Lead the other world.
4-26 Yamato Toyota Festival 2
拓海が刀を鞘に収めると同時に武門が光の粒子になって弾けたのを見た観客席は一瞬の静寂の後、会場が揺れるほど大きな歓声が上がった。
そして歓声が止んでくると観客席から所々騒めきが聞こえてきた。ダークホースだとか次の拓海の試合が楽しみだと言った言葉がそこら中から聞こえてくる。
胡桃達四人も拓海の勝利を拍手でたたえてそれぞれ色々なことを思い思い語っていた。
「やりましたよ拓海さん!」
「うわぁ……。一瞬で倒しちゃった。拓海って長剣を使ってた時より刀の方が様になってるね……」
「お兄ちゃんは昔からお父さんに刀を握らされたりさせられてたからね〜」
「ん……。しかも拓海……武器持ってない時と同じくらいの速さで動いてた……」
そんな風にわいわい話していると後ろの席から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「中々やりますね桐生さん」
「そうだよな。僕にはとてもBランクの冒険者の動きに思えないよ」
胡桃達が振り返ると後ろの席にはいつから座ってたのか私服姿の桜とアルスが座っていた。
「師匠いつから来てたんですか?」
「ちょっと用があって……。今来たところですよ」
「やだなぁ……。用とか言って桜ちゃんがここに着くまで何回もメインストリートの屋台に寄り道しーーぐほっ!?」
「あら……どうしましたアルスさん? 飛び上がるほどお腹でも痛いんですか?」
((((うわぁ……))))
桜が胡桃に微笑みかけながら容赦なくアルスに腹パンをするとアルスの体が一瞬浮いた。その後アルスが小さく悲鳴を上げ悶絶しているのを見て胡桃達四人は思わず引きつった笑みを浮かべて皆が同じことを思った。
ーーこの人は怒らせないようにしよう……と
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拓海が武門を倒した試合を含む全ての初戦が終わり一時間が経過した。選手控え室でベンチに座っていた拓海は水を一口飲んで二回戦の第一試合に出るためそろそろ幻想闘技場に送り込む機械が設置されている部屋に向かおうと立ち上がった。
すると隣に座っていた一回戦を突破したベルデとその付き添いであるシモンが拓海にそれぞれ声をかけた。
「ふん……。こんなところで負けるなよ拓海」
「相手はレダを倒した人だからね。頑張ってね拓海君」
そう拓海が二回戦で相手をするギースという男はベルデの取り巻きでアストレア聖騎士団の一員であるレダを倒したのである。ようはギースという男はAランク冒険者を撃破するほどの強さというわけだ。話によるとギースは巧みに斧を使い長剣使いのレダの攻撃を捌きながら隙をついて連撃を叩き込んで勝ったようだ。
「おう。二人も頑張れよ」
拓海は二人を一瞥してそう言葉を残して選手控え室を後にした。
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「桐生さん。それでは始めるので目を瞑って下さい」
スタッフの声を聞いた既に機械に入って準備万端な拓海は目を瞑った。
(アストレア聖騎士団の一員を倒した人か……。でもまあ相手が誰であろうと俺は全力を尽くすまでだ!)
それから意識が一瞬飛ぶのと同時に地に足がつくのを感じた拓海は目を開いた。初戦同様に拓海の十メートルほど離れた場所に光の粒子が集まり一人の斧を持って顔がすっぽりと隠れる鎧を頭につけた拓海よりひとまわり大きい男の形となった。ギースが現れたのと同時にいつものアナウンスが拓海の耳に流れた。
(パワーありそうだな……。単純な力比べじゃ勝てそうにないなこりゃ……)
三十のカウントが始まり拓海がギースを見てそんなことを考えているとギースは突然笑い始めた。
「くっくっくっ……。まさかお前がこの大会に出てくるとはなぁ」
ギースに以前会ったことがあるということに拓海は思い当たる節がなく、首を捻ってギースに聞いた。
「えっと、あんたと会ったことあったか?」
拓海の言葉を聞いたギースは頭の鎧を外しそこら辺に投げ捨てると拓海を睨みつけた。
「なっ!? お前は……」
そこには以前アストレアでアイリスをどこかに連れていこうとして拓海と決闘をして倒された三人組の男のうちリーダー格であった男が立っていた。
「思い出したか。以前受けた屈辱……。この場で晴らさせてもらうぞ!!」
ギースがそう言い放つと同時に三十のカウントが終わり試合が始まるのだった。