Me, Adventurer! - Undoubled Skills Are Flat Magic (WEB Version)

Episode 186: The Deepest of Raptor Island!

先ずはざっと観察してみて、何か変わった物があればそこへ向かうのがいいだろう。闇雲に探索するより効率がいいはずだ。ということで、馬車を飛ばして(・・・・)島の周囲をぐるりと回ってみる。

「あまり大きな木はありませんわね」

「水脈がないのかもね。雨だけじゃ成長に限界があるだろうし」

クリステラが俺に抱き着いて目隠しをしたまま(・・・・・・・・)そんな感想をこぼす。相変わらずの高所恐怖症対策だけど、『天秤魔法』による数値化で様子は理解できているみたいだ。

確かに、某アニメで飛行石を抱え込んでたみたいな大木はない。島の斜面に茂るのは五メートル足らずの低木ばかりで、枝も細い。見える範囲では川も池もないから、この島には水脈がないんだろう。水がなければ木も成長できないからな。

「ところどころに結構でかい穴が開いてるけど、あれが飛竜(ワイバーン)の巣やろか?」

「うん、多分そう。奥に飛竜の青黒い気配があるから、間違いないと思うよ」

島の斜面に時折直径三メートルほどの穴が開いている。パーティクルを送り込んで調べてみたところ、奥へは十メートルほど続いているようだ。島を覆う加速度制御魔法、風魔法のせいで分かりづらいけど、そこからは飛竜の気配が感じられる。どうやら飛竜は斜面に穴を掘って巣を作るらしい。

飛竜に限らず、魔物の生態は一部の家畜化したものを除いて、ほとんど知られていない。調べようとしたら喰われちゃうからな。その飛竜の巣が斜面の穴だということが分かっただけでも、人類にとっては貴重な情報かもしれない。肉が美味しいという情報はもう知ってるし確認済みだけど。

「坊ちゃん、ひょっとして『威圧』してる? 全然出てこねぇじゃん、飛竜」

「まぁね。もうお肉は十分だからさ、無益な殺生はしないほうがいいかと思って」

サマンサの指摘通り、穴の奥から出てこようとする飛竜には、ピンポイントで殺気を送って萎縮させている。リアルモグラ叩きだ。いや、ガンシューティングのほうが近いな。シューティング・オブ・ザ・ワイバーンってか?

もう馬車の中は、エンデ土産の海産物と凍らせた飛竜の肉でいっぱいだ。これ以上は載せきれないし、廃棄するのももったいない。もう無理に狩る必要はないだろう。

それに、飛竜はこのあたりの生態系の頂点のはずだ。あまり狩りすぎると生態系のバランスが崩れてしまうかもしれない。生態系の頂点に近い生き物ほど、僅かな個体数の増減でも環境に与える影響が大きくなるからな。計画的な捕竜(・)が必要だ。

「飛竜も恐れる子供冒険者……何かがおかしい気がするみゃ」

「……飛竜も食われる恐怖を知ったということ」

「あらあら。でも美味しいから仕方ないわね。うふふ」

ふむ、俺も生態系の頂点近くにいるということか。ということは、俺が居なくなると周囲に大きな影響が出るかもしれないな。頑張って生きるとしよう。今生きてることで環境に悪影響を与えてる可能性は考えない。

「あ、あそこにもでっかい洞窟があるやん。あれも飛竜の巣やろか?」

島を半周ほどしたところで、キッカが山の中腹の斜面に穿たれた巨大な洞穴を発見した。流石海エルフ、目がいい。

その洞穴は高さ五メートルほど、幅八メートルほどで、綺麗なアーチ状に形成され、手前にはバルコニーのような広場まである。まるで人工的に作られたかのようだ。奥はかなり深いらしく、暗闇で見通すことができない。ふむ。

「飛竜は居ないっぽいね。奥はかなり深そう。よし、あそこに降りてみようか」

「いよいよ人跡未踏のラプター島への初上陸ですわね! またビート様の名前が歴史の一ページに書き加えられるのですわ!」

「もう坊ちゃんの名前だけでこの時代の歴史は埋まってそうだけどな」

「っ! その通りですわ、サマンサさん! 流石、分かってますわね!!」

いや、俺の名前はまだ貴族目録にしか載ってないと思うよ? いろいろやってるけど、基本的には隠れてやってるから。

まぁ、冒険家(・)なら人跡未踏の地を目指すのはおかしくない。初到達という偉業を達成すれば歴史に名前が残るし、記録を残せば資料としての評価もされるだろう。

でも俺は冒険者(・)だからなぁ。偉業よりも実業だ。栄誉よりも営利、お宝だ。何かいいものあるかなー?

洞穴は緩やかな螺旋を時計回りに描きながらゆっくりと下っている。島の中心に向かってるように見える。地面は整地されたように平坦で、多少の小石はあるものの、馬車を走らせるのに問題はない。

洞穴の先からは何の気配も感じない。もし俺が考えている通りだとすれば、それで間違いない。

「それじゃ、皆は馬車の外に出ないようにね。何があるかわからないから」

「うぅ~、仕方ありませんわね。御者台からの眺めで我慢致しますわ」

「ピーッ、ピーちゃんはパパといっしょーっ♪」

安全のために、皆には馬車ごと移動してもらう。外に出るのは俺とウーちゃん、ピーちゃんだけだ。馬車は底面まで平面で防御してあるから、俺が一撃で死なない限り、皆がいきなりピンチになることはないだろう。

本当はウーちゃんとピーちゃんも馬車の中に居て欲しいんだけど、ストレスが溜まって暴走されるのが怖い。下から登ってくる間、ずっと馬車の中だったからな。ウーちゃんなんて、飛竜戦の参加すらしていない。まぁ、戦いようがなかったから仕方ないんだけど。

突発的に行動されると、俺のサポートが間に合わないかもしれない。それなら最初から外に出しておいて、最初から平面魔法でサポートしておいたほうが楽だ。

皆も同様にすれば外に出せるんだけど、ここから先は未知の領域だ。なるべく魔力は温存しておきたい。それは他の皆の魔力についても同様だ。

俺の予想が正しければ、もしこの先にいる強い魔力の持ち主との戦いになったら、俺に皆を守る余力はないかもしれない。僅かでも皆の生存の可能性を上げるために、可能な限り魔力は温存しておいたほうがいい。

「そんなに危険な相手なのかよ? 坊ちゃんが敵わない相手なんて、想像できねぇけどな」

「僕だって無敵じゃないよ。イワシやイナゴは天敵だしね」

「小魚に虫……強い人はアタシたちとは弱点まで違うですね」

「欺瞞」

「うみゃぁ、でもあの時のイワシは、ボスじゃなくてもヤバかったみゃ。魚好きのアタシでも怖かったみゃ」

「せやな、アレは経験せんと分からんで」

「どういう、ことです? 詳しく、教えて、ください」

「(こくこく)」

「うふふ、そうね。あれはね……」

なんて話を皆がしているのをしり目に、俺とウーちゃん、ピーちゃんは洞穴を奥へと進む。今のところ、罠や魔物には出会っていない。時々飛竜の気配があるけど、外側の壁の向こう側からだ。洞穴に近いところにまで巣穴が掘られているんだろう。

ウーちゃんは俺の周りをクルクル走り回りながら、時折地面の匂いを嗅いだりピーちゃんを追いかけたりしている。楽しそうだ。アレで、危険が迫ると瞬時に警戒モードに入れるんだから頼もしい。

ピーちゃんはピーちゃんで、ウーちゃんと一緒に俺の周りをクルクル回ったり、制止も聞かずに先行し、ライトの届かない暗闇で壁にぶつかって落ちたりしている。やっぱり鳥目なのか? 平面でコーティングしてあるからケガはしないんだけど、涙目でペンペン跳ねながら戻ってくる姿はちょっと可愛い。

そうこうしているうちに、どうやら終点へと辿り着いたようだ。

洞穴の終点は、白い石材で綺麗に営繕された約百メートル四方のホールだった。天井までの高さは二十メートルくらいあるだろう。床にも天井にも、一切の継ぎ目は見えない。

直径一メートルほどの太さの柱が、約十メートル程の等間隔で並んでいる。材質は床や天井と同じ材質に見えるけど、やはり継ぎ目は一切見えない。土魔法で作られたものだろう。

そして、俺たちが入ってきたのとは反対方向の壁面には、天井まで届くような大きさの観音開きの扉がある。表面には緻密な彫刻が施されているみたいだけど、ちょっと抽象的すぎて何が彫られているのかよく分からない。

「これは……神殿、ですの?」

クリステラが周りを見回して、ため息交じりに呟いた。小声だったけど、静かなホールでは妙に大きく響いた。

そして、多分それは正解だ。ただし、半分だけ。何の神様の神殿かは俺にもわからない。少なくともメジャーな神様ではないだろう。でも、それもこれから分かるはずだ。あの扉の向こうへ行けば。

さて、それではご神体を拝みに行くとしようか。

二礼二拍手一礼でいいかな?