Kuma Kuma Kuma Bear

447-Bear meets Sakura

翌日、わたしはサクラ様とこの国の国王に会うために、旅館を出る。

「温泉も気持ち良かったし、料理も美味しかったよ」

わたしは数日お世話になったコノハにお礼を言う。

「そう言って下さると嬉しいです」

コノハが「また、来てくださいね」と言う。今度はフィナと一緒に来たいね。

そして、シノブとジュウベイさんは馬に乗り、わたしはくまきゅうに乗って出発する。

「今日はくまきゅうなんすね」

「まあね」

昨日の夜、くまゆるだけを召喚させ、くまゆるだけを心配したら、くまきゅうがいじけてしまったのだ。

あのときはシノブを置いて行くわけにいかなかったし、くまゆるを召喚したのもくまゆるのほうがシノブのことを知っていると思ったからだ。それにくまゆるが攻撃されたから、心配しただけだ。

でも、くまきゅうにとっては、そのことがのけ者にされたと思ったみたいだ。それで今日はくまきゅうだけを召喚している。

「それにしてもユナは有名人みたいっすね」

「どういうこと?」

「実はユナのことを知っている冒険者から少しだけ話を聞いたっすよ」

この街にわたしのことを知っている冒険者がいるわけがないと思ったが、初めて冒険者ギルドに来たときのことが思い出される。

ブラッディベアーって言葉。1人の男がわたしを見て呟いていた。

「他の大陸から来たって言っていたっす。ユナはそこで魔物を倒したみたいっすね」

もしかして、いろいろと知られている?

そもそも、その冒険者がどこまで知っているかによる。

クリモニアだけなら、タイガーウルフとブラックバイパーぐらいだ。クラーケンは知られていないよね? 大きなスコルピオンは知るよしはないし。

「今、思えばギルドカードを確認させてもらえれば、良かったかもしれないっすね」

その場合でも、ギルドカードの内容は知られたくないから、丁重にお断りしたと思う。いきなり、ギルドカードの内容を見せてほしいと言われても、わたしの性格なら絶対にみせない。それが怪しさ百倍のシノブならなおさらだ。もちろん、他の人に頼まれても見せることはないと思う。

そう考えると、やっぱりわたしの攻略って難しくない?

「そういえば、ジュウベイさん。眼帯をしているのは常時なの?」

ジュウベイさんは眼帯をしている。昨日の様子からすると、目は怪我のためにしてるわけじゃなかった。

「これは自分の修行になるし、相手の実力を計るにもちょうどいいから、基本付けている」

「部下や弟子の実力を測るのに良いらしいっす。だから、部下や弟子の初めの目標は師匠の眼帯を外させるのが目標になるっす。それから師匠の三段突きをかわして、二刀流、魔法って、どんどん強くなっていくっす」

徐々にパワーアップしていくって、どっかの戦闘マンガみたいだ。

「本当は師匠の二刀流まで引き出して、ユナに見せたかったっす」

「でも、わたしの実力をみるなら、ジュウベイさんの戦いをみせたら、意味がないんじゃない?」

「そんなことはないっすよ。ユナが師匠の戦いを見て、逃げ出すようだったら、諦めたっす。人を一人救えない者が、国を救えないって判断基準があったっす。だけど、ユナはわたしを助けてくれたっす」

シノブは嬉しそうにする。

「それに戦いを見せて、対応力も見たかった。嬢ちゃんは見事に対応した」

どうやら、全ての行動が試されていたみたいだ。

それにしても、あのときの口調は小馬鹿にするような言い方だったけど、ジュウベイさんの口調はこっちが本当らしい。役者としての才能もあると思う。

本当に戦闘狂と思ったぐらいだ。

そして、わたしたちはクマと馬を走らせ、昼前にはクリモニアや王都のように高い壁が見えてくる。

「あそこにサクラ様と国王様がいるっす」

あの壁の中に今回の根源である予知夢を使える巫女と国王がいる。

さて、どんな人物なのかな?

「そう言えば、初めに言っておくけど。その巫女様と国王って方が、わたしのことを見て笑ったら、帰るからね」

わたしは釘を刺しておく。

頼むなら、最低限のマナーは守ってほしいものだ。

シノブはチラッとジュウベイさんのほうに視線を向ける。

「国王様には、あとで連絡をいれておくから大丈夫だ」

それって口に出したら駄目じゃない?

しかも、わたしの前で言うって。

「サクラ様は、たぶん、大丈夫っす」

つまり、国王様は笑うような方で、サクラ様は大丈夫ってことか。

そして、門が見えてくる。

「このまま入って大丈夫?」

わたしはくまきゅうに視線を向ける。そうすると2人もくまきゅうを見る。

「どうっすかね?」

「俺がいれば大丈夫だと思うが、騒がれるかもしれないな」

「でも、どっちにしてもユナの格好は目立つっすよ。ユナが街を歩くだけで、注目の的だったっす」

シノブは一緒にジュウベイさんを探していたときのことを言っているみたいだ。

まあ、あのときも住民に見られていたからね。

「それなら、ユナはわたしのハヤテマルに一緒に乗るっすか?」

シノブはハヤテマルの首筋を撫でる。

確かに馬なら、まだ目立たないかな?

わたしがそんなことを考えていると、くまきゅうが寂しそうに「くぅ~ん」と鳴く。

そんなに悲しそうにしないで。

そして、考えた結果。

くまきゅうには小さくなってもらった。

「ユナのクマは小さくなるんっすか!?」

送還させるか、子熊化のことを教えるか、くまきゅうのご機嫌を天秤にかけた結果、子熊化したくまきゅうと一緒にいることにした。

シノブとジュウベイさんは驚いた顔で子熊化したくまきゅうを見ている。

「わたしのくまきゅうは特別なクマだからね」

「もしかして、本当に聖獣っすか?」

神様からもらったから、どちらかと言うと神獣かもしれない。

まあ、どっちにしろ、シノブに話すつもりはない。

わたしはくまきゅうを抱きかかえるとハヤテマルに乗せてもらい、シノブはわたしの後ろに乗る。

馬車には乗ったことはあるけど、馬に乗るのは初めてかもしれない。

わたしたちを乗せたハヤテマルは門に向けて歩き出す。

「ユナ」

「なに?」

「柔らかくて、気持ちいいっす」

シノブがわたしの体に密着してくる。

わたしは後ろに振り向いて、シノブを睨む。

「変なことをしたら、殴るからね」

「………」

「なに、その沈黙は?」

「うぅ、わかったっす。そんなに睨まないでほしいっす。もう、なにもしないっすから」

シノブは残念そうにする。

そして、わたしたちはギルドカードのチェックを受け、門を通る。

もちろん、門番の人に驚かれたように見られたけど、ジュウベイさんと一緒にいたこともあって、声をかけられることも、止められることもなかった。

「ユナ。テッセラにようこそっす」

王都と言うべきか、都(みやこ)って言うべきか、和の国テッセラにやってきた。

流石にエドやキョウトと言う名前ではないらしい。

そして、わたしの視界には京の都って言うべきか、和風の光景が広がる。その先にフローラ様が住んでいる洋風なお城とは違った城が見える。日本の城に近い。

日本の城は元の世界にいたときも中には入ったことがない。小学校では行かなかったし、中学のときは引きこもっていた。1人でお城見学なんて趣味は、持ち合わせていない。テレビやネットで見たことがあるぐらいだ。

「あの城にサクラ様がいるの?」

「いないっす。サクラ様は別の場所にいるっす」

少し残念。お城の中に入ってみたかった。

「でも、国王様はいるっすよ」

まあ、いるよね。それじゃ、国王に会うときは城の中に入れるってことかな?

「それにしても、見られているっすね」

「ああ、見られているな」

シノブとジュウベイさんが周りを見る。

周囲はわたしを見ている。子熊化したくまきゅうではなく。やっぱり、わたしが視線を集めている。

「シノブ。俺は城に報告に行く。おまえはサクラ様のところに案内してさしあげろ」

ジュウベイさんはそう言うと馬の横腹を軽く蹴り、馬は城に向けて走っていく。

「ああ、師匠、ずるいっす!」

シノブの声を無視してジュウベイさんの姿は消えていく。

わたしたちは取り残される。

「報告は必要っすが、あれは逃げたっすね」

つまり、注目の的のわたしと一緒に居たくなかったってこと?

「それじゃ、わたしたちもサクラ様のところに行くっす」

シノブはハヤテマルの横腹を軽く蹴って、サクラ様がいる場所に向かう。

わたしは、ハヤテマルの上から周囲を見渡す。海の近くにあった街より、人も多く建物も多い。

「そんなに珍しいっすか?」

「そうだね。わたしが住んでいる場所と全然違うからね」

元の世界でも、マンションやビル。このような和風建築は近所にはなかった。

「そうなんすね。わたしもいつかはユナが住む大陸に行ってみたいっす」

まあ、どれほど離れているか分からないけど、簡単に行き来はできないね。

そして、わたしたちを乗せたハヤテマルは進む。

「それで、そのサクラ様がいる場所はまだなの?」

徐々に人通りが少なくなってくる。

先ほどから、長い塀の横を歩いている。

「もう、着いてるっすが、入口がこの先っす」

「もしかして、この壁の向こう側?」

「そうっす」

わたしは塀を見上げる。

どうやら、広大な土地の家に住んでいるらしい。

そして、しばらく進むと、この塀の中に入る入口が見えて来る。入口に槍を持った門番が2人立っている。

門番はチラッとわたしを見るがすぐにシノブのほうを見る。

「シノブ殿、お待ちしていました。サクラ様がお待ちです」

「わかったっす。ユナ、ここから歩いて行くっす」

わたしとシノブはハヤテマルから降りる。

「これも予知夢?」

小声でシノブに尋ねる。

わたしたちが来ることを知っていたみたいだ。

「違うっすよ。昨日のうちに連絡をしたっすよ」

シノブはハヤテマルを送還し、門を通る。

門番は不思議そうなものを見るかのようにわたしを見ていたけど、なにも言われずに通ることができた。

門の中に入ると、広い庭園が広がり、歩く先には大きい建物がある。

わたしたちはそのまま建物の中に入る。通路を進み、シノブは一つの襖の前で止まる。

「ここにサクラ様がいるっす」

シノブが襖を開けると、広い畳の部屋の奥に白い巫女装束に包まれた人が座っている。

あれがサクラ様?

よく見ると、小さい。

もしかして、子供?