Kuma Kuma Kuma Bear

209 Bears fall in the rain

旅の間は寝坊もできないので、くまゆる、くまきゅう目覚まし時計を設置する。

まあ、夜更かしするゲームもテレビも漫画も小説もないから、早く寝れば問題なく起きられるが、防犯も兼ねるので問題はない。

朝になると、いつも通りに肉球パンチで起こしてもらい、くまゆるたちにお礼を言ってから一階に向かう。

「ユナちゃん、おはよう」

「ユナさん、おはようございます」

下に降りるとサーニャさんたちが椅子に座って待っていた。

「早いですね」

「ルイミンに起こされたからね。あと、ユナちゃんほどの美味しい朝食は無いけど、用意をしたから、食べてもらえる?」

テーブルの上に3人分のパンと飲み物が用意されている。

ありがたく、頂くことにして椅子に座る。

「ちゃんと眠れましたか?」

「ええ、あんなに気持ちいい布団で眠れないわけがないわ」

「はい、布団ふかふかでした」

「干しておいて良かったよ」

わたしはサーニャさんが用意してくれたパンを食べながら話を聞く。

やっぱり、パンはモリンさんが作ったパンの方が美味しい。サーニャさんが用意してくれたパンも不味くはないけど。モリンさんには敵わない。

朝食を終えたわたしたちはエルフの里に向けて出発する。

目指す場所はラルーズの街だ。わたしたちが目指していた街であり、ルイミンが仕事をして絵を破ってしまい、弁償するために腕輪を売ってしまった街でもある。

「う~ん、売ってしまった商人に話を聞く前に、冒険者に話を聞いた方がいいかしら。冒険者が仕事を持ってきたなら、詳しいことを知っているだろうし」

「冒険者の皆さんですか?」

「ええ、その方が商人と話が通りやすいかもしれないからね」

そして、サーニャさんが冒険者について尋ねる。

「女性だけのメンバーで、リーダーはミランダさんです。わたしが冒険者ギルドで困っているところを助けてくれました。そして、お金に困っていると、仕事に誘ってくれたんです。仕事も優しく教えてくれた良い人たちです」

ルイミンは笑顔で冒険者たちのことを話してくれる。

「でも、わたしのミスのせいで、皆さんには迷惑をかけることになって」

「その仕事ってなんだったの?」

絵を破いてしまったことしか聞いていない。

どういう仕事だったかは詳しくは聞く前に部屋に戻ってしまった。

「絵とか壺、宝石、装飾品を扱っているお店の片付けのお仕事でした」

なんでも、力仕事もあるし、丁寧な仕事をしてほしかったから、女性冒険者限定の依頼だったらしい。

ルイミンはその片付けをしているときに絵を破ってしまったそうだ。

う~ん、話だけを聞いていると、冒険者と悪徳商人がグルで騙されて取られたんじゃないかと勘ぐってしまう。

ルイミンの腕輪のことを知っている冒険者が近付いて、安物の絵をルイミンに壊させて弁償させる。よく、漫画や小説の定番だ。

でも、そんな証拠はないし、ルイミンは冒険者のことは信じているみたいだ。

それで、破いてしまった絵の代金の代わりに腕輪を渡してしまったと。

払えない分は体で払えとかじゃなくて良かったけど、サーニャさんの言う通り腕輪に価値があることを知っている者なら、初めから腕輪が目的だった可能性もある。

こんなことを考えるわたしって漫画や小説、ゲームの影響を受けすぎているかな。

「商人の方はどうなの? お金を払えば返してくれそうなの?」

「たぶん、大丈夫かと……」

なら、問題は無いけど。

「でも、価値がある腕輪だから、欲しい人はいると……」

それって、ダメじゃん。

売られているパターンじゃない?

「今は売られていないことを願うしかないわね」

確かに今のわたしたちには願うことぐらいしかできない。あとは少しでも急ぐくらいだ。

最悪、売られたとしても買い戻せればいいんだけど。

もし、断られたら、エレローラさんから貰った紋章付きのナイフが役に立つかな。

印籠的な感じで、返さないとフォシュローゼ家が、的な。でも、こんなことで使って良いのかな?

使えば使うほど、見えない物が溜まっていきそうで恐いけど。

それから数日が過ぎ、順調に進んでいる。

クマハウスのおかげで街や村には寄らず、進んでいる。 

サーニャさんの話では本日中には着くそうだ。

でも、進む先の雲行きが怪しい。向かっている先の雲がどんよりと黒い。

天気予報士でないわたしでも雨が降るってことが分かる。

「くまゆるちゃんたちなら今日には着くと思ったんだけど」

ここまで雨に降られることも無く来れた。だから、一度ぐらい雨が降るのも仕方ない。

さすがに自然にはクマ魔法でも勝てないし、天気を変更する魔法もできない。

「お姉ちゃん、どうするの?」

ポツポツと雨粒が落ち、クマ装備に落ちるが。染み込むことは無く、雨粒は流れ落ちていく。

再度、空を見る。大降りになるのも時間の問題だ。

「ユナちゃん、家をお願いしてもいい?」

サーニャさんはクマハウスで雨宿りすることを提案する。

もちろん、わたしは了承する。

くまゆるたちを雨の中を走らせることはさせたくないし、わたしも走りたくない。

雨が本格的に降り始める前に、クマハウスを出しても目立たないところを探す。

「あそこにしましょう」

少し木々があり、そこにクマハウスを出して避難することにした。

「どうにか間に合ったみたいね」

雨が本格的に降ってくる前にクマハウスに逃げ込むことができた。

2人とも駆け込むときに少しだけ濡れただけみたいだ。わたしはクマさんの装備のおかげで濡れていない。くまゆるたちも大丈夫みたいだ。

「本当に、この家は便利ね」

「普通なら濡れているところです」

「木の下に逃げ込んでも、完全には防げないし、強い風が吹けば、もう無理ね」

「この雨、すぐに止むかな?」

外はすでに大雨状態になっている。

もう少し遅れていたら、ずぶ濡れになっていた。

「あの黒い雲を見れば、無理でしょうね」

わたしは話をしている2人に温かい紅茶を出してあげる。

確かに、あの黒い雲を見る限りだと、今日1日は無理だと思う。翌日に止んでいれば良いところだろう。

サーニャさんは無理に進むことはないと言うので、今日はのんびりとすることにする。

二人は楽しく会話を始めだす。

久しぶりに会ったんだから、積もる話もあるはず。王都にいたときはサーニャさんの仕事のせいで、あまり話せていなかったようだ。ここまで来る間も2人で話している姿はあったけど、少ないよりは多い方がいいだろう。わたしは2人に部屋で休むことを伝えて、くまゆるたちを連れて部屋に向かう。

わたしは部屋に入ると、ベッドにダイブする。そのあとにくまゆるたちも真似をしてベッドに飛び込んでくる。

このまま、くまゆるたちと一緒に昼寝もいいけど。やりたいことがあるのでベッドから起き上がり、椅子に座る。

クマボックスから紙を取り出して、トランプを作る作業を行う。

紙は厚めの物を用意してある。

4つのマークはこの世界に馴染みがある火、水、風、土のマークにする。

問題はジャック、クイーン、キングが悩みどころだった。さすがに国王やクリフの絵柄にしてもつまらないし、あとで問題が起こりそうだから却下する。

あと、思い付く絵柄は「クマ」しかない。

トランプを作ったら孤児院の子供たちやフィナと遊ぶんだから、国王やクリフよりはクマの方が良いだろう。今さら、クマを否定することもない。

そんなわけでキング、クイーン、ジャックの絵柄は二等身キャラのクマにする。

わたしは外が大雨の中、部屋の中でチマチマと絵を描き始める。

キングは王冠を被り、クイーンは女王っぽく描き、ジャックは剣を持たせる。

もちろん、ジョーカーもクマにする。

裏面は白紙のままだけど、印刷ができるようなら、印刷をしたいので、クマの絵柄をサンプルとして作っておく。

集中して描いていたら、いきなり背中に何かがダイブしてくる。

なにかと思って振り向くとくまゆるだった。

「どうしたの?」

くまゆるが返事をする前にドアがノックされていることに気付いた。

「ユナさん、いますか? もしかして、寝ていますか? 開けますよ?」

ドアが開き、ルイミンが入ってくる。

「ルイミン、どうしたの?」

「ユナさん、いるなら返事をしてくださいよ」

「ごめん、作業中で気付かなかった」

机の上に散らばっているトランプを集めて、クマボックスに仕舞う。

「それで、どうしたの?」

再度、尋ねてみる。

「夕飯はどうしますか?」

「えっ! もう、そんな時間?」

外を見ると真っ暗だ。雨雲のせいもあるけど暗い。雨もまだ降り続けている。これは明日の朝まで雨が降るの確定だね。

わたしとルイミンは夕食の準備をするため、下の階に降りる。その後にくまゆるたちが付いてくる。

「ユナちゃん、もしかして寝てた?」

「大丈夫ですよ。起きてましたから。それじゃ、夕飯の用意をしますね」

「いつも、ありがとうね」

この数日は夕飯はわたしが用意して、朝食はサーニャさんたちが用意することになっていた。

わたしは簡単に料理を作り、二人に用意する。

夕飯も食べ終わり、のんびりとしていると、外の様子を見に行っていたサーニャさんが戻ってきた。

「この雨じゃ、明日、出発出来てもラルーズの街でしばらくは足止めになるわね」

「そうなの?」

「話していなかったかしら。ラルーズの街は大きな川があって、隣の国に行くには船を使うのよ。だから、雨が止んだとしても、しばらくは船は動かせないと思うわ」

そんな話は聞いていないよ。

でも、川か。

たしかに雨の後の川は危険だ。流れも速いし、仕方ないかな。

サーニャさんは紅茶を飲みながら、ラルーズの街のことを教えてくれる。

なんでも、ラルーズの街は大きな川、想像だけど、運河があるらしい。その川が国の境になっているとのこと。川の反対側が隣の国、ソルゾナーク国になるらしい。

そのソルゾナークの国に行くには船を使うとのこと。

川の反対側にも街があり、お互いに深い交流があり、大きな街らしい。

話を聞くと、少し楽しみでもある。お互いの国の物が多くありそうな街だ。

中間地点として、クマの転移門を設置したいところだ。

その辺は街に行ってから考えるかな。

最悪、エルフの里に設置できれば良いし。

「ルイミンも船に乗ったの?」

「はい、乗りました。大きいですよ。馬車も何台も乗れるんですよ」

そんなに大きいのか。渡し舟とかじゃなくて、しっかりした大きな船みたいだ。

船は海で乗ったけど。あれは小さかったからね。大きい船は楽しみだ。