Lazy Dungeon Master
Unidentified Sisters
バイト2人は正体不明。
そして面談の後、少し調べたらとんでもないことが分かった。
「姉の方、1日当たりの入手DP、0かよ……!」
思わずダンッと床を叩くレベルの事実だった。
この1日当たりのDPってのは強さの目安になるんだが、平均的な普通のCランクであれば大体50~70DPくらい。特にスキルを覚えていると高くなりやすい傾向がある。
で、これが0DPっていうのは、俺やロクコ、ハクさんみたいなダンジョンとつながりのある者か、拾った頃のニクみたいに全く戦闘力のない者のどっちかしか見たこと無い。
もっとも、俺の知らない隠蔽スキルの効果とかいうことも考えられる。
妹、ナユタの方は1日当たり85DP。……うん、ゴゾーと同レベルか。錬金術師って言ってたし、スキル色々覚えてるんだろう。ちなみにイチカはスキルを覚えたからか、60DPくらいだったのが75DPに増えてたな。
「いやー気づかなかったわ。さすがケーマね、目の付け所が違うわー」
「目を逸らすな、オイ」
「だ、だってそんな個別のDPなんて見る必要ないじゃないの」
「侵入者の強さを測るのにいい目安になるだろ、見とけよ」
「うー、分かったわよ。今度から気を付けるわ」
それにしても……妹の方はDPがあるのか。ううーん。
いったいどういう条件で0DPになるのか分からないが、警戒は必須だな。特に姉。
「ねぇ、ケーマ。セツナに変身してみたら何か分かるかも。できない?」
「……ほう。じゃあしてみるか、【超変身】」
相手のことを知るには相手になりきるのが一番だ。ということで、俺は【超変身】を使ってバイトの姉の方――セツナに変身する。
おう、胸が重い。ずっしりだ。
そして女に変身すると下半身に違和感が……あるようなないような……んん?
……
ある!? いや、え、ある!!
え、え、なにこれ。どういうことなの。男の娘ってやつか、いや、胸は本物っぽいし……
……
……!?
ええーっと、ちょっと調べたところ、男のアレもあって女のソレもあって、なんというか、うん、なんだろうね。そう、特盛? いや、ふたなりだった。
いったい何者なんだ。いくらハーフだからって性別までハーフとか。【超変身】の不具合だと思いたい……。が、本人を間近で見てその上での【超変身】だ、これが本当に本当というのが現実とみて考えた方が良いだろう。ロクコに変身したときは完全に無かったし。
「もしかして、この世界ではふたなりも珍しくないのか?」
「いや、えーっと……どうなんだろ。たぶんだいぶ珍しいわね」
今まで会ったのはたぶん男女はっきり分かれてたはずだけど、股間までは確認していない。むしろセツナもこうして確認しなければ女だと思っていた。ブルマももっこりしてなかった。というか股間を確認するとか無いもん普通。
……ロクコは女確定。信じられるのはロクコだけ……!?
「大丈夫よ、ニクとイチカ、レイたちも生えてないから」
「お、おう。ありがとう?」
「えと、どういたしまして?」
なんか要るような要らないような情報を聞いてしまった。
とりあえずセツナについて分かったことをまとめる。
・日本語を理解していると思われる
・1日当たり0DP。どこかのダンジョンの関係者か、未知のスキルによるもの?
・ふたなりである
以上。
さて、ますます正体が不明になってしまったぞ。
姉妹というのがもう本当かどうかわからない。むしろ姉でいいのか。……まぁこういうのは心の持ちようだから姉でいいか。ウゾームゾー兄弟だって血のつながりないのに兄弟だもの。ふたなりの姉、アリじゃないか。
しかし、こいつらの目的は何だ? 変身してみてもサッパリわからん。
ロクコに言われて変身したのはいいが、別に相手になりきれるといっても姿だけ。記憶までコピーはできないからな。……Lvが上がると分からないけど。
で、こういう時はどうするべきか。
……とりあえず、注意するようにして様子を見よう。
そう、日本人にありがちな現状維持だ。困った問題は先送り。時間が解決してくれる問題なら手を付けなくていいのがいいよね。
え? 問題が悪化したらどうするかって? がんばれ未来の俺。
「……うーん、まぁとりあえず、警戒しておいてくれ。面談をきっかけに何か動くかもしれん」
「はーい。2人を雇うと決めたのは私だからね、責任は取るわよ」
どう責任を取るのかは知らないが、俺は変身を解いてとりあえず一旦寝ることにした。
部屋に戻ってオフトンに横になり、昼寝剣シエスタ発動!
……スヤァ。俺は10秒で眠りについた。
*
やっぱり気になったので、謎姉妹の様子を直接見に行くことにした。護衛を兼ねてニクも一緒だ。今は受付に妹のナユタが座っている。問題の姉の方は――ああ、マップで見ると部屋で寝てるみたいだな。
俺が行くと、軽く頭を下げて挨拶するナユタ。……本を読んでいたみたいだ。仕事中だが、客が通らない時は暇だものな。
「よう、仕事の調子は?」
「特に言うことは無いわ、順調にいつも通りよ」
「だろうな。何を読んでたんだ?」
「上級の魔法陣集よ。ほら」
と、ナユタが本を開いてこちらに見せる。
魔法陣集、というのは、ポエム集がポエムを集めた本であるように、魔法陣を集めた本のようだ。そこには、見開きでただ魔法陣だけが書かれていた。……時……停止……亜空間、と。ふむ。これは【収納】と似た効果がありそうだ。半分くらい欠けているが。
「ふぅん。これ、解説とかはついてないのか?」
「……あら、村長さん、魔法陣に興味が?」
「いや、ネルネがこういうの好きだからな、読ませたら喜ぶかと」
「ああ、ネルネさんにはもう手持ちの初級と中級のを貸してるわね」
そりゃありがたい。ますます戦略の幅が広がるな。
ちなみに初級なら解析済みの簡単な魔法陣、中級なら発動した時の実際の効果を解説付きらしい。で、上級には発見されたものの発動もしない魔法陣がそのまま書かれているだけ、とのこと。
「ところでこの魔法陣はどういう効果なんだ?」
「そうね。実際は分からないけど、魔法文字から推測するに……ここが『時』、これが『進める』、これが『異なる』だから……分身か何かだと思うのよ」
「ん? ……そうなのか」
ナユタが示したところの文字は、それぞれ『時』『停止』『亜空間』と読めたところだった。内容は間違っているが、それを俺が指摘する必要は無い。
「もっとも、機密保持のために効果がないようにデタラメな文字が書かれていることもあるし、この『進める』とかは欠けた部分の文字によっては真逆の意味になるの。こっちも対象が欠けていて判別できなかったりね」
あ、そういうことなのか。……翻訳機能さん欠けた所も補えるの? 凄いね。
「そうなのか、詳しいんだな」
「本業だもの。さらに言うと、この欠けている箇所を推測するためのヒントが別ページのこっちの魔法陣で、これを当てはめればより多くの部分に説明が――」
ほんの(・・・)30分程で解放された。話長ぇ。しかも初級の錬金術入門書を貸してもらったのだが、うん、読めと? 俺に錬金術師になれと? そして睡眠時間を削ってもっと話そうと。やだぁ。
意外にアグレッシブに話す奴だったよナユタは。名前の意味は「とても長い時間の単位」という意味らしいのだが、それに見合う話の長さだった。
……セツナは「とても短い時間の単位」という意味のようだが、逆に話が早かったりするのか?
と、部屋で寝ていたはずのセツナと廊下でばったり会った。
「あ、村長さんなの。おはよー。お昼過ぎだけど」
「うむ、おはよう。寝起きならそれで問題ないだろう」
ブルマな体操服で廊下を歩いているセツナと遭遇した。ふとももとか色々と目の毒だ。そして股間に目がいきそうになるが、何とかこらえる。ブツがそこにあると分かると気になってしまうな……
「ちょうどよかったの。ねぇ村長さん、今暇? 模擬戦しない? あと村長さんだけなの」
「なぜに、って、あと俺だけって?」
「村にいるCランク以上の冒険者全員と模擬戦してるとこなの。いまのとこ全勝なの。ゴゾーさんにも聞いたんだけど、村長さんたちはこのダンジョンに限ったらCランクなんでしょ? 模擬戦しよ?」
「ニ……クロとしたらいいんじゃないか? 先日もしたんだろ?」
「それなりに強かったからもっかいやってもいいけど、クロ先輩とはもう闘ったし。ここはコンプリートしておきたいの」
そうか、こっちは話じゃなくて手が早いのか。
ちらりとニクを見る。1回負けたようだが、やる気はありそうだ。
……俺も、ちょっと試したいこともあるんだよな。さて、どうするか。