「まず、既にこの国に侵攻しているアプリストスの王子を捕まえましょう」

俺は集まった大臣たちとエルフ王に進言した。

「捕らえた王子を人質にして、国軍を引かせるよう交渉するのか?」

「だが、王子は三千の兵に守られている。防衛であれば容易だが、王子を捕らえるとなれば敵を全滅させる必要がある。こちらも戦力を削られる」

「ここで兵を大きく失うと国軍が来た時に防衛ができなくなるぞ」

大臣たちから反論がでる。

想定の範囲内だ。

「アルヘイムの国軍が王子私有軍と対峙してくだされば、王子は軍の後方に下がるはずです。そこを俺たちが後ろから攻めて、王子を捕まえます」

戦力はこちらの方が多いので、私有軍も直ぐには攻めてこないだろう。戦闘が始まる前に王子を捕らえてしまえば、こちら側の消耗は少ないはず。

「……可能なのか?」

「まぁ、僕も居るし余裕じゃない?」

シルフが俺の意見に賛同してくれる。

この場にシルフが居て、大臣たちに俺の話を聞くように言ってくれたから、俺はエルフ王たちに作戦の進言ができるのだ。

「シルフ様のご助力があれば、王子を捕らえることは可能かも知れません。しかし、王子を人質にしたとして、国軍が引き返す保証はないのです」

「どういうこと?」

諜報部を統括する大臣の言葉に、シルフが疑問を持った。

「今、我が国に侵攻しているのはアプリストスの第五王子です。この国に国軍を侵攻させるための捨て駒として使われている可能性があります」

アプリストスの十万の兵というのは、国が保有する戦力の、およそ三分の一に相当するらしい。それだけの戦力を、第五王子の結婚話が破棄されたという理由だけで動かすのには国民の理解が得られない。

だが、王子がアルヘイムに捕えられ、殺されたとしたらどうだろう。

報復のためにアルヘイムを滅ぼすという、大義名分がたつのだ。

第五王子はそのための捨て駒として母国に利用されていると言うのが、アルヘイムの諜報部が集めてきた情報だった。

「ふーん。だってさハルト、王子を捕まえても意味ないんじゃない?」

「確かに、国軍を引かせるのには使えないかもしれないけど、侵略してきた人族に対してもこの国がきちんと交渉しようとした証拠は残せるんだ」

「人族と交渉した証拠? それがいったい、何になると言うんだ?」

「もし敵が戦力差も分からず攻めてきて、全滅させてしまった時にも、この国が一方的に悪かったのではないと他国に知らしめるためです」

「……よく分からんな。ハルト、お前は敵を全滅させるだけなら簡単だ。まるでそう言っているように聞こえる」

「そうですよ。隊を組んで進軍してくる十万程度の兵なら、ルークの究極魔法一発で壊滅させられます」

「究極魔法!? お前たちの中に使える者がおるというのか!?」

「はい。一応、俺は賢者見習いなので……あ、ちなみにレベルは125です」

ルークの返事に大臣たちがざわめく。

本人は自慢ぽくて嫌だと言っていたが、大臣たちを説得するため、ルークには事前に職とレベルを公開してほしいと頼んであった。

「ですが、そんなことをしたら他の国からこの国が危険視されてしまうでしょう。一国なら問題ありませんが、数国が手を組み連合軍を起こされたら、さすがに手に負えません」

問題なのは連合軍だけではない。

周辺国がアルヘイムを危険視したら、貿易などにも影響する。

ただ、敵を全滅させればいいわけではないのだ。

「勝てるかどうかではなく、どう勝つかが重要です」

俺の作戦Aはこうだ。まず、王子を捕らえ、国軍を引かせるよう交渉する。

恐らく、その交渉は決裂する。

次に、ルナに強化してもらったルークの究極魔法で圧倒的な戦力差を見せつける。これは威嚇だ。国軍には当てず、近くの山を消滅させる。

これで、敵が恐れをなして引き返せば良し。

作戦終了だ。

だが、敵が引き返さない可能性もある。そうなると少々面倒くさいが、俺の魔法で敵を分散させて、各個撃破して行く作戦Bへと切り替える。

この作戦Bに必要なのがアルヘイム国軍の協力と、クラスの仲間たちの力だ。俺は皆に作戦の内容を伝えた。

結論から言うと、俺の作戦は受け入れられた。俺の仲間の戦力を知り、俺の作戦と合わせて、大臣たちがそれなら勝てると思ってくれたからだ。あとは実行に移すのみ。

──***──

アプリストス王子の私有軍は国境付近からあまり動いてないとのこと。今のうちに、国軍の各部隊を指揮する面々と会って、作戦の説明、そして俺の仲間の紹介をしておかなくてはいけなかった。

「ハルト殿ではありませんか!」

シルフ、ティナ、リファと共に国軍の指揮者たちのもとを巡っていると声をかけられた。エルフに似つかわしくない筋肉質な肉体の男がいた。

ティナと結婚する男を決める大会で、俺と初戦に戦った国軍の元大将だ。俺との戦いに敗れたことで、除隊させられたらしい。

「あの、俺との戦いの後に除隊させられたと聞きました……」

俺に負けたとはいえ、彼は強かった。それなのに大将であった彼が、降格ではなく、いきなり除隊させられた。

何があったのだろう。俺との戦いが原因の可能性があるので、申し訳なく思っていた。そして今、元大将が戦闘服を身につけているのも気になる。

「貴方にあっさり負けた私が悪いのですよ。しかし、これでも元大将。此度のアプリストスとの戦争で戦力が必要になり、私にも招集がかかったので、こうして一兵卒として参戦することになったのです」

「そうでしたか。部隊は率いたりしないのですか?」

「あはは、一兵卒に戻って分かりました。私は前線で剣を振るってる方が合ってるんです」

そう言って元大将が手を差し出してきた。

「私は前線で元部下たちと共にこの国を守るため戦います。この戦いの行方は貴方の作戦にかかってます。ぜひ、我らに勝利を」

「分かりました、全力を尽くします。どうかご無事で」

そう言って元大将と握手した。

握手した際、彼に腕輪を付けられた。

「は? あのこれ──」

意識が遠のく。

「ふふふ、ふはははははは!」

大将の笑い声を聞きながら、俺の意識は消えた。