大規模依頼の報酬の配布が完了すると、アタルは事前に受けていた依頼に関しての確認をすることにする。
「大規模依頼の前に俺たちが受けたゴーレムの核集めの依頼の扱いはどうなるんだ?」
受付の職員はそれを受けて手早く依頼の確認をする。
「確認できました。他に同一の依頼を受けていたパーティは壊滅、もしくは依頼破棄をされていますので、唯一報告のあったアタルさんとキャロさんのパーティが依頼達成となりますね。まずはカードの記録を更新します。お二人ともカードの提示をお願いします」
受付嬢に言われるまま、アタルとキャロはカードを提示する。
「……はい、完了です。報酬は依頼主のテイルさんのほうからということですので、魔道具屋のほうで受け取って下さい」
これは二人ともわかっており、それぞれ頷くと、ギルドをあとにした。
「お、いらっしゃい! やっと来てくれたか」
テイルは二人が店に入って来たのを確認すると、嬉しそうに待ってましたと両手を広げて歓迎する。
「待たせて悪かったな。俺の報告がきっかけで少し大それた話になってしまったんだ」
事情があったとはいえ、アタルは時間がかかってしまったことを素直に謝罪する。
「いや、気にしないでくれ。ギルドが動くくらいだから結構問題があることだったんだろ? 親父も納得しているよ」
ひらひらと手を振りながらテイルは気持ちいいまでの笑顔を見せている。そんな風に彼と話していると、奥の工房からは作業をしている音が聞こえて来た。
「親父に見てもらいたいから、奥に来てくれ」
テイルの誘導で、二人は奥の部屋へと案内される。そこでは出会った時と同じように真剣なまなざしで作業しているガザルスの姿があった。
「親父、二人が核をとってきてくれたみたいだ。確認してくれ」
「おぉ、二人とも無事でしたか。息子から話は聞いていましたが、大変でしたね」
ほっと息をつきながら穏やかな笑顔を見せるガザルスは息子のテイルとは異なり、まず二人の無事を喜ぶ。それほどまでに厳しい依頼であることを自覚しているせいだろう。
「あぁ、遅くなってすまなかったな。依頼の品はこれになる」
さっそくというようにアタルは五つの核を空いている作業台の上に並べていく。
「こ、これは、すごい。傷一つついていないなんて……これだけのものであれば報酬に色をつけさせてもらいますよ!」
これほどまでのものを持ってくるとは思っていなかったのか、感動しながらガザルスは核を手に取って確認し、息荒く興奮していた。
「よかった。どうにかして綺麗に取れる方法を考えてやってみたら思いのほかうまくいったんだ……とりあえず五つ出してみたが、実はまだいくつかある」
まだ欲しいか? とアタルは後出しで核を並べていく。これは大規模依頼の際にアタルとキャロが二人で倒した分だった。
あの時、いち早く巨大ゴーレムと戦わねばと思っていたアタルとキャロはどんどん先に進んだため、核の回収は考えていなかった。しかし、他の冒険者が比較的綺麗なものを回収して帰り道に二人に渡してくれていた。
「ま、まだあるんですか! あるだけ買い取ります! これだけの質だったら、いくつでも欲しいくらいだ。依頼以上の物を頂くのですから、もし金額に不満というのであれば、報酬はお金ではなく、欲しい魔道具を譲るということでも構いませんよ!」
「欲しいなら好きなだけ渡すさ。別に俺が持っててもしょうがないものだからな」
こんなにゴーレムの核が大量に手に入ることがないせいか、興奮しっぱなしのガザルスにアタルは躊躇うことなく頷く。ガザルスはそれを聞くやいなや、急いで部屋を出て行った。
「えーっと、どこに行ったんだ?」
穏やかなのんびりした人だと思っていただけに、それを見てアタルは呆気にとられながらテイルに質問をする。
「親父なら多分倉庫に行ったんだと思う。あんたたちに渡す魔道具を取りに行ったんじゃないかな」
少し考えた後、テイルは予想を口にしたが、それは当たっており、倉庫の中でどれがいいかガザルスは吟味していた。
「ギルドでも便利な魔道具をもらったから、使えるやつがあるといいなあ」
「おっ、例の依頼の報酬か。どんなやつなんだ?」
魔道具と聞いてテイルが興味を持ったので、アタルはもらったカップをテーブルの上に置く。
「ほほう、こいつは水を生み出す魔道具か」
カップという形であるため予想はたやすいと思われたが、テイルの場合ははっきりと魔道具として持つ能力を見極めて判断していた。
「見てわかるのか?」
「あぁ、親父ほどじゃないけど俺も魔道具作ったりしてるから、少しはな」
気恥ずかしいのかテイルは照れた様子でアタルから視線を外していた。だがそれでもカップから目を離さないのは魔道具作りのヒントを得ようとしているのだろう。その気持ちを汲み取ったのかアタルは好きにさせることにした。
しばらくするとガザルスが腕に何かを抱えながら走って戻って来た。
「はあはあ、お待たせしました」
少し息を切らしながらも、持ってきた魔道具を順番に並べていく。
「これと、これと、これと、あぁ、もう全部並べるぞ。テイルも手伝ってくれ」
彼はいろんな魔道具を袋に大量にかき集めていれてきていたらしく、袋を漁るように開いて二人で並べていく。
次々と並べられていく魔道具たちにアタルとキャロは呆気にとられながらその様子を眺めていた。
「さあ、お好きなものをどうぞ。これだけの数を譲って頂けるのであれば三つ選んで下さい」
ギルドでもらったものもそうだったが、特注で作られるような魔道具はどれも高価であり、それを三つともなればしばらく遊んで暮らせるほどだった。それが大量に並べられている状況にアタルたちは困惑を隠しきれなかった。
「お好きなものといわれても、効果がわからないからなんともな……」
「ですですっ」
困ったようにそれらを見ているアタルの言葉にキャロも苦笑交じりでこくこくと頷いていた。
「あー、そうでした。普通は見てもわからないですよね。それでは、私のほうで一つずつ特徴を説明していきましょう」
申し訳なさそうにそう言ったガザルスは手近なものを手に取って、意気揚々とその説明を始めていく。
テイルは父親の説明が長いことを知っており、密かに逃げ出していた。
しかし、アタルとキャロにとってはどれも珍しいものであるため、説明が多少長くても退屈せずに聞くことができた。時折アタルたちからの質問も交えたそれは熱く盛り上がっていった。
それから二時間経過。
「よし、それじゃあ俺が二つ選ぶから、キャロも好きなものを一つ選んでいいぞ」
全ての説明を聞いたうえで、それぞれが欲しいものを選択することになる。
「ほんとですか! それじゃあ、私はこれがいいですっ!」
まさか自分に選ぶ権利があると思っていなかったキャロが興奮交じりに選んだのは、魔力を流すと身に着けたものの周囲に薄い水の障壁を張るというものだった。
炎の魔法を使われた時に耐性が高まるというためではなく、これを使えば暑い場所でも周囲の気温を下げることができるためだった。
「なるほど、それは結構便利だよな。じゃあ、俺はこれとこれにしよう」
嬉しそうに貰った魔道具を抱いているキャロの頭を撫でたのち、アタルが選んだものは身に着けたものの魔力を高めるペンダントと、走る速度を上げる靴だった。