Leaving the country of falling-about the fact that he was the 4th granting surgeon in the world-
Episode 359: Black-and-white butler in pursuit
予想外に大きなジンク商会の店舗を見て、イアンへ驚きを伝えたら、元手はそこまでかかっていないと教えられた。
「ねぇ、イアン。どうやって、このクラスの大型店を安く手に入れたの?」
クオール王国のお偉いさんと、何かしらの裏取引をしたとか?
「ナザール王国との戦争で、貴族派が金を必要としていましたからね。買い手市場となり地価が暴落したこともあって、相場の20%程で買えたのです」
詳しく聞いたところ……連敗で金欠となった貴族派の連中や、それに連なる商人が持っていた物件を、現金一括払いを武器に、安く買い叩いたらしい。
「大衆派のジンク商会相手に、大損確定の取引なんて、よくやる気になったなぁ」
貴族派の連中はプライドが高いから、政治的に中立な貸金業者から借りたとばかり……。
「手段問わず即金を求める貴族は、ご主人様の想像以上に多かったのですよ。おかげで法律ギリギリの高利貸しや、物件の入手が捗りまして……」
細かな入出金を記した帳簿を僕へ渡し、良い子には見せられない、腹黒そうな笑みを浮かべるイアン。
ワーカホリックの彼は、僕達と共にナザール軍と戦いつつ、エルザと協力して、大きく資産を増やしたそうだ。
腹黒イアンに家計を任せたら、こうなるのは分かっていたが……予想以上に容赦ないな。
財をむしり取られた被害者は、普段領民から搾取していた、貴族派の”やらかし貴族”だから、同情する気は起きないけどね。
あっ、でもさ……
「戦争資金の、貸し倒れは大丈夫だったの? 軍功会議の賞罰で、連中の大半が没落したじゃん」
しっかり者のイアンだから、事前に対策したとは思うけど……。
「ご主人様のお側にいれば、どの貴族が没落するかなど、すぐに分かりますので。そこら辺は心配無用です」
貴族籍ごと吹っ飛びそうな下級貴族に金を貸す場合、貸した金額以上の宝飾品を、担保に要求していたらしい。
貸した金を回収する事ができなくても、担保として預かった宝飾品を売り払えば、損する事はないからね。
「騒ぎそうな連中は、軍功会議で没落済みです。悪いことなど、するものではないですね〜」
「よく言うよ、腹黒イアン。そういう輩は金銭問題がなくても逆恨みするから、貸金業でリスクが上がる事はなさそうけどさ」
上級貴族に対しては、分家筋の爵位を担保に金を貸し……債権を、コッソリ陛下と仲のいい王族へ売却。
返済が滞った場合、文字通り即日、爵位を没収されるよう仕組んだとのこと。
「貴族派の本家を潰しても、証拠不足や法律の適用外で、連座させられない分家は残ってしまいます。そういう場合、借金で飛ばすのが一番楽でして……」
お偉いさんやり取りしつつ、害にしかならないけど、証拠集めのコスパも悪い、上級貴族係累の爵位を、上手く質入れさせたそうだ。
「爵位を担保に、王族から金借りるハメになるとか……。あいかわらず、イアンのお腹の中は真っ黒だな」
貴族の特権意識に染まった奴ほど、借金を踏み倒す可能性は高い。
そういう連中は、貸金業者に訴えられても、権力を使って黙らせればいいと本気で思っているからね。
ジンク商会で借り入れした貴族は、債権者が僕だと分かってるはずだし、現時点で踏み倒す気はないのだろうけど……
返済できないほど追い詰められたり、政治的に僕を締め上げる目的で、借り逃げする連中は、そのうち現われるはずだ。
そこで債権者が、陛下と仲良しの王族に変わっていると判明したら……。
立場と権力で踏み倒すつもりだった借金を、全額返済するか、分家の爵位を切るしかなくなり、クオール王国の浄化がさらに進むだろう。
「私は、ご主人様ほど腹黒くありませんよ。善良な方々には、ジンク商会のイメージ戦略もかねて、低い金利で貸し付けております」
うん、その辺は信頼している。
ジンク商会自体がクオール王国の害になると、お偉方に思われたら本末転倒だし……イアンが、そんなミスを犯すとは考えにくい。
万一そういう意見が出ても、問題が大きくなる前に、僕と仲のいい貴族が教えてくれるだろうしね。
閉店の時間まで、店の二階にある従業員寮で仮眠をとり、お客様がいなくなったあと、5人で店内を物色する。
置いてある商品は、ごくありふれた物だけど……ココが自分の店舗だと思うと、眼に入るもの全てが輝いて見えた。
「価格は普通だけど、商品の質は他店より上だね。内装も凝ってるなぁ〜」
シンプルだけど野性的な、冒険者をイメージさせる内観だ。
「ご主人様の商会ということで、酒場チックな造りにしております。ちなみに、この店舗のデザインを担当したのはエスターですよ」
「えっ、そうなの!?」
「はい、お兄様。イアンさんに頼まれて、訓練の合間にデザインしました。ニーナさんが担当した店舗もありますよ」
「フォンカー公爵領にある店舗は、私の担当です! 可愛い作りにしたので、期待しててくださいね」
「二人とも凄いな! ちなみにだけど、イアン。僕がデザインしてもいい店舗は……?」
「…………。ご主人様が好みそうな内装の店舗を、エルザさんと私で担当しております」
僕が質問した途端、落ち着いた口調とは裏腹に、イアンの心拍数が跳ね上がった。
明らかに、”下手すぎて任せられねぇ”と思ってるな。
大丈夫、お前の気持ちは分かるよ。
僕のデザイン力じゃ、実物を見ながら、”雪の結晶マーク”を描くのが精一杯だからね…………グスン。
「外から見える部分は、皆に任せた。僕は貨幣集計用のゴーレムを作るから、それを各店舗の従業員スペースに置いて。作業を効率化しよう!」
「便利そうなゴーレムですね。ご主人様……試作品ができたら、見せていただいてもよろしいでしょうか? 完成次第、すぐ店舗へ配置いたしますので」
「イアン、ありがとう。ニーナとエスターも、お手伝いお疲れさま」
お客様に見える表部分を、僕のアート(笑)で彩るわけにはいかない。
そこら辺はエスター達に任せ、僕は実益面で商会に貢献するよ。