Level Up Just By Eating

Rush into the tower

夜の中。

オレは海砂の上を疾駆する。

塔との距離は意外にあった。

けっこうなスピードをだしているはずなのに、いまだ小さいままである。

不意にイヤな気配を感じた。二メートル近く浮く。

砂からザブッと飛沫があがる。

深海魚のようなフォルムの魚が、つい先刻までオレが立っていた場所に噛みつく。

二体、三体、五体、十体。すさまじい勢いで新手がでてきた。

「すすすすっ、砂ピラニアです!」

フェミルが叫び、アイスニードルを放った。

砂ピラニアを打ち落とす。

しかし砂ピラニアの大群は、落とされても落とされても次から次へと飛びかかってくる。

「ふえぇん、ケーマぁ! もっと高く飛べないのぉ?!」

「荷物を落とせば可能だが……」

オレは荷物(ローラ)をじっと見つめた。

「どうしてこのタイミングでアタシを見るのっ?!?!」

「オマエって、地味にけっこう重いよなぁって」

「おおおおっ、重くはないわよっ!!」

ローラは必死に否定した。

オレは重みを感じつつ、ピラニアの攻撃を回避する。

「アイスニードル!」

フェミルが素早く魔法を放つが、砂の中に潜られてしまうと届かない。

オレがだすにも、手が使えない上に飛行魔法を展開させているので難しい。

地味に面倒である。

そんな風に思っていると、一際強い気配を感じた。

身構える。

巨大なる砂飛沫。

現れた砂シャチが、オレたちを丸呑みにしようとしてきた!!

しかし体がデカいなら、むしろ好都合である。

オレはくるりと身を翻し、シャチのこめかみに回し蹴りを叩き込んだ。

一撃で制圧し、シャチの背に乗る。

「行け」

『ピキイィ……』

シャチは気の毒な声をだしつつ、オレを乗せて進んでくれた。

「これで浮くのに使っていた風魔法を、敵の迎撃に使えるな」

アイスニードルを浮かばせる。

その数、実に一〇八本。

前後左右から飛びかかってくるピラニアを、見えた端から撃ち落とす。

塔がぐんぐん近づいてくる。

奇妙な形をしている塔だ。

軽く三〇メートルはありそうな高さに、そこはかとなく不思議な雰囲気を持つ材質。

入り口は、Uの字を逆さにしたような形。しかも海砂と直接繋がっている。

警戒しながら中に入った。

すぐ右側に石造りの足場があるが、中央は海砂が広がっている。

そして塔の内側に沿うような形の螺旋階段。

光りの差さない塔内は、ほぼ真っ暗である。

「とりあえず降りるか」

足場におりて、ローラとフェミルのふたりをおろした。

「ほれ」

服に引っかかっていたピラニアを、シャチに投げ渡してやる。

『キュピイィ!』

シャチはうれしそうな声を発してピラニアを咥えた。

砂の中にもぐっていく。

フェミルが自身の杖を構えた。

「とっ、とりあえず、明かりでもつけますね! ファイアーボール!」

しかし出ない。

「はうっ?! んっ、んうぅー! んうぅー!」

お尻の尻尾がピーンっと立つぐらい、一生懸命力を込める。

なのに炎はでてこない。

「どうもこの塔そのものに、魔封じの結界が張られている感じです……」

「そうなのか」

オレも試しに、ファイアーボールと念じてみた。

ぼぅんっ!

炎は普通にでてきてくれた。

「はぅんっ?!」

「魔法そのものを封じるって言うよりは、一定レベル以下の魔法を封じるっていう感じみたいだな」

「あうぅ……」

「気にするなよ。フェミルが悪いってわけじゃないんだから」

「しかし魔法を使えないわたしは、ただのウサギです……ぴょん」

オレはフェミルの頭をなでて、よしよしと慰めた。

(フェミルは役に立てないと、こんなにも気にするのに……)

ローラのほうをチラと見る。

「?」

しかしローラは平然と、後ろを振り返るだけであった。

わかっていてボケているとかではなく、純粋に後ろを振り返っていた。

(自覚すらしていないとはっ!!!)

駄メンタルに関しては、まさに神クラスであった。

あとは能力が伴ってさえいれば、これほど頼もしい女神もいなかったろうに……。

残念でならない。

天は二物を与えずとは言うが、それなら能力を与えてやってほしかった。