Lead the other world.
2-1 Magic
拓海はエンデ村を発つ前に事情を知る仁からこちらの世界の服を何枚か貰った。こちらの世界の服と拓海の世界の服とでは服の素材が結構違うようなので周りの人が見て違和感がないように拓海はこちらの世界の服に着替えることにしたのだ。
そして二人が出発の準備が終えると、拓海と胡桃は仁と村の番人に見送られながら聖都に向けてエンデ村を出発したのであった。
村を出ると拓海の目の前には遥か遠くまで草原が広がっていた。暖かい風で鮮やかな緑色の草木がゆらゆらと揺れた。
拓海はその見慣れない光景に思わず声を上げた。
「おぉ……。何か、こう凄い景色だな……」
「ふふっ! 拓海の世界では珍しい光景なの?」
「まあ草原はあったりするけど、ここまで見渡す限り草原ってのは見たことなかったからさ」
暖かい風に髪をなびかせながらそう答える拓海に、胡桃は髪を耳にかけながら尋ねた。
「へ〜! ねえねえ、拓海の世界のことも何か教えてよ!」
「そうだな……。えっと、まずはーー」
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拓海と胡桃がお互いの世界のことなど雑談しながら歩き出して数分たった頃、胡桃は何も言わず隣を歩く拓海の前に片手を上げて拓海が歩くのを止めて、突然立ち止まった。
「ん? どうした?」
「あれよ、あれ。ボアトロールがいる……。拓海見える?」
胡桃が指を指した方をよく見ると、少し離れたところに体長二メートルほどの猪に似たモンスターが鼻をひくつかせながらうろついていた。
(へ〜あの猪みたいなやつはボアトロールって名前なのか……。体当たりとかされたら痛そうだな)
拓海がボアトロールを見ながら、そんなことを考えていると、胡桃が拓海の肩を叩いた。
「どうした胡桃? ボアトロールってモンスターは見えてるぞ」
「ちょっとここで待ってて」
胡桃は拓海にそう言い残すとボアトロールに向かって走り出した。
そして胡桃がボアトロールの五メートルくらいまで迫ったところで、ボアトロールは胡桃に気づき突進しようと構えた。
すると胡桃は腰から素早く二本のクナイを取り出し、ボアトロールの両前脚に放った。見事に命中してボアトロールは呻き声を上げて体勢を崩した。その隙を逃さないように胡桃は流れるようにボアトロールの横にまわりこんで短剣を構えた。
「付与魔法“闇”」
胡桃がそう唱えると短剣に黒いオーラが纏った。
そして、少し刀身も伸びたように見える短剣で二、三回切り裂くとボアトロールは小さく呻き声を上げて絶命した。胡桃はその後ボアトロールの素材を手早く剥ぎ取って何事もなかったかのようにこちらに戻ってきた。あまりの手際の良さに拓海は思わず拍手をしてしまった。
「流石……手際がいいね」
「こんなのは朝飯前だよ!」
「ところで最後のあれはなんだ? 短剣の刀身が少し伸びてた気がしたんだけど」
「あれは付与魔法っていう武器や防具とか色々な物を強化する魔法だよ。魔法の腕を磨けば今見たいに魔法の形状も変えれるよ!」
「なるほど、今のも魔法なのか……」
や感嘆している拓海が魔法について興味が湧いてきたところでふと一つの疑問が頭に浮かんだ。
「あ、そういや俺も魔法とか使えるのかな?」
「そういえばさっき拓海の世界で魔法が使える人はいないって言ってたね……。うーん、どうなんだろ? 試しにやってみたら?」
「まあ、物は試しだな。ところで胡桃は魔法をどうやって発動してるんだ? 何かアドバイスとかあったりする?」
拓海の言葉に胡桃は小さく唸った。
「う〜ん、そうだなぁ……。魔法を使う上で一番大切なのはその魔法が発動する感覚を覚えることだね。あと、その魔法を頭の中でイメージしてそれを放出するって感じかなぁ……。むぅ、人に説明するのって難しいね」
(なるほど、頭でイメージして形にするか……よし!)
そして、拓海は目を閉じて竹刀を想像しながら手元に力を込め集中してみた。すると驚くことに拓海の手元から青い光と共にパキパキと音をたてながら氷の剣が出来た。
拓海はまさか本当に魔法が使えるとは思っていなくて、魔法が使えた自分に若干ひいていた。
「うわ、まじで出来たよ。すごいなこれ」
「お〜! いきなりそのレベルの魔法が使えるってすごいよ拓海! それに拓海は氷属性かぁ。中々レアな属性だよそれ!」
(氷か……。氷なのに俺自身は全然冷たく感じないな)
それから、はしゃいでいる胡桃に聞いた話では氷属性は水属性の派生属性というものらしい。そして氷属性が使える人は水属性の魔法が使える上に水属性より強力な攻撃魔法が多い氷魔法も使えるようだ。
そして拓海が胡桃の話に一人関心していると胡桃が何かに気づいたようで不思議そうな顔でこちらを見ちめた。
「ん? 俺の顔に何かついてる?」
「いやいやそうじゃなくてさ。拓海の纏ってる透明? その銀色のオーラは何かな?」
「銀色のオーラ……? あ、本当だ。全然気づかなかった」
胡桃に言われて自分の身体を見てみると身体に銀色の何かが薄っすらと纏わりついていた。
(何だろ? よし! ちょっと試してみるか)
試しに放出するイメージで手を下に向けると、銀色のそれはゆっくりと地面に当たり、下の草が少し揺らめかせた。
「何だこれ? 全く使えないぞこのオーラ?」
「何だろ? 私もそんなの初めて見たからよくわからないなぁ」
やがて、あれこれ話してるうちに身体に纏っていたオーラが消えていた。何だったんだろうと拓海は不思議に思いつつ、胡桃とまた歩き出した。
それから途中で何回かモンスターに遭遇したが拓海と胡桃が交代で倒して何ごともなく進み、丁度辺りが暗くなってきた頃拓海達の前方にようやく立派な町の外壁が見えてきた。