Manowa

Episode 861: Let's Make a Drill

「チィッ」

カルラ王が苦いお顔をしながら全身を輝かせた。

それは太陽身と呼ばれる目くらましだが、喰らったリーヴレント化風音も英霊ジークもほとんどノータイムで続いての攻撃を繰り出していく。しかし、その攻撃は宙を斬った。

『ぬっ?』

「ふん。掠めた程度か」

砕けた黄金翼の破片が床に落ち、リーヴレント化風音と英霊ジークは向き合った形になっていた。そこにいるはずのカルラ王の姿はなく、わずかに存在していたことを臭わせている火の粉がその場を舞っているだけだった。

「目眩ましと同時に炎の転移も行ったのか。器用な真似をするな」

『み、見えない……』

少し離れた位置にカルラ王の気配が出現したのを英霊ジークは察知して視線を向けた。

だが、リーヴレント化風音は目をつぶりながらフラフラしていた。先ほどの目眩ましを直に受けてしまったのだ。先ほどは『直感』によりすぐさま反撃はできたものの、転移で距離を取られてしまっては相手を捕捉することができない。

「くっ……やられたか」

一方で、炎の中から再出現した片翼のカルラ王はそう口にして苦痛に顔を歪ませていた。

また、カルラ王の肩装甲は砕けて、その内側から血が垂れ落ちていた。それは英霊ジークの攻撃によるものだ。

先ほどの目くらましの中で風音の攻撃は当たらなかったが、英霊ジークの攻撃は掠めていたのである。

さらにカルラ王は何故か薄目を開けた状態でもあった。

「カウンター……光が反射されただと? 木偶。何をした? 今のは一体?」

苛立つカルラ王の問いに、英霊ジークは肩をすくめて笑い、それから頭をかいた。まるでズレていないかを確認するかのように。

『敵は?』

「右に20メートルと言ったところだ。我が半身よ」

その言葉に、未だ視界が回復してはいないもののリーヴレント化風音はカルラ王へとレイピアを構える。それから、英霊ジークへと声をかける。

『竜属性を持つ狂い鬼が使えない以上、正直私だけでカルラ王を押さえられる自信はないからアースブレイカーはなしの方向で。このままふたりで押し切るしかないと思う』

「そうだな。それでいい。あの剣は強力だが、使用するのに時間がかかり過ぎる」

滅びの神剣『アースブレイカー』は、絶大な威力を誇るが、その発動までにかなりの時間を要する武器だ。

英霊ジークがアースブレイカーを使うには、必然的に英霊ジーク以外のメンバーで敵を押さえ続ける必要があるのだ。だが弓花やジンライも居らず、ユッコネエも倒され、狂い鬼でもカルラ王には抗せない状況では、風音ひとりでカルラ王を押さえ続けるのは難しい。

そのため、このままふたりで挑むという選択は英霊ジークにとっても必然であった。

『む、目が見えるようになってきた。そんじゃいくよ』

「応っ」

そして、リーヴレント化風音と英霊ジークが駆け出し、カルラ王も対して駆けていく。

その直後の攻防に派手なやり取りはない。防御し切れぬと判断したカルラ王は片翼の防御を風音からの攻撃に限定し、英霊ジークとは自らの剣で打ち合うように戦い始めた。

『こなくそっ』

リーヴレント化風音が連続で攻撃していくが、翼の防御を破ることはできない。何しろジンライですらも、その翼の防御を突破することはできなかったのだ。

如何にリーヴレントの戦闘技術を使えるからといっても、実戦での戦闘勘というものまでを再現するための経験値が風音には足りていない。

また、相対しているカルラ王にしてもそれはとても苦しい戦いだった。英霊ジークの重い一撃一撃にうめき声が上げながらクリカラ剣を振るってカルラ王は戦い続けていく。

龍神の片手斧の攻撃は異常に重いのだ。その上に大きさは小剣ほどしかなく、絶え間なく攻撃が繰り出され続けている。その状況の中で風音は思考する。

(どうする? 一度離れて一気に決めるか?)

リーヴレント化は、十騎士リーヴレントの力を使える代わりにその他のスキルを用いた攻撃に制限がかかる。

そして今は膠着状態。であれば別の手段で挑むべきか……と考えた風音に英霊ジークが声をかかった。

「もう少し待て、我が半身よ」

その言葉に、カルラ王が汗を垂れ流しながらも笑って口を開く。

「ふん。余裕か? しかし、このまま時間切れまで戦い通すことぐらい今の私でもできるぞ」

そのカルラ王の言葉に英霊ジークは「フッ」と笑い返す。それから空いていた左手を挙げると、そこに一度外したものを出現させたのだ。

「言ったな? ならば、耐えきってみせろよカルラ王」

「何っ!?」

その左手にあるものを見てカルラ王の顔にもさすがに焦りが見えた。

英霊ジークは再び大翼の剣リーンを手に取っていた。無数の翼を模したその剣は、すぐさま姿を変えて翼型の籠手付き片手斧へと変形していく。それを握りしめて英霊ジークがカルラ王へと鋭い眼光を向けた。

「この形状をな。片翼の斧リーンというのさ。さあ、集中しろよ。ここから先は地獄だぞ?」

そして、英霊ジークによる圧殺が開始される。それはもはや斬撃の竜巻だった。繰り出す刃は先ほどとは違い二つある。であれば、その速度は二倍。威力も二倍だ。

『おっとっと』

それは、黄金翼とやり合っている風音の側にカルラ王が徐々ににじりよらざるを得ないほどの圧力となった。その攻撃で苦しそうな顔をしているカルラ王に、英霊ジークが尋ねる。

「変化はどうした? そちらにもまだ先はあるんだろう?」

ふたつの斧を振るいながら英霊ジークが尋ねる。

以前に地上で戦ったときには、カルラ王は鳥面の巨人へと変化していた。それこそがカルラ王の本性であるはずだった。だがカルラ王は首を横に振る。

「この分けた魂では、この身体の維持が限度でな。今は本来の姿へと戻ることはできん」

「そうか。ならば雌雄は決したということか」

『雌雄を決するってなんだかすごく女性差別な気がするよね?』

風音のツッコミをどちらも華麗にスルーしていた。

そして、ついに均衡が破れるときがきたのだ。一気にふたつの斧を振り下ろした英霊ジークの視線に風音は頷き、すぐさまその場を退いたのだ。

「くっ、ぉぉおおおおお」

それを期と見たカルラ王は、風音に向けていた片翼も併せて英霊ジークへと打ち合わせることで、ようやく拮抗させることには成功させた。

だが、それだけでは駄目なのだ。チンチクリンはすでにリーヴレント化を解いて、黄金の翼を広げて天へと舞っている。誰ひとりとして邪魔するものなどいない。そこは風音のテリトリーだった。

「そんじゃ、セット!」

それから、必殺技の準備が始まる。

風音は宙を舞いながら脚部に魔金剛石(マナダイヤ)をコーティングして強化し、ドラグホーントンファーを両手に構える。

その間にも風音はスキル『白金体化』で身体能力を上げ、『ドリル化』で魔金剛石(マナダイヤ)で覆った脚部をドリルへと変え、それを『爆裂鉄鋼弾』によってコーティングしていく。

さらに風音は『チャージ』を発動させて威力を高め、スキルの『ブースト』とドラグホーントンファーに装填していたスペルの『ファイア・ブースト』二連を発動させて回転しながら降下し、最後に『キリングレッグ』を発動させて強大な敵を一気に放たれる。

「カザネドリルキヤノン・オールフォーワン!」

それは風音が己の力を結集して産み出した必殺の一撃である。

英霊ジークと打ち合っていたカルラ王は、それを避けることができない。絶妙なタイミングで英霊ジークが跳び下がると同時に落ちてきたカザネドリルキヤノンへと自動防御の翼が接触したが、その直後に『爆裂鉄鋼弾』の効果で破壊される。続けてクリカラ剣でそれを止めたが、止めきれるわけがないのだ。破壊こそされなかったがその剣は弾かれ、無防備となったカルラ王の身体は、螺旋を描く流星によって粉砕され、そのまま敵を貫き通したカザネドリルキヤノンは大地へと突き刺さり、その場に巨大なクレーターを生み出していった。

そして、身体のほぼすべてを抉り奪われたカルラ王が笑みを浮かべながらクレーターの中心にいる風音を見下ろす。

「見事だ。その恐るべき膂力、確かに木の目に焼き付けたぞ。この先、本体の方もお前と戦える日を楽しみにしているぞ」

「ブイッ」

ブイサインをする風音を前にカルラ王は笑みを浮かべながら光になって消えいく。そしてスキルリストに新たなるスキルが表示された。そのスキルとは…‥