「レイラ、団長が呼んでるぜ」

「分かったわ」

宿の一室で静かに読書をしていたレイラは、扉の向こうから聞こえてきた声に返事をする。

「今度は何したんだ?」

「何かしたつもりはないんだけど」

本に栞を挟み近くの机に置いて、部屋の扉を開く。

そこには、上半身を大きくはだけたいかにも盗賊っぽい恰好の男がいた。

男はニヤニヤと笑みを浮かべながらレイラを見下ろしている。その笑みには下卑たものは感じないが、何となく不快に感じたレイラは勢いよく足を踏みつけた。

「ぎゃぁぁあああ! 何しやがる!」

「その笑いが気に入らなかったの。仕方がないわ、自分の歪んだ顔を呪いなさい」

「んなわけねぇだろ! 理不尽すぎるわ」

軽口をたたきつつ、男を連れて階段を下りれば、そこは食堂になっていた。

そして食堂の隅の大きなテーブルに、レイラを呼んだ男エルシャルド傭兵団団長エルシャルドがいた。瞼を閉じて腕を組んだ姿は物静かだが、その背中から怒りのオーラが溢れているのは、周囲にいる団員達にも嫌と言うほど理解できていた。

レイラを呼んだ男も、そそくさと離れた位置の席に座り仲間と会話を始める。

レイラは一つため息をついて団長の下へと足を運んだ。

「呼ばれたって聞いたけど?」

「来たか。まあ座れ」

団長の指示に従い、彼の正面に座る。

「二十回目だ」

「?」

エルシャルドが突如として出してきた数字に、レイラは首をかしげる。

「お前がうちの傭兵団に入ってから、お前が原因で来た苦情の数だ!」

団長がダンッとテーブルに手を叩き付け、怒りをあらわにする。

近くにいた数人の仲間たちは、肩をビクッと跳ね上げ、身を縮こまらせている。

「どうやったら一か月でこれだけの苦情を持ってこれるんだ! お前は!」

レイラがエルシャルド傭兵団に正式に加入したのは、今から一か月前。

紹介された当初は、団長も仲間を殺されたとあって入団に難色を示していたが、フォルツェの強い推薦と、元アカデミーの成績優秀者であったことを考慮してフォルツェのサポートとして入団することが許可されたのだ。

しかし、入団当初仲間殺しを理由にレイラは他のメンバーからかなり疎まれていた。

嫌がらせは当然として、レイラが女であることも災いし何度か襲い掛かられたこともある。当然のように撃退してそのたびにオカマが増えることになった事実は、団長を未だに悩ませている原因の一つである。

そして、さらに問題は続いた。

傭兵団は現在帝国の首都に近い町まで戻ってきていた。

そこには、帝国にやとわれた傭兵たちが沢山おり、中にはエルシャルド傭兵団と同じようにアルミュナーレを持つ傭兵団もある。

そんな彼らが、見た目ならば美少女であるレイラを放っておくはずがないのだ。

買い出しを頼まれれば大量の傭兵やチンピラに絡まれ、そのたびにレイラの剣が血を吸うことになったのは想像に難くない。

絡まれたのだから対処するのは当たり前だ。そのことに対して、絡んだ傭兵団は文句を言えるはずがない。

しかし、いささかレイラの対処がマズかった。

レイラを襲った男たちが、ことごとく屍となったのである。

自業自得とはいえ、戦力をそがれたそれぞれの傭兵団は当然のようにエルシャルド傭兵団に対して抗議を行った。

だが、エルシャルド傭兵団としても向こうが悪いのに謝ることはできない。しかし、傭兵団の中で孤立することは、情報の共有や協力の面から見ても悪手だ。

だから団長はそのたびにどこで手打ちにするかという交渉を重ねていたのだ。

「今度はザッツ傭兵団だ! あそこはアルミュナーレ持ちなんだぞ!」

「そんなの知らないわよ。絡まれたから対処しただけだもの。それとも団長は、私に無抵抗で襲われていろっていうの?」

「そうはいっていない。しかし殺す必要はないと言っているんだ」

「別に傭兵の替えなんて掃いて捨てるほどいるじゃない」

「そういう問題ではない! それに今回は手打ちでは済まないんだぞ」

「どういうことよ」

団長の言葉に、レイラは眉をしかめる。

これまではどの傭兵団であっても、手打ちに持ち込めていた。それは、エルシャルド傭兵団がドゥ・リベープルの一員であり、アルミュナーレを保有しているという事実があったからだ。

しかし今回の相手もアルミュナーレを保有している。つまり、同じドゥ・リベープル一員であり、傭兵団の力関係でも拮抗しているということだ。

故に団長は、今回の相手は手打ちに持ち込むのは難しいと考えていた。おそらく何かしらのケジメを要求されると。

「向こうはお前の引き渡しを要求してきた」

「あら、いつも通り断ればいいじゃない」

これまでもレイラをよこせという要求を出してきた傭兵団はいくつかあった。団長としてもここまで問題を持ち込むレイラをさっさと渡してしまいたい気持ちもあったのだが、フォルツェのお気に入りと言うこともあり渋々断ってきたのだ。

「もちろんそうした。まだフォルツェに殺されるつもりはないからな」

「あの子も大概よね。気に入らないとガンガン殺すし。私の最初の仲間殺しなんて大したことないじゃない」

「あいつは仲間を殺すことはない。馬は多くやられたがな」

そのたびに買い直す出費で、団長が頭を痛めたのは言うまでもない。

「で、そしたら向こうはなんて言ってきたの?」

「ドゥ・リベープルの掟を適用して、決闘を要求してきた」

「決闘?」

傭兵とは無縁そうな言葉に、レイラは再び首をかしげる。

「ドゥ・リベープルに所属するには数個の掟を順守する必要がある」

一つ、ドゥ・リベープルに関しての詳細を探らない。

一つ、濃縮魔力液(ハイマギアリキッド)の精製所を黙秘する。

一つ、傭兵どうしの問題が発生した場合は、決闘をもって勝者に従う。

このほかにもいくつかの取り決めがあるが、すべての傭兵に適用されるのはこの三つだ。

そして、相手は今回この三つめの掟を利用してきた。

「ふーん、勝者が決めるねぇ」

「実質傭兵団どうしの戦争だ。勝者が全てを奪い、敗者は食い荒らされる」

「簡単で分かりやすいじゃない。つまり、アルミュナーレどうしで戦えってことでしょ」

「簡単に言ってくれる。動かすだけで莫大な金が飛ぶんだぞ。お前のいた学校の様に、国が払ってくれるわけではないのだ」

「なら勝って、相手から奪えばいいのよ」

なおも簡単に言い放つレイラに、団長は頭を抱えたくなる。

「なになに? 戦争するの?」

さらに追い打ちをかけるように、最悪のタイミングで最悪の相手が現れた。

二階から降りてきたのは、笑みを浮かべるフォルツェだ。

「別の傭兵団が喧嘩売ってきたらしいわよ。決闘したいんですって」

「アルミュナーレで踏みつぶすの?」

「相手も持ってるらしいわ」

「いいね! 凄くいい! 戻ってきてから暇だったんだよね! ちょうど機体の整備とか新しいシステムとか組み込めたみたいだし、試運転にはちょうどいいかも!」

「お前ら勝手に話を進めるな!」

すでに戦うことが決まっているような二人の口ぶりに、団長が声を上げた。

それに不満そうな二人は、唇を尖らせながらそれぞれに抗議する。

「なによ、戦いたくないの? 大量の資金が手に入るチャンスじゃない。しかも、上手くいけばジェネレーターも手に入るのよ?」

「ぶーぶー、殺し合いさせてくれないと、裏切っちゃうぞ?」

「お前らは……」

これまで、沢山の傭兵たちを率い、数多くの戦果を挙げてきた歴戦の勇士であるエルシャルドであっても、最悪の問題児二人を相手にするのは荷が重すぎたのだった。

二週間後、町から少し離れた草原に、二機のアルミュナーレが対峙していた。

一機はシンプルな特に装飾のない機体だ。両腰に剣を下げているスタンダートタイプ。そして、もう一機はかなり特徴的な機体だった。

全身に刺々しい装飾が施され、巨大な槍を二本肩にジョイントしており、さらに両腰に一本ずつと腰の裏側にも二本剣が装着されている。

太ももにまでナイフサイズの剣が装着されているのを見て、レイラはげんなりとした表情をした。

それを見ていた仲間の一人が問いかける。

「どうしたんだ?」

「何あの機体……凄い歪ね。あんなので戦えるの?」

「何言ってんだ。八本牙のザッツっていやぁ、傭兵界隈じゃかなり有名だぜ」

「そうなの?」

「ま、レイラはまだまだ新入りだからな。その辺は俺たち先輩に学んでいけばいいさ」

そう自慢げに語る仲間にイラッときたレイラは、徐に片足を持ち上げ相手の足の甲目がけて振り下ろす。

しかし、男はそれを知っていたかのようにすっと足を引いて躱し、レイラに向けて自慢げな表情を見せた。

直後、その表情が苦悶に歪む。

「甘いわよ」

躱された後、レイラは即座に体を懐へと潜り込ませ、男の鳩尾に拳をめり込ませていた。

「それはシャレにならな……」

「躱すのが悪いわ」

「りふ……」

男は最後まで言葉を言い切ることなくその場に崩れ落ちる。

周りの仲間たちは、もはや見慣れた光景だと男を無視していた。

そして、二機のアルミュナーレが同時に動き出す。

フォルツェは剣を抜きながら一気に駆け出し相手の機体へと迫る。

逆に敵機はその場から後退しつつ、肩から槍を取り出した。

剣を相手にするならば、槍は間違いなく有利だろう。その間合いの広さを生かせれば、剣の有効打はほぼなくなる。

フォルツェもそれは分かっている。すぐにアイスランスを発動させ、相手に向けて放つ。

アイスランスは、相手のマジックシールドによって威力を減衰させられ、槍によって簡単に砕かれてしまう。

しかし、槍はその大きさの分隙が大きくなる。

アイスランスを放った直後に一気に加速を掛けて機体を飛び込ませたフォルツェ機が、すでに相手の目の前にいた。

「一撃目は!」

下からの切り上げ。それは、相手が左手に持つ剣によって防がれる。

さらに続けざまにと、フォルツェは両手の剣を振るっていく。しかし、相手も一流の傭兵。簡単に有効打は入れさせない。

槍と剣。二種類の武器を巧みに使いこなしながら、フォルツェの攻撃を的確に弾いていく。

「なかなかやるね!」

「貴様の攻撃は単調だな」

興奮した様子のフォルツェの声に、相手の機体から落ち付いた返事が聞こえた。そして、相手機が動く。

一瞬力を込めたパリィがフォルツェ機の剣を大きく弾く。そして、出来た一瞬の隙をついて、相手の機体が攻勢に出た。

持っていた槍を振るい、それが躱されたのを確認した瞬間、その槍を投げ捨てつつ、腰にあったもう一本の剣を抜いて斬りかかる。

突然の変則的な動きに、フォルツェは防御するのが精いっぱいの様子だ。

その様子を眺めながら、レイラは感想を呟く。

「強敵がいなかったからかしら? 意外と攻撃が素直なのよね」

レイラから見ても、フォルツェの攻撃は単調だ。フェイントは少なく、リズムも崩れない。これでは、幾度となく戦闘を経験してきたベテラン勢には苦戦して当然だろう。

「おいおい、これマズくないか」

苦しそうに腹を抱えながら、涙目になりつつ男が呟く。それは、他のメンバーの気持ちを代弁したものだった。

しかし、レイラの様子に焦りは見られない。防戦一方になっているはずのフォルツェからも、まだまだ楽しそうな声が聞こえてきていた。

「いいね! そっか、フェイントはそうやるんだね!」

「この状況でお勉強のつもりか?」

「いつだって勉強さ! 僕はもっと強くなれるからね!」

「その前に殺してやろう!」

敵機のリズムが変わる。

同時に、敵機の剣が宙を舞った。

二本の剣が常に宙を舞い、残りの二本がフォルツェ機目がけて振るわれる。

躱し、いなし、弾いたと思えば、いつの間にかその剣は手元から消えていて、落ちてきた剣を握ってる敵機がいる。

それはまるで、ジャグラーの様に剣を操り、四本の腕で攻撃されているような気にさえされた。

「クッ、これはなかなか」

必死になって攻撃を躱すが、徐々に機体の傷が増えていく。

あまりにも苛烈な攻撃に、フォルツェの機体が対応しきれていないのだ。

「さらに行くぞ!」

その声と共に、剣劇の中に槍の攻撃が追加された。

槍は機体の周りをクルクルと回転しながら、曲芸の様にどこからともなく迫ってくる。

はたから見ていたレイラでも、その連撃は素晴らしいと感じた。

「あれはなかなかできるものじゃないわね」

「八本牙の由来があれだ。槍二本、剣四本、短剣二本による連続攻撃。フォルツェにしのぐ方法なんかあんのかよ」

ようやく回復してきた男がよろよろと立ち上がりながら説明してくれる。この説明があるから、レイラもそこまでキツくは当たらないのだ。

もしそうでなければ、とっくの昔に内蔵が破裂していただろう。

「まあ、何とかなるんじゃない」

「その理由は?」

「あの機体、新しいシステム入れてるみたいだし」

レイラもアルミュナーレの一通りの知識を付けているということで、機体の整備を手伝わされたりもしていたが、その時にフォルツェは新しいシステムを組み込んでいた。

ただ見ている限り、かなり危険そうなシステムではあったが。

「まあ、そろそろ使うんじゃないかしら。フォルツェもだいぶ満足してきたみたいだし」

機体の表面こそボロボロになっているフォルツェ機だが、有効打はいまだに一発も喰らっていなかった。

それどころか、だんだんと今の攻撃に対処し始めている。

それと比例するように、先ほどまで聞こえていた楽しそうな笑い声が鳴りを潜めていた。

「じゃあ、勉強もできたし、そろそろ終わりにしようか」

「なに?」

フォルツェが小さく呟いた直後、敵が一瞬フォルツェ機を見失った。

フォルツェ機が、寝ているのかと間違うほどに態勢を低くしたのだ。そして足元を払い、バランスを崩しているうちに一気に後退する。

「楽しかったよ。じゃあ僕も本気で行くからね! リミッティア・ペルフェシィー発動。アイスコーティング、アイスボード発動。残り二分だ」

フォルツェがシステムを起動させると、機体の関節部が氷におおわれていく。それと同時に、機体全体からジュウジュウと白い煙が立ち上り始めた。

そして動く。

グッと低くした姿勢から勢いよく飛び出した機体は、先ほどまでとはくらべものにならない速度で相手へと迫り、その後方へと駆け抜けた。

敵機が驚いて振り返ろうとしているうちに、フォルツェはすでに背後へと回り込み、剣を振り降ろす。

剣は鎧を貫かないが、機体に深い傷をつけた。

敵機は驚きながらも振り返り、剣を振るう。しかしそこにフォルツェ機はいない。

「こっちだよ」

声が聞こえたのは頭上だ。

見上げたそこには、飛び上がったフォルツェ機が迫っており、そのまま敵機の頭部を踏みつけ、一回転しながら再び背後へと回る。

「何が起きている!?」

「遅い! 遅すぎるよ!」

歓喜に震える声と共に、敵機に再び衝撃が走った。

今度は足を切られたのだ。しかし、これも致命傷にはなっていない。そこで敵機の操縦者は気づいた。遊ばれているのだと。

「貴様!」

激昂して剣を振る。しかしその剣はまたも空を切った。

決して敵機の操縦者が怒りに我を忘れているわけではない。長い期間で培われた技術は、その程度のことでは失われない。

しかしそれでも当たらないのは、フォルツェ機の速度が完全にアルミュナーレの限界速度を超えているからだ。

「残り一分。仕上げにかかるよ!」

もはやそこからは一方的な戦いだった。

敵機はフォルツェ機をとらえることが出来ず、ただフォルツェ機がいた場所を見ながら機体をその場でぐるぐると回転させるだけ。

フォルツェ機は致命打とは言えないレベルの攻撃をひたすら浴びせ続け、相手の機体ばボロボロになっていくのを楽しんでいた。

そして最後の時が来る。

「これで終わりだよ!」

「俺を舐めるなぁぁああああ!」

敵機の操縦席が貫かれるとともに、ジェネレーターが異常な稼働音を立て始めた。

その異常に真っ先に気づいたのは、エルシャルド傭兵団のメカニックだ。

「マズい! あいつ、ジェネレータを暴走させやがった! 早く止めないと爆発するぞ!」

それは敗者による最後のあがきだ。

すべてを奪われるのならば、奪われないようにしてしまえばいい。

ジェネレーターを爆破してしまえば、周囲もろとも仲間も巻き込んで吹き飛ぶ。自分たちは死ぬが、奪われるものは何もなくなると。

「チッ、往生際が悪い。フォルツェ! 惜しいがジェネレーターを破壊しろ!」

エルシャルドは即座に敵機のジェネレーターの廃棄を決定した。

そうしなければ、ここにいる自分たちも危険だからだ。もちろんそれに異を唱えるものなどいない。

「了解!」

フォルツェがもう一本の剣を敵機のジェネレーターへと突き立てる。そして、力を込めて両腕の剣を横へと振るった。

金属の壊れる音と共に、敵機が内側から引きちぎられたかのように真っ二つに割れ、砕かれたジェネレーターの破片が草原へと散らばるのだった

「勝利を祝して!」

『かんぱーい!』

いつもの宿舎で、男たちが酒を呷る。

レイラはそんな男たちを横目に、カウンターで自分のために購入した少し高めの酒をチビチビと口に含む。

決闘の後、相手の傭兵団は解散となった。アルミュナーレを失い、かつリーダーを失ったのだから当然だろう。

しかしそれだけでは終わらない。敗者はすべてを食い荒らされる。

傭兵団の資金はすべて回収され、傭兵たちは奴隷として売り出された。

今の宴会は、その売却された奴隷の資金で行われている。

「やぁやぁレイラ、楽しんでる?」

「まあまあね」

レイラの隣に腰かけたのは、上機嫌なフォルツェだ。試合の後から、笑顔が絶えないのは満足できた証拠だろう。

「あのシステム、どうだった?」

「時間制限はきついし、こっちの消耗も激しいけど、いいシステムだよ。あれなら隻腕のにも負けないね!」

フォルツェが最後に起動させたシステム。あれにはいくつかの制約とデメリットがあった。

まず機体への負荷が非常に重いため、二分しか持たないこと。

あのシステムは、物理演算器(センスボード)からの情報伝達速度を強制的に引き上げ各種配線が焼け落ちるほどの負担を強いているのだ。それを強引に機体の氷系魔法で冷却し二分間持たせているのである。機体から上がる蒸気は、その氷が沸騰している証拠だ。

さらに、冷やしているとはいっても限界があり、使った後はフルメンテナンスが必要になる。傭兵団にとっては非常に金食い虫なシステムだ。

そして一番の問題点は、あのシステム自体がフォルツェの覚醒ともいえる極限の集中状態での機動を前提としていることだった。

つまり、フォルツェが覚醒できなければ、あのシステム事態に意味がないのだ。

そんな大量の制約を兼ねた故の力が、試合の結果につながっている。

「どうかしらね。エルドなら、何か対処してきそうだし」

「まあ弱点も多いからね。けど、それならもっと腕を磨くだけだ!」

「ならアルミュナーレを持ってる傭兵団をもっと挑発してみる?」

「それいいね!」

「それは俺が許さん」

二人の会話に割り込んできたのは、青筋を浮かべた団長だった。

「ケチ、上手くいけば私のジェネレーターが手に入るのに」

「ぶーぶー、僕も戦いたい!」

「お前たちはそろそろ自重を覚えろ。それと、明後日町を出る。準備しておけ」

「あら、どこか行くの?」

今のところ前線は硬直しており、傭兵たちの働く場面はないと言われていた。

「陛下からの呼び出しだ。帝都へ向かう」

「へぇ」

「面白いことになりそうだね!」

帝都への呼び出し。それは、新たな幕開けを告げるものだった。