Lazy Dungeon Master
God's Duvet (1)
神の寝具。
そう、神の寝具だ。今回のご褒美のひとつにして俺的にはメイン報酬といえる。
ダンジョンバトルが終了したその夜、打ち上げもそこそこに俺はロクコと2人きりで寝室にやってきていた。
といっても打ち上げ会場からはそれぞれ別々にこっそり抜け出した形だ。壮行会と打ち上げで2日連続のパーティーだ、ロクコが出て行ってもハクさんは特に何も言わなかった。
ロクコがまずちらりと俺に目配せをしてパーティー会場から出て行った。それからしばらくして、俺は目配せの意味にピンときて部屋を抜け出し、ロクコの居るであろう寝室に向かった。
その結果、こうして寝室で合流して2人きりというわけだよ。くっくっく、そこらの鈍感系主人公には到底真似できない、以心伝心のパートナーだからこそなせる業(わざ)よ。
尚、当然ながら卑猥な意図はない。全くこれっぽっちもない。
「き、来たわねケーマ! 待ってたわ」
「ああ。来たぞ」
ロクコは寝間着に着替えていた。俺はその前に跪(ひざまず)く。
そして――
「ってなわけで、神の寝具を、見せてくださいお願いしますッッ!」
「なんという迷いのないドゲザ! そんなことしなくてもいいわよケーマ、ほら、顔あげて。一緒に神の寝具を見ましょ」
「おお……天使か」
「な、なんか神の尖兵に並んでヤバそうなものに例えられたわ?」
あ、ダンジョン側の立場だと天使ってそうか、そうなるのか。神の部下だもんな天使って。……じゃあ何に例えればいいんだろう。
「悪魔?」
「それは違くないかしら」
「女神……とか?」
「な、なにいってんのよケーマっ! 私、そんな崇め奉られるような存在じゃないわっ!」
と、ロクコは満更でもなさそうに顔を赤くしてぱたぱたと手を振る。
女神はいいんだ。覚えとこ。そういやハクさんも白の女神とか言われてるもんな。
「じゃ、神の寝具を見せてくれ……」
「……うん」
いよいよ神の寝具、『神の掛布団』を見れる。緊張する。ドキドキ、と胸の高まりが止まらない。ロクコも俺と同様、父親からのプレゼントを開ける子供のようにワクワクしていることだろう。
ロクコは、リボンでラッピングされた箱――まさしくプレゼントボックスを取り出した。掛け布団が入っているとは思えない大きさだが、【収納】みたいな魔法でこれに入っているのだろう。しゅるり、とロクコの手によりリボンをほどかれる。
そのままロクコは箱の蓋に手をかける。……ごくり、と思わず唾をのむ。
「……えいっ!」
意を決して、かぱっ、と開かれる箱。ピカッと一瞬光ったかと思うと、中から神々しい白い掛布団がでてきて、ロクコの手にふぁさりと掛かった。
「……綺麗だ」
「そう、ね。私もそう思うわ……」
思わず見とれてしまった。
……これが、神の寝具。これが、神の掛布団。
「正直、舐めてた。いや、ほんと……これほどとは」
「……気持ちいいわ。ケーマもほら、触ってみて?」
「いや、まて。先に説明書だ。うっかり触ってこの世に戻れなくなる可能性すらあるぞこの神々しさは。俺はまだ箱にも触らない方が良いか」
「そ、そうね。ケーマの言うとおりだわ。慎重に行きましょ。えーっと、どこかしらー?」
「蓋の裏にあるかも。ちょっとめくってみて」
「うん。これでいい? 布団で、私からは良く見えないわ。見える? ケーマ」
ロクコは手に神の掛布団をもったまま、プレゼントボックスの蓋をひっくり返した。
……あった。手紙だ。
「ああ。見つけた。思った通りの所にあったな」
「ん……これ? ……なんか開くの、怖いわね」
「ロクコが開いてくれないと、見れないぞ」
「わ、分かってるわよ。……ほら、これで見えるでしょ?」
ロクコが説明書を開く。そこには、神の掛布団についての注意事項が書かれていた。
なになに?
「……ロクコ、これは……」
「な、何? どうしたの?」
そこには、手書きで以下の内容が書かれていた。
名称:神の掛布団(ロクコ専用)
効果:とても快適によく眠れます。良い夢が見られるでしょう。
どんなに疲労していても、これを使ってひと眠りすれば体力魔力共に全快します。
寝る前に激しい運動をしても、翌日の仕事に支障が出ることはありません。
千年保証!
(ただし、専用アイテムのため持ち主以外が使用すると天罰が下ります)
※お父さんからの補足※
ロクコ専用アイテムだよ。持ち主以外に使うことはできないから気を付けてね。持ち主以外が使おうとした場合は神すらも真っ青になる天罰が下るからケーマ君は使えないね。
……ただし、これは盗難及び浮気を防止するための機能だから、信頼し合う夫婦(・・)で使用する場合はこの限りじゃないよ。じゃあそういうことで。
うわ、この補足……めっちゃ胡散(うさん)臭い……
じゃあそういうことで、ってなんだよ。
あー、でも確かに地球の神話だと浮気する話とか結構あったっけなー。この世界だと掛布団に浮気防止システムがついてるんだ。それじゃあ浮気できないねー。
……しかし信頼し合う夫婦ならOK、か。うーむ。
「つまり、私とケーマなら問題ないわよね? それとも、ケーマは私の事信じてないの?」
「気になるのはそこじゃなくて、夫婦ってところな。単に浮気防止なだけなら夫婦じゃなくてもよさそうなもんだが」
「あ、そうね。そうだったわ、まだロクコ・ラビリスハートだもんね私。じゃあ今からロクコ・マスダでいい?」
「よくない。それはよくない」
まだ、って、俺の事完全にロックオンしてるなぁ。俺もロクコのこと嫌いじゃないけど、出会ってからまだ1年ちょいだろ? 俺、そんなに生き急いでないよ。
「……そ、そうよね。ちゃんと式を上げたり、集落の長(おさ)に報告したりしないと夫婦として認められないって言うし――あ、ケーマって村長よね?」
「おまち? この場合はハクさんの承認が必要だと思うなぁー俺は」
「んー、でもハク姉様はケーマのこと嫌いじゃないみたいだし、問題ないと思うわよ?」
嘘だぁ。ハクさんに隙を見せたら即刻排除されるに違いない。
と、そこでロクコがぽん、と手を叩いた。
「ならケーマが私になればいいんじゃないかしら」
「ロクコに、なる? ……あっ、【超変身】か」
今日の変身は、あと1回残っている。これでロクコに変身すれば、神の掛布団を使えるのではないか?
……正直、神の掛布団を欺けるのか? というところはあるが、このスキルも神由来ということを考えれば同格。つまり50%。
そして、俺はロクコを信頼してるし、ロクコも俺を信頼している。夫婦ではないが、これでさらに50%。
なんてこった! 合わせて100%の成功率だ! ひゃっほう!
「【超変身】ッ……よし、これで!」
ロクコに変身した俺は、神の掛布団に触れる。なにせ100%、もはや恐れるものは何もない!
……あふぅん、これ、触ってるだけでも腰砕けで寝ちゃいそうだよぉ……!
「ケーマ、自分の顔にそんな表情されると恥ずかしいわよ」
「っ、ごめん、変な顔してたか?」
よだれが垂れてたかもしれん、口を拭う。
「寝てる間に変身が解けたりはしないの?」
「そういうのは無さそうだ。魔力が切れるか自分で解除するまでは大丈夫っぽい」
「そう。じゃ、一緒に寝ましょうかケーマ。万一に備えてその方が良いでしょ?」
「おお、気が回るじゃないか。さすが俺のパートナー」
ロクコが一緒に寝るなら、万一の天罰も半分になる。つまりただでさえ100%の成功率が、倍の200%になるのだ! 200だぞ200。勝ち確定だな。
ロクコが布団に入り、神の掛布団をパラリとめくって俺を呼ぶ。
……そっと、俺はロクコの隣に入った。
神の掛布団の寝心地は、千言万語(せんげんばんご)を費やしても表現し得ないものだった。
強いて言えば、寝起き直後の丁度いい幸せ具合が、最初から最後までずっと続く感じ。
夢見も良く、あまり良く覚えていないのだが、空を飛ぶようなとても気持ちいい夢を見た気がする。