Kuzu Inou【Ondo wo Kaeru Mono】 no Ore ga Musou suru made
34 Rep Match 1 Akai Tsubasa VS Kurosaki Yuki
先ほどまで選手紹介で騒然としていた会場の興奮が冷めやらぬまま、代表選の第一試合が始まろうとしていた。
帝変高校と鷹聖学園の両代表選手は開始位置につき、広い闘技場内に選手は二人だけで佇んでいる。
ディスプレイには両選手のズームアップ映像がリアルタイムで左右半分ずつに表示されている。
時間が経つにつれ少しずつ場内に静寂が広がり……そして、タイミングを見計らったかのように開戦を告げるアナウンスが鳴り響く。
『『 では、第一試合…帝変高校「赤井ツバサ選手」 対 鷹聖学園「暗崎ユウキ選手」… 代表選、試合(バトル)、開始(スタート)!!! 』』
戦闘開始の合図に、熱気を孕んだ緊張がコロシアム内を支配する。
先に行動を起こしたのは帝変高校の赤井ツバサだった。
「悪ィが…今回はアイツの為でもあるんでな……早めに医務室に運んでやるよ」
そう言うと赤井の両肩から揺らぐ炎が立ち上り…それは上空に対流するように大きくとぐろを巻いていく。
そして、その炎の大渦はだんだんと明るさを増し、一つの灼熱の塊となり始め…赤井の頭上にとある生き物の形を成して行った。
「『火ノ鳥(ヒノトリ)』…」
中学生の頃、そういうのを漫画で読んだ。それでなんとなく、イメージしてみたら出来た。ただそれだけの出鱈目な技。
だが、その炎は闘技場を覆い尽くすほどに大きく広がり、あっという間に巨大な炎の鳥を作り出す。
観客からは悲鳴とも歓声ともつかない声が上がる。
これのとばっちりを食らったら命はないだろうことは誰もが想像がついた。
赤井は右手を空に軽く上げ、頭上に上げた右手を軽く前に振る。
それを合図に上空の巨大な炎の鳥は、意志を持つように羽ばたき始めたかと思うと灼熱の空気と共に暗崎の元へと急加速して行った。
しかし、暗崎の足元からうっすらと伸びていた影が一気に垂直に伸び、一瞬で大きく楕円形に広がる。
その『暗闇』の楕円に『炎ノ鳥』は猛スピードで突っ込み…
ごぷり、と丸呑みされた。
その暗闇は、すぐに無数の棘のような形に姿を変え、赤井に襲いかかろうとする。だが…
「『火ノ壁(ファイアウォール)』」
赤井は自分の周りに強烈な炎を巻き起こし、一瞬で帝変高校側のフィールド全体を覆う。高さ20メートル程の炎の要塞とでも言うべきものが瞬く間に立ち上がる。
しかし影は炎に構わず、赤井に接近していく。
「それ(・・)は焼けねェのか。じゃあ、本体(そっち)だ。『火球(ファイアボール)』ッ!」
赤井は前に突き出した手のひらから直径1メートル級の炎の塊を生み出し、暗崎に向かって放つ。
赤井の最初に放った炎の球が暗崎が飛び退いた後の地面に激突し、地面を抉る。爆風で暗崎の顔を覆っていた長い前髪がまきあげられ、彼の青白い顔が露わになる。
「避けたな………もしかして数は出せねェのか?」
赤井はその一発を放った後、天に右手を突き出し…どんどん同じ大きさの炎の塊を量産し始める。
そうして、ある程度数がたまると、上に突き出した手を暗崎に向けて振り下ろす。
「追加だ」
すると上空に漂っていた数十個の火炎球が、一斉に暗崎に向かい、
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
暗崎ユウキの周辺の地面を破砕し一瞬で削り取る。
周りを深い溝で囲まれ、今の場所から身動きができなくなったのか暗崎はその場に立ち尽くしている。
そして赤井はさらに、
「『火ノ壁(ファイアウォール)』」
帝変高校側フィールドを覆っていた「炎の壁」を闘技場全体にまで押し拡げていく。
結果、闘技場全てが火の海になる。
そこで赤井は暗崎に向かって大声で呼びかけた。
「さっさと降参しろッ!!焼け死ぬぞッ!!」
だが、暗崎は何の返答もしないまま、赤井の炎に呑み込まれる。
そして、その姿はボウッと紙切れのように燃えて……消えた。
暗崎の姿は闘技場のどこにもない。
「チッ!油断したか…どこに行きやがった?」
赤井は舌打ちをしながら辺りを見回す。
「ここだよおおお……『影法師(シャドウ)』」
突然赤井の真下から声がしたかと思うと、出てきた真っ黒な手が、にゅるりと両足を掴む。そして、また足元から何かがひょこりと飛び出す。それは暗崎ユウキの頭だった。
「フヒヒッ!!熱い熱い、地面の中まで焼けてやがるッたまんねえ!!!俺、暑いの苦手なんだよねええええええ!!!」
彼がそう叫ぶと赤井の足を掴んでいる影は……ずぽり。赤井をまるごと地面の影の中に引きずり込んだ。同時に闘技場全体に広がっていた炎が搔き消え、代わりに、暗崎ユウキが地面の影からひょこりと姿を現す。
「フヒヒッ……良いねえ………消えた消えた………これで奴は………」
「………この中、暗くて何にも見えねえじゃねェか。どうなってンだ、コレ?」
だがすぐさま足元の影から伸びた手が暗崎ユウキの足を掴んだ。影から出たその腕は青白い炎に包まれている。
「あッ!!!熱いッ!?放せッ!!放せ放せ放せええええッ!!!!」
今度は、帝変高校の赤井ツバサが暗崎の股の間から顔を出す。
「気ィ遣ってやるのヤメな。終了。『火球(ファイアボール)』」
ボウンッ!!!!!!!
赤井は地中から伸ばした腕から、巨大な火球を作り出して真上に放つ。
火球の直撃を受け、暗崎は上空に勢いよく吹き飛ばされて、宙に放物線を描き、地面に落下して行くが……
「…『影法師(シャドウ)』…」
……どぷり、と地面に描かれた影に呑み込まれる。
その黒い影は地面から山のように立ち上がり、大きな人の姿をなしていく。
「「『 痛イ 痛イタ痛イ痛イ 痛イタイ痛イ痛イタ痛イ痛イタイタイ痛イ痛イ 』」」
重低音と超高音の混じったような不快な音声で、その不気味な人影は言葉を放つ。
そして、ギチギチ奇妙な音を立てながら人影から立ち上がる、無数の触手。
「「『 絶対ニ ゆル ゆルゆル ゆルゆルゆル サなイ 』」」
赤井は影から地面の上に這い出て、その暗闇の化け物を眺める。
「こりゃァ……まずいな……」
赤井の炎による攻撃はあの「影」には効き目が薄い。
相手が本体を隠したままこちらを攻撃できるとなると辛い。
「「『 ゴロ ゴロしデ やル よオオオオオオオオオ 』」」
ドドドドドドドッ!!
狂気を孕んだ声が会場にこだまし、触手の群れが狂ったように地面を抉りつつ、赤井に向かって黒い巨人が猛スピードで突進する。
赤井は不気味な呻き声をあげながら迫り来る巨体を観察する。
「どうも胸のあたりに妙な出っ張りがあるように見えるが……」
見れば、そこにはちょうど人間の大きさ程の出っ張りがある。
「………取り敢えず、行くしかねぇか。『火球(ファイアボール)ッ!!!』」
赤井は両手で足下に大きな火の玉を放ち、その反動で空中に飛び上がった。
そして、暗崎がいると思える「人型の出っ張り」の間近まで迫り…
「『火球(ファイア…)…』」
赤井がその人型に向かって手から火球を生み出そうとしたその時だった。
「 フヒッ それそれえええ それ待ってたよ 」
急に人型の出っ張り部分から暗崎の顔が生えたかと思うと、顔を歪めてニヤリと笑う。
同時に狂ったように波打っていた触手が一斉に赤井に向かい…
バチイイイイイイイイイン!!!!!
巨大な鞭のように赤井の体を跳ね飛ばした。
そして、赤井はそのまま観客席へと体ごと突っ込み…
ドガアアン!!!
観客席の椅子を砕き、血を吐いて動かなくなった。
悲鳴が上がり、騒然となる観客席。
「フヒッ…キレたと思った? ……ざんねええええええん!!!!!フリでしたあああああああ!!!!!!」
暗崎ユウキの勝ち誇ったような絶叫が会場に響き渡り…
『『 試合(ゲーム)、終了(セット)!! 赤井選手、場外接触により失格!!! 代表選第1戦は鷹聖学園、暗崎ユウキ選手の勝利ですッ!!! 』』