さて。怪我してぶっ倒れてた皆さんの処置は済んだしこれでいいとして、問題は鈴本だ。

 峯原さんをぶちのめしたんだが、未だに無表情である。目が死んでる。

 うーん、どうしたもんかなあ。

 ……これがどういう状態なのかが、まず分からんぞ。

『意識が無いのに動いてる』んだったら、今、鈴本は意識が無いんだろう。

 つまり、鈴本の意識はどっか行ってるって事だ。

 あるとすれば……内側奥深く、って所かな。

 うん。折角手に入れたスキルだ。もう一回使ってみよう。

 使った結果えらいことになっても、多分ケトラミとか他の人が何とかしてくれるだろ。

 よし。『共有』。

 はいこんにちは、膨大な情報量。

 お、なんか、ケトラミと『共有』した時よりもすっごく楽だわ。

 やっぱり異種族間でやるとえらいことになるのかな。

 とりあえず『意識』を探そう。

 ……えーと、どこにあるんだ?『意識』。

 というか、『意識』って、なんだ?

 ケトラミとやった時はケトラミが話しかけてきた。だから、ケトラミがいる、って分かったんだけども……ああ、こっちから話しかければいいのか。

「おーい鈴本ー」

 ……返事が無い。さて、どうしようか。

 しょうがないから、呼びながらひたすら探し回る。

 探し回る事数分間。何度かMPを回復しながら探し回った結果、色んな情報の断片やらなにやらの中に、やっとこさ、それっぽいのを見つける。

 色んな情報の断片に埋もれて、鈴本が寝てた。

「おら、起きろ」

 揺すってみても起きやしない。

「起きろ」

 遂には蹴ってみるが、起きない。

 ……どうしたもんかなあ。

 このままでも埒が明かないので、鈴本を観察してみると、鈴本の手あたりから細い糸みたいなものが出ていることに気付いた。

 これ、もしかして『パス』ってやつですのん?

 その糸みたいなのをつついたり引っ張ったりすると、すこし鈴本が起きそうになる。

 じゃあ、ぶった切ったら起きるかね?

 手で引っ張ってみるが切れそうになかったので、糸切り歯で噛み千切った。

 そして、その瞬間。

 ありとあらゆる情報の断片が繋がり、意味を成し、そして情報量が一気に増え、処理しきれなくなったんで、離脱。

 目を開けたら、驚いたまま固まった鈴本の顔がかなり近くにあった。

「あ、えーと、おはよ」

「誰だお前……舞戸か?」

 あ、そうだった。ブルーアイズホワイト人間(金髪)のままだったわ。

 えっと鏡鏡。

 実験室内に銀鏡反応の実験で作った鏡があったから、それを使って元に戻る。

 謎発光したと思ったら、もう戻ってました。いやー、やっぱりスキルの仕組みがよく分かりませんなあ。

「おい、舞戸……それ、一体どういう事だ?」

 うん、私にも仕組みは分からないよ。

「途中から意識が無くなってたんだが、何があった。何故逃がしたお前がここに居る」

「うん。まずはこれを見て欲しい」

 ガラッとドアを開けて、未だ気絶してる峯原さん達と、それを見張るケトラミを見せる。

「どうしてこうなった」

「まあまあ、それを説明したいんだけど、他の皆さんがまだ起きないのよね。他の皆さんも峯原さんになんかされたりしてたん?」

 一応揺すったりしてみたが、起きてくれないのだ。

「いや、特にはされてなかったと思うが、如何せん俺も途中から意識が無くなってたからな」

 ああ、その後何かされた可能性はある、とな。

 よし。じゃあまた『共有』して起こしてくるか。

 一番近くに針生が居たんで、おでここつん。

 やっぱり情報が断片になってるなあ。

 あれか。寝てたりする時には情報量が少なくなってて、起きたら滅茶苦茶増えるのかな。

 そしてやっぱり、寝てる針生を発見。

「起きろ」

 蹴り起こすと、あっさり起きたらしく一気に情報量が増えたんで、またさっさと離脱。

「うわぁ!」

 目を開けたら驚きの余りか数歩後ずさった針生が居た。

「目ぇ開けた瞬間舞戸さんが滅茶苦茶近いんだもん、びっくりしたー」

 まだ心臓ばくばくいってる、との事であったが、そんなのは知らん。

 それから全員同様にして起こすと、やっぱりそれぞれ酷い反応をしてくれた。

 一番酷かったのは羽ヶ崎君で、目開けた瞬間私の事をぶん殴ってくれた。

 その後すぐ回復してくれたけど、酷い。

 しかし彼曰く、「お前が悪い!アレなんなの!?馬鹿じゃねーの!?もっとやり方あるでしょ!?」だそうな。解せぬ。

 ということで、全員起きたので改めてご飯にしました。あ、もちろん毒とか入ってませんとも。

 ご飯ついでに、皆さんから私が逃げた後の話を聞く。説明役は針生だ。

「あーうん、なんかさー、舞戸さん逃がした直後に峯原さん以外の情報室に居た人たちが襲い掛かってきて。社長が壁作って防衛したんだけど、そしたら今度は鈴本が急に襲い掛かってきて」

「俺、襲い掛かったのか!?」

 鈴本の意識が無くなったのが丁度そこかららしい。

「すまん」

「あーいや、鈴本は悪くないって。で、さ、戦う訳にもいかないじゃん?防戦一方になってたら、壁壊されて……そこら辺からちょっと意識があやふやでよく分かんないわ」

 全員そんな感じだったらしく、詳しい事はよく分からなかった。

 まあしょうがないね。いざとなったら峯原さんから聞けばいいか。

「で、お前は……今度は何をやらかしたんだ」

 やらかしただなんて酷いなあ。

 でも、ま、一応説明していく。

 説明し終わったら崇められた。ふははははは、気分がいいぜ!たまにはメイドだってやるんですよ!

 そして社長に事後承諾を取る。

「……ということで、社長の毒、一本使っちゃいました。すまん」

「あ、それは全然構わないです。強いて言うならデータは欲しかったんですけど」

「あー、ごめん、もう色々掃除しちゃったよ……あまりにグロ汚かったもんで」

 だって色々アレだったもん。掃除しなきゃとてもじゃないけどここでご飯なんて食べられませんって。

 とりあえずどんな状況だったかを説明したら、結構それだけでも役に立ったらしい。なんでも、人体実験はそうそうできないから、との事。

 そりゃそーだね。

 あ、一応念の為。峯原さん達が使った食器とかは全て処分しました。社長謹製の毒は洗っても残留します、とかそういう可能性が十分にあるしね……。なんとなく気持ち悪いしね……。

「待て待て待て。おい、毒の話に行くな。それより俺は『共有』の方が気になる」

 そう言われてもなぁ。

「もう全員体感済みでしょうが」

 そう言いつつも、しょうがないからざっと説明すると、なんか微妙な顔された。

「それって、プライバシーの侵害し放題なんじゃないの?」

 羽ヶ崎君のジト目が刺さる。

「そんな余裕ないわ!下手したら自分がパンクするわ!」

 あのこんにちは凄まじい情報量、さようなら意識の感覚はちょっと説明しても分かってもらえないようだったけど、とりあえずMPの消費がとんでもないという事も伝えたら、そうそう悪用されないだろう、という所で落ち着いたらしい。

 何故なら、私、弱いから。

 MPも碌に無いだろうし、っていう、そういう安心のされ方である。

 酷い。

「ん?そういや、峯原さんって職業なんだったの?」

 ……確認してないわ。

 という事で、いざ確認。

 ドッグタグは首にかけて襟の中にしまってあったので、襟から手突っ込んで引っ張り出す。

 ……皆さん、微妙な顔してるね。

 そんな顔するなよ。女の子同士よ?別にいいじゃないのさ。峯原さんそんなに大きくもないしさ……。

 という事で、確認。

 ……ほー。『人形師』だそうな。

 成程ね、納得納得。

 あ、あとスキルも確認しないとな。

 ドッグタグに光が反射して見えづらい。覗きこむようにして自分で陰を作ると見やすくなった。

 ……ああ。これだな。

「『人形操作』、ってのがあるね」

 あと、『人形化』ってのもあるな……と思っていたら、自分の胸元からするりとドッグタグが滑り落ちた。

 慌てて受け止めようとして、つい、その時手に持っていた峯原さんのドッグタグで受け止めてしまったのだ。

 金属同士がぶつかり合う音と共に、なぜか謎発光。

 そして、何事も無く謎発光終了。

 ……何だったんだ、今の。

「おい、今なんか光ったよな?何だったんだ?」

「さあ……あああああああああ!?」

 な、なんということでしょう。

 私のドッグタグに、『人形操作』というスキルが……増えているではありませんか!

 ちょ、ちょいまち。峯原さんのドッグタグも確認するけど……あれ、別に減ってない。増えてもいない。あっれ、なんだこれ?

 皆さんにも状況を説明。

「それ……さっきスキルの名前、言ったからじゃないの?」

 ほう。角三君の言葉通りだとすると、スキル名を言いながらドッグタグをぶつけると、そのスキルが増える、とな?

「物は試しだ。よーし。『人形化』」

 ドッグタグをぶつけてみるけど、何も起こらない。

 落としてぶつけてみても、変化なし。

「他のスキルでも試してみたらどうだ」

 よし、じゃあこれにするか。

「『人形制作』……あ、増えた」

 私のドッグタグに、『人形制作』が増えている。

 そして峯原さんのタグは減っても増えてもいない。

 ……ほー?

 その後も実験を重ねた結果、これ、私以外のドッグタグだとできないことが判明。

 多分、『共有』スキルの賜物じゃないかと思うんだ。

『窃盗』とかいうスキルが仮にあったとすれば、それを持ってる人はスキルを盗めるかもしれないけども。

 そして、私のドッグタグでも、手に入るスキルとそうじゃないのがあることが判明。

 ……多分、アレだ。適正とかがここでも関係してるんだろう。

 峯原さんのドッグタグからは結局『人形操作』『人形制作』しか手に入らなかった。

 しかし、峯原さんの取り巻きの女子のドッグタグから、『火魔法』を得ることに成功っ!

 はー、これが今回一番の収穫かもね。チャッカマンとライターとマッチが尽きたら火が起こせなくなるところだったから。

 そして、社長から『遠見』を、針生から『暗視』を、鳥海から『器用』を分けてもらった。

 ありがたやありがたや。

 ……お察しの通り、他のはもらえませんでした。

 私も剣とか装備したいんですがな……それはやっぱ無理か。

 さてさて。峯原さん達はほっとくとしても、他の無表情ーずはほっといたら可哀想だね。

 ……MP回復茶を携えて、いざ、『共有』。

 一々鈴本と同じように、『パス』と思しきものをぶった切って叩き起こしていく。

 だんだん慣れては来るけども、それでもきついもんはきついです。

 頭がぐわんぐわんする……。

 そして13人の無表情ーずを正気に戻してあげたら、凄く凄く感謝された。

 曰く、意識は無かったけど、どんな状態だったかはなんとなく、覚えているんだそう。

 鈴本とはえらい違いだな。アイツは何にも覚えちゃいなかった……あ、そうか。

 鈴本は他の皆さんに襲い掛かるというとんでもない事をさせられてたわけで、そりゃ、思い出したくないわな。あー、うん、ごめん。

 無表情ーずだった皆さんは、碌にご飯も食べられなかったそうで、その通り栄養失調状態だった。顔色悪かったもんね。

 見てらんなかったのでお昼ご飯を振舞った。

 お昼ご飯は野菜を細かく刻んで一緒にことこと煮込んだお粥である。

 あんまり消化の悪いものをいきなりお腹に入れたら体調崩すからね。

「で、三枝君、峯原さん達、どうする?」

 あ、三枝君というのは、無表情ーずになってた人の内の一人だ。

 同じクラスだったため、一応面識がある。

「正直もう一緒には居たくないな。また何かされたら嫌だし。でも舞戸さん達に押し付けるわけにもいかないし……」

 そう、現在滅茶苦茶困っているのは、峯原さんと峯原さんの取り巻き三名の処遇である。

 このままほっといたらまた色々やらかすのは目に見えてるし、かと言って殺すのは忍びない。

 ……め、めんどくさい……。

 要は、峯原さんがスキルを使えなければいいのである。

 スキル自体が無くなるとか、スキルを発動できなくなるとか、スキル発動に必要なMPが無くなるとか、そういうのができればいいんだけどなあ。

 うーん……ああ、も、もしかしてっ!

 ハタキを用意します。

 峯原さんのドッグタグを取り出します。

 ぽふぽふやります。

 ……謎発光します。

 確認します。

 ……『人形化』が、消えています。

 ……ああ、私のハタキは決して、無能な武器などでは無かったぞ。

 むしろこれ、チート級なんじゃね?

 ……と思ったら、そんなことは無かった!

 急速にMPが持っていかれる感覚が直後に襲い掛かってきて、そして、私の意識は暗転したのである……。

 もうお約束だね、これ。