Magi Craft Meister

24-21 gossip 47 magic fort

3457年4月23日、人間の住む大陸統一を目論んだ『統一党(ユニファイラー)』は、仁率いる蓬莱島部隊によって壊滅した。

統一党(ユニファイラー)は、狂った自動人形(オートマタ)、『黄金の破壊姫』エレナによって率いられていたが、その手段である洗脳魔法『催眠(ヒュプノ)』『暗示(セデュース)』を解除することで、ほとんどの党員は正気に戻り、そのまま新生『懐古党(ノスタルギア)』として、大陸情勢の安定化に貢献することとなったのである。

だが、それを良しとしないものも何人かいた。

元々、私利私欲に凝り固まったような者は統一党(ユニファイラー)にはほとんどおらず、いたとしても幹部には到底なれはしない。

が、魔法技術的な技能を持つものは例外であった。

大抵は『技術馬鹿』と評される人種で、好きな研究さえできればパトロンは問わない、という者が多かった。

実力を買われて、洗脳無しで統一党(ユニファイラー)に付いていた者が大半で、そのような連中はいち早く逃げ出していたのである。

「ふん、統一党(ユニファイラー)も俺の能力を生かし切れなかったなあ」

ぼやきながら、統一党(ユニファイラー)技術部門副部長だったダジュール・ハーヴェイは夜道をひた走っていた。

と言っても、走っているのは彼の作ったゴーレムで、ダジュール本人は背負われているのだが。

「……しかし揺れるな……気持ち悪くなってきたぞ……」

ゴーレムの全力疾走はおよそ時速30キロ。上下動もそれなりに激しく、背負われているダジュールは気分が悪くなってきたが、ゴーレムを止めるわけにもいかず、そのまま走り続けるのだった。

統一党(ユニファイラー)本部があったセルロア王国カシムノーレ付近から、フランツ王国ゲンフまではおよそ80キロ。途中、道なき道も進み、国境を越える。

国境を越えれば一安心、と、ゴーレムの速度を緩めたので、気分が悪いのはなんとか解消されたものの、今度は空腹が襲ってきた。

「腹が減った……喉が渇いた……」

ほぼ丸1日飲まず食わずでいたため、ダジュールはもう限界に近かった。

イヤルの町を横に見て、テ・トに近付いたのは夜明け近く。そこでダジュールは気が遠くなってしまった。

*   *   *

「……うう……」

ダジュール・ハーヴェイが再び意識を取り戻したの快適な寝台の上だった。

枕元には水差しとコップが置いてあり、ダジュールは夢中で水差しを手に取ると、直接口を付け、中身を飲み干した。

「……ふう」

耐え難い喉の渇きが収まると、周囲を見回す余裕が出て来た。

「ここは?」

彼がいたのは、こぢんまりとしてはいるが清潔な部屋の中。生活感はないので、普段は使われていない部屋だろうと思われた。

その時、ドアが開き、2人の男が姿を見せた。

「おお、気が付いたか」

「あんたは……」

姿を見せた男の1人は、40代後半、やや小柄で、横幅の方がありそうなくらいに肥えた体躯。くすんだ金髪、青灰色の目。もう1人は護衛らしい。

「……オランジュ公、だったか」

幹部の1人だったダジュールには、統一党(ユニファイラー)の支援者の1人であるオランジュ公のことは見覚えがあったのである。

「そういう君はダジュール・ハーヴェイとか言ったな」

ダジュールは頷いた。

「……統一党(ユニファイラー)が敗れたことは聞いている。相手はわからないのか?」

「……ええ。デウス・エクス・マキナとか言う奴らしいということ以外は」

「ふむ、先日の紛争をひっくり返した奴だな」

「そういうことだね」

その時、ダジュールの腹の虫が盛大な音を立てた。

「ふん、腹が空いているようだな。食事を運ばせよう。詳しい話はそれからだ」

*   *   *

「この砦がそうだ」

3日後、ダジュール・ハーヴェイはクロゥ砦にいた。

あの後、オランジュ公から古代遺物(アーティファクト)が沢山残っている砦の話を聞いたのである。

「統一党(ユニファイラー)支援者の癖に、報告しなかったのですか?」

ダジュールがそう言うと、オランジュ公は鼻で笑った。

「ふん、支援はする。いや、していた。が、それはそれ、これはこれだ。この砦は貴重だ。みすみす他人にくれてやるのは惜しい」

その言葉どおり、クロゥ砦は、ダジュールの目から見てもすばらしいものだった。

何より、『青髪の自動人形(オートマタ)』が残っていたのである。

「エレナが見たら破壊しろ、と言うだろうな」

ダジュールはにやりと笑い、青髪の自動人形(オートマタ)の修理に取りかかったのである。

「……くそっ、天才の俺にもわからないことがあるなんて!」

ダジュールは1人毒づいていた。修理中の青髪の自動人形(オートマタ)、その中身の一部が理解も解析もできないのである。

「こういうもの、としておくしかないか」

それは仁が『魔素変換器(エーテルコンバーター)』『魔力炉(マナドライバー)』と呼ぶ魔導装置(マギデバイス)だった。

その精緻な構成は到底、『自称天才』のダジュールの理解が及ぶところではなかったのである。

それで仕方なく、ダジュールは外の部分、すなわち駆動系と制御系の整備を行ったのである。

『ゴシュジンサマ、ナンナリトオモウシツケクダサイ』

修理した自動人形(オートマタ)がたどたどしい言葉でダジュールに挨拶する。

ダジュールの技術ではこの程度までしか修理できなかったのである。

「さっさとしろ、この愚図め!」

『モウシワケモゴザイマセン』

ロルと名乗った自動人形(オートマタ)は、起動時に目の前にいた人間を主人と認めるよう設定されていた。

そのため、何の苦労もせずに、ダジュールはロルの主人となったのである。

『ソノオクニ ホサヨウノ オートマタガ アルハズデス』

ロルの知識は大したことがなかったが、1つだけ大きく役に立った。それは、クロゥ砦司令官の補佐用自動人形(オートマタ)の存在を知っていたことである。

その自動人形(オートマタ)は『レファ』と言った。

「最優先でこいつをまともに喋れるようにしてくれ」

「言われるまでもない」

オランジュ公とダジュールの意思は同じであった。補佐役自動人形(オートマタ)のレファがいれば、クロゥ砦の機能を取り戻すのはずっと楽になるだろうから。

そしてダジュールは、オランジュ公の腹心である技術者、ボッカー・オーヴと協力し、レファを修理していく。

『オランジュサマ、ヨロシクオネガイイタシマス』

とりあえず会話ができるように修理されたレファは情報の宝庫であった。

『頭脳』を再起動できれば、魔導砦(マギフォートレス)の全機能がよみがえること。

地下室があり、そこにはさまざまな古代遺物(アーティファクト)級の魔導具が眠っていること。

そしてかつての、つまり魔導大戦前の、文化・文明の知識。

オランジュ公は、ダジュール他の魔導技師に、『頭脳』をよみがえらせるよう指示を出した。同時に地下室の捜索も命じる。

そして、過去の貴重な知識は、他の誰にも渡すことなく、己一人で独占するのだった。

ダジュール以外にも、統一党(ユニファイラー)から脱出してきた技術者がクロゥ砦にやって来た。

ここは身を隠すと共に、過去の超技術に触れる事ができるため、技術者にとって、統一党(ユニファイラー)と同様、居心地のいい場所であったのだ。

相変わらず、『魔素変換器(エーテルコンバーター)』と『魔力炉(マナドライバー)』の構造・製法は理解できなかったが。

*   *   *

そして少し、時は流れ。オランジュ公は反逆者となり、クロゥ砦に逃げ込んできた。

こういう事もあろうかと、砦内には1年分の食糧・水・薬品が運び込まれていたため、困ることはなかったが、袋の鼠となったのは事実。

「何、反乱軍(解放隊(パルチザン)のこと)を倒し、私が王になればそれで済む」

オランジュ元公爵はクロゥ砦の潜在能力を高く評価していた。

『修理用ゴーレムがあるはずです』

ある時、レファの口から貴重な情報がもたらされた。

魔導砦(マギフォートレス)を整備するための専用ゴーレム。それが見つかれば、一気に修理が進むだろうから。

そして……。

地下室の奥深くに保管されていた修理用ゴーレムが見つかったのは、3458年3月9日のことであった。

これにより、事態は一気に動くことになる。