Kuma Kuma Kuma Bear

208 Bear takes a bath with Elf sisters

クマハウスの中に入った二人は部屋をキョロキョロと見ている。

もちろん、二人には靴は脱いでもらっている。

「ユナちゃんは脱がないの?」

「汚れていないから大丈夫です」

クマさんの靴の裏を見せてあげる。

「あら、本当に綺麗ね」

「二人は適当に座っていてください。夕飯の準備をしますから」

「手伝うわよ」

「それなら、わたしも」

「大丈夫だよ。二人は休んでいて」

二人の申し出を断り、食事の準備の前に風呂場に向かうと湯船とタオルの準備をしておく。

寝る前に温まってから寝たいからね。

お風呂の準備を終え、キッチンに戻ってくると、簡単に食事の準備を始める。

夕飯はいつも通りのモリンさんの作ったパンと、アンズが作ったスープだ。あとは適当に野菜を備え付ける。

ご飯でも良かったんだけど、今日は当たり障りのないパンにした。

「美味しい」

「スープも温かくて美味しいです」

「お代わりはあるから言ってね」

「まさか、野宿のはずが家で食事ができるとは思わなかったわ」

サーニャさんは改めて部屋を見渡す。

「雨が降っても、濡れずに休憩ができます」

ルイミンがしみじみと言うので、旅の途中でルイミンが雨に濡れた姿が想像ができてしまう。

「それと見張りもしないでいいんですよね」

ルイミンは少し嬉しそうに言う。

でも、ルイミンの気持ちも分かる。わたしだって夜中の見張りなんてしたくない。

想像しただけで睡魔が襲ってくる。

「家があるとしても見張りは必要でしょう。もしかすると、盗賊が襲ってくる可能性もあるわ」

サーニャさんの返答でルイミンの顔に影が落ちる。

「見張りなら大丈夫だよ。この子たちがいるから」

わたしの足元で丸くなっているくまゆるとくまきゅうを見る。

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃん?」

「この子たちが危険があれば教えてくれるから、見張りは必要ないよ」

自分たちのことを言われたのが分かったのか、くまゆるとくまきゅうは顔を上げて鳴いてみせる。

「くまゆるちゃんたち、凄いです」

「本当に凄いわね」

二人は感心したようにくまゆるたちを見る。

それに対してくまゆるたちも嬉しそうに鳴いてみせる。

「だから、安心して寝てていいよ」

「もしかして、町や村に寄る必要が無いのかしら」

わたしの言葉にサーニャさんはそんなことを言い出し始める。

まあ、寝るのに困らないし、食料もクマボックスに入っているし、お風呂もある。旅に必要?な物は揃っている。

そう考えると、遠回りして町や村に寄る必要は無いかもしれない。

食事を終え、わたしたちは食後の休憩をしている。

ルイミンはくまゆるとくまきゅうと遊んでいる。そんなルイミンをサーニャさんとわたしが見ている。

「それでユナちゃん、わたしたちはどこで寝ればいいのかしら。もちろん、ここでも十分にいいんだけど」

「部屋はあるから大丈夫だよ。でも、その前にお風呂に入ってもらえますか」

「お風呂?」

「もしかして、エルフはお風呂に入らない?」

脳裏に水浴びをするエルフが浮かぶ。

エルフはお風呂に入らない可能性がある。

「入るけど。でもお風呂?」

どうやら、エルフも入るみたいだ。

「良かった。それじゃ、お風呂を用意したから入ってから寝てもらえますか」

「そういうことを聞いているんじゃなくて、この家、お風呂があるの?」

「ありますよ」

わたしは二人を風呂場に案内する。

「タオルはそこのを使ってください。着替えはありますよね。寝るときだけでいいので着替えてくださいね。そのままで寝ると布団が汚れるので」

「布団?」

「寝るには布団が必要ですよね」

わたしが常識を言うと、サーニャさんとルイミンが困っている顔がある。

「ユナちゃん、いいかしら」

「なんですか?」

「非常識過ぎるわ」

常識を言ったら非常識にされた。

おかしい。

「お姉ちゃん。これは王都の常識じゃないよね」

「これは非常識って言うのよ」

凄い言われようだ。

「まあ、疲れを取る意味を兼ねて、ゆっくりとお風呂に入ってください。二人一緒でも入れると思うので」

過去にフィナ、ノアと三人で入ったこともある。

だから、十分な大きさはある。

「二人って、三人でも大丈夫そうね。せっかくだから、話もしたいし、ユナちゃん一緒に入りましょう」

風呂場を覗きながらサーニャさんがそんなことを言い出す。

「わたしは後でも」

「ダメよ。それならわたしたちが後よ。わたしたちはお客様じゃないんだから。逆にユナちゃんの家に泊めてもらってお世話になっているんだから」

「そうです。わたし、ユナさんのお背中を流しますよ」

「別に流さなくていいよ」

ルイミンまでそんなことを言い出す。

わたしは一人で入浴することを説得したが、見事に失敗してしまい三人で一緒に入ることになった。

サーニャさんはさすがエルフと言うべきか綺麗な体をしている。胸はそれほど大きくないが、スラッとしている。くびれが凄い。薄緑色の長い髪が背中に垂れる。大人の女性って感じだ。

ルイミンの体は幼さが残っているが細い。胸の大きさは友達になれそうだ。それにしても、姉妹の体型を見るとエルフは太らない体質なのかな。

漫画やゲームでも太ったエルフは見たことがない。

二人を見ていないで、わたしも着ぐるみを脱いで裸になる。

ルイミンの視線を感じるが無視をする。

「ユナさん、綺麗な髪をしていますね」

「ルイミンの髪も綺麗だよ」

姉妹ということもあって、サーニャさんに似て綺麗な髪をしている。

ルイミンもわたしも裸になり、サーニャさんの方を見ると、手首にしている腕輪を外している姿があった。

腕輪には綺麗な緑色の宝石が付いている。さすが大人の女性と言うべきか、彩飾してありおしゃれな腕輪だ。

「それじゃ、先に行きますね」

裸になったルイミンが風呂場に入る。

その瞬間、サーニャさんがルイミンの腕を掴む。

「ルイミン、待ちなさい」

「なに? お姉ちゃん」

「あなた、腕輪はどうしたの?」

サーニャさんがルイミンに腕輪のことを尋ねた瞬間、顔色が変わった。

「今まで気付かなかったけど。あなた腕輪をしていなかったわね」

「それは……」

ルイミンは言い淀む。

腕輪ってサーニャさんがしていた綺麗な腕輪のことだよね。

「腕輪はどうしたの!」

「お姉ちゃん、痛いよ」

なんか、いきなり険悪な雰囲気になりそうなんだけど。

「よく分からないけど。風呂に入りながらでいいかな?」

さすがに年頃の女の子が裸のまま脱衣場にいたくない。

わたしの言葉を理解してくれたのかサーニャさんはルイミンの腕を離す。

体を洗っている間、サーニャさんは睨むようにルイミンを見て、ルイミンは体を縮こませながら体を洗っている。

う~ん、やっぱり先ほどのサーニャさんがしていた腕輪が関係あるのかな?

綺麗な腕輪だったし。

ルイミンの反応を見ると失くしちゃったのかな。

「ルイミン、いつまで洗っているの。早くこっちに来て説明しなさい」

湯船に来ないルイミンにサーニャさんが声をかける。

ルイミンは怯えながら湯船に入る。

「それじゃ、説明をしてもらえる。あなたが腕輪をしていない理由を」

「……売っちゃいました」

「…………ルイミン! あの腕輪がわたしたちエルフにとってどれだけ大切な物かわかっているの!」

「ごめんなさい」

ルイミンは一生懸命に謝る。

「詳しく、説明をしなさい」

ルイミンの説明によると、王都に向かうのに資金が無くなってしまったそうだ。それで、お金を稼ぐ方法を探していると、冒険者に声をかけられたそうだ。

お金を稼ぐ方法があると言って。

「その方法ってなんなの?」

「貴重な絵を運ぶ仕事でした」

なんでも、その絵を運んでいたら破ってしまったそうだ。

ここまで話を聞いたら、わたしでも分かった。

「弁償するお金がなくて」

「それで手放したのね」

ルイミンは小さく頷く。

膝を抱き、体育座りのように湯船の中に座っている。

サーニャさんはため息を吐く。

「はあ、話は分かったわ。でも、取り戻さないといけないわね」

「でも、お金が」

「そのぐらいのお金はあるわ。お姉ちゃんに任せなさい」

「お姉ちゃん。ごめんなさい」

なんか、いい感じで収まっている。

どうにか険悪なまま旅を続けないですむみたいだ。

一応、一安心かな。

「その腕輪って、そんなに大切な物なの?」

「わたしたちの里では大切な物よ。腕輪には貴重な石が使われているの。その石は成人すると親から贈られるものなの」

大切な物だったみたいだ。

「石は子供が成人するまでに、親が自分の魔力で染めるの」

子供が生まれたら、自分が持っている腕輪に子供の石を取り付ける。そして、子供が成人したらその石で腕輪を作るそうだ。

ちなみに、腕輪でなくてもいいらしい。

首からかけるネックレスや髪留めといろいろとある。

男性は腕輪が多いとのこと。

「親が子の身の安全を願って贈られる大切な物なのに、この子ったら」

「ごめんなさい」

「もう、いいわよ。悪気があって売ったわけじゃなかったのが分かったから。あなたがドジなのを忘れていたわ」

ブクブク。

ルイミンはお湯に顔を半分ほど浸けて、口から息を吐いている。

「でも、黙っていないで、話してほしかったわ」

サーニャさんは優しくルイミンの頭に手を乗せる。

「エルフにとって大切な物ってことは分かったけど。その腕輪はお金になるほど価値があるの?」

エルフにとって価値がある物でも、普通の者には価値がなさそうに聞こえる。

いくら、個人や家族にとって大切な物でも他人にとっては価値が無ければ意味がない。

弁償と言っても高級な絵がいくらするか分からないけど、価値が無ければ売れない。

「腕輪を付けると、装着者は風の加護を受けることができるの」

「風の加護?」

「腕輪を付けることによって、風魔法を強化できるの。だから、知っている者がいれば欲しがる者はいるわ」

なに、そのパワーアップアイテム。

ちょっと、欲しいかも。

でも、現状のクマ装備をパワーアップしても意味がないかな?

今のクマさん装備も強いし、ゲーム時代なら欲しいアイテムだったね。

無事に姉妹は仲直りをして、風呂からあがる。

そして、着替えをどうしようかと悩んだけど。

黒クマのままにしておく。

なにより、二人にいろいろと聞かれるのは面倒そうだ。

そして、髪を乾かすと二人を部屋に案内する。案内する部屋はクリフたちが使った部屋だ。ちゃんと、部屋の掃除とシーツの洗濯はしてある。

男臭さは残っていないはず。

「ベッドがある」

「この部屋を使っていいの?」

「自由に使っていいよ」

二人は部屋の奥に入る。

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんの移動、見張りをしてくれる召喚獣、温かい食事、温かいお風呂、そして温かい布団。どっちが、連れて行ってもらっているのか分からなくなってくるわね」

と言ってもわたし一人ではエルフの里には行けない。

道案内は必要だ。

「魔物が出たらわたしがユナさんを守ります」

拳を突き上げるルイミンを見て、サーニャさんは笑みを浮かべている。

これはルイミンの活躍の場を作ってあげないといけないのかな?