Kuma Kuma Kuma Bear

359 Bear returns from fishing (Day 3)

わたしはフィナから聞いてゲンツさんは魚が釣れていないことを知った。でも、そのことを知らないシュリはゲンツさんに尋ねようとしている。

わたしは心の中で「聞いたらダメ~!」と叫ぶ。そんな、わたしの願いは届くわけもなく。

「どれがお父さんが釣った魚なの?」

シュリは魚が入っている箱を覗き込みながら尋ねてしまう。

「そ、それは……」

ゲンツさんは困った表情をする。ゲンツさんを見ているといたたまれなくなってくる。そこにティルミナさんが微笑みながら近寄ってくる。もしかして、止めを刺すつもり!? ゲンツさんの HP(ライフ)は0だよ。ゲンツさんが可哀想で見ていられなくなる。

「シュリ、お父さんが釣った魚はこれよ」

「これ?」

あれ、ティルミナさんが箱の中に入っている魚を指している姿がある。ティルミナさんの言葉にゲンツさんも驚いている。

「正確にはわたしとお父さんが釣ったのよ。わたしの釣竿に大きな魚が引っかかったんだけど。わたし一人じゃ釣り上げることはできなかったの。そのときにお父さんが助けてくれたの。お父さん、格好良かったわよ」

「ティルミナ……」

「お父さん、凄い!」

シュリは喜ぶとゲンツさんに抱きつく。ゲンツさんはそんなシュリの頭を撫でる。そして、ティルミナさんの方を見ると、ティルミナさんはゲンツさんに微笑み返す。

「優しい、お母さんだね」

「はい!」

その様子を見ていたフィナは嬉しそうに頷く。

どうやら、父親としての面目は保(たも)たれたみたいだ。

港に戻ってくると、すでに他の船も戻っていた。

船が接岸すると待っていたとばかりにノアがやってくる。

「フィナ、シュリ、魚は釣れましたか? わたしは大きなのが釣れましたよ。釣った魚を見せてください」

どうやらノアは、大きな魚が釣れたから、早く見せたいようだ。

「えっと、これがわたしが釣った中で一番大きな魚です」

フィナがくまゆると釣ったと思われる大きさの魚を見せる。その瞬間、ノアの顔付きが変わった。

「うぅ、大きいです。シュリはどれですか?」

「その、寝てたから、釣っていないの」

シュリはわたしとくまきゅうと一緒に寝ていたことを説明する。

「うぅ、それはそれで、負けた気分に」

ノアはさらに落ち込む。

勝負の結果はフィナとくまゆるが釣り上げた魚が一番大きかった。次点でノアとなり、ミサ、シアと続き、寝ていたシュリになる。

「くまゆるちゃんに手伝ってもらうなんて、ズルいです。シュリもユナさんとくまきゅうちゃんと寝るなんて、羨ましいです」

一番になれなかったノアが頬を膨らませながら羨ましがっていると、シアが口を挟む。

「釣りなら、ノアもマリナの手を借りたから、フィナちゃんのことは言えないでしょう」

「それは……、魚が大きくて一人じゃ無理だったんですから、仕方ないです」

「それならフィナちゃんも一緒でしょう」

「うぅ、……はい」

姉のシアに言われては文句が言えなくなる。まあ、釣りは初めての経験だろうから仕方ない。小さい魚ならまだしも、大きな魚は一人じゃ無理だよね。他人の力を借りたとはいえ、釣ったことは凄いことだと思う。

ちなみにミサや他の子たちも漁師さんたちの力を借りたりして、釣ったそうだ。

シアは一人で釣り上げたと言うから、本来の釣り勝負はシアが一番ってことになる。

「今回は負けを認めます。ユナさん、今度はわたしにもくまゆるちゃんを貸してください。そしたら、もっと大きな魚を釣ってみせます」

えっと、それって、くまゆるが釣り上げたことにならないかな?

釣り勝負するなら、自分の力で釣らないといけないような気がするんだけど。10歳の女の子にそれを求めるのは酷ってものかな。

「そのときは公平に一緒の船に乗ったときに貸してあげるよ」

「約束ですよ」

約束はしたけど。釣りをする機会があるか分からない。毎回、漁師の皆さんにお願いするわけにもいかない。そうなると、自分で船を作るか、船に乗らずに釣りをするかの2択になる。昨日、ノアが、岩場で魚釣りをしていた人もいたって言うし、そっちの方が現実的かもしれない。

それから、ミサやシアが釣った魚を見たりしていると、他の子たちも自分たちが釣った魚などを見せてくれる。中には珍しい魚やタコもいた。

「ユナお姉ちゃん。大きなお魚捕れたよ」

「タコさん、気持ちわるかった」

「小さいけど、たくさん捕れたよ」

「ユナお姉ちゃん、見て」

「ユナお姉ちゃん。僕が釣った魚、食べて」

「僕のも」

「わたしのも食べて」

みんな自分が捕った魚をわたしに食べてもらおうとする。みんなの気持ちは嬉しいけど、一人でそんなに食べることはできない。

「えっと、みんな、ありがとうね。今夜、アンズに調理してもらうから、院長先生やリズさんにも食べてもらおうね」

わたしがそう言うと、子供たちは素直に頷いてくれる。全員が釣った魚を食べたら、クマじゃなくて豚になってしまうところだった。

それにいくら引き篭もりでも、これでも15歳の乙女だ。羞恥心は持っている。それでなくても、二の腕とかプニプニしているから、食べ過ぎには注意しないといけない。

わたしは船に乗せてくれた漁師にお礼を言って、クマハウスに戻る。釣った魚はあとで漁師たちが運んでくれるそうだ。本当にお世話になりっぱなしだ。

クマハウスに戻ってくると、子供たちは院長先生のところに報告に向かう。どんな魚を釣ったのか、タコを捕って、気持ち悪かったとか、いろいろと聞こえてくる。院長先生やリズさんにニーフさんは笑顔で子供たちの話を聞いている。

三人を見るとニーフさんも子供たちと仲良くなったと思う。自然にニーフさんに子供が集まっている。でも、やっぱり院長先生の周りが一番子供たちが多い。

しばらくすると、町を探索していたグループも戻ってくる。

すると、釣りをしていたグループの子供たちと同様に院長先生のところに駆け寄っていく。本当に院長先生は人気者だ。どの子も楽しそうに話す。町を見学したグループも楽しんできたみたいだ。

ちなみにわたしのところにやってきて、話をしてくれる子もいた。

そして、子供たちが釣った魚を漁師が運んできてくれたので、アンズに調理を頼み、わたしは食事の前に風呂の準備を整え、先に入らせてもらうことにする。

「そういえば、ユナさん。知っていますか?」

湯船に浸かって、挨拶周りの疲れを癒していると、小熊化したくまゆるを抱いているノアが尋ねてくる。シュリがわたしとくまきゅうと一緒に寝たのを羨ましそうにしていたので、くまゆるの体を洗う名目で出してあげた。一度、送還すれば綺麗になるくまゆるとくまきゅうだけど、二人とも体を洗われるのは好きだから、ノアとミサにはくまゆるとくまきゅうの体を洗うのをお願いした。ただ、二人の洗い方が酷くて、泡だらけになったので、慌てて止めたりした。

「なんでも、何もない海にいきなり島が現れたそうなんです。いきなり島が現れるなんて不思議です」

どうやら、ノアも漁師に謎の島のことを聞いたらしい。

「でも、その島を見てみたいとお願いしましたけど、断られました」

「周囲には渦潮があったりして危険らしいからね。近づこうとした船も沈没したらしいから仕方ないよ」

「でも、島が動くって言っていましたけど。本当に島が動いたりするのかな?」

「浮島もあるから、海流に流されれば動いたりするんじゃない?」

「でも、そんな動く島があるなら行ってみたいです。どうにか行く方法ないかな~」

あるけど、そんなことを言えば、行きたいと言うのは分かっているので、そんなことは言わない。島にどんな危険があるか、分からないからね。

「漁師の人に無理やり頼んだりしたら駄目だよ。ノアはクリモニアの領主の娘で、なんだかんだで影響力はあるんだから」

「そんなことはしません。そんなことをしたら、お父様に叱られます」

頬を膨らませて、わたしの言葉を否定する。

「くまゆるちゃんに乗っていけたらいいのにね」

ノアは湯船の中でまったりしているくまゆるの背中を撫でて、幸せそうにしている。

そして、風呂から上がると、ノアとミサにはくまゆるとくまきゅうをドライヤーで乾かし、ブラシをしてもらった。

「ふわふわになりました」

二人はふわふわになったくまゆるとくまきゅうを嬉しそうに抱きしめる。