Lazy Dungeon Master

Dungeon Battle Face-to-Face

さて、宿も決まったしダンジョンバトルの打ち合わせだ。

秘密裏に、というわけで俺達は帝都の中央冒険者ギルドに呼び出された。

新たにBランクになった俺への指名依頼をするからという名目であり、間違いというわけでもないのでどこにも不自然なところは無い。

依頼については守秘義務もあるので外部に話さない理由にもなる。

つまり、ダンジョンバトルの打ち合わせをするのに依頼の体(てい)をとるのは最適というわけだ。俺達のパーティー、『踊る人形亭ご一行(仮)』は、フルメンバーで冒険者ギルドの扉をくぐった。そのままギルドにある打ち合わせ用の部屋へ進む。

「おっすケーマさん! お久しぶりですね!」

そして、冒険者ギルドからの呼び出しということは、つまりミーシャからの呼び出しという扱いになるわけだ。

「ようミーシャ。今日は寝てないんだな」

「さっき起こされましてにゃー、たはは」

「それでこそミーシャだ」

ハイタッチして握手。俺とミーシャはまるで親友同士のように挨拶を交わした。おー心の友よー。

「ハクさんは?」

「あ、もう少ししたら来ると思いますよー。でも今回の依頼人についてはもう来てますんで、話始めちゃいます?」

「……依頼人、ウサギ型コアなんだよな?」

「ウサギ型コアですが何か?」

「人化とかしてるのか?」

「してませんなぁ」

「じゃあつまり、ウサギってことだよな」

「よだれズビッ、ですなぁ」

「いや依頼人食べちゃダメだろ。……喋れるのか?」

「あ、そこはご安心を。ちゃんと喋るウサギですからー」

喋るんだな、ウサギ。あ、でも蛇やカエル、ナメクジも喋ってたもんな。そこは心配する必要無かったか。

しかしウサギがどうやってハクさんに助けを求めにこれたんだろうと気になるところ。

「まぁ連れてきますねー」

といってミーシャは部屋を出て、すぐに戻ってきた。鳥篭に入ったオレンジ色のウサギを連れて。……普通サイズのウサギだな。うん。

ウサギはロクコの姿を見るや否や、ぴょこんと前足を持ち上げて挨拶した。

「んきゅ! 695番、じゃなかったロクコ! ひさしぶりっきゅねー」

「久しぶりね、629番。なんでそんなところに入ってるの?」

「これはあれきゅよ。コレの中に入ってねーとこのピンクの猫獣人がいつ食べに来るかと気が気じゃなくてな……おぉう殺気が……」

ミーシャを見ると、よだれが垂れていた。

ついでにニクを見ると、こちらも狩りそうな目で見ていた。

おまけにイチカを見ると、やはり初見のウサギの味に思いを馳せていた。

「お前ら、依頼人……依頼ウサギを食おうとするなよ」

「面目ないにゃ、つい本能が! 食欲を抑えられない……!」

「こればかりは同意です……」

「う、ウチは我慢するで? 珍しいからってウマイとは限らんからな!」

大丈夫かねこのダンジョンバトルのミッション。魔王派閥に一泡吹かせる前に美味しく食べられたりしないよね。

「きゅあぁぁ……助けてロクコ。ぼきゅ、食べられるのやーだー!」

「はいはい。みんな正気に戻りなさい」

ロクコがぽんぽんと手を叩くと、殺気、もとい食い気が散る。

「ふー。助かったきゅよロクコ。心労で心臓止まるかと思ったっきゅよ」

「ところでウサギは寂しいと死ぬって聞いたわよ。本当なの?」

「死んだことねーからわかんねーっきゅよ……で、おめーがロクコのマスターっきゅか」

籠の中でウサギがもふん、と動いて俺の方を向く。

「629番だっけか。ケーマだ。よろしく」

「おー、今回はハク……さま、から助っ人に来てくれるって聞いてるきゅよ。期待してるきゅよ!」

ハクさんへの様付けにはまだまだ慣れてない様子の629番コア。

まぁ突然傘下に入ることになったわけだもんな。しかも不本意に。

「ところで、呼びにくいから何か呼び名を決めていいか?」

「んきゅ? 別にかまわないっきゅよ。素敵な名前をつけてね!」

さて、俺はちらりとイチカを見る。

「イチカ、どんな名前がいいと思う?」

「ん? ウチが決めてええのん? そうやなぁ……んじゃ、ミカンなんてどうや?」

この世界のミカンもオレンジ色だった。オレンジ色の毛から連想したな。

ウサギに食べ物の名前となると少し非常食っぽいイメージもあるけど、まぁいいか。

「というわけだけど、それでいいか?」

「いいっきゅよ。じゃあボクのことはミカンって呼ぶといいきゅよ」

「……」

「ん? どうしたきゅか?」

「いや、なんでもない」

どうやら、イチカがマスターになったりはしないようだ。

「そういえば、ミカンにはマスターがいるのか?」

「いないっきゅよ」

それでもマスターにはならないと。……折角だから試してみたけど、やはりマスターになる条件ってのはよく分からないな。名前を付けただけじゃダメなのか。

まあ、別に分かったところで何だって話になるんだけど。

「……それじゃ、ダンジョンバトルに関わる話をしようか。ミカンのダンジョンはどんな場所にあるんだ?」

「おー、それな。ウチのダンジョンは草原にあるんきゅよ」

「ほう、草原。他には何があるんだ?」

「あとはウサギがいるくらいでなんもねーっきゅよ」

ウサギ型ダンジョンコアで、草原で、ウサギしかいない……だと。いやいや、もっと詳しく聞いてみないと分からない。

「ダンジョンコアはどこに置いてあるんだよ」

「ふっふっふ、機密なんだけど、地下空洞にだな……というか、タカが襲ってくるから穴掘って隠れてる感じはあるきゅよ」

「ウサギの他にはどういうモンスターが呼び出せるんだ? 罠とかは?」

「それはなー」

と、俺達はハクさんが来るまでに簡単な情報交換を行った。

「……ウサギしかいないのか」

「んきゅ、基本は落ちてきた奴をみんなで囲んで殴る! 一撃は弱くても、死ぬまで殴れば死ぬ! これで勝てるっきゅよ」

「言ってることは分かるが、ダンジョンバトルじゃ使えないからなそれ」

……とりあえず、ハクさんが「勝て」と言わず「一泡吹かせろ」といった理由が分かったよ。

なにせ、表の草原と、地下エリア1層というかなりシンプルな構成――それこそ、『ただの洞窟』を思い起こさせるほどの――それがミカンのダンジョン『ウサギの楽園』だった。