朝飯を食べ終えた俺は、スキンヘッドどもの前にいた。

 彼らはゴーレム達に囲まれている中で、おびえていたのだが、俺が出向いた瞬間、土下座をして、

「す、スミマセンでした……」

 会うなり、全力で謝られた。

 そして滅茶苦茶震えて、怖がっていた。

 このゴーレム集団が、そんなに恐ろしいんだろうか。

 ともあれ、話をしなければ。俺は近場の一人に近寄る。

「なあ、ちょっと話を聞きたいんだけども」

「はっ……ぁい……」

 だが、俺が目を合わせようとしたら、顔から汗がブワッと吹き出し、白目を向きそうになっていた。

「おい、寝るんじゃない。本当に話にならないだろ」

「はっ、はい! す、すみません!」

 ベシベシと顔を叩くと、目を覚ましたようだ。

 なんだ。疲れてるのか?

「い、いえ、私は、そこまで魔力耐性が強くないので……息が、続かないんです」

 そうなのか。それは困るぞ。

 俺はただ話をしたいだけなのに。

「ええっと……じゃあ、この中で一番強い奴は誰だ?」

「ひゃ、ッハー。お、俺、です」

 聞くと、スキンヘッドの大男が手を挙げた。

 一番いかつい顔をしていると思っていたけれど、こいつがリーダーか。

 俺はスキンヘッドの大男の前に座る。

 大男は震えはしていたが、気絶することは無かった。これが強さの差なのか。

 まあ、俺は話しができるのであれば、なんでもいいんだけどさ。

「さて、まずはお前らの正体を聞かせて貰っていいかな?」

「ひゃ、っはー。……は、はい」

 朝っぱらの大暴れで、侵入者たちは相当消耗していたようで。

 質疑応答は意外と素直に進んで行った。

「なるほど。彼らが武装都市という場所の冒険者グループで、王都プロシアの要請を受けて、遠征にきたってことでいいんだな」

「ひゃっはー。そ、そうッス」

「ふむふむ。それじゃ、そのまま武装都市とやらに帰らず、お前らがここに来た理由はなんだ?」

 聞くと、大男は数秒悩んでから、静かに口を開いた。

「お、俺たちが所属する武装都市には、冒険者に依頼を出す司令部があるんですが。そこに所属する色っぽいネーちゃんから、ここに宝があるらしいから見て来いって言われたッス」

「へえ……お宝ねえ。見つかったのか?」

「い、いえ、魔石が少しばかりありましたが、それらしきものは見つからなかったッス」

 そうか。そうだよな。俺もこの辺りを散歩したけれど、財宝的なものは無かったし。

「ま、まさか、アンタのような、強力な魔力の持ち主が住んでいる、魔力スポットだとは思わず……。本当に、失礼しましたッス……」

 なるほど。俺が住んでいるという事は知らなかったらしい。

「来た理由は、本当にそれだけなのか?」

「は、はい! それだけです!!」

 嘘を言っているわけでもなさそうだ。

 つまり俺や家を狙ってきたわけではないのか。

 それは分かった。けれど

「俺の庭に、断りなく足を踏み入れたのは感心しないな」

「――ひゃ、ヒャッハ――! わ、分かってます! 反省して、俺、この通り、頭を丸めてます!」

 いや、それは元からだろう。

「た、足りないのであれば、――お、オメエらも!」

「お、オッス! 丸めます!!」

 スキンヘッドの指示で、後ろの連中も、手持ちのナイフや剣で頭を剃ろうとし始めた。

「いや、丸めるとか、それはどうでもいいって。というかやるな。俺の庭にゴミを出すな」

 むしろ迷惑だ。ただ、そうだな。

 そこまで反省しているなら、もういいや。

「損害は何もなかったし。砕けた鎧の破片とかを片付けたら、お前ら帰れ」

「ほ、本当に……? み、見逃して、頂けるので? 見せしめに、首を晒したりとかはやらないんですかい……?」

 どんな悪趣味な蛮族だ、それは。

 まあ、家を傷つけたり、してたらゲンコツの一発くらいはくれてやったけれどもさ。

「もう、俺の家を狙ったりしないんだろ? そして、その司令部とやらに、宝物なんて無かったと伝えるのなら、帰ってよしだ」

「ひゃ、ヒャッハ――!! ご、ご慈悲、ありがとうございました――!!」

 そうして、冒険者どもは、俺の庭の周りのゴミを片付けてから、逃げ帰っていった。

 ●

 冒険者たちから話を聞いたものの、不明な点がいくつか残ってしまった。

「色っぽいねーちゃん、か」

 ねーちゃんっていうなら女性だろう。

 けれども、俺の知り合いで、色っぽいのがいただろうか。

 サクラとヘスティはかわいいけど、色っぽくは無いし、ディアネイアは綺麗だけど、やはり色っぽくない。

「赤の他人が、俺の家に宝があるとか、依頼を出すのか? 目的がさっぱりわからんが……」

 んー、まあ、今はどうでもいいか。

 奴らが嘘情報に踊らされた可能性だってある。

 話しぶりとか行動を見るだけで、考えなしに動きそうな連中だったし。

 大体、今のうちから深く考えても、どうにもならない。武装都市とか、そんなのあることすら知らなかったしな。

「その辺は、ヘスティに聞いておくとしよう」

 そう思い、俺はへスティの小屋に向かった。

 すると、彼女は既に外に出ていて、空を眺めていた。

「おう、ヘスティ、ちょっと用があるんだけどいいか?」

「ん、大丈夫」

 声をかけると、ヘスティはこくん、と頷いた。

 だがその後で、彼女は上空を指差した。

「でも、……その前に。お客さん、来てるみたい」

「客?」

 俺がへスティの指が示す先を見ると、虹色の鱗をした竜が、旋回していた。そして、

『着陸の許可を頂きたいのですが。よろしいでしょうか。我らの古き姫君と、我らが新しき君主よ』

 そんなしわがれた声を、俺に飛ばしてきた。