Lead the other world.

7-50 One Scale of Force 2

「行きなさい! ヒナさんはアイリスさんの指示を聞いて下さいね」

ヴァイナーを吹き飛ばしてから壁に穴を開けた仁は、アイリスの魔法により出現した光の円盤にガノンと志乃を乗せて部屋から出るため、壁の穴に向かって走るアイリスとヒナに向かって指示を出していた。

そして、一瞬でもヴァイナーから目を離したのが命取りとなった。

「どこ向いてんだ?」

仁は目を見開く。先程吹き飛ばしたはずのヴァイナーの声が聞こえる。

さっきまでのヴァイナーの速さでは体勢を崩してから整えて一瞬でここまで来ることは出来ないはず。それが意味するのはヴァイナーがまだ最大の速さを出していなかった、もしくはわざと吹き飛ばされたふりをしたのどちらかだった。

そして、この距離では炎の分身を作って避ける時間もない上に避ければ今丁度穴を通り抜けているアイリス達がヴァイナーの攻撃に巻き込まれてしまう。

「“グランドクロス”」

それを踏まえて仁がとった行動はーー。

「ほぉ……」

その場に踏みとどまり、霊気を自分の正面により纏いながら防御姿勢をとることだった。

しかし、神話クラスの魔法で身体強化しながら放ったSSSクラスの攻撃魔法に耐えられるはずもなく。

ヴァイナーの目の前では閃光が迸り、衝撃波が起こると共に轟音が鳴り響いて突然壁が大きくひび割れた。

「久々に楽しめたぞ、鳳仁」

ヴァイナーの視線の先、大きくひび割れた壁の中心には霊装が消えて両腕が弾け飛んで項垂れる仁が力なく床に落下して、アイリス達が逃げる時に通った穴が塞がっていた。

そして、その姿を見送ったヴァイナーは『ガイア・マハト』の力により身体の傷を完治させ一度部屋の扉の封印を解くために背を向けた。

次の瞬間、ヴァイナーは後ろの方から何か異様な力を感じ振り返った。

あり得ない。そんなことを思いながら視界に広がる光景に目を見開き、唖然とする。

「何だ……あれは?」

両腕がもげ、完全に活動を停止したはずの仁がいた場所に、巨大な蒼い焔が天井に向かって渦巻いていた。

そして蒼い焔が消え去り、そこにはヴァイナー同様無傷の仁が微笑みながら立っていた。

「四神の力、『朱雀』。君も名前くらいは知っているのではないですか?」

四神の力。それは遥か昔から存在する四種の特殊な力で、その力はどれも強力無比。志乃の白虎もその一つで、仁の朱雀もその内の一つであった。

その効果はーー。

「所謂《いわゆる》不死身というやつですよ」

しかしヴァイナーは不敵に笑って、塔のクレアと柑菜の魔力を得て自身の魔力を更に昂らせていると仁は微笑みながら口を開けた。

「さてこれで漸く二人ですね」

「あぁ、それがどうした?」

すると仁は目を細めて放った一言に、ヴァイナーは目を見開いた。

「これで少し本気を出せますね」

「今まで本気を出していなかったと?」

「魔法、私は一度も使っていませんよ?」

それを聞いて今まで仁が全く魔法を詠唱する様子を見せていなかったことを思い出し、ヴァイナーは顔色が悪くなり、思わず一歩後ろに下がった。

「お前は……何だ?」

目の前にいるのは。この男は。自分が何と戦っていたのか。自分が今対峙しているのが人ではない、得体の知れない何かと気付いてしまったのである。

「君が力を求めたのは今のため。私はクレアとは違いますが、君は挑戦権を得ました。遠慮は要りませんよ。さあ、君の全てを私にぶつけて見なさい」

ヴァイナーの視線先にいる人の皮を被った何かは、金色の後光が差し七色の焔を身体の周りに渦巻かせながら一歩ずつヴァイナーとの距離を縮めていくのだった。