Kuma Kuma Kuma Bear

339 The bear sleeps twice

翌日、くまゆる目覚ましと、くまきゅう目覚ましによって起きる。2つも目覚ましがあるから、寝坊することはない。ただ、わたしが起きないと、起こし方がきつくなってくるのはやめてほしいものだ。

初めは優しくペチペチと叩くぐらいだ。それでも起きないと、徐々にペチペチが強くなってくる。それでも起きないと、二人でお腹の上に乗ったりする。最後は顔に覆い被さってくる。なにより、あれは本当に苦しいのでやめてほしい。

今日はくまゆるがお腹にダイブしたところで起き上がることができた。

「くまゆる、くまきゅう、おはよう」

眠い目を擦りながら、起き上がる。今日は冒険者ギルドが始まる前に行って、スコルピオンを渡す予定になっている。

うぅ、まだ眠い。外はまだ薄暗い。こんなに早く起きたのは久しぶりだ。朝が早い人は起きて仕事をしている人もいるかもしれないけど。わたしにはまだ早い。

朝食はどうしようかな?

気分的に早い気がする。わたしはお腹と相談して、冒険者ギルドから戻ってきてから食べることにする。わたしは白クマから黒クマに着替えて、くまゆるとくまきゅうに呼び掛ける。

「それじゃ、行くよ」

「「くぅ~ん」」

クマハウスを出ると、子熊化しているくまゆるとくまきゅうがトコトコとわたしの後を付いてくる。たまに早く起きたときは、小熊化したくまゆるとくまきゅうを連れて散歩することがある。朝なら、人はいないから驚かれることもないし、近寄ってくる者もいない。

そんな散歩を兼ねて冒険者ギルドに向かっていると、顔は知っているけど、名前も知らないお婆ちゃんに挨拶される。わたしも「おはようございます」と返事をする。くまゆるとくまきゅうにも挨拶をするお婆ちゃん。くまゆるとくまきゅうは「くぅ~ん」と鳴いて返事をする。

家の周辺はわたしのことやくまゆるとくまきゅうのことを知っている人は多い。だから、近所を子熊化したくまゆるとくまきゅうと移動するぐらいなら驚かれなくなった。

わたしは小さくアクビをする。朝は気持ち良いけど、眠くて仕方ない。くまゆるを大きくして、背中に乗りたくなってくる。そんなことを考えていると、冒険者ギルドが見えてくる。冒険者ギルドの前にはゲンツさんとフィナの姿がある。

「二人ともおはよう」

「おはようございます」

「ちゃんと、遅刻せずに来たな」

「わたしには起こしてくれるこの子 (クマ)たちがいるからね」

わたしはしゃがむと隣にいるくまゆるとくまきゅうの頭を撫でる。最強の目覚ましだ。

「くまゆる、くまきゅう、おはよう」

フィナも一緒になって、くまゆるとくまきゅうの頭を撫でる。

「和んでいるところを悪いが移動するぞ。お前さんも知られたくないから、こんな時間になったことを忘れるなよ」

そうだった。誰かに見られでもしたら困る。

わたしたちはギルドの裏に回り、裏口から解体を行う倉庫に入る。

「それじゃ、適当に出してくれ」

わたしは昨日の約束通りにクマボックスから、10体ほどのスコルピオンを取り出す。

「懐かしいな」

「そうなんですか?」

「ああ、冒険者のときは何度か解体したことはあるが、ギルドで働くようになってからはあまりない」

「あまりないってことはあるの?」

「たまにな。どこかの冒険者が持ち込むことがある。だから、今回も少しは騒ぎになるかもしれないが、嬢ちゃんが思っているほどは騒ぎにはならないはずだ」

まあ、騒がれてもわたしと知られなければいい。

「それで、甲殻はこっちで引き取っていいんだな」

「いいよ。肉は分けてほしいけど」

ちょっと味見だけはしてみたい。もしかするとエビやカニみたいに美味しいかもしれない。アンズやモリンさんに聞いてなにか料理にできないか聞いてみるのもいいかもしれない。

「わかった。仕事が終わったら、おまえさんの家に持っていく」

「別に取りに来てもいいけど」

「それじゃ、隠れて引き取っている意味がないだろう。おまえさんは、黙っててほしいのか、知られてもいいのか、どっちなんだ?」

それはそうだ。わたしが取りに来たら怪しまれるよね。

「それじゃ、お願いしてもいい?」

「ああ、構わん」

話の結果、スコルピオンの肉は家まで届けてもらうことになった。

「それじゃ、フィナ。他の職員が来るまでに、基本的なことを教えてやるから、見ておくんだぞ」

ゲンツさんはナイフを取り出すと、スコルピオンに近付く。

「うん、お父さん」

フィナはもう普通にゲンツさんのことをお父さんって呼ぶ。ゲンツおじさんって言っていた頃が懐かしい。

「それじゃ、わたし帰るね」

「また、スコルピオンみたいに珍しい魔物を討伐したら、持ってきてくれ」

それなら、スコルピオンの親玉にサンドワーム親玉、さらにワイバーンがある。クマボックスから出して、ゲンツさんの驚く顔も見てみたいけど、騒ぎになっても困るので、自重する。

ゲンツさんとフィナと別れたわたしは、次の予定まで時間があるので一度クマハウスに帰る。

今日はシェリーが働いている裁縫屋に行くことになっている。昨日、冒険者ギルドの帰り道でシェリーに会った。なんでも孤児院でわたしが帰ってきたことを知って、わたしに会いにクマハウスに行く途中だったと言う。それで話を聞くと、水着ができたので見てほしいとのことだった。

そういえば、わたしの水着ってどうなったんだろう?

水着を選んだ記憶がない。無かったら無かったでいいけど。わたしの秘密の体のサイズをシェリーに計られた。シェリーも作ると言っていたから、作っていないことはないと思う。

わたしが描いたイラストの中から作ってくれるなら、基本的に大丈夫だと思うけど。スク水だけは止めてほしい。

今日は自分の水着を確認するのを含めて、シェリーのところに行く予定だ。

でも、お店に向かうにはまだ早い。お店が始まるまで、時間はある。だから、クマハウスに戻って二度寝をする予定だ。さっきから欠伸が出て仕方ない。わたしはクマハウスに戻ってくると、朝食も食べることも忘れて、黒クマの服のままベッドに倒れる。くまゆるとくまきゅうもベッドの上に乗るとわたしの隣で丸くなる。くまゆるを抱き寄せると、すぐに眠気がやってくる。

「…………ちゃん」

なにか、体が揺れている感じがする。

「……起きて」

さらに体が揺れる。

「ユナ姉ちゃん、起きて」

「くまゆる?」

「違うよ~」

「くまきゅう?」

「違うよ~。シュリだよ」

シュリ? わたしが目を開けると、わたしの上にシュリが馬乗りになっていた。

「やっと、おきた~」

わたしが体を起こすとシュリは上から降りてくれる。

「どうして、シュリがここにいるの?」

「母さんの仕事の手伝いが終ったから、冒険者ギルドに行ったの。そしたら、わたしには「すこるぴおん」の解体は早いって、お父さんがやらせてくれなかったの。だから、ユナ姉ちゃんにお願いしようと思って来たら、寝ているから」

いや、シュリには、まだスコルピオンの解体は早いでしょう。そもそもフィナだって早い。ただ、フィナには長年の解体の経験がある。シュリにはそれがない。

「わたしもシュリには早いと思うよ」

「ユナ姉ちゃんまでそんなこと言うの。わたしできるもん」

シュリは小さな口を尖らせる。

「できるかもしれないけど。フィナだって初めて解体するんだよ。だから、シュリが10歳になったときでも、遅くないよ」

それ以前に10歳でも早い。15歳のわたしなんて、冒険者なのに解体なんてできない。そう考えるとわたしより、シュリの方が凄い。

「早く、大人になりたいな」

「そんなに慌てなくてもなれるから、大丈夫だよ」

わたしはシュリの頭の上に手を置く。

「それはそうと、今何時?」

「お昼が過ぎたぐらいだよ」

今、なんとおっしゃいましたか、シュリさん。

「お昼って聞こえたんだけど。聞き間違いだよね」

「お昼過ぎだよ」

おおおおおおっっっっっっっっっっっっっ!

聞き間違いじゃなかった。

どうやら、わたしは帰ってきてから昼過ぎまで寝てしまったみたいだ。シェリーと約束をしているのに。

「くまゆる、くまきゅう、なんで起こしてくれなかったの?」

くまゆるとくまきゅうを見るとベッドの上で遊んでいる。たしかに起こしてとは頼まなかったけど、起こしてくれてもいいじゃない。わたしは軽くくまゆるとくまきゅうを恨めしそうに見つめる。

そんなわたしの気持ちを知らないのか。「くぅ~ん」と鳴いて、首を傾げている。

とりあえず、出掛ける準備をしないといけない。シェリーとは待ち合わせる時間は決めていないけど。待っているはずだ。

「シュリ、起こしてくれてありがとうね」

シュリが起こしてくれなかったら、未だに夢の中だ。

「うん、ドアが開いたから、ユナ姉ちゃんはいると思ったら、寝ているんだもん」

クマハウスはわたしがいないとドアは開くことはない。わたしがいる場合はフィナとシュリの二人は勝手に入ってくることができる。他の人たちはわたしがドアを開けないと入ることはできない。

だから、わたしを起こせるのはフィナとシュリだけになる。

わたしはベッドから降りると、パンをクマボックスから取り出して、口に咥える。そして、飲み込むように食べる。

「ユナ姉ちゃん。行儀が悪いよ」

シュリに注意されてしまった。

「ちょっと、急いでいるから、今日だけだよ」

わたしは言い訳をして、出掛ける準備をする。くまゆるとくまきゅうを送還しようと思ったけど、シュリが抱いている。

「わたし出かけるけど。シュリ、家にいる?」

それなら、遊び相手としてくまゆるとくまきゅうは置いていく。

「ユナ姉ちゃん。どっか行くの?」

「シェリーと会う約束をしているから、裁縫屋さんに行くところ。なんだったら、一緒に来る?」

「いいの?」

「別にいいよ。水着の話を聞くだけだから」

「それじゃ、一緒に行く」

シュリは嬉しそうに返事をする。

わたしはくまゆるとくまきゅうを送還して、シュリを連れてシェリーに会いに行く。