナはわたしの言葉に感激して抱きついてくる。
なんか、罪悪感が……。
「でも、それじゃ」
「そうだ、俺にできることがあれば何でも言ってくれ」
「わたしも元気になったら、何でもします」
なんでも!
言ったね。何でもって。
「それじゃ、二人にしか、お願いできないことをしてもらおうかな」
「……」
「……」
嫌な空気が流れる。
フィナと妹を見る。
「フィナ、妹と一緒に美味しいものを買ってきて、お母さんに栄養が付くものを食べさせてあげて」
クマボックスからお金を出して、フィナに渡す。
「でも……」
「いいから、お母さんは大丈夫だから、行きなさい」
「うん、わかった。シュリ行こう」
妹の手を取って家を出て行く。
二人を見送って改めて、ゲンツさんと母親を見る。
「俺たちに何をさせるつもりだ」
「簡単なことよ。二人とも、結婚してちょうだい」
「……はあ」
「……えっ」
二人の口が開いたまま塞がらない。
「ゲンツさんが、フィナのお母さんのことを好きなのは知っています」
「お、おまえ」
「駄目ですよ。フィナも知っていることです。それにフィナのお母さんも子供たちをゲンツさんに預けられるほど信用しているし、嫌いではないのでしょう」
「……それは」
「それに、あの子たちに苦労を掛けるわけにはいかないでしょう。ゲンツさんはギルドの職員をしているから収入も安定しているだろうし、女3人ではいつまでも安心とは限りません」
「だが、……」
「ゲンツさんはフィナのお母さんのことが嫌いですか? フィナのお母さんはあの子たちの父親としてゲンツさんは駄目ですか?」
「それは……」
ゲンツさんは唾を飲み込む。
そして、フィナのお母さんの方を見る。
「ティルミナ、お、俺と結婚してくれ、昔から、好きだった。ロイには悪いけど、おまえのことが好きだ!」
「……ありがとう」
わたしはそっと部屋の外に出て家を出ようとする。
二人っきりにさせてあげよう。
「どこに行くんだ」
でも、そんなわたしの気持ちを裏切ってくれるおっさん。
「帰るのよ。あとは家族の問題だから」
「そうか、その、ありがとな」
「しっかり、フィナたちの面倒を見てね」
「ああ、任せろ」
「もし、お母さんの容態が悪くなったら呼んでね」
フィナの家を後にしてクマハウスに戻った。