Lonely Attack on the Different World
I can't tell you that the internal pressure was more worrying and enhanced than the 1348 partial external pressure. It looks like air.
205日目 昼過ぎ 辺境 迷宮 66F
迷宮王――さっき見た階層主だったマンティコアさんよりも数段しょぼい威圧を放ち、懸命にラスボス感を演出した佇まい。きっとただ待っているだけなのに、遥くんの騙る悪影響のせいで穿った見方で見てしまうと……なんだか健気にラスボス感をアピってるように見えてくるの!
「試します!」「「「うん、何があってもフォローするからね!! ぎょ……千佳ちゃん!」」」「今、一瞬名前思い出せてなかったですよね! 絶対忘れかかってましたよね!? なんか急に不安になってきたんですけど!!」
涙目でゆるりと前に出るギョギョっ娘ちゃ……千佳ちゃん。その構えには微塵の緊張もない自然体。だけれど、その表情には緊張が残る。
「――疾っ!」
誰もが盾を構えて縮地の準備を整え、何が起きようと即座に飛び込んで最適な行動が取れるように構える中……たった一刀で迷宮の王が消え去っていく。
そしてへたり込むギョギョっ娘ちゃんを慌てて抱き起こし、全員で囲むように守るけど……もう、迷宮王さんは魔石へと変わる。そして手から溢れ、床に落ちた剣は「西風《ゼピュロス》の剣 StR、SpE、DeX30%アップ 風魔法補正(特大)風操作(特大)風刃 風撃 風盾 風鎧 +ATT」。弱いとはいえ神剣で、試験運用のために最大限の劣化処理を施して神気と能力を押さえた神気を宿した剣。
「「「大丈夫! 茸っ! 茸っ!!」」」「喰いねえ(メディック)! 喰いねえ(メディック)!」「もがががが、もぐもぐー!(大丈夫、って苦しい)! もごごごごーー(大丈夫じゃなくなってきました)!?」
一瞬でも闇から身を守れる武器。最弱の神器。その一刀だけで疲弊する、人には扱いきれない力。
だけど帝国の黒髪の人が一瞬であっても使えていた。つまり、私達にだって使えるはずなの。
そして劣化神斧(ボレアス)を試してお目々ばってんな副Bの横で、目を回してへたり込むギョギョっ娘ちゃん。神聖属性にも特化した大賢者さんでも、最高の魔術制御刀術を誇るギョギョっ娘ちゃんでも一瞬だけで限界。
「遥くんは使えてるのに、なんで……」「逆に私達のLvが高すぎるんでしょう。Lvは能力や効果を発揮させる力でもありますから、劣化させて抑えた力が最大限に発揮されてしまうんでしょう」「いや、あれって棒に複合して、無理やり棒術で使ってるらしいよ?」「「「神器まで騙されてたの!?」」」
だけど問題の原因は私達の自動《チート》。遥くんみたいに魔力量や効果の選択を手動制御していないから、自動的(・・・)に最大限の魔力を送り込んで能力を引き上げてしまっている可能性が高い。
「だって、私達が闇と戦えたら、遥君がご飯とデザートとお菓子と服を作るのに専念できるのにね?」「うん、でもあのビリビリ裂ける衣装《コス》が量産されちゃうと……ママーンズ組は子供を作れちゃいそうだけどね!?」「「「うん、あれは流行るとヤバいね!」」」「微妙に違う意味でエルフさんが買いそうだね!!」
破れれば破れるほど魔力装甲が展開するセクシー下着が強力に作動するせいで、MP枯渇でお母さん組がダウンしてるから……実用化無理だからね? しかも日常であの姿で倒れてると、暗殺の危険とかと関係ない問題が大問題に危ないからね!!
「あの使い捨て思考は錬金っ娘ちゃんなんだろうね?」「「「うん、セクシーミニスカ女教師とか、セクシースリット修道服とか、マキシマムにミニスカ看護婦《ナース》さんとかは遥くんだけどね。絶対に!」」」「魔力枯渇《エンプティー》で試せなかったけど、まだまだメイド服やセーラー服や体操服とかも有るんだって?」「「「うん、お母さんたちの私服に一体何を求めちゃってるの!?」」」
そして、ギョギョっ娘ちゃんと副Bさんをおんぶして帰るんだけど……うん、副Aさんのお顔が「ぐぬぬぬぬ!」ってなってるから、背中から「うりうりりりり(むにゅんむにゅん、ぽよんぽよん)」って押し付けないであげてね? そろそろ本気で捥がれちゃうよ?
「「「「ただいまー、看板娘ちゃん」」」」「おかえりなさい」
そして宿に戻って先に戻っていたコナウィッチの人達と反省会を済ませ、ついでに懸念だったことの情報収集。コナウィッチ族さんは砂漠から出ないけれど、あの場所は共和国西部で大陸の西よりだった。その立地で貴重な魔石の産出地だから大陸西部に商人さんたちとの交流があったらしく、生の貴重な情報を知っていたの。
「西の国家ですか……とにかく人が貧弱ですね?」「そうですね、なんかみんな今にも死にそうでしたね」「ええ、護衛の方は凄い重そうな装備を着てたのに、ただの蠍に殺られてましたし?」「昔、子供にじゃれ付かれただけで骨折したことがあったとか……西方の商人さんたちはか弱いんだそうです」「そういえば歩くのも遅いのに、あれでよく行商するなあと?」「昔、西の軍隊が砂漠に演習に来たら、サンドワーム一匹で全滅しかけて慌てて助けたとか聞きましたよ」「「「ええ、何だかみなさん凄く貧弱なんです」」」
まあ、なんとなく気付いていたけれど異世界の人って特殊な人以外は鑑定ができなくてLvが不明。そしてLvのある世界って……人の強度が全く違う。
「えっと、まさかLv1?」「でも、私達でもLv1で魔の森生き抜けたよね?」「あれはチート能力とステータス補正があったからで、一般の各種ステータス値が10前後でスキル補正のないLv1では相当脆いかと?」
辺境の人はスキル持ちが普通だったけど、実はこっちが異常らしい。よくよく考えれば辺境の人って全員が勇者や英雄の末裔で、魔素の濃い地で永く暮らしてきた特殊事例だった。だから他所から来た商人さん達は孤児っ子ちゃん達が宙を飛び交い遥くんに殺到しているのを見ただけで目を丸くし、小さな象さんがぱおぱおと巨大な石柱を持ち上げ運搬しているだけで驚愕していたんだ?
「遥くんが片っ端から本を集めてるけど、西の方で伝説の魔王ゴブリンナイトを倒した英雄達の話とかあったって?」「ナイトって……それLvいくつなの?」「場所によって違うみたいですが、おおよそ10か15くらいという話で、Lv20はないかと?」「「「Lv20もないゴブさんを英雄達が寄ってたかって虐めちゃったの!?」」」「えっと英雄さんの方が半分以上死んでたそうですよ?」「それ……幼児っ子ちゃんでも無双しちゃわない?」「下手すると乳児院の赤子っ子ちゃん達でも勝てちゃうかも?」
そう、辺境の人が妙に平和的な理由って、偶に物凄く脆い人が居るから気を付けてるらしいの?
「あれ? 帝国はなんで本気出さないのかと思ったら……本気だったとか?」「いや、だって……え、マジ!?」「だってこの前の黒髪のしょぼかった人って帝国では知らないものが居ない大英雄だったんだって?」「「「あー、なんかいたね?」」」
戦女神の伝承では急激に広がり覆い尽くさんとする迷宮と戦い、英雄達を率いて潰しながら東の果てへ追い返し……そこで非業の最期を遂げて終わっていた。その最果ての地が辺境《ここ》だから、その反対側は全く迷宮に覆われもしなければ迷宮が出現しもしていなかった。だから平和に繁栄できた西側は豊かで人口で圧倒しながら……みんなLv1?
「普通に歴史を鑑みれば西側の豊かな列国が、国力の差で東を支配しているはずなんです。数字上では、それだけの経済的な差と人口的規模の国力差がありますから。それができないのが帝国の力かと警戒していましたが……いえ、当然Lv差があるとは思っていましたが、ここまでとは」「「「ああー、だから小田っち達が「西が始まりの街で、辺境《ここ》はボスの城の中」って言ってたんだ?」」」
魔物さんはLvが100を超えると上位化する、そして生態で個体差がある。うん、なんだかエルフの森の魔物って弱いなと思ってはいたけれど……そっか、だから遥くん達はムリムールさんに賭けて乙女の全財産(おやつ代)を奪ったんだ!?
「獣人国の魔物も、辺境に比べれば格段に弱いですよ?」「そうそう、辺境ってコボルト強くて吃驚しました」「エルフも辺境人ヤベえってビビってましたよ、魔物も人も強くて」
辺境を外から見た小田くん達だから気付いていた。ただ、その説明が適当だったけど、あれは辺境の特殊性についてだったんだ?
「あれ? だとすると「一兵が10倍の敵を倒し、孤軍で連合軍を蹴散らす」って言う帝国最強説って……大したこと無い?」「まあ、共和国とは普通に苦戦してますし、教国からは虐められてるだけですから……西相手の話だったんでしょうね? 多分?」
中間に位置する帝国だからLvも中間だとすると、西に強く東に弱い現状の説明が……ついちゃうね?
「Lv1の集団を10人蹴散らすって……武装すれば赤ちゃんでもイケるんじゃない?」「流石に軍までLv1って言うことは無いかと?」「だってサンドワームで軍が壊滅って……5くらい?」「Lv5だと幼児っ子ちゃんでも10人くらいは蹴散らすよね?」「なんか普通に基準にしてますけど、孤児っ子ちゃん達って下手な軍隊より圧倒的に強いんですよ?」「ええ、あの凶悪な装備抜きでも相当かと?」「あの子達、あの年であの強さですから共和国に居れば全員が剣聖に選ばれていますわよ? もう、剣聖だらけになっちゃいますわよ?」「「「そこまでなの!?」」」
コナウィッチの人達の誰もがカテリーヌさんを知っていた。つまり剣聖とは国家を超えた圧倒的な存在、誰もが敬う圧倒的な強さを持ったもの……だけれどカテリーヌさんは才能と技術は有ってもLvは低く、圧倒的に戦いの経験値が不足していた。
「王国は強兵の国として有名ですが、辺境軍はその一兵卒の誰もが王国の将軍級と恐れられていたんです。普通の人族は獣人族には敵いませんからね?」「はい、だから獣人族は昔から王国っていうか辺境人だけめちゃ崇拝してます」「ええ、全員が獣人並みかそれ以上って讃えてました?」「えっと、わりとみんな脳筋なので強いと偉いんです」「「「よく、それで他の国って辺境攻めようって思ったよね!?」」」「あれ? だったらこの街の重武装って……全部無駄?」「正直言いまして、こちらで鍛える以前の軍でしたら、教国全軍で攻めても街以前の問題で……偽迷宮で無理かと?」
確かに教会軍を物凄く警戒していたのに……弱かった? それはもう凄く警戒して遥くんは入念に万全を期して装備を研究しちゃってたのに……全然無傷で終わった。それは最強の教導騎士団とぶつからなかったし、最も危険な大聖堂は着いたら崩落直前だったからだと思っていたけれど……私達は警戒はしていても教会軍に危険なんて感じていなかった、だからこそ何かあるのかと余計に警戒してたくらいだったの?
「そう言えば王国の内戦でも……物々しく出てきたわりに、教導騎士団をシャリセレスさん達って一蹴してたよね?」「練度も脅威でしたが、真の教国の恐ろしさはその装備でしたから……遥さんの内職で完全に戦力が逆転しちゃってましたよ?」「「「うん、やっぱり混沌の原因は遥くんなんだ」」」
そう、遥くんが当たり前に騙るから当たり前だって騙されるけれど、よく考えたら「万が一の即死効果も通さない」って言う基準が既に狂気なの? もう、はなっから確率を捨てて必殺に特化した最強のスキルを真っ向から圧し折ることが当たり前の前提で、それがLv差があると危険かも(・・)とか、100万回通されると百億が一があるかも(・・・・)っていう異常過ぎる安全基準なの。
うん、私達よりLvが高い相手が、万が一しか通らないスキルを100万回も食らわせても、それでも効果が通らない防具って……それ絶対に頭おかしいの? それでまだ完全無効化じゃないと悩んでいるけど、それはできたら異常なことだったの。
「なんとなく、すっごく軽く「ほい」って渡されちゃいましたけど……宝剣ディオレールって大陸の伝説で、気軽に直せたり、なんか序《ついで》で強化されちゃってたり、オマケで新機能とか付いちゃったりしないものなんですよ? みなさん普通にしてましたけど、王家一同がビビって泣いちゃいましたからね?」「えっと……ミスリル足して、ちょちょってイジっただけって言ってなかったっけ?」「ミスリルの武器は神話級なんです! ちょちょって気軽に内職でできたりしないし、足りないからって気軽に神話最強のミスリルゴーレムから略奪したりしないんです!!」
ガラガラと崩壊していく常識。うん、あれだけ用心しててもついつい普通の基準が性帝さんに騙される。装備を見る度に感謝して泣いちゃってたけど、それでも全然足りてなくって、涙が枯れ果ててドライアイになっちゃうくらいの驚愕の安全基準でずっと護られていたようだ。
だって、遥くんは死なないかなって心配して、小田くんや柿崎くんたちを殺して確かめてみてるの? だから私達や小田くんや柿崎くん達、そして周りのみんなの装備って……そっか、遥くんが闇に囚われた時に、殺せるだけの装備をずっと目指してるんだ。小田くんや柿崎くん達だけでなく……私達全員に。