238日目 夜 オイレーン王国連合 温泉旅館城塞グラマラス・イズ・ハッピネス 庭園

露天風呂から上がると、その見慣れた光景に魔人族さんが息を呑む――そのLvが低く弱いという意味を知る。うん、初めてだと意味わからないよね?

「「「ああ、調整……早いね?」」」「何のかんの言って、基準ができたことは大きかったんですよ」「無理矢理造った最強や最速を繋ぎ合わせて造った身体、でした」「だから極端。壊れるのが前提で、中心のない寄せ集めだったんです」「遥くんは削らずに、もっと盛るからねー?」「極限まで無駄を削ってるのに、不可解な意味不明が無意味に増えるって不思議だよね?」

矛盾――結局それこそが遥くんの強さで、だから弱いままらしい。

「あれが……修行……なんですか?」「真似したら駄目ですよ?」「ええ、無意識の動作を全て分解して、細部から精査して組み換え組み立て直すなんてできませんからね?」「うんそれが超高速タップダンスとメルボルンシャッフルになっちゃうのが謎だよね?」「「「あれは……舞踏?」」」「「「うん、でも確認はラジオ体操なんだね?」」」(ポヨポヨ)(ガヲガヲ)(グオグオ) (((((……♪)))))「いや、そこは基本に立ち返ってラジオ体操第一で揃えようよ? うん、だってラジオ体操第四は無茶振りすぎて殺しにかかってるとも言われてる死のラジオ体操で、あれ身体は健康なんだけど、心は病気なんだよ?」

人は極めて無にする。それは反復で無意識に発動するよう体に覚え込ませて、無駄な挙動なく行えるよう無に近付けていく。最速にして無挙動の速さ、迷宮皇さん達が至った極み。

それを……分解しちゃうの?

「いきなりパントマイムからのロボットダンスで……ボディーウェイブ?」「形を作り上げて無にするのが究極。ですが、その強みは固まれば弱点と同じ、です」「表と裏、変化をもたせるのは大事。だけど多すぎれば難しくなります」「普通は削ぎ落とします、盛り盛りにメガ盛りません」

そう、極めた理論を高めて型自体が無辺に自在。それは壊れ続けて維持できなくて、何度も何度も組み直し続けた形よりも奥にある極み。うん、それでさっきも脚が攣って共和国軍さんに激突ケンカキックしてたんだけど……今度は全身筋肉痛で転げ回ってるの? からのシェルスピンでパワームーブ(1990)!?

「「「あ、再生した?」」」「どうして独りであんなに騒々しいんだろうね?」「研ぎ澄ませて極めれば単純。動きの数が増えれば難しい、です。単純な最速は強いですが読まれれば終わりで、慣れれば対処されます」「先の先の数が膨大なほど読めない……でも、それは迷い、生みます」「あれが考えるな、感じろ。無我の境地と言うか、何も考えてないと言うか、考えすら意味不明です」

刹那に最適解(インスピレーション)――閃き思い付くまま気分で動き、すぐに飽きて無限に可変し続ける意味不明。うん、不真面目を極め、楽したいからと楽する方法を究極まで研鑽しちゃった膨大な鍛錬の果ての無と、思うままに何でも試して遊ぶ非常識な無限の有。全にして一つ、その一つこそが無限。

「同じ型が一切ありません、その根源の道理までも変わり変化させながら操っています」「だから技は結果、その理の中心から派生が無限に変化します」「あと、すぐ飽きて、面白がって何でも試します」「「「うん、実はぬこ族さんなんじゃないかな、あの飽きっぽい無軌道な行動パターンは!?」」」「だから変化が全く読めません、その次が見えないんです」「あと、ノリと勢いなんで本人もわかってませんから、感情や思考も読めません」(プルプル!)(グヲグヲ!!)(ガオガオ!?)(((((……♪)))))

変幻自在な縦横無尽が理路整然と狂喜乱舞を生み出す混沌。その理は深く至極甚深に読めず真理に至り、その思うまま振るわれる枝葉末節の技は荒唐無稽の狂乱怒濤。うん、魔人族さんはお口が空いたまま固まってる……うん、消えたと思えば壁に激突して、転んでバク宙で七転八倒で抜刀術の練習が始まる。

「技ではなく理になれば、相手の心を読まないと見えません」「あれは心理こそが理解不能の意味不明です」「あれ、読めちゃうと再起不能なほど深刻で致命的な精神汚染です」「ちょ、俺は真面目なことで有名で、名もなき教師さんからも「森羅万象な狂言綺語が幽玄実攻な攻奇心旺盛な生徒です。先に卒業します、探さないでください」と通信簿にも絶賛な良い学生さんなんだよ?」「「「うん、先生の文章に精神汚染の跡が克明に刻まれちゃってるよ!」」」

技を極めて無にするように、その動作を無に消す。無挙動、研ぎ澄ませて行き着く境地――の斜め上の向こう側の迷子のぬこさんが暴走の何処かの果の先の何か。広大無辺に変幻する無限の動作が、荒唐無稽に組み替えられながら変怪する怪異。

「あっ、あそこで瞬動と反撥のWトリック!?」「しかも多重の方向《ベクトル》偏差で方向が見えませんね」「弱いから殺す。その無理を押し通した結果が、あの儚い鋭さなのでしょう。あと天の邪鬼ですから邪道が得意ですし?」「「「うん、嫌がることを窮めてるよね!」」」

予測、想定、知覚、視界、予想、予見、経験則、そして常識、その斜め上の外の裏からくる夢幻の攻撃の無限な組み合わせの悪辣さ。複雑な方法で足が描き出した高度な魔術陣は目隠しで、本命は影でせっせと触手さんが結んだ草。それに足を引っ掛け転ばせる、盛り上がった地面に躓かせる、背後の樹木に殴らせる、最早それを杖術だと言い張ることこそが恐るべき驚異の身体操作に隠された悪事! そう、ずっと魔の森でやっていたように、遠い異国の夜に技をなぞり確かめて調整していく。

「「「ううぅ……」」」「いや、お風呂上がりだから自粛しましょうね?」「「「ああー、疼いちゃったんだー」」」「未知未見の技を見ると、知りたいと思う本能ですから」「「「うん、その気持がわかる女子高生って言うのが、なんだか結構致命的な気が」」」「でも……あれは学ばない方が健全ですよ?」「ええ、温泉宿の庭園が罠だらけになりますから」

斬線を描いて飛び跳ね、残影を残して空を蹴り、残像と踊り回って躍る。

驚き、魅入られ、見惚れ、憧れる。そうして私達も強くなることが楽しかった、できなかったことができるようになって嬉しかった、そして……常識が壊れて乙女がゴブゴブボコボコ言いながら首狩ってたの? うん、あの楽しそうで愉快な虐殺は、良い子にはお薦めできないんだけど……鬼っ子ちゃんがお目々キラキラでダンスを真似てるの……うん、孤児っ子ちゃんたちと同じお顔だね?

でもね、晩ご飯はまだかなって、いったい何度フラグを立てたらご飯が出てくるのかな? うん、お腹すいたの?