Labyrinth Restaurant

And so the brave men descended into the land of the other world.

私の名前は一ツ橋リサ、日本の某地方都市に住む十五歳の高校一年生です。

実家は洋食屋を営んでいて、私のお祖父ちゃんが五十年くらい前に始めたうちの店は高級なお店ではないけれど地元では結構人気があります。

今でも元気なお祖父ちゃんと口数は少ないけど優しいお父さんが、毎日たくさんのお客さんに料理を作って喜んでもらう姿を見て育った私は、いつしか料理人という仕事に憧れるようになりました。

小学生の頃にお皿洗いやテーブル拭きからお店の手伝いを始め、おイモやタマネギの皮むきといった下拵えを経て、今では簡単な料理なら任せてもらえるようになりました。

まだまだお祖父ちゃんたちには全然及ばないけれども、いつか料理人として一人前になってうちの店を継ぐのが私の夢です。

そんな、ごく普通の女子高生兼料理人見習いだった私の目の前に今何故か”王様”がいました。

立派な口髭をたくわえ、真っ赤なローブと、大きな王冠をかぶったわざとらしいくらい王様らしい王様が、なぜか私に向かって片膝をついて平伏し何やら喋っているのです。

はて、私は学校が終わってこれから帰宅するところだった筈ですが…?

コスプレ? 

それとも何かの劇とかでしょうか?

しかし、私は演劇部ではありませんし、そもそも高校の演劇部が外国人の大人の役者さんを起用したりしないでしょうし。

よく見ると私の足元には何だかキラキラ光る謎の塗料で描かれた変な模様、ファンタジー系のゲームとかで見るような魔法陣らしきものが描かれています。

ついでに今気付きましたが、私の着ている服も学校の制服ではなく、何だかやけにピカピカした金属でできた鎧に変わっています。

これは、もしかしてアレでしょうか?

私も現代の高校生らしくライトノベルやアニメなどの娯楽作品もいくらか嗜んでいます。

それらの作中でよく”何の変哲も無い学生が異世界に召喚されて活躍する”ような話の展開があるのですが、この状況が夢でないとすればまさにその展開そのままのように思えます。

試しに自分の頬をつねってみましたが痛覚は正常のようです、夢でないとするならばつまりそういう事なのでしょう。

ここまで考え事をしていたせいで完全に聞き流していましたが、さっきから目の前で何やら話し続けていた王様(仮)の話はどうやら終わったようです。

王様(仮)は一呼吸おいて、私に問いかけてきました。

「勇者よ、どうか魔王を倒し世界をお救いください」

「あ、はい」

そんな感じで、私一ツ橋リサは勇者リサとして魔王を倒しに行く事が詳細を知らない内に決まっていたのです。

とりあえず、王様(仮)に元の世界に帰る方法を知ってるかどうか聞いてみようと思います。

王様((仮)ではなく本当に王様でした)に聞いた所、元の世界に帰る方法はありました。

しかし、それには魔王を倒す必要があるそうです。

どういうことかと言うと、そもそも勇者の召喚という儀式自体は代々のこの国の王様に受け継がれてきたもののその儀式には発動させる条件があって、魔王がこの世界に出現していないと召喚はできないそうです。

なんでそんな仕様になっているのかと言うと、大昔のこの国の王様にその儀式の方法を教えた女神様が、人々が無闇に勇者を召喚して私欲の為や人間同士の戦争の為に使わないようにそういう発動条件を設けたのだそうです。

同じ理由で勇者が魔王に勝利した時点で自動的に勇者は元の世界の元の時間軸に戻されるそうです。

そしてそもそも何で召喚の儀式をしたのかというと、各国にある神殿の神官たちに魔王が地上に出現したとの神託が下り、それを受けて王様が試しに儀式をやってみたら勇者(私)を召喚できてしまった、つまり逆説的に魔王が地上に現れた事が確定してしまった事になります。

この世界には何百年か前にも魔王が出現したことがあり、その時の被害はそれはもう恐ろしいものだったと言い伝えられているそうです。なんでも当時の人類の人口が半分以下にまで減ったとかどうとか。

ならば王様の必死っぷりも分かろうというものです。

この世界でいくら時間が経っても帰る時には元の世界で時間が経っていないというのは良い情報でした。

とはいえ魔王を倒さなければ帰れない上に、魔王が人類を滅ぼそうとするならばそれをのんびり見ているわけにもいきません。

こうして、私は勇者としてこの世界を救う事を決めたのです。