Level 99 Villainous Daughter
11 My Truth in Games
冬も本番となり、学園1年目も終わりが近づいてきている。
私の学園生活は相変わらずで孤高のぼっちぶりを発揮している。
アリシアも相変わらずであり、熱心にレベル上げをする様子はない。地獄のレベル上げダンジョン巡りの開催も最早秒読みと言えよう。
入学当初以降、アリシアや攻略対象たちは学園長や国王陛下に釘を差されたのか、私に絡んでくることは少なくなっていた。敵意剥き出しの目で見られることはあるが、私にとっては平和なので問題ないだろう。
「最近アリシアの身の回りの物が無くなるのだが、お前に心当たりは無いか?」
エドウィン王子が話しかけてきた。さようなら、私の平和な日々。
「ありません」
アリシアの持ち物が無くなっている? ゲームでそういうことをする役回りは私だったはずだが。私の代わりに他の誰かがアリシアをイジメているのだろうか。
「いつも1人で何かしているのは知っているのだぞ」
私が1人でいるのは半分くらいお前のせいだろ。
王子の中では疑惑を通り越して、私がアリシアの物を隠した犯人で確定らしい。
「魔王が人の持ち物を隠すなんて、ずいぶん可愛らしいことをするのですね」
彼らの中での私の人物像は未だに理解できない。数ヶ月前に遠くの領で起こった土砂崩れへの関与を疑われたり、学園の花壇を荒らした犯人だと思われたり。
とりあえず、悪いことは全部私のせいにしてしまえということだろうか。もちろん私はまともに取り合わないし、周囲にも呆れられている。
しかし私の強さも相まって、魔王疑惑は未だに晴れてはいない。
「くっ、必ず証拠を掴んでやるからな。そのときには学園を追放してやる」
小物っぽい捨て台詞を吐いてエドウィン王子は去っていく。
彼は私を学園から追放するべく日々頑張っている。国王陛下も学園長もその気は無いから無駄な努力なのだが。
多分王子は引っ込みがつかなくなっているのだ。私が魔王でも悪人でもないと認めることは、自分の間違いを認めることだ。今まで挫折や失敗の無かった彼にはそれができないのだろう。
他の攻略対象であるウィリアムとオズワルドも、同じ理由で私を敵視し続けているのだろう。アリシアは尋常でなく思い込みが激しいだけだ。
私はアリシアの持ち物を隠した人物について思案する。
学園の生徒でアリシアを嫌っているものは多い。
庶民だからと嫌う者、王子たちと仲良くしているからと嫌う者。彼女の機嫌を損ねると王子の機嫌も損ねることになるので、腫れ物のように扱う者も多い。
学園でのアリシアの味方は攻略対象3人組だけだろう。可哀相に……と思ったが私の方が可哀相だった。いいもんパトリックがいるから、この前呼び捨てでいいと言われたし。
考えていてもしょうがないので行動に移ることとする。私は放課後の教室を監視することにした。
気配を完全に消したり、影の中に入ったり、そんな便利な技能は習得できていないので普通に張り込むしかないだろう。
張り込みを始めて1時間ほど、1度アリシアと王子たちが物は無くなっていないか確認しに来ただけであった。その後、彼らは新作スイーツを食べるとか言って教室を出ていった。証拠を掴む気は本当にあるのだろうか。
私も飽きてきたのでそろそろ帰ろうかと思った頃、一人の女生徒が教室に入ってきた。
彼女はいつも公爵令嬢エレノーラと行動を共にしていたはずだ。おそらく実家が過激派であり、その過激派の親玉の娘であるエレノーラに付き従っているのであろう。
彼女は周囲をキョロキョロと確認しながらアリシアの机を漁り始めた。
犯人を見つけた私は音も無く床に着地し、彼女に声を掛ける。
「何をしているのですか?」
私は今まで、普通に天井の角の所に張り付いていた。忍者とかが普通にやってるあれだ。
「あ、あの、違うんです! アリシアさんの持ち物が無くなっているって聞いて、私心配で…… あ、ユミエラ……様」
慌てて弁明を始めた彼女は、声をかけたのが私だと気がつくとこの世の終わりのような顔をする。
「こ、殺さないでください! 私はエレノーラ様に言われてやっただけで……」
常々思うのだが私は何だと思われているのだろう。今のところ、人を殺したことは無いのだが。
アリシアの持ち物を隠した彼女は聞いてもいないことを次々と話してくれた。
彼女はエレノーラの派閥の中で家の格が一番低く、使いっ走りのようなことをよくやらされているらしい。今回の件もそれだとか。
それにしてもどうしたものか、彼女を殿下に突き出して終わりでは寝覚めが悪すぎる。エレノーラは彼女が勝手にやったことだと、簡単に彼女を切り捨てるだろう。
「それでユミエラさんは、わたくしが彼女にアリシアさんの物を隠すように指示したとでも言うの?」
私はエレノーラと直談判をすることにした。実行犯の彼女は簡単にエレノーラがいるサロンまで案内してくれた。
「違いますよ。エレノーラ様の派閥の方が悪いことをしていたからお伝えしようと思っただけです。彼女も自分の考えでやったと言ってますし」
「そうでしたの。彼女は許されないことをしましたわね」
「そうですね。このことがエドウィン殿下の耳に入ったらお怒りになるでしょうね。彼女はエレノーラ様のお友達ですから、エレノーラ様も嫌われてしまうかもしれませんね」
自分が王子に嫌われると聞き、今まで素知らぬ顔をしていたエレノーラは顔色を変える。
「彼女が勝手にやったことでしょう? どうしてわたくしが……」
「殿下は彼女をエレノーラ様の派閥の者と認識するかもしれませんからね。
でも大丈夫です、私は誰にも話しませんから。周囲に勘ぐられますから、彼女を罰するのも止めた方が良いかもしれませんね。
そうすれば、エレノーラ様がエドウィン殿下に嫁がれるのは間違いありません」
「え、あの泥棒猫はどうなるのでして?」
「アリシアさんのことですか? 庶民が王族に嫁げるはずないでしょう?」
嘘です。陛下は聖女の再来として王子と結婚させるつもりです。王族の正統性を証明できて、庶民人気も取れて一石二鳥ですから。
「そ、そうですわよね。庶民が王族に嫁げるはずありませんものね」
「はい、こんなつまらないイジメでエレノーラ様にケチが付いてはいけませんからね。派閥の方にアリシアさんに何かしないよう言い含めておくことをお勧めします」
アリシアのイジメを再開しないように釘を刺しておく。
「ええ、もちろんですわ。でも、なぜあなたはそんなことを教えてくださるの?」
「私もアリシアさんのことは良く思っていないので。彼女をイジメても殿下が庇って仲を深めるだけですからね。あ、私は殿下に良く思われていないので、今日会ったことは内密に」
アリシアへのイジメを止める、実行犯の彼女を庇う、エレノーラが私に関わらないようにする、エレノーラがチョロすぎたので目的を全て達成することができた。
私は上機嫌でサロンを後にしたのであった。
「ユミエラにしては珍しい」
事の顛末を全て聞いたパトリックの反応だ。珍しいとはどういうことだろうと思っていると彼は続ける。
「いつものユミエラなら、その実行犯の彼女を殿下に突き出して終わりにしそうだと思ったんだ。イジメを止めることはできるし、そもそもエレノーラは殿下に嫌われているお前と関わろうとはしないだろ?」
確かにそうだ。私は何であんな回りくどいことをしたのだろうか?
「あれは、実行犯役の彼女は、私だったかもしれないから」
本来、アリシアの物を隠すのは私の役回りだった。
「どういうことだ?」
「もしも、闇魔法が使えることを隠していて、レベル上げもしていない私がいたとして」
ゲームのユミエラのことだ。彼女はおそらく……
「そんな私は、会ったこともない親に他の貴族と仲良くなるように言われて、必死になってエレノーラの派閥に入れてもらって」
そこでの私は1番下っ端であろう。誰もやりたがらないことをやらされるくらいに。
「それで、イジメの実行犯をやらされて、それがバレたらエレノーラに切り捨てられて」
ゲームのユミエラに味方はいたのだろうか。
「誰も味方になってくれなくて、親が憎くて、エレノーラが憎くて、そして何より光魔法を使えて殿下たちから愛されるアリシアが憎くて」
光魔法の彼女と闇魔法の私。愛される彼女と愛されない私。
ゲームのユミエラは後付設定で裏ボスになる小悪党などではなく、この世界の被害者なのではないだろうか。
「そこで私は復讐のためにレベル上げを始めるの。でも闇は光に弱いから、アリシアには敵わず殺されてしまう」
ゲームの私と今の私、違う所があるとすればレベルを上げたか否かである。唯一絶対の頼れる力が有るか無いかの違いである。
「そんな『もしも』があるから、実行犯の彼女を助けたかった。
どうしたのパトリック? 仮定の話よ?」
悲壮な顔をするパトリックに、想像の話だと笑いかける私は本当に笑えていただろうか。
「変わらないじゃないか」
パトリックが辛そうに絞り出すように言った。
「変わらないじゃないか、仮定のお前も今のお前も。レベルが高いか低いかの違いしかない」
「その違いが大きいのよ」
違う。1番大きいのは私に前世の記憶があるということだ。精神年齢が高い、ただそれだけのことだけれど。
「今のユミエラに味方はいるのか? アリシアが憎いか? この世界が嫌いか? もし、そうなら、俺が……」
憎んでも嫌ってもない。いざとなれば遠くに逃げて身を隠して生活すればいいだけの話だ。
しかし、現状でも気に入っている事はある。
「そんなことは無いわよ。たまに話をする知り合いがいれば、それで十分」
これから多少嫌なことがあっても、パトリックがいるのならこの国にいてもいいかなとは思っている。
そうパトリックを見つめながら言うと、彼は黙り込んでしまった。
何かまずいことでも言っただろうかと不安になる。
「そうか……」
パトリックは暖かい声でそう言った後
「……知り合いか」
嘆くようにそう言った。
流石にこの頻度で話をしていたら知り合いだと思うぞ。
知り合い1人作るのにこんなに苦労するとは、友人はいつになったら作れるのか。恋人などとても考えられない。