Manowa

Episode 894: Let's start directing.

◎ゴルディオスの街 冒険者ギルド事務所 隣接酒場

「パーティ・サイラルとパーティ・ホワイトソード。その魔法陣へ乗って」

テーブルや椅子が取り払われた酒場の中央。そこでは今まさに、風音の指示を受けてふたつのパーティが床に描かれた魔法陣の上に乗っていた。それはジュエルカザネを引き延ばした魔金剛石(マナダイヤ)によって描かれた転移用の魔法陣だ。

紋様自体はポータルに描かれたものと同じものではあるが、魔金剛石(マナダイヤ)のラインである上に、使い続けて風音の魔力を他の素材に比べて遙かに通しやすくなっている。

故に魔力効率の高いその魔法陣を使って、風音は冒険者パーティをその場から次々と指定した座標へと転移させていた。

「消えた!?」「なんだよ、今来たのかよ」「ポータルと同じ理屈らしいぜ」

それを見ていた周囲の者たちがそんなことを言い合っているが、彼らもただの野次馬というわけではない。領主経由で冒険者ギルドからの依頼を受けて、街中からこの場に集まってきた冒険者たちだ。

「よし、着いた。リーダーのマンタンさんは予定通りに通りの青い屋根の家に。その裏口をこじ開けようとしているのを倒しちゃって。その後の順路は予定通りで。よろしく!」

風音が恐らくは飛ばした相手に対して会話をしながら、次の冒険者を誘導していく。

そして、彼らが跳ばされた先は現在ソルダード王国軍の支配下にある街のどこかである。正面衝突はミンシアナ王国軍などに任せ、冒険者たちには住人たちが隠れている場所に向かわせたり、見回りに出て孤立していたソルダード王国軍を捕らえたりするための奇襲部隊として動いてもらっていた。

風音は『テレポート』による転移と『情報連携』を使って、各パーティのリーダーとの連絡を取りながら街の内部の制圧を徐々に進めていた。

「これは……なんというか」

それをルネイが驚きの顔で見ている。

ルネイの驚きは何も風音の行っていることに対してのリアクションだけではなかった。風音の表情が先ほどまでとは全く違うことにも彼は驚いていたのである。

何しろ今の風音は、知恵の実と『コンセントレーション』で知覚を強化し、遠隔視と『イーグルアイ』によって街全体の情報を処理し、それらを『情報連携』によって的確に各人へと必要な情報だけを振り分けて送り続ける……ということを、たったひとりで行っていた。また、その処理はほとんど機械のように正確でもあった。

「うーん。スキルに『ゾーン』が追加されてる。『コンセントレーション』に『イーグルアイ』、それに『情報連携』のスキルレベルも上がったか。やっぱり慣れてないことやると上昇しやすいよね」

空中に浮かぶウィンドウを見ながら風音はそう呟く。それからルネイへと視線を向ける。

「ルネイさん」

その呼び掛けにルネイがビクッと肩を震わせた。あまりにも澄んだ瞳がルネイを見ていたのだ。どこまでも透き通るようなその視線にルネイは恐怖すら覚えていた。

だが風音はその反応には何も言わず、無造作に生み出した知恵の実をスッとルネイに手渡した。

「これは……知恵の実ですね」

他の人間には見えないように持ちながら、ルネイはその実に視線を集中させる。それは一旦、目に入れば逸らすことはできない禁断の果実だ。

「うん。食べてもらえば、頭もすっきりするよ。そんでルネイさんにもウィンドウを見れるようにする。『情報連携』のスキルレベルが上がったから、今なら私のウィンドウも直接見せられるはず」

風音はそう言って、慌てて知恵の身を食べ始めたルネイの周囲にウィンドウを次々と出現させ始めた。

それらに表示された内容は、ルネイにはよく分からないものが多かったが、書かれている文字自体は読めた。

「これは街の地図ですね?」

中でも一番大きなウィンドウを見て、ルネイが目を見開く。そこに描かれているのはこの街の詳細な地図であった。

また、地図には無数の青と赤と黄色の光の点が並んでいた。その光点が集中しているのは、正門前やバトロイ工房、金翅鳥(こんじちょう)神殿、倉庫街などである。

また地図にはバトロイ工房にはジンライとバルカンのタグが、正門前にはミンシアナ王国軍が、倉庫街には召喚軍が、金翅鳥(こんじちょう)神殿には白き一団などといったタグなども貼られていた。

「青が味方。赤がソルダードで、黄色が住民の人。全部私の視認での振り分けだから大体だけどね。それに建物の中にいる人は見れないし」

「配置から見ればそれは分かりますが……なんです、これは? いや、大体は理解できそうですが」

驚きから一転して、ルネイは冷静に尋ねる。

知恵の実の効果が現れて始めたのだ。そして書かれている内容を読んでいけば、それが何に使われるものなのかは察することはルネイには難しくなかった。

「ゼクシハハーツのPvP用大規模戦闘の指揮を取るコマンダーモードだよ。『情報連携』のスキルレベルが上がったことで解放されたみたい。でも、ゲームではいつも達良くんがそういうポジションだったから、私はほとんど経験ないんだよね」

「言っている意味がますます分かりませんが、私にこれを使って指揮をしろということでよろしいか?」

「うん。といってもミンシアナ王国軍には敵の動きの情報を送るだけでいいし、ルネイさんには冒険者のみんなの指示をしてもらいたいんだよ」

「了解した。まったく、こんなもの……一国の軍で採用でもされれば、無敵じゃないか」

呆れながらもルネイはウィンドウから戦況を把握していく。それから風音を見て尋ねる。

「これを妻たちにも見せられますか?」

「うん。ウィンドウを視認させるのは可能だよ。知恵の実までみんなに渡すのはさすがに厳しいけど」

ここに来て二本目のマナポーションをがぶ飲みしながら、風音がそう返す。今も風音は魔力を垂れ流す勢いで行使っていたのだ。終わった頃には風音のおなかは水っ腹でプヨンプヨンになりそうだった。

「そこまでは求めませんが、大丈夫ですか?」

「ゲップ。使ったマナポーション代、ギルドで立て替えてくれるかな?」

「領主様に相談しておきましょう。では妻たちにも『うぃんどう』とやらをお願いします」

その言葉に頷いた風音は、後ろに控えていたアンネたちへも『情報連携』で視覚情報を共有し、ウィンドウを見せられるようにしていった。

それに彼女たちがどよめきの声を上げるが、ルネイの掛け声ですぐさま落ち着きを取り戻し、ルネイの指示によりオペレーションを開始していく。

その様子に風音がうんうんと頷いて、自分はさらに情報収集を行っていった。ルネイと彼女らへの期待することは、街に次々と送っていた冒険者たちへの指示だ。

「正門前はミンシアナ王国軍。バトロイ工房前は……ジンライ? いや、まああの人なら大丈夫か。倉庫街は……」

「あ、私の召喚体で牽制してる。もう倉庫の銃を持ち出して暴れてるみたいだしね。慣れてない人たちだと危険だから弓花に回す予定。で、ダンジョン入り口にはうちのメンバーをアダミノくんで転送させて他と合流させないように牽制してる。そっちは増援もあるからほっといても大丈夫だよ」

「なるほど。冒険者たちは残った住人たちの救出を上手くやっているようですね。パーティ・カインズのカイン。一旦下がって裏手に回ってください。ソルダード王国軍の兵を背後から狙えます」

『あ、はい。ギルドマスターの声? 分かりました』

ルネイの頭の中に冒険者の返事が直接届く。それが『情報連携』の力だ。

「ああ、これは便利だ。それにこの地図はよく考えられている」

ルネイが笑みを浮かべる。すべてを己で動かす必要はない。リーダー単位で指示を飛ばし、マップウィンドウに点在する光点を動かしていく。さらに風音は遠隔視で得た情報を書き込み、それをルネイとその妻たちが判断し指示をして、それらすべての状況がマップウィンドウにリアルタイムで表示されているのだ。

正門前も敵の動きがあれば、ミンシアナ王国軍を率いている領主に対してルネイは的確に連絡も入れていた。

「まったく。これは本当に便利で……恐ろしい」

ルネイが指示をとり続けながら、そうぼやく。この世界で生きてきたルネイにとって、コマンダーモードは未知の技術だ。

元々、ゼクシアハーツと呼ばれるゲームは冒険者ギルドで雇うなどと行った形式でのオンライン協力プレイはあるものの、基本はソロプレイのゲームだった。それがアペンドディスクによってMMOモードが入り、イベントとして千人単位での大規模戦闘なども導入されていくと、次第にプレイヤーもただ己だけが動けば良いわけではなくなっていった。やがて指揮官の存在はゲームの中でも重要視され、特化したモードも用意されていったのである。

それこそがコマンダーモードだ。こうした状況を少人数で円滑に効率よく動かすために造られたシステムを使い、風音たちはソルダード王国軍を確実に追い詰めていたのである。