Maou no Hajimekata
Lesson 16.1: Let's Paint Your Feet on a Snake
「まあそれはそれとして、だ」
オウルは嬉しそうに笑うリルの頭をがしりと掴んだ。
「お前が俺の頬を引っ叩けたのはどういうことだ?」
「え、えーと、それはほら、害を与える目的じゃないからノーカンっていうか……」
「そんな論理が通じるか! 貴様、契約の一部が無効化されているな!?」
身体の組成自体を全て入れ替えた影響か、人間であった頃の記憶を呼び覚ました結果か。どうやら、リルを縛る契約は大分緩んでいるようだった。
「まさかそのような回避方法があったとはな。……契約事項を全部洗いなおすぞ。どのくらい緩んでいるのか確かめ、呪いをかけなおす」
「ちょ、ま、待ってよオウル! 私はオウルを裏切ったりしないってば。他の悪魔とは違うの、信じてよ」
「ああ、信じているとも」
オウルの言葉に、リルはぱあっと表情を明るくする。
「が、それとこれとは話が別だ。俺が信じていようが、そんなもの世界は簡単に裏切るからな。お前の信頼と同様に何の保証にもならん」
しかしそれは、続く言葉にすぐにげんなりと崩れ去った。
「おい、スピナ、お前もだ。人間じゃなくなった上に魔力を吸収するなんて存在に、呪いが元のまま残っておるとは思えん」
「畏まりました」
こちらは嬉しげに、オウルの下へと擦り寄る。
「じゃあ検査を始める。まずは第一項、攻撃範囲の確認からだが……」
オウルはばさりと巻物を広げた。端が地面に落ち、ころころと伸びながら転がっていく。
「……オウル、それ、何項まであるの……」
流石に唖然とするスピナの隣で、リルはげんなりと尋ねる。
「大体、1000くらいだ。多いんだからさっさと片付けるぞ」
「せっ……!?」
リルの声なき悲鳴が、迷宮にこだました。
彼女達が解放されたのは、それから三日後の事だった。