Kuzu Inou【Ondo wo Kaeru Mono】 no Ore ga Musou suru made

47 What you want, what you don't want

ちゃぽん。

俺はこの温泉旅館自慢の掛け流しの天然露天風呂に首の上まで浸かり、顎から上をぷかぷかと浮かせたまま……さっきの出来事を思い返していた。

あの後、霧島さんは赤い顔をしたままさーっと逃げるように旅館の中に走っていき、そのまま居なくなってしまった。

あれは、なんだったんだろう。

夢……?

夢にしては、リアルだった。

ちゃんと匂いもしたし、感覚もはっきり覚えている。

何より、彼女に握られた手の感触がまだ残っている。

でも……好敵手(ライバル)って?

ライバルってああいうことするもんなのか……そうか……

そんなこと…………

大 歓 迎 です。

恋人としてって言う訳じゃないから、ちょっと意味不明(アレ)なんだけれど……

だがしかし。俺は今日、ついに一つのステージを登ってしまったのだ。

なんだかこう、全てが…これまでと違った感じに見える。とても、心が穏やかだ。そう、今ならいろんなことが、許せそうな気がする。

そうして、俺が湧き上がる笑みを抑えきれず、一人ニヤニヤしていると…

「よう、芹澤」

感慨に耽りながらお湯に浸かっている俺に、あいつ…植木ヒトシが近づいてくる。いつもの俺なら「馬鹿が感染りますので」と丁重に追い返しているところなのだが…

「なんだい、植木くん」

今の俺は、とても寛大だ。仏様になったような心持ちで目の前のいつものツンツン頭をお湯でしんなりさせた男に語りかけてやる。

そう、俺はもうお前ら下民(どうてい)とは違う階層(ステージ)にいるのだ。憐れみの声の一つでもかけてやらねばならない。

「俺たちが………知らないとでも思ってるのか?」

唐突に、奴の口から不穏なワードが飛び出した。

なんだ、こいつは突然…一体なんのことを……

ハッ!?

…まさか。まさか!!!?

見られたのか!?奴に!?

さっきの霧島さんとのやりとりを。

べっ…べべ別に見られて困るとかじゃないけど。

ちょっと恥ずかしいような…

「この『背教者』め」

さらに奴から不穏なワードが追加される。

なんだ?背教者?

「我ら『おっぱい救世軍(クルセイダーズ)』の教えに背き、敵に大事な機密情報を漏らすとは……」

ああ、なんだそっちか………

て言うか、いつのまにそんな妙な団体出来てたんだよ。

知らねえよ。

入隊した覚えも全くねえよ!!!!!

「即刻処刑ものだぞ?だが………」

気づけば、俺は天然露天風呂の中で数人の男子生徒達に囲まれて居た。

どれも、あの旅館の一室(ブリーフィングルーム)で見た顔だ。

そいつらは、俺の周囲をぐるりと取り囲み…ゆっくりと距離を詰めてくる。

なんだ?俺は何をされるんだ?

そう、俺が身構えていると…

パチパチパチ……

誰かが、拍手をし始めた。そして

パチパチパチ……

パチパチパチパチパチ……

パチパチパチパチ……

パチパチパチパチパチパチパチ……

パチパチパチパチパチ……

パチパチパチ……

不穏な空気のまま、周りの男子生徒全員からまばらな拍手が起こり…

「おめでとう」

「おめでとう、芹澤」

「芹澤くん、おめでとう」

「おめでとう。これは栄誉だ」

「おめでとう。本当におめでとう」

「おめでとうございます」

「おめでとう!」

「おめでとさん…」

…彼らは口々に、祝福の言葉を口にする。

もしや霧島さんとのことを言っているのか、とも思ったが、なんだか空気がおかしい。これは、絶対に違う。これは祝福の言葉などではない。もっと別のことを意図する……何かだ。

これは…どう言う状況だ?

奴らは、何を企んでいる!?

俺が必死に警戒態勢を取ろうとしていると、目の前のモヤシ野郎が口を開く。

「先生!!!用意はいいですか!?」

その馬鹿の声に、湯船の外で腰に白いタオルを巻きつけた変態(御堂スグル)が奴の自慢のサラサラヘアーを搔きあげ、

「フフ…じゃあ、行くよ」

そう言うと、奴は女湯と男湯の間に高くそびえる塀垣に向かって思い切りダッシュし、そのまま壁に足をつけて駆け登る。

その高さ、およそ10メートル。

ダダダダダッ!!!!

奴は塀垣をものすごい勢いで一気に駆け上がったかと思うと、頂上に手をかけ、片手でぶら下がる。

「「「 おおおおおお!!!! 」」」

奴の生身の超技に男供からの大歓声が上がる。

………どうなってんの?その身体能力?

それ異能使ってないよね?マジで忍者かお前は。

「準備…オーケーだよ」

そうして植木は俺にゆっくりと向き直って、不気味な笑顔を顔いっぱいに広げながらこう言った。

「おめでとう、芹澤軍曹。二階級特進だ。あとで感想を聞かせてくれ。」

「し、しまっ…!!!!!!」

俺が奴の意図に気がついたその時だった。

「『成長促進(グロウアップ)』ッ!!!!!」

俺の浸かっているお湯の中…ちょうど尻の下から、突如、直径1メートル(・・・・・・・)はあろうかというごんぶとのモヤシが現れ、それは俺の生まれたままのケツを強打し上空に打ち上げた。

「こ゛は゛あ゛ッ゛!!!?」

そして、俺は空高く打ち上げられ放物線を描き……そのまま落下を始めた。次第に落下速度は増していく。

押し寄せる風圧が俺の髪をハタハタとなびかせ、ついでに俺の大事なところ(ぞうさん)もパタパタペチペチと勢いよくなびかせる。

やばい。これはマジでやばい。

シャレにならないぐらいヤバい。

この全裸で落下してる状態も当然ヤバいけど、もっとヤバいのはこの落下コースだ。

そう……俺は今、「女湯の天然露天風呂」に向かって、ものすごい勢いで落下をしている。あの野郎!?弾道計算した上で打ち上げやがったな!!!?

そして、見る間に俺と女湯との距離は縮まっていく。

このままでは、絶体絶命。

着地してしまえば俺の社会的な死は免れない。

だが…俺は以前、あの馬鹿に闘技場で打ち上げられた屈辱の日以来、ある新技を練習していた。それを今、使う時が来たのだ。

「『点火(イグニッション)』ッ!!!!!」

そう、俺の周りの空気を瞬時に温めて推進力を得る技術。

俺はそれを体全体、下半分に作用させた。

ボウンッッ!!!

軽い衝撃と共に、俺の体が少しずつ持ち上がっていく感覚。

そうして、落下速度は次第に緩くなり、

よし、このまま行けば女湯突入という最悪の事態は避けられる。

俺がそう思い安堵していると、

ヒュン

ヒュンヒュンヒュンヒュン

下から数本の矢が飛んできた。

「敵襲ッ!!総員、警戒態勢をとれッ!!!」

そこには体にバスタオルを巻いて長弓を構える弓野さんが居た。

「ちッ、違うんです!!!これは事故!!いや、ハメられて…!!!」

俺は落下しながら弁明を試みる。

「おかしいと思ったのよ…あなたはあの『三人衆』の一人。あなたがあんな情報をもたらすなんて…あまりにも不自然よッ!!」

三人衆?

なんだ三人衆って。

「最初から…このつもりだったようね!返り討ちにしてやるわ!」

そう言って次々に矢を放ってくる。

俺は必死に『点火(イグニッション)』の風圧の向きを変え、矢を逸らしていく。

軽い矢は簡単に逸れるのだが、その風圧が分散したおかげで上昇圧力が弱まる。

つまり、俺はまた勢いよく落下を始めた。

股間を押さえながら全裸で落下する俺。

眼前に迫る女湯露天風呂。

「きゃあああああ!!!?」

「いやああああああああ!!!」

「へっ、変態!!空から変態がっ!!!」

「……小さいね〜」

もう、互いの顔が良く見える距離だ。

俺はこのままでは女湯の露天風呂のど真ん中に突入する。

温泉の水面に到達するのも時間の問題。

だが、絶対にダメだ。

あそこには絶対に降り立ってはいけない。

そこだけは、絶対に譲れない境界線(デッドライン)なのだ。

「『点火(イグニッション)』ッ!!!!!」

俺は思い切り出力を上げ、『点火(イグニッション)』を再開させる。

すると、

ブボバアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!

俺は強烈な浮力を得て、空中に静止した。

だが、同時にその風圧で女湯のお風呂のお湯が全て弾けるように舞い上がり。

バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!!!!

その中に避難していた女子たちの姿が無惨にも露わになる。

「いやああああああああ!!!」

「何これッ!?」

「きゃあああああ!!!?」

ついでに俺が生み出したその強烈な風圧は、その脇の女子達が手に持って必死に体前面を覆っている被覆物(タオル)を無理やり引き剥がし……

一枚残らず、宙に舞わせた。

「あっ…」

俺は、地上1メートルほどに滞空(ホバリング)しながらコントロールを失い……その場でゆっくり旋回していた。

旋回しながら、眼前に拡がるその驚くべき光景に息を呑む。

そこには輝かしく揺れる、白銀の山々。

見渡す限り、峰、峰、峰。

被覆物(タオル)を引き剥がされ、生まれたままとなった大小様々の見事な連峰がそこには乱舞していたからだ。

俺はあまりの事態に我を忘れ、目を見開き、その動きをじっくり観察してしまう。

たゆんたゆん揺れる弓野さんのお椀と篠崎さんの巨峰。プルンプルンと揺れる、土取さんのロケットミサイル。固く張りがあることが見て取れる、神楽さんのとんがりプリン。春原さんは波打つように上下し、音無さんはささやかに、でもその存在を主張するように揺れていた。

黄泉比良(よもひら)さんは…。

そう、揺れるのも、揺れないのも、たくさん。

そして、その上のお顔には、刺すような侮蔑の眼差しが、たくさん。

いろいろ、たくさんあった。

そうして俺は無言のままゆっくり旋回し…

不意に俺の眼前に

「……せ、芹澤くん?」

霧島さんが、現れた。

彼女も当然、一糸纏わぬ姿。

手で大事なところを隠しているのみ。

……意外と、大きい。

「………………何してるの?」

………

………

………

……………終わった。

何もかもが、終わった。

今、ここで全てが終わったのだ。

よし、行こう。

俺は無言で股間を押さえ、出力を上げて上昇する。

そしてそのまま、天高く浮き上がり…………

蒼穹の雲の世界へと、全裸で旅立って行ったのだった。

◇◇◇

「見直したよ。芹澤くん。望外の戦果だ。」

俺たちは先生方にこってり絞られた後、温泉宿の一室で戦果報告会をしていた。

俺の場合は報告というよりもむしろ尋問に近かったのだが、もう色々と失意のどん底に沈んでいた俺は洗いざらいの情報を吐いた。

もう、なんか、どうでもいい。

全部、終わったのだ。俺の青春も、儚く淡い恋も。

俺は、霧島さんのことを想いながら、うっすらと目に涙を浮かべる。

そんな折、植木ヒトシはうなだれる俺の肩にポンと手を置き、にこやかに言った。

「本作戦の戦果により……二階級特進改め、貴様を『空将』に任ずる!!!喜べ、英雄殿!!」

そうして俺の女子からの好感度は軒並み大暴落し…

逆に男(クソ野郎)どもからは英雄として祭り上げられていくのであった。

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<戦果報告> 極秘 取扱注意

篠崎ユリア 巨峰

弓野ミハル お椀

土取ミユキ ロケットミサイル

春原ユメカ 大きく揺れる

メリア先生

神楽マイ とんがりプリン

霧島カナメ 大きめ

音無サヤカ ささやか

黄泉比良ミリア 有 NEW! RANK UP!

チハヤ先生

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なし 

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