Kuma Kuma Kuma Bear
474 Fina caring for Shinobu
家にいるとクマフォンが鳴き出しました。
相手はもちろん、ユナお姉ちゃんです。
なんでも、ユナお姉ちゃんの家にある移動できる門の前に気を失った人がいるから、お世話をしてほしいと頼まれました。
わたしは急いで、ユナお姉ちゃんの家に向かいます。
もう、訳が分かりません。
説明をしてもらおうとしましたが、ユナお姉ちゃんの声は慌てているようで、理由を聞くことができませんでした。
わたしはクマさんの形をしたユナお姉ちゃんの家までやってきました。
息を整えて、ドアを開けます。たしか、移動できる扉の前に人がいるって言っていました。
わたしは扉が置かれている部屋に向かいます。ドアを開けると、見たことがない服を着た女の人が床に倒れていました。
わたしは急いで駆け寄ります。
服には血が付いています。しかも左肩部分が酷いです。服に切り裂いた跡があります。
どうしたらいいんですか!
お医者さまを呼びに行く? でもユナお姉ちゃんの家にはユナお姉ちゃんが許可を出した人しか入れないって言っていました。そのような魔法がかかっているって。
誰も呼びに行くことはできません。わたしが見るしかありません。
わたしは深呼吸すると血が付いている左肩の切れている服の部分を捲ります。
服の下から、鉄が編み目のようになっている服がでてきました。こんな重いものを着ているんですか?
わたしはその鉄の編み目の下を見ます。血が出ているはずなのに、どこからも出ていません。
ユナお姉ちゃんの言葉が思い出されます。
服に血は付いているけど、怪我はなく、気を失っているだけと言っていました。
よかったです。お医者様は必要はないみたいです。
でも、気を失っているのは本当です。
とりあえず、この女の人をどうにかしないといけません。
本当はベッドまで運びたいのですが、わたし一人では運ぶことはできません。でも、このままにしておくわけにはいきません。
わたしは部屋を出て、頭の支えになる枕、汚れた顔を拭くため、水が入った桶とタオルを持ってきます。
ユナお姉ちゃん、ちゃんと洗って返しますから、借ります。
わたしは女の人が苦しくないように頭の下に枕をいれます。
女の人は少し苦しそうにしています。
わたしは女の人の服を緩めます。本当はこの鉄の編み目をしたものも取ってあげたいのですが、無理そうです。それにしても、見たことがない服です。どこの国の人なんでしょうか?
服を緩ませると、体のいろいろな箇所に擦り傷や、血や汚れがあります。
わたしは持ってきたタオルを水で濡らすと、顔、腕、手を拭いてあげます。
服はボロボロで血が付いていて驚きましたが、傷が酷くなくてよかったです。あるのは細かい傷ぐらいです。
わたしは体と顔を拭き終わると、毛布をかけます。
いったい、なにがあったのか不安になってきます。ユナお姉ちゃんはこの女の人と一緒だったのでしょうか。この女の人がこんな状態になっているってことは、ユナお姉ちゃんが危険な状態ってことかもしれません。ユナお姉ちゃんが強いってことは知っていますが、女の人の状態を見ると、不安になります。
本当は今すぐにも連絡をしたい。
でも、受けたときのユナお姉ちゃんの慌てた様子と、気を失っている女の人の状態を見ると、簡単に連絡をすることはできません。
もし、何かと戦っていたら、邪魔をすることになります。
「うぅ、サクラ様……」
女の人がうなされています。額に汗が浮かびます。
わたしはタオルを水で濡らして額に乗せます。
ユナお姉ちゃん、大丈夫ですよね。
それから、どうしたらいいか分からないまま時間が過ぎる。
そんなとき、女の人の体が動く。
「うぅ、ここはどこっすか?」
女の人が目を覚ましました。
そして、起き上がろうとする。
「もう少し、寝ていたほうがいいですよ」
わたしが声をかけると、女の人は勢いよく立ち上がって、わたしから距離をとって構える。
凄く速かった。
「えっと、嬢ちゃんは誰っすか?」
女の人はわたしに視線を向けながら部屋を見ています。
「わたしはフィナです。ユナお姉ちゃんに頼まれて、お姉さんを見ていました」
女の人は自分が寝かされていた場所を見ます。毛布に枕に水が入った桶などが用意されている。
「ユナの知り合いっすか?」
「はい」
わたしがそう言うと構えを解いてくれる。
信じてくれたようでよかったです。
「それでユナはどこっすか? ここはどこっすか?」
「ここはユナお姉ちゃんの家です。ユナお姉ちゃんはどこにいるのかわかりません」
「ユナの家?」
う~ん、扉のことを話してもいいのでしょうか?
移動できる扉のことは秘密になっています。
だけど、女の人は扉を見ています。
「この扉は、もしかして、わたしは移動されたっすか?」
「その扉のことを知っているの?」
女の人は頷く。
「ユナとの契約をしているので、詳しいことは言えないっすが、嬢ちゃんもその口ぶりからすると知っているっすか?」
「うん、ユナお姉ちゃんから、連絡があって、扉の前に女の人を寝かしてあるから、見てあげてって、言われて」
わたしの言葉に女の人は思い出したかのように自分の体を触る。
「うぅ、少し痛いっすが、傷がないっす」
女の人は左肩と血に染まった服を見る。
「どうなっているっすか?」
「分からないです。わたしが来たときには、その状態でした」
もしかすると、ユナお姉ちゃんかもしれません。
女の人は血や土で汚れた服を着なおします。
「サクラ様、それにカガリ様、ユナはどうなったか、聞いているっすか?」
「わからないです」
わたしは首を横に振ります。
初めて聞く名前です。
「たしか、フィナと言ったっすね。フィナはこの扉を開けることはできるっすか?」
「できないです」
扉はユナお姉ちゃんしか開けることはできません。
「それじゃ、もう一つ、確認っす。さっき、ユナから連絡があったと言っていたっすよね? それなら、こっちからも連絡ができるってことっすよね? ユナと連絡をとることはできるっすか?」
遠回しに聞いてきます。扉のことを知っているってことはクマフォンのことも知っているのでしょうか?
「それは……」
どうしたらいいのでしょうか?
「お願いするっす。どうか、ユナと連絡をとってほしいっす。自分はすぐに戻らないといけないっす」
女の人は正座をして、床に手をつき、頭を深々と下げる。
「お願いするっす」
「えっ、その、頭を上げてください」
女の人は頭をあげない。
真剣だ。この人には怪我をしていても戻らないといけない理由があるみたいです。
ユナお姉ちゃんも何かあったら、連絡をしてもいいと言ってました。
「わかりました。連絡してみます」
「あ、ありがとうっす」
女の人は一度頭を上げて、もう一度頭を下げる。
「えっと、お名前を聞いてもいいですか?」
「シノブっす」
「それじゃ、シノブさん。水でも飲んで待っていてください」
わたしは、水が入った水差しとコップに、視線をうつす。
「助かるっす」
「わたしはユナお姉ちゃんと話をしてきます。この部屋からでないでください」
どこまで話していいのか、わからないので、部屋から出ないようにお願いをする。
シノブさんは「わかったっす」と言うと水を飲み始める。
よほど喉が乾いていたのか、コップに水を入れると一気に飲む。
わたしは部屋から出て、クマフォンを取り出す。
そして、クマフォンを握ってユナお姉ちゃんを思いながら、魔力を流す。
ユナお姉ちゃん、ユナお姉ちゃん……。
しばらくするとクマフォンから『もしもし?』と聞こえてくる。
ユナお姉ちゃんの声です。
「フィナです」
『フィナ? なにかあったの?』
クマフォンから、明るい、のんきな声が聞こえてきます。
もしかして、忘れている?
「えっと、シノブさんって女の人が目を覚ましました」
『……あっ』
今、「あっ」って言いました。
絶対に忘れていました。
わたしが心配していたのが馬鹿みたいに思えてきます。
でも、何事もなかったようでよかったです。
『それで、シノブは大丈夫?』
「はい、大丈夫みたいです。それでユナお姉ちゃんのところに戻りたいみたいです」
『あ~、うん。わかった。それじゃ、少ししたら扉を開けるから、待ってもらって』
「わかりました」
わたしはクマフォンを仕舞って、シノブさんがいる部屋に戻ります。
「どうだったっすか!?」
わたしが部屋に入って来ると同時に尋ねてくる。
「少ししたら、開けてくれるそうです」
「そうっすか。良かったっす。ユナはなにか言っていたっすか?」
「なにも、言っていなかったです」
シノブさんのことを忘れていたことは黙っておきます。
水差しを見ると、中は空っぽでした。全て飲んでしまったみたいです。
「まだ、時間があるみたいなので、水を持ってきますね」
シノブさんは持ってきた水も飲み干してしまいました。