Lazy Dungeon Master
Blacksmith Arrival
「おお、ゴゾー! よく呼んでくれた。ロップは元気かね?」
「カンタラ! よく来てくれた、おお、あいつも元気だとも」
ギルド出張所の小屋の中で、髭面のドワーフのオッサン2人が抱き合っていた。
ゴゾーってのはアイアンゴーレムを倒して鉄素材を回収したCランク冒険者だ。
で、カンタラって方は新しくやってきた鍛冶屋だそうな。
魔剣が産出し、アイアンゴーレムが収獲(と)れるこのダンジョン、鍛冶屋からしてみればなかなかの良物件らしく、ゴゾーが知り合いの鍛冶屋を呼んだ。
尚、ゴゾーは最初にアイアンゴーレムを狩ってから、さらに2体のアイアンゴーレムを狩っていた。
おかげでこのダンジョンはアイアンゴーレムが定期的に産出されると判定されたようだ。
それで自信をもって鍛冶屋の知り合いを呼べたわけだな。
「というわけでな、ケーマ。こいつがカンタラだ。よくしてやってくれ」
「アッハイ。……よろしくお願いします?」
「よろしく頼むよケーマ殿」
で、なんで俺がこの2人の再会に立ち会っているんだろう。冒険者としても活動してますアピールのために装備を纏ってニクと一緒にダンジョンから出てきたところで捕まり、ギルドまで連れてこられたのだ。
「……で、なんで俺がここに?」
「ケーマは『踊る人形亭』オーナーの秘書やってて、実質ナンバー2だろ?」
「わしはゴゾーからダンジョン『欲望の洞窟』トップ攻略者のひとりと聞いてるよ」
ようするに俺はこのダンジョン限定で権力者だと、そういうことか。まぁ実際ダンジョンマスターだけど。まさか表の顔役になっているとは……
「つーわけで、少し離れたトコに鍛冶場を作る。いつできるかは分からんが、武器の手入れならすぐできるぞ、ケーマ殿。ああ、そうだ。お近づきの印にその腰に下げてる剣を手入れさせてくれないか、もちろん無料でいい」
「無料でいいのか、ならお願いしようかな」
俺は鞘ごと魔剣ゴーレムブレードを渡す。
「……ん?……これ魔剣か?」
「分かるのか?」
「鍛冶屋だからな。俺もいつか魔剣を自作するのが夢なんだ。このダンジョンでは魔剣が出るとは聞いていたが、早速魔剣を拝めるとは幸先が良い」
「ああ。お察しの通り、このダンジョンで手に入れた剣だ。せっかくだし魔剣の手入れってどういう事をすればいいのか見せてくれないか」
「魔剣も基本は普通の剣と変わらないさ。刀身が水や火でできているとかいうのは全く別物になるがね……うーむ、この剣は特に整備の必要がないな。あまり、どころか全然使ってないんじゃないか?」
……ぐ、バレてしまった。さすが鍛冶屋。剣と対話できるってやつなのかな、ゴーレムだけど。
「俺は魔法使いだからな。本来剣は必要ないんだ」
「そうなのかもったいない。だが、それじゃあ仕方ないな、返すよ。……そっちのちっこいのは?」
「うちの前衛だ。ああ、それじゃ代わりにこっちの剣を手入れしてもらってもいいか?」
「おう、任せてくれ」
俺が言うと、そばで控えていたニクが愛用のゴーレムナイフを渡す。
「……へぇ、こっちも魔剣なのか。しかも良く使われているようだ。一応手入れもされている、いい使い手のようだ」
ニカッと歯を見せてニクに笑いかけるカンタラ。
髭面だし好々爺(こうこうや)って感じがするな、実際の年齢はわからないけど。こう見えてドワーフ的にはただの好青年という可能性がある。
しかしいつの間に手入れとかしてたんだニク。イチカに教わってたのかな。
「それじゃあこっちの手入れをしよう。設備もないから軽くしかできないが」
と、その場で砥石を取り出し、シャッシャッと剣を磨く。軽く振ったり、刃を立てて横から眺めたりして、また砥石で剣を磨く。……それを何度か繰り返した。
カンタラは、剣をじっくりと眺めて満足げに頷く。
「よし、砥(と)ぎはこれで十分だ。それじゃ仕上げに、『活性』……っと、よし。こんなもんか」
「ん? 今の、生活魔法の『活性』か? 土魔法の【シャープ】じゃなくて」
前にイチカに教えてもらったのだが、『活性』は土を気持ち元気にして作物の収穫量が微増するという効果がある生活魔法のはずだ。
【シャープ】はかけてから最初の数回の切れ味が増すという効果がある下級の土魔法。
なので、仕上げとしてかけるなら【シャープ】だと思うのだが。
「ああ。『活性』は大地を元気にする……なら、剣だって元気になるだろ? 元は土なんだから」
……その発想は無かった。確かに鉱物というのは土の中、つまり大地にあるもの。つまり土の一種だ。
まさか魔法の発想で遅れを取るとは……やりおる。
「あと、【シャープ】を使う鍛冶屋は二流だよ、あれは手入れの腕が悪いのをごまかす魔法だ。ウチも鍛冶屋だから頼まれればかけられないことも無いが、あまり好きじゃないな。現地でどうしても火力が欲しいって場合はいい魔法だと思うけど」
「カンタラの『活性』(コレ)はおまじないみたいなもんだと思うけどな。他の鍛冶屋でそういうのやってるの見たことねぇし」
「失礼だなゴゾー、この方法はウチに代々伝わる仕上げなんだ。現にウチの剣は他の鍛冶屋のより切れ味も良いし長持ちするだろうがよ?」
「ハッハッハ、そりゃお前の腕がイイからよ、おまじないの効果があっても微々たるもんさ。つーか、だいたい剣が元気になるってのも良くわからねぇけどな。勝手に走って斬り付けたりするわけじゃねぇし」
「やれやれ、剣は生きてるんだぞ。ゴゾーもドワーフならちゃんと武器に慈しみをもってだな……」
そういえば魔法はイメージで結構効果が変わるんだった。なら、『活性』で剣が元気になると考えていれば本当に元気になるんだろうと考えたほうが良いな。
もしかして、ゴーレムにつかったら回復魔法になるんじゃなかろうか。今度ためしてみよう。
「おっと、話がそれちまった、すまないね。まぁそんなわけだから鍛冶場ができたらよろしく頼むよ。冒険者からの武具が多くなるだろうけど、釘とか食器とか、生活で使う品なんかも作れるからな」
ああ、そうか。鍛冶屋というとゲームのイメージで武器防具しかやってないイメージがあったけど、実際は生活用品も鍛冶屋で作ったりするんだな。
「分かった、何か必要なものがあったら注文させてもらうよ」
「任せとけ。……っつっても、まずは鍛冶場、最低でも鍛冶で使う炉がなきゃ話にならないんだけどな。簡単なのを作る予定だが、だいたい1,2週間はかかるとみてくれ」
ふむ。結構かかるんだな。
「炉は何で作るんだ?」
「うん? 火に強い素材を練りこんだ煉瓦だ。ちょっと前にレッドリザードの鱗と骨が大量に安く手にはいったし、それを使おうと思ってる」
おっと、ファンタジー。そうか、耐熱煉瓦とかそういう感じで作れるんだな。
……そういえば、不死鳥の卵の殻が大量に余ってたな。あれならドラゴンの炎にも耐えられるしかなりいいんじゃないか?
俺は卵の殻1個分を取り出し、カンタラに渡す。
「なら、先払いだ、コレをやろう。熱に強い素材っていうんなら使えるだろ」
「これは卵殻か? 見た所……うん、火属性だな。火属性のモンスターの卵殻はかなりいい素材になる。これなら炉もちゃんとしたものになるだろう。ありがたく受け取っておく」
「ああ、その代わりしっかり頼むぞ。……そうだな、カンタラが魔剣を作ったら、一本くれ」
「おいおいケーマ、卵の殻ひとつで魔剣はボり過ぎじゃねぇか?」
「ハハハ、構わないさ。ケーマ殿にはこれからお世話になるだろうし、作れるようになったら進呈しよう」
カンタラ。なかなか話の分かるやつじゃないか。
卵の殻1個分でどこまでできるかはわからないけど、ぜひ魔剣を自作する目標を叶えてほしいな。