Labyrinth Restaurant
He's in love with her.
時は流れ季節は変わる。
春が過ぎ、夏が終わり、秋を越え、冬に別れを告げ、また次の春が訪れる。
くるくる、くるくると、まるで馬車の車輪のように。
ぐるぐる、ぐるぐると、まるで絹糸を紡ぐ糸車のように。
平穏な日々は巡り続けました。
変化が起きたのは、そんな巡りを幾つ重ねた頃だったでしょうか?
いいえ、いいえ、何か特別な事件や出来事があったわけではありません。
幾千、幾万ものささやかな幸福の繰り返し。
日々を重ねたその果てに、魔王はふと気付いたのです。
「なるほど、コレがそうだったのか」
彼女(・・)の事を考える時に、いつしか自然と抱くようになったその想い。
この気持ち、この好意こそが恋と呼ばれるものだったのだと、彼は唐突に理解しました。
なんの前触れもなく、とは言えません。
今になって急に湧きでてきたのではありません。
それはきっと、もうずっと前から心の中にあって、しかし察しの悪い彼はなかなか気付かずにいただけなのです。一度気付いてしまえば、これまで自覚せずにいられたのが不思議なほどでした。
いったい、いつから自分は彼女に恋をしていたのだろう?
魔王はそう自問してみましたが、明確な答えは出ません。
いつの間にか、本当に彼自身にも分からぬ間に、以前のそれとは違う意味合いで彼女を好きになっていたのです。
とはいえ、いつから好きになっていたかなんて問いに、さしたる意味はありません。
大切なのは、いま彼が彼女に恋をしているという、単純な一事のみ。
ただそれだけの事に気付くのに随分と時間がかかってしまいましたが、魔王はそこから先は間を置きませんでした。
自身の気持ちを自覚したその日のうちに、彼は彼女を呼び出しました。
そして、最初に告白の返事を先延ばしにしていた事を詫びてから、突然の展開に戸惑う彼女に向けて、心の奥底から湧いてきた飾り気のない言葉を真っ直ぐに伝えたのです。
「僕は、君が好きだ」
魔王(かれ)は彼女に恋をしている。
「――――だから」
だから、らしくもなく少し緊張した面持ちで、彼は続く言葉(のぞみ)を口にしました。
「僕と一緒に生きてください」
そして、その告白を受けた彼女は――――。