Magi Craft Meister

12-17 Edgar

カイナ村に戻ると、ちょうどお昼時。

「ジン様、お帰りなさいませ。エルザ、お帰り」

ミーネが出迎えてくれる。漂う匂いは、パンを焼いていたようだ。

「焼きたてのパンがありますよ」

ちょうどいい、と、仁は礼子と共にマーサ邸へ。

「おやジン、レーコちゃんが持っているものは何だい?」

礼子の持っている鍋を見て、マーサが尋ねてきた。

「粒あんですよ。これをパンに付けて食べるんです。好き嫌いはあるかも知れませんが、俺の故郷の食べ方です」

「あ、ほにーひゃん、おはえりなはい」

手を洗ってきたハンナが食堂で仁を見つけて嬉しそうに笑った。

「ハンナ、ただいま。……さあ、食べてみて下さい」

仁は率先してあんこをスプーンですくってパンに乗せる。

他の者も真似してあんこをパンに乗せた。

一口食べた者はその甘さに驚いた。

「あまーい!」

にこにこ顔のハンナ。今回仁が一番見たかったものだ。

お土産を持って来られなかったことを気にしていたのである。

「ジン兄、美味しい」

「甘いねえ。ちょっと塗れば十分だね」

「ジン様、『あんこ』っていうのですか? 見た目はちょっと良くないですけど美味しいですね」

塩味のスープを飲み、甘いパンを食べる。みんなあんこの味が気に入ってくれたようで、仁はほっとした。

(でもカイナ村じゃサトウキビの栽培は無理だろうな……そうなるとテンサイも見つけたいところだ)

砂糖は貴重品であるから、自給自足しない限り、頻繁には食べられないだろう。

(でも虫歯予防には、たまに、でいいのかも)

前歯が抜けているハンナの顔を見てそんな事も思う仁であった。

食事を済ませると、仁は再びエルザと共に蓬莱島へ。

(明日は時間いっぱい、ハンナに付き合ってやろう……)

そう思いながら。

「さてエルザ」

工房で作業台を挟み、エルザと向かいあった仁は、新たな課題をエルザに出す。

「自動人形(オートマタ)を作ってごらん」

「……え?」

エルザは己の耳を疑った。まだ魔法工作(マギクラフト)を始めて間もない自分に作れるだろうか、と。

「もうエルザは十分実力がある。足りないのは経験だ。俺が見ているから、やってごらん」

「…………」

仁にそこまで言われては、エルザも嫌とは言えない。

「うん、やってみる」

一つ頷いて、まずは手順を考えてみた。

「……骨格、魔導装置(マギデバイス)、筋肉、頭部、皮膚、制御核(コントロールコア)……」

「うんうん、だいたいそんなところでいい。最初はあまり大きなものは止めて、そうだな、礼子くらいのものから始めてごらん」

横にいる礼子の肩を叩いた仁。

「……わかった」

まだ少し自信無さげだが、それでもエルザは材料を選別し始めた。

「最初は使い慣れた軽銀がいいだろうな」

仁のアドバイス。軽銀は、日頃から加工しているため、エルザも馴染んでいた。

但し軽銀は、普通なら初心者が使うような素材ではないことを、仁もエルザも気が付いていない。

仁がエルザに軽銀を勧めた理由は単純だ。使い慣れた素材というのは、加工時の魔力ロスも小さくて済むのである。

仁は何も問題無いが、いくらエルザが魔力過多症とはいえ、魔力を使い切ってしまえば身体の不調となって現れる。

先日、『完治(ゲネーズング)』を憶えたときがそうであった。

仁のアドバイスを素直に聞き、エルザは軽銀を使う事にする。軽銀は仁も良く使う素材であるから、いつでも大量に用意されているのだ。

「『変形(フォーミング)』」

さっそく加工を開始するエルザ。どうやら構想も固まったらしい。

仁は黙ってそれを見つめているが、内心、初めて礼子(と命名する前だが)を作り直した時の事を思い出していた。

十数回の加工により、エルザの前には自動人形(オートマタ)の骨格が出来上がった。マスコット人形で類似のものを作った経験が生きたようである。

「……どう、ジン兄?」

おそるおそる仁の顔を伺うエルザ。仁はにっこり笑って頷いた。

「合格だ。上達したな、エルザ」

その言葉を聞いたエルザもにっこりと笑った。

「さて、そうしたらちょっとしたコツだ。関節が磨り減るのを防ぐために……」

少量のアダマンタイトを持ち出し、

「『鍍金(プレーティング)』」

表面にメッキをして見せる仁。

「こうすることで摩擦を減らし、耐久性を上げるんだ。やってごらん」

他の関節は全てエルザにやらせる仁。そしてエルザはその期待に応え、その技術にも習熟していったのである。

こうして仁に見守られ、作り続けること4時間。

「……出来たな」

エルザはついに、初の自動人形(オートマタ)を完成させたのであった。仁も細部まで確認してやり、まったく問題ないと太鼓判を押した。

外見は少年型。エルザと同じプラチナブロンドの髪。閉じていて見えないが、瞳も水色である。

「……ジン兄なら、1体作るのはどのくらいかかるの?」

作り終えてほっとしたエルザからの質問。

「うーん、1時間くらいかな?」

それは控えめな数字である。本気を出したならその倍以上の製作速度、30分もかからないのは間違いない。

もっとも、最近は老君や職人(スミス)が下準備を済ませてくれているので、仁が一から製作することはほとんど無いのであるが。

「……頑張る」

そんなエルザの肩を優しく叩いた仁は、

「さあ、最後の仕事だ、起動させてごらん」

と言って、エルザを促した。

「うん。……『起動』」

魔鍵語(キーワード)に応え、自動人形(オートマタ)はゆっくりと起き上がった。

「はじめまして、製作主(クリエイター)様」

「エルザ、名前を付けてやれ」

「うん。……あなたの名前は『エドガー』」

「はい、私の名前は『エドガー』です」

こうして、エドガーはエルザの初自動人形(オートマタ)として誕生したのである。

礼子はその様子を微笑ましそうに見ていた。自分が作られたときのことを思い出していたのかもしれない。

エルザは気付いていないが、エドガーの基礎制御魔導式(コントロールシステム)は礼子の配下、ソレイユやルーナと同じもの。

正式な仁の弟子、ということで行った知識転写(トランスインフォ)のおかげで、アドリアナ系の基礎制御魔導式(コントロールシステム)を使えるようになったのである。

これがどんな意味を持つのかエルザは知らない。

同じく仁も知らない。ラインハルトに世界の標準を知るべきと言われる所以(ゆえん)である。

そんな似た者師弟となった2人であった。

閑話休題。

「じゃあ、あとは服だな」

まだエドガーは裸である。

「まあ、エルザは男物の下着とか詳しくないだろうし、時間もあまりないから、それは俺が作ってやろう。エルザが初めて自動人形(オートマタ)を作ったお祝いだ」

仁は棚から地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸で織った布を取り出すと、手早くトランクスを作り上げる。メリヤス状に織られた布からはTシャツを作る。トランクスにはゴムを入れる念の入れよう。

ちなみにここまで約5分。

そばで見ていたエルザは、少しだけついた自信が脆くも崩れ去るのを感じた。だが、すぐに立ち直る。

「……いつかは、私も」

エルザの一番の長所は、このめげなさかもしれない。

上着は黒く染め、ブレザー風に仕立てた。蝶ネクタイまでさせ、気分はお坊ちゃんだ。

「さあ、できた」

「……かっこいい」

そこには、昭和のお坊ちゃまといったいでたちで、エルザ初の自動人形(オートマタ)、エドガーが立っていた。

黒のブレザー、黒のズボン。白いワイシャツに黒の蝶ネクタイ。そして白い靴下に黒い革靴。

「ありがとうございました、ジン様」

そう言ってお辞儀するエドガー。仕草も決まっていた。