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4-29 Yamato Toyota Festival 5

ベルデと紫藤圭の試合が終わって準決勝までまた一時間空くので拓海は外の空気を吸いに会場の裏口から一人外に出た。

拓海は息を吐いて会場の壁にもたれかかった。

ふと自分の手の平を見つめると微かに震えているのが分かった。

そんな時、拓海の正面から飲料水が入った容器が飛んできた。拓海は驚きながらも片手で受け取って飛んできた方を見るとアルスがいつの間にか、にやにやしながら立っていた。

「なんでいるんだよ……。あんた」

「いやぁ……たまたま外に出たら丁度拓海君がいてね〜」

(絶対後つけて来たんだろこの人)

拓海はため息をつくと壁を背にして腰を下ろした。

すると何故かアルスも拓海の隣にいそいそと歩いてきて腰を下ろした。もうアルスを一々突き放すのが面倒だと思った拓海が何も言わず遠くの景色を眺めているとアルスの方が声をかけてきた。

「さっき手が震えてたけど、どうした? 現実の体には無害とはいえ怖くなったのかい? 人を斬るのが。そんな経験初めてでしょ拓海君」

アルスが意外にも拓海を心配したような言葉をかけてきたのに驚きながら、拓海は自分の微かに震えている手を見つめながら言葉を返した。

「まあ……それもあるかな。というか何であんたが俺が今まで人を斬ったことがないことを知っているのか気になるけど、やっぱり人を斬るのには抵抗があるかな」

自身の手を見ながらそう呟く拓海に、アルスは小さく笑いながら応えた。

「ははは……目だよ。拓海君の目を見ればわかる。君は優しい目をしているからね。でも次の拓海君の対戦相手の紫藤羅刹は僕が見た感じ人を斬るのも全く躊躇しないような人みたいだよ。中途半端な覚悟で挑むようじゃ勝てないと思ってね」

拓海は今まで対人の練習でアストレア聖騎士団のメンバーや胡桃と手合わせしたことが何回もあるが、一度もロイや胡桃のようなSランク以上の冒険者に勝てたことがなかった。

だが、今回は魔法の使用が禁止のトーナメント戦なので拓海がSランク以上の冒険者に勝つ可能性も十分にありうるだろう。

しかし、次に戦う紫藤羅刹のように刀を巧みに武器を扱う強者にとどめを刺すのを躊躇うような中途半端な気持ちでは勝てないだろうということを拓海も薄々感じていた。

「勝つさ。俺は勝負事には結構熱くなる性質《たち》なんでね」

そう言いながら飲料水を一気に飲み干してアルスに投げ返して立ち上がった。

「あと勘違いしないでくれよ。この震えはただの武者震いってやつだ」

拓海はそうアルスと自分に言い聞かせながら会場の中に入っていった。

そして、そんな拓海の後ろ姿を見送るアルスは目を細めて小さく呟く。

「そうだといいんだけどね」

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機械に入った拓海は一度自分を落ち着かせるために深呼吸をした。

(紫藤羅刹か……。やっぱり相当強いよな。でもまあ……。柑菜や胡桃達も見てるようだし無様なところも見せられないしな! よし、全力で勝ちにいくぞ!)

拓海はスタッフに合図して目を瞑って地面に自分の足が着いたのを感じて目を開いた。

(あれが紫藤羅刹か……)

紫藤羅刹は拓海から正面十メートル離れた位置で侍が着ているのような服を着て無表情で拓海を眺めていた。

すると無表情のまま立っていた羅刹は、突然落ち着いていた拓海の心を揺さぶるほどの殺意と覇気を放ち始めた。

「さて……。いい試合をしようか」

「は、はい」

(こいつは……違う。今まで戦ってきた人達とは違う!?)

羅刹に殺気を当てられた上に拓海は羅刹の強者独特の雰囲気に圧倒されてしまい、三十のカウントが経ってしまい試合が始まった。

「楽しませてくれよ……」

スッと目を鋭くして紫藤羅刹はそう言うと同時に刀を抜き放ち拓海に向かって走り始めたのだった。