Muimui-tan

2-12, ghost.

―1―

次に現れたのは森ゴブリン3匹だった。

「ランさん、行けますか?」

俺は頷く。正直、一匹くらいは分担して欲しいと思ったけれど、この程度で躓くようなら、この先、生きていけないだろうしね。

錆びた銅剣を持った森ゴブリンが一匹、残りの二匹は素手だった。

「武器を持った森ゴブリンに気をつけてください」

――《糸を吐く》――

銅剣を持ったゴブリンに糸を絡みつけ動きを封じる。さあ、その間に残りの二匹だ。

手前の森ゴブリンが素手で殴ってくる。それを鉄の槍で弾く。そのまま槍で一突き……うお、奥の森ゴブリンが石を投げてくる。投石に邪魔され攻撃の機会を逃す。

「ギギギ」

ギギギじゃねぇよ、分かる言葉で喋ってください。

攻撃しようとすると、投石に邪魔される上、手前の森ゴブリンもなりふり構わず殴りかかってくる。くっそ、投石が邪魔すぎて攻撃できない。どうしても防戦一方になってしまう。

し、仕方ない、俺の本気を出すときが来たようだな。

必殺、痛いの我慢攻撃の出番だ。投石を無視しこちらに当たろうが気にせず、手前の森ゴブリンを鉄の槍で貫く。武術なんて嗜んでいない自分の力任せの一撃。確かな手応えッ!

槍を引き抜き、そのまま奥の森ゴブリンへ。投石を止め、逃げようとした背中に一刺し。投石ゴブリンの動きが鈍る。そのまま何度も刺し貫く。

後は魔法糸で動きを封じていた銅剣ゴブリンを刺し殺す。銅剣ゴブリンも絶命。

戻り確認してみると殴りゴブリンは死んでいた。……一撃だったか。

「なんとかなりましたね」

ステータスプレートを確認するとSPが100ほど減っていた。いやいや、結構減っているんですが、怖いなぁ。

減ったSPはゆっくりとした速度でMPから補充されていっている。コレ、何かに似ているなぁ。

三匹の森ゴブリンから魔石を取り出す。

「錆びた銅剣も確保しましょう。一応換金出来ます」

錆びた銅剣を皮の背負い袋に入れる。……ふう。

―2―

「森ゴブリンは人を見れば襲いかかってくる、育てた作物は荒らす、人を攫う、会話は成り立たず、しかも際限なく増え続ける害悪な存在です。見かけたら根刮ぎ刈り続けるしかありません」

とはウーラさんの談。森ゴブリンってゴキブリみたいな扱いなんですね。

と、道の途中に小部屋が。

「宝物庫かもしれませんね。この規模だと中は余り期待出来ないと思いますが……」

宝物庫と言われれば期待出来ないと言われてもワクワクするモノです。さっそく入ってみよう。

中には木製の宝箱といくつかの錆びた銅剣、銀貨があった。

「森ゴブリンが集めた物でしょうね」

『木箱があるな』

ウーラさんが突然語り始めた。

「僕が駆け出しの頃の話になるんですが、同じように宝物庫で木箱を見つけたんです。喜び勇んで開けたんですが……中身は腐った何かの肉の塊でした。多分、森ゴブリンが自分たちの食料を詰め込んでいたんだと思うんですが、その匂いに鼻がやられて数日は何も食べ物の味がしなくなりましたね」

……って、それを開ける前に言いますか。まぁ開けますけど。

中に入っていたのは緑色のマントだった。鑑定してみよう。

【樹星のマント】

【木の魔力を宿したマント。隠密性に優れわずかのヒーリング効果を持っている】

うお、マジックアイテム? しかも結構、良さそうな感じなんですが。

「ランさん、ついてますね。それはなかなか良い物ですよ。正直、森ゴブリンの巣から出たことに驚いています」

イイネ、イイネ。幸先のよい感じですね。

さっそく樹星のマントを羽織る。あ、コレ、ガウン要らなかったんじゃね。なんだか可笑しな格好になっています。

小部屋の探索を終え、更に奥へ。

―3―

迷宮の最奥。そこに居たのは20匹ほどの森ゴブリンと一回り大きな身体の鉄剣を持った森ゴブリン、杖を持ち奇妙な仮面をかぶった森ゴブリンだった。

「ホブゴブリン!? 森ゴブリンよりも危険な相手です! 更に魔法を使うゴブリンシャーマン!? どうしたことだ? 一体、この迷宮で何が」

ちょ、流石にこの数は無理です。森ゴブリンが20に、それより強いのと、魔法を使うのって無理ゲー過ぎる。

「ギギギ、ナニモノダ?」

仮面の森ゴブリンが喋る。

「ランさん、森ゴブリンは全て僕が相手します。なんとか、ゴブリンシャーマンとホブゴブリンを相手に時間を稼いでください」

そういうが早いかウーラさんは両手に片刃の斧を持ち、駆けていく。

へ? こちらが20匹を相手取る方法が無いと判断しての分担なんだろうけど、俺がボスを受け持つのか……うーむ、頑張らないとな。

「ギギギ、マオノホシ、ウマレタトヨゲンサレテ、キテミレバ、ギギギ、ニンゲンメ!」

な、なんだ? マオ? 予言? ゴブリンも予言とか受けるのか? くそっ、とにかくこちらもなんとかしないと。

俺はホブゴブリンとゴブリンシャーマンのもとへ駆け出す。ちらりとウーラさんの方を見ると……無双してた。斧で斬り裂きながら進んでる。こ、こええぇ。

糸を吐き、森ゴブリンの集団を飛び越える。そのまま、ホブゴブリンの前へ。

「ギギ、ナニ? ムシ?」

そのままホブゴブリンに魔法糸を吐き付ける。このまま動きを封じてゴブリンシャーマンへ。

しかし魔法糸はホブゴブリンの持った鉄剣によって斬り払われる。……なんだと。

「ギ、キヨ、キヨ、キノチカラヨ……」

ゴブリンシャーマンが何かの呪文を唱え始める。くっ、どうする?

迷っている暇は無い。まずはゴブリンシャーマンを封じることにする。

――《糸を吐く》――

ゴブリンシャーマンに魔法糸を吐き付ける。呪文に集中していたゴブリンシャーマンは抵抗することも無く魔法糸に絡まり動きを封じられる。よし、呪文を妨害できた。

と、そこで油断したのが悪かった。何時の間にかホブゴブリンの剣が目の前に。し、死ぬ。

肩にホブゴブリンの鉄剣が刺さる。痛い、痛い、燃えるように痛い。

無我夢中で槍を振り回し、突き出す。

【《スパイラルチャージ》が開花しました】

【槍技系スキルの取得に伴い《槍技》スキルが発生します。槍の使用頻度が熟練度として反映します】

――《スパイラルチャージ》――

槍がうなりを上げ螺旋を描きホブゴブリンへ。ホブゴブリンが付けていた皮鎧を物ともせず削り引き裂き渦に飲み込みながら貫いていく。その勢いにホブゴブリンが吹っ飛ぶ。

……はぁはぁはぁ。斬り裂かれた肩の傷は、すでに癒え始めている。SPが残っているからなのか?

そのまま身動きの取れないゴブリンシャーマンの前に。槍技を使い貫こうとする。……スキルが発動しない。

「ギギ、ヤメロ」

仕方ないので俺は何度も槍で刺す。ゴブリンシャーマンが動かなくなったのを確認し、ホブゴブリンの前に。

吹っ飛び寝転がっていたホブゴブリンは、まだ生きていた。剣を杖代わりに起き上がろうとしている。

――《スパイラルチャージ》――

今度はスキルが発動する。槍がうなりを上げ螺旋とともにホブゴブリンに。二度目の槍技を受け、ホブゴブリンは絶命した。

……か、勝った。勝てたッ!!

そ、そうだ、ウーラさんは? ウーラさんの方へ振り向くと、20匹ほど居たはずの森ゴブリンは姿形も無かった。片刃の斧を両手に持ち、無傷で立っているウーラさん。こ、これが熟練の冒険者の力か……。