そして、俺は山の中で目を覚ました。

見回すと周りには鋭く屹立する見事な山々の連なり。

見渡す限りの峰。峰。峰。頂上部分は雪か何かで真っ白になっていて、岩肌とのコントラストがとても美しい。

山と山の間には深い、とにかく深い谷が刻まれ、遥か遠くで透き通るような清水が流れているのが見える。

ああ、空気がとっても美味しい。

ちくしょう!!!

やっぱ夢じゃなかったのかよ!!!

マジでどこだここ!?

なんか風景が全然現実感なくて秘境感ハンパないんですけど!!!

俺はその疑問を解消するために…

目の前であくびをしているゴリラのような大男に優しく問いかけた。

「なあ、校長(クソゴリラ)?」

「なんだ?」

あ、クソゴリラで返事した。いいんだ、それで。

「一体、俺はどこに連れて来られたんだよ?」

「……………山だ」

………………見りゃわかるよ。

そういうことじゃねえんだよ!!!

「そういうことじゃなくてさ、地名とか…そういうのだよ!」

「地名か…そうだな…地名…確か…」

驚いたことにこのゴリラは地名という概念を理解する知能を有しているようだった。いや、そうじゃなきゃ困るけど。

「なんだっけな?たしか…アン…アン……アンデ?…アン…アンダス?…アン………アン………アン………」

このままだとゴリラがバリトンボイスでアンアン繰り返すだけの機械になってしまいそうだったので、俺は助け舟を出すことにする。

「…アンデス山脈?」

「そう、それだ」

「そうか……………………本当にアンデス山脈?」

「それだっつってんだろ」

「……………」

アホか!!!!

ほぼ地球の裏側じゃねえか!!!!

どおりで星空が綺麗なわけだよなァ!!!!

「今、時間は!?何時だ!?」

このままじゃ絶対学校に間に合わねえ!

とにかく、現状把握だ!そして、メリア先生にこの状況を報告しないと!

「学校に連絡しないと!それに、メリア先生に…」

「いや、その必要はねえよ」

ーーえっ?

なんで?

「お前はこれから一週間、学校休んでここで山籠り(・・・)ってことになってっから。メリアの指示だ。」

「…………」

ごめんやっぱ僕ゴリラ語は理解できないんだ。だって、僕…文明人なんだもの。

…いや待て思考を停止させるな今この目の前のクソゴリラはなんて言った!?「メリアの指示」!?

山籠り!?一週間も!?

なんで!?メリア先生ナンデ!?

これは罰か!?罰ゲームか!?

俺が何をしたというのだ!?

俺は何も悪いことは…

……

………まさかあれか?

朝シャワーを借りる際に引き出しの中にあった先生の下着類を思う存分クンカクンカスーハーしたのがバレたとか…?

いや、そんなはずは無い。俺は証拠は何も残していない筈。あれは、完全犯罪であったに違いなーー

「そういや、メリアからの手紙があったな」

………

早く、それを出せよ!!!

◇◇◇

芹澤くん

お父さんは話すのがとても苦手だから、この手紙を渡しておきますね。

今、実は帝変高校が存続の危機に立たされています。

具体的には、政府からの命令で、来週の『春の異能学校対抗戦争』であなたたち帝変高校一年生が勝たなければ、帝変高校は廃校。無くなってしまいます。

そうなると、今集まっている生徒も先生たちもみんな散り散りになってしまうと思います。

中には、学校に通えなくなって、軍に引き取られる子も出てくるかもしれません。

私は、それは絶対に阻止したい。

もし、貴方さえ良ければ…私のそのわがままに付き合ってもらえないでしょうか?

昨日も言った通り、あなたにはとても強くなる余地があるの。それこそ、お父さんと同じぐらいに。

だから今、貴方には出来るだけ強くなって欲しいの。その為に同じ『根源系』のお父さんをコーチにつけたいと思います。

その為、あなたはこれからお父さんと一緒に、お父さんが昔、修行していた場所、多分アンデスの奥地へ行ってもらうことになると思います。

PS.

学校のことは心配しないで。色々うまくやっておくから。

玄野メリア

◇◇◇

「ーーこれから?」

もう来てるよ???

「ーー貴方さえもし良ければ?」

ゴリラからはそんな YES NO 選択肢出なかったけど???

………

これ、こんな地球の裏側に来る前に渡すはずの手紙だったのでは???

俺が手紙を読んでプルプルと肩を震わせていると…

「なんだ?修行、やめんのか?」

クソゴリラは俺に問いかけてきた。

やめる?

何を?

何言ってやがんだこのゴリラは?

「うるせぇ!!!! 修行でも何でもやったらああああ!!!!」

ああ、やってやるよ!!

強くなってやるよ!!!!!

言われるまでもない。

メリア先生の為でもない。

霧島さんの為でもない。

ましてや、この校長(ゴリラ)の為では全然ない。

誰のためでもない…

俺は、俺のー

動き始めた、俺の理想の高校ライフを守るため!!!!!

何が何でもパワーアップしてやるよ!!!!!

その時、ゴリラの背広のポケットから、もう一枚の紙がはらりと落ちて来た。

「おう。そういえばメリアからそんなのも渡されたな。」

何だよそれならちゃんと見せろよ…

まあ、こんな小さな紙切れだしそんなに重要なことは書かれていないだろうけど。

そう思いながら俺はその紙を拾った。

◇◇◇

追伸

本当に、突然のお願いでごめんなさい。

もし、貴方が帰ってきたらちゃんとお詫びさせてね?

貴方が帰ってきたら、したい事なら自由に何でもさせてあげたいと思います。

◇◇◇

……

…………ほう。

………

……………………ほほほう。

…お詫びでしたい事なら何でもさせてくれる、か。

超、重要情報だな。

俺は静かに一つの大きな夢を抱き、このゴリラとの特訓に挑む事になった。

よおし、張り切っちゃうぞお、俺!!!

他ならぬ…

メリア先生のご褒美の為に!!!!!